Never ending Nightmare.(第二章編SS)
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(*スノウSide)
今世になって苦労人だという自覚がある。
無論それは、誰にも愚痴として零していないし、自分の心の中で秘めているだけだ。
だが、時にそれが苦痛と感じる事もある。
特に今がそうだ。
「(やばい…。眠くなってきた……。またマナが枯渇してるのかな…?)」
一定期間でマナ回復器に入らなければ生き長らえないこの身体……。
……何度それが憎いと思っただろうか。
『??』
ソーディアン・ベルセリオスのコアクリスタルに人格を投射してあるハロルド・ベルセリオス。
彼女でさえ、今の私を見て不思議そうな色でコアクリスタルを彩っている。
『アンタ、大丈夫なわけ?フラフラしてるわよ?』
「〝やばいって、言ったら……?〟」
『ちょっとーーー!ジューダス!!!ここに来てちょーーーだい!!』
そんな呼び方で来たら逆に奇跡だと思わないかい?
私はつくづくそう思う。
だけど、何故か今日は彼がハロルドの声を聞いてやってきたのだ。
『何か、ハロルドに呼ばれたなって思ったら……』
「おい、大丈夫か?!」
彼がフラフラな私を見た途端、慌てて駆け寄って支えてくれる。
心配そうなその顔を見て、私は心の中で謝った。
あぁ、違うんだ。君にそんな顔をさせたい訳じゃないのに…。
そんな思いが渦を巻いて、心を揺るがす。
「〝マナ…が……もう……。〟」
「……。スノウ、僕にしっかり掴まれ…!」
彼は私を背負うと、一目散に駆け出した。
その場所は彼もよく知っている医療班の所だ。
僅かにある意識で、彼の背中の温もりを感じ、そして後悔する。
何でこうなる前にここに来なかったんだろうって。医療班を頼らなかったんだろうって。
今世では彼にばかり迷惑を掛けていて、本当に申し訳ないんだ。
「こいつを頼む…!」
「えぇ、分かりました。恐らくマナが枯渇寸前なのかもしれませんね。マナ回復器で休んで頂きますので後はお任せ下さい。」
腰に着けていたハロルドも取り払われ、私は彼の心配そうな顔を最後に意識を飛ばした。
……あぁ…、もう……眠たくて仕方ないよ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
____別日
あれからマナ回復器でマナを回復してから、また通常通りの生活を送っている。
外には出られないけど、それでも高待遇だと思う。
衣食住全てを〈赤眼の蜘蛛〉が補ってくれるのだから。
『────今から特訓すんの?体、大丈夫?』
「〝うん。マナ回復したお陰ですこぶる調子が良いよ。〟」
『アンタ、無茶しすぎる傾向にあるんだから。それを自覚しなさいよ?誰でも近くにいる訳じゃないんだから。』
「〝ははっ。分かってるよ、ハロルド。心配してくれてありがとう?〟」
ハロルドにお礼を言って、建物内にあるバトルシミュレーターという施設へと入る。
〈星詠み人〉がマナに慣れるための訓練施設だとアーサーは言っていたけど、今や使う人と言えば私か、彼らくらいだと思う。
他の〈星詠み人〉は研究員として忙しい毎日を送っているようだし、こういうところで運動とか発散しなくても各地を飛び回らないといけないから、あまりこの施設の意義がないような気もするが……まぁ、あるだけ私は有難いのだけど。
『まずは軽くソーディアンを振ってみましょ♪』
「〝起動するよ?〟」
魔物のホログラムが現れ、戦闘開始のサイレンが鳴る。
ソーディアン・ベルセリオスを構えた私は、仮想の敵と相見え、次々と敵を屠っていく。
ソーディアン・ベルセリオスは他のソーディアンと比べ、長剣の部類に入るため攻撃範囲も大きい。
だが振りかぶってしまえば、その分隙も出来てしまう難易度の高い武器だ。
それこそあのミクトランが丁度良い感じに使えていたのだから、女性である自分には不利な武器ではある。
だがそれをハロルドは知っていて、改良に改良を施してくれていた。
見た目は長剣で重そうに見えたりするが、ハロルドのお陰でこれでもかというくらい軽量化されているし、マナが使えない今の私でも晶術が使えるのが何より大きい。
「(大きく振りかぶらない…。そして敵の隙を狙って横から攻撃をする…!!)」
頭に戦闘を叩き込みながら、ハロルドを扱う手を動かしていく。
繊細に…、時に大胆に………!!
『晶術は闇属性をお願いしようかしらん♪』
「〝お望みとあらば…!〟」
光属性には耐性がある私だが、闇属性に関しては耐性もないからかあまり使わない傾向にある。
だがこのソーディアンは光、闇属性が使える両極端な武器であり、今までに対属性を付与された武器など聞いた事もない。
流石ハロルドの人格を宿しているだけあって、破天荒な武器である。
『「〝___引き裂けっ、アーチシェイド!〟」』
下位魔法のアーチシェイドのイメージをハロルドに流し込む。
そして初めての術も、ソーディアンであるハロルドがOKを出してくれたので使ってみたが……これは使い勝手が良い。
イメージさえ湧けば、ハロルドも意図を組んで晶術の準備をしてくれるのだから。
後は二人の息を合わせるだけだし、何かと晶術は便利が良いような気がした。
『はいはい、次!』
『「〝___大いなる大地を切り裂け、大剣!パニッシュメント!!〟」』
大地を晶術で作った大剣で広範囲に切り裂き、切り裂いた大地から闇色の魔法陣と闇のエネルギーを噴出させる闇属性上級晶術。
広範囲の術と言う事もあり、敵を一網打尽にすればホログラムが居なくなったというサイレンが辺りにけたたましく鳴り響く。
その場に座り込んだ私は、呼吸を整えながらハロルドを地面に置いた。
……あぁ、やっぱり晶術は疲れないし良い。
けれどもマナが無い分、体が重く感じて動作に支障が出てしまっているし、それで疲れやすくなってしまっている。
それをどう補うかが今後の課題か……。
こんな所…彼に見られでもしたら、前と違うと怒られそうだ。
『体、大丈夫なの?アンタにしては動きが鈍いわねー?』
「〝……。気付いてたんだ?〟」
『そりゃそうでしょ。アンタの戦い方、何度見て研究してきたと思うのよ?いくら私が重いからって、そこまで動きが鈍くなるのはおかしいと思ってたのよねー?』
流石にハロルドに、嘘は通じないか。
ここは正直に話すとしよう。
「〝前は無意識だったんだけど……あの軽やかな動きをマナで補ってた分が大きかったんだ。だから今の私の動きはそこらの一般人以下の身体能力まで下がっているんだってさ。〟」
『なるほどねー?なら納得だわ。かなり動きにくそうに戦うから見てるこっちがヒヤヒヤしてたのよ。……けど、それならそうと早く言いなさい。また改良の余地が出てきちゃったじゃない。それに、今後は近接系より晶術メインで行くわよ。』
「〝やっぱりそれが良いよねー…?〟」
『アンタは魔法を使ってた分、晶術のセンスもいいわ。見てるこっちが清々しい気持ちにさせられるくらいにね!それに、下手に前に出て怪我されるより、後方で頑張ってもらった方が何かと楽だわ。そうでしょ?ジューダス、シャルティエ?』
「〝っ!?〟」
ハロルドの言葉で、ハッとして後ろを振り返る。
そこにはバツが悪そうな顔でこちらに寄ってくる二人がいた。
「〝……いつから聞いてた…?〟」
「…………すまない。最初から聞いていた。」
『スノウ、その……盗み聞きしてた訳じゃなくてですね…?』
『良いじゃない。今後の事も話したかったし、今のタイミングで丁度いいんじゃなーい?』
場の空気を壊すような声音で話すハロルドを、じっと見つめれば、また咎めるような光を見せた。
彼に対して私が罪悪感を抱くと、彼女は決まって私を叱咤激励する。
咎めるようにちゃんと叱ってくれる。
それに何度救われ、そして苦しい気持ちにさせられるか……。
「スノウの動きについては先程聞いたから理解はした……。だからこそ、お前には残酷な言葉かもしれないが……お前はもう、前に出るな。」
『あ、えっと…。スノウが悪いんじゃないですよ?!あくまで今の状況的に考えれば近接よりも遠距離の方が合ってるってだけで……。』
「〝……ふふ。分かってるよ、シャルティエ。ちゃんと彼の言葉も分かってる。〟」
本当は、戦力外通告を受けたようで酷く苦しく、辛く、悲しい。
だけど、これは本当のことなんだから仕方がないんだ。
それでも────
……あぁ、苦痛だなぁ……?
「〝……。〟」
『スノウ。ちゃんとマナが戻ればアンタは今よりもっと出来るようになるわ。だからそこまで落ち込む必要なんてないのよ。分かった?』
「〝うん、分かってるよ。大丈夫。…ありがとう、ハロルド。レディもありがとう。〟」
何とか頑張って笑ってみせたけど、彼にバレなかっただろうか。
そのままなるべく笑いを作って話を続けてみたけど、心を刺す針のような物は抜けきれなくて……。
本当、人間の心って複雑で厄介だなって改めてそう思うよ。
「────」
「……?」
遠くで誰かが呼んでいるような気がした。
思わず出入り口を見てしまったが、そこには誰もいなかった。
……勘違いだったか?
「スノウさーん!探しましたよ!!」
バタバタと入ってきたのは、白衣を着た医療班の人だった。
それも今の私の主治医というやつで、彼にほとんどの怪我や病気を診て貰ってると言っても過言ではない。
「〝あぁ、先生。何かありましたか?〟」
「すみません、先程スノウさんの頭に取り付けているマイクロチップに異常が発生したので、それで呼びに来たんです。精密検査及び、マナ回復のための準備をして頂けたらと思いまして。」
「〝マナ回復も?〟」
「先日の回復が不十分だった可能性が浮上しています。…………さっきの脳波は…かなり異常でしたので…。」
最後だけ彼に聞こえないように配慮してくれた先生に感謝し、私はハロルドを彼に手渡した。
どうせ、マナ回復ならまた眠ってしまうのだろうし、その間はハロルドを彼に任せておけばいい。
そう思ってハロルドを手渡し、私は先生と共に検査室へと向かった。
……少しだけ、彼と離れられたことを先生に感謝したい。
あのままだったらきっと……もっと苦しかっただろうから。
「……今、何を考えてますか?」
「??」
「さっきから、たまに異常な脳波を感知するので我々も不思議でして。それこそまだ研究は進んでいませんが、マナと感情は適合性があると思っていて────」
研究の話をひたすらしてくれる先生の言葉を聴きながら、検査室へと入る。
そして度重なる精密検査を何個も受けていれば、先程バトルシミュレーターで動いた分の程よい疲れが眠気へと変わってくる。
たまに眠らないでください、という先生の声を聴きながら私は別の事を考える事にした。
それこそ、戦闘での私の立ち位置の事とか…ね?
考えたくなくとも考えてしまう辺り、思いの外ショックが大きかったのかもしれない。
だからこそ、ちゃんとあの時、笑顔が作れていたか心配────
「スノウさん、異常を検知しました。ダメですよ、何も考えず大人しく検査を受けてくださいねー?」
「……。」
今はハロルドもいない為、通訳出来る人が居ない。
筆談にしようと試みても、検査中なのでペンすら握れないという悪循環。
私は大人しくすることにして、何もせず、黙って検査を受け続けた。
そこへ、アーサーがやってくると主治医は報告だろうが、何か話をしていたのでそれを見ていれば徐々に瞼が下りてくる。
あぁ、何だか急に眠くなってきた…。
…
………………
………………………………
ふと、目を覚ますと私はマナ回復器の中にいた。
あぁ、そう言えば検査後にするとか言っていたから、それでいつの間にか入れられたんだろう。
機械の蓋も開かないため、暫くボーッと天井を見つめていればそこへ人影が現れる。
「おや?お加減、どうですか?」
「────」
「あぁ、今はソーディアンが無いんですね。そこから出しますので少々お待ちください。」
機械を操作するアーサーを見ながらじっとしていれば、機械の蓋が音を立てて開いていく。
私は起き上がって紙とペンを借り、そこへ今の状態を綴っていく。
「《悪くない目覚めのはずなのに……何故か、気持ち悪い…。吐きそうだ…。》」
「……他には?」
「《他は無い…気がするけど…。頭も痛いかな…?》」
「分かりました。検査室へ行きましょう。」
アーサーの後ろをついていき、主治医の所に行けば驚かれた。
今までマナ回復器に入ったあとにここまでの気分不良は無かった。
なのに今回だけはそれがある。
……頭のマイクロチップの異常といい、最近ついてないな…?
「……分かりました…。暫く入院で様子を見ましょうか。あと、お薬出しておきますね。吐き気止めと頭痛薬を。」
「《ありがとう》」
「スノウ・エルピス。ご飯はしっかり食べないといけないので、薬が処方されるまでに食堂で食べてしまいましょう。」
そう言ってアーサーは私の返事も聞かずに瞬間移動で食堂に来た。
まだ朝の早い時間帯なのか、食堂には人っ子一人いない。
いつもの様に朝食をアーサーと食べていれば、彼はふと別の話題を持ってきた。
「最近、彼とはどうですか?」
「《彼?》」
「ジューダスさんと、です。」
「《特別何かあった訳じゃあ……》」
いや、昨日そう言えばあったか。
バトルシミュレーターで戦ってる所を見られて、それから戦力外通告を受けたことか?
「《……そういえば昨日、戦力外通告されたよ。悲しいことにね?》」
「ほう?それはまた、何故ですか?貴女程の力量ならば問題ないかと思いますが。」
「《マナが無い分、体が重くなってて以前のような動きが出来なくなっている。…それに、まだまだハロルドを扱うのに時間がかかりそうでね?それで、それを見ていた彼が私にそう言った、という訳さ。》」
「なるほど。分かりました。入院中は無理できませんので、退院後、貴女の戦闘にお付き合いしましょうか。ボクも貴女がどれほど出来るか見てみたいですしねぇ?」
「《ガッカリさせると思うよ?彼でさえ、ああ言うんだ。相当だと思う。》」
「……ショックなんですか?」
「《まぁ…ショックじゃないかと言われれば嘘になる。前前世で彼を救うために血の滲むような特訓をしてきたつもりだから余計に…ね?》」
「なるほど、それは楽しみですねぇ?」
「《だから、そんなに期待しないでくれ。本当に動きが悪いんだ。》」
「例え、そうだとしても。ボクは貴女を見捨てませんし、貴女を守りますよ?彼とは違ってね。」
あぁ、いつもなら上手い返しが出来るのに。
何故か、私は言葉を詰まらせた。
アーサーにその言葉を言って欲しい訳じゃない。
なのに、今は少しだけホッとしている自分がいた。
……おかしい、何故……私は……彼の言葉なんかで安心したんだろう……?
「っ、」
「頭が痛そうですね。食べ終わりましたし、病室までお連れしますよ。……あと、面会謝絶にしておきますので。」
「《……ありがとう》」
今はとにかく休養と、誰にも会わずに考え事をしたい。
また悪循環だって分かってるのに…つい、考えてしまうんだ。
このままでいいのか、と。
早く男さえ見つかればこんな問題、すぐに解決出来るのに……それが上手くいかない。
だから余計にストレス抱えてるのか…?
……あぁ、ダメだ。今は休もう?
私は病室のベッドですぐに寝ていたという。
頭に取り付けられたマイクロチップがずっと異常を発していたのを知っていたのは、主治医とアーサーだけだった。
…
…………
…………………………
「────!!」
「??」
遠くで彼の声が聞こえる。
でも、何故か辛そうに……、苦しそうに……、そして泣きそうな声だ。
何を話しているのか分からない。
でも、彼が辛そうなのは私としても許せない。
一体誰が君を泣かせたんだい?
泣き止んで、笑顔を見せてよ。
君には笑顔が一番だからさ。
あぁ、でも最近……彼の笑顔なんて、見てないなぁ……?
私では、君を笑顔にさせてあげられないのかな…?
「──、────!!!!」
あぁ、でも起きないと。
彼が困ってる。
きっと、何かを伝えようとしてくれている。
ハロルドと一緒にいるはずだから、彼の言葉を翻訳してもらわないと…。
「───…!」
はやく、早く目を覚ませ。
彼を待たせないで。
早くしないと、彼が泣いちゃうかもしれない。
それが許せないんだ。
「────」
「!!」
ふと、目を開ける。
呼吸が苦しい。
頭が痛い。
体が暑くて、ダルくて、辛い。
一体、私の身に何が起きてるんだ…?
「スノウっ!!!」
「────(レディ…?)」
「しっかりしろ!死ぬんじゃないぞ!!?」
「???」
私は彼を見て、驚いた。
周りが騒然と何かをしていて、彼は少し見ない間に酷くやつれていて。
何故、こんな事に…?
「そのまま、意識を保て…!頼む…!死ぬな…スノウ…!!!」
「????????」
私、死にそうなの?
え、まじ?
いつの間に?
更なる疑問を抱え、私が頭にハテナを浮かべていると別の顔が見える。
その人も私を見て、そっと安心した様に息を吐いていた。
けれども私の瞳を見て、僅かに目を見開いた。
……え、瞳がおかしい?
もしかして、何かのマナに侵されてる?
誰でも良いから説明してくれ…。
ふと、瞼が下りそうになる。
まるで麻酔をされたかのように自然と下りそうになったんだ。
すると、右手が更に何かに包まれた。
右手を見れば、彼がずっと握ってくれていたらしい。
けれども、私が目を閉じそうになった瞬間、更に強く握ってくれたんだ。
「スノウ…!僕を……一人にしないでくれ…!!!」
「!!」
あぁ、そうだった。
彼は前前世で私の後を追って、悲しき運命を遂げてしまった。
私のせいで彼の尊い命を犠牲にしてしまったんだ。
そんな彼が、ずっと…私を待ってくれている。
それに応えなくてどうする。
前前前世であんなにも大好きだった推しを悲しませていいのか?
親友を泣かせていいのか?
大切な人をこんなにも苦しませて、後悔しないのか?
「〝り……おん……〟」
「!!!」
彼はハッとした顔で私の顔を覗き込んだ。
私の瞳を見て、苦しそうにしていたけれど……今は、彼に伝えたい言葉があるから。
「〝泣か……ないで……。笑って……?レディ……。私は……ここに、いるよ……?〟」
「っ、」
刹那、彼は泣いてしまった。
私の手を頬に当てて、俯いて涙を流してしまった。
あぁ、そんな顔させたわけじゃないんだ。
どうしたら泣き止んでくれる?
「……スノウ……。僕はっ……」
「〝大丈夫……だい、じょうぶだから……さ……。笑ってよ…?〟」
「お前の大丈夫は……大丈夫じゃないって、いつも、言ってるだろうっ……?」
「〝どう、したら……泣き止んで……くれる……?〟」
「元気な姿さえ、見れればいい……!お前が、生きてて、笑ってくれたら……僕は…それだけで……!」
「〝は、はは…。欲が、ないね……君は……。〟」
あぁ、久しぶりに喋るかのように声が出しづらい。
言いたい事は沢山あるのに、中々話せなくて困る。
私が少しでも笑えば、彼は余計に涙を流した。
そして手を離し、シャルティエを手に取って、彼は一生懸命シャルティエについている鈴を鳴らした。
清廉なる鈴の音……。
あぁ、今はそれがとても心地よい。
「〝ねむ、い…よ……。レディ……。〟」
「……あぁ。今なら寝てもいい…。おやすみ、スノウ。」
私の瞳を見て、そう言った彼。
私は彼のその言葉でゆっくりと目を閉じた。
……次起きた時には、笑顔見せてほしいな…?
◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆
私が目を覚ましてから、主治医よりすべてを聞いた。
あの頭痛が起きてからというもの、私は生死の境を三日三晩、彷徨っていた事。
そして、面会謝絶になっていたにも関わらず、彼が強行突破してきて私の容態を知り、ずっと付き添っていてくれた事。
途中で目覚めた私の瞳が、"赤目"だったことも聞いた。
だからアーサーもリオンも、あんな顔をさせていたのだと思えば納得がいった。
にしても、赤目だったのに破壊欲が出てこなかったのが不思議だが、それについても説明…というか仮説を話してくれた。
「マナと感情は結びついている、と以前言ったかと思いますが…まさにあの時の貴女はその状態だったんです。」
「《どういうこと?》」
「我々〈赤のマナ〉と貴女の負の感情が結託して、今回生死を彷徨う結果となったんです。発熱、頭痛、嘔気…そのすべてが、恐らく〈赤のマナ〉に結びつこうとする途中段階だったのでは?とアーサー様は見解しています。」
「《もし、あのまま〈赤のマナ〉を受け入れていたら…死んでた?》」
「いえ…。そこはどうでしょうか?通常、他のマナを入れると死亡する件が多いんですが、貴女はそれがない。むしろ、我々のように〈赤のマナ〉を使いこなせていたかもしれませんよ?これこそ〈赤眼の蜘蛛〉の本当の仲間入りですね?」
「《う、うん…。遠慮させてもらおうかな…?》」
そうか…。負の感情も関わってくるのか。
あの時、結構ストレス抱えていたって自覚あるからなぁ…?
またハロルドにどやされるよ…。
それに〈世界の神〉の御使いとして他のマナと共有出来るようになってるから余計に厄介な事例だなぁ…。
負の感情…気をつけないと……〈赤のマナ〉に呑み込まれて自我を失うなんてもう勘弁だ。
「あ、そうだ。アーサー様より伝言預かってます。"彼らは遊撃隊として派遣させました。明日には帰ってくると思います。"だそうです。…気にしていたのでしょう?彼のこと…。それこそ負の感情を心に溜め込むくらいには。」
「《そんなに私、分かりやすいかな?》」
「いえ、研究結果です。少なくとも、頭に取り付けているマイクロチップが異常を感知するのはどれも彼が関係していた。なので、我々はそう仮定していたんです。だからあの時、面会謝絶にしたんですよ?」
「《そういうことだったのか…。それは知らなかったよ。》」
「アーサー様は、貴女が彼をどうするのか…。全て、貴女にお任せするようです。自分の心に負担をかけない程度に彼とは交流してくださいね?主治医としてもこれ以上酷くなるなら交流抑制も考えていますから。」
「《はは。それは怖いね?…でもありがとう。気をつけるよ。》」
「はい。そうして頂けるとこっちも研究がはかどります。」
生粋の研究員でもある主治医はニコリと私に笑いかけた。
どうやら、主治医と言えど完全に心を許すと大変なことになりそうだ。
私はその場を苦笑いで返し、とある場所に向かった。
そして扉を開けて、"彼"に頼み込んだ。
「《もし良ければ、戦闘の動き、見てもらえないかな?》」
アーサーが以前、私に見てくれると言っていたから、すぐに執務室に向かったのだ。
今の私は足手まといにしかならない。
だったら、それをカバーできるほどまた頑張れば良い。
…彼には内緒でね?
「あぁ、起きたのですね。おはようございます。先程の提案は、体調の方を聞いてから返答させてください。」
「《もう頭痛もないし、吐き気もない。いつも通りって感じかな?》」
「ふむ、なるほど。…貴女の瞳も今は黒に戻っていますし…。えぇ、ぜひお付き合いしましょう。」
そう言って彼は仕事をやめ、立ち上がると指を弾いた。
目の前の光景が一瞬にして切り替わる頃、彼は適当な武器を選んでそれを持ち、構えを見せた。
「今はソーディアンがないようですので、こちらも武器を変えます。貴女はどうしますか?」
ハロルドはリオンの所にいるし、相棒も今はメンテナンス中。
だから私も彼に倣って適当な武器を選んだ。
勿論、ソーディアン・ベルセリオスと同じ長剣を。
これで日頃の戦いに何かアドバイスをくれたなら、それでいいと思って、あえてそれを選んだ。
「なるほど。ソーディアンを使いこなしたい、というわけですか。分かりました。では打ち合いしてみましょうか。」
その後は一日中付き合ってもらって、特訓に特訓を重ねた。
彼も仕事の息抜きだと、楽しんでいる様子さえ見れるからこちらも安心した。
仕事途中で頼んだものだし、勿論、ちょっとは罪悪感もあるよ?
でも、それを感じさせない彼の様子は流石だし、見習いたいとも思える要素だった。
「マナが扱えない分を晶術で補う…。良いと思いますが、決め手にかけますね。それこそ後衛の辛さや難しさは心得ていると自負していますので。」
「《彼らは後衛がいい、と話してたんだけど。いざ魔物が迫ってきた時に決め手にかけてね…。どうしたものか、と思ってさ?》」
「そこは特訓あるのみですね。あとは薬にでも頼ってみますか?」
「《薬?》」
「えぇ。最近開発したものなんですが、これを飲めば滋養強壮、動きも格段に上がるという代物でして。まだ人体では試したことがありません。試してみますか?」
そう言って彼が懐から出したものは、透明な瓶にドクロマークが描かれた瓶だった。
それも、瓶の中身の色がグロテスクで……流石に飲む気にはなれなかった。
「《いや…いいよ…。やめておく。》」
「そうですか。残念ですねぇ?薬を断るというのであれば、ボクが特訓に付き合ってあげますよ。…彼には秘密にしておきたいでしょう?止められてるんですから。」
「《随分と煽ってくるね?もしかして、私が〈赤のマナ〉に馴染むのを待ってる?》」
「フッフッフ…。そうかもしれませんね?ボクにとっては好機ではありますが、無理にとは言いません。また生死の境を彷徨って貰っても困るのでね。」
「《ふ~ん?じゃあ特訓に付き合ってほしいな?これで彼をギャフンと言わせられたら気持ち良いだろうしね!》」
笑顔で言った私を眩しそうに見つめるアーサー。
その彼に私は精一杯のお礼を伝えた。
「《ありがとう。何から何まで、付き合ってくれて。》」
「…!!………クックック…。良いですよ。貴女の為ならばどこまでもお供させていただきます。えぇ、地の果てまでも。」
「《それは怖いな。でも…さっきのお礼は嘘じゃない。心からのお礼だから。彼には内緒ね?》」
人差し指を口元に持っていけば、彼は優しい笑みで私を見つめた。
だからそれが可笑しくって、私が笑って逃げれば、彼はその場に留まり続けた。
「…これだから、貴女という人は…。罪深い人ですねぇ…?彼も…彼女のああいう所を気に入ったのでしょうね。」
そう言ってた事なんて知らないけれど、私は今はいない彼にお礼をするべく食堂へと向かった。
彼の大好きなプリンと、ブレンドした紅茶をプレゼントしたくて。
帰ってきてからのサプライズで彼を呼び出せたら、きっと彼も笑ってくれる。
「(明日に間に合わせる…。絶対に。)」
翌日となってから今か今かと待っているスノウの元へ、彼がやってくる。
起きていたことに驚いた彼の表情を無視して、私は彼の手を取って食堂へと向かい、昨日作ったプリンと温めた紅茶を彼に淹れる。
次々と驚いている彼の顔が面白くて、ふふっと笑えば、彼もようやく笑顔を見せてくれた。
「〝食べてみて?レディ。〟」
そう言って彼にプリンを勧める。
プリンを口にした彼は美味しそうに食べていて、私もそんな彼を見て笑顔になる。
あぁ、そうだ。こういうことなんだ。
彼が笑顔じゃないと私まで気が滅入る。
最近のストレスの原因って、もしかしたらこういうのもあったのかもしれないね。
彼の笑顔を久しぶりに見た気がして、少しだけ泣けた。
「…相変わらず、この紅茶のメーカーは教えてくれないんだな?」
「〝言ったら面白くないじゃないか。君のために淹れてあげる特別な紅茶なんだから。〟」
「ふん…。そうか。」
言葉とは裏腹に彼は嬉しそうに話した。
だから私もそんな彼を見つめるようにして、暫くの癒やしを堪能することにした。
────だから、もうこれで負の感情とはおさらばだ。
「〝ありがとう。あの時、必死に声を掛けてくれて。〟」
「…当たり前だ。僕は…お前の笑顔さえ守れれば……。」
「〝その言葉、君の将来のお嫁さんにも聞かせてあげたいね?〟」
「なら、もう叶っているから十分だ。」
「〝え?!ちょっと待って!?私のいない間に、もしかして進展があったって事っ!!?〟」
「…………はぁぁぁ…。」
うわ、見逃すとは勿体ないことをした。
もしかして、私が熱を出してる時?それとも、彼が遊撃隊として外に出たときか…?
なら仕方ない。
でも、少しだけでも見たかった…!!
『…坊ちゃん、あれ…気付いてないですって…。』
「…そんな事は分かっている…。はぁぁぁ…。」
『ぐふふ…。面白いことになってんのね、アンタたち。』
腰にある二つの喋る剣が二人の様子を見て笑う。
前よりも調子が良さそうな彼女に二人だけでなく、リオンもまた、心の底から安心したように笑う。
やっぱり、リオンにとってもスノウの笑顔が一番なようで、未だに何かを真剣に考えてはいるものの自分を避けない彼女に対して、心底安堵し、彼女を見つめる。
その瞳が優しさを持っていたことは、本人も気付いている。
だからこそ、今、彼女が笑ってくれるならば自分も嬉しくなるのだ。
「…もう一杯欲しい。」
「〝うん。何杯でもどうぞ?〟」
思考から現実に戻り、スノウが笑って紅茶を淹れてくれた。
二人は束の間の休息を楽しむことにしたようだった。
【負を赤に馴染ませる】
___「それで、体の方は?」
___「〝うん、それについては大丈夫。結局〈赤のマナ〉にも馴染まなかったみたいだし。〟」
___「……待て。どういう事だ?〈赤のマナ〉に馴染むなんて話聞いたことがないぞ。」
___「(あ、言葉選び、失敗したかも…。)」
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