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14.行方不明の彼女
「────っ?!!!」
僕が飛び起きれば、全身が痛んだ。
そのまま蹲るほどには痛みが全身を走り、ついでに目頭が熱くなる。
痛みで生理的に涙が出てきたのもあるが、ここに戻ってこれた事も僕を泣かせる要因だった。
願ってもない、生還だったのだから。
「お、起きたぞ!!!」
「奇跡だ!!」
「素晴らしい!!!」
「……???」
途端に周りから声がドッと溢れ、声のする方へ顔を向けてみれば、白衣を着た連中がお互いに抱き合って喜びを噛み締めているではないか。
しかも…その白衣は、僕にとって見慣れたものであった。
「(あの白衣…! 例の施設の研究者共じゃないか…!!)」
彼女を研究所へ閉じ込めた挙句、彼女の名前を番号なんかで呼び、その上彼女を拘束して痛めつけてくれた無情で非情な研究者の奴らだ。
僕が捕まってた頃は、それはそれはもう悪の限りを尽くしていた連中だった。
反抗した僕の行った暴動によって中の研究員の改善はされてはいたが……僕は兎角、研究者というものが大っ嫌いだった。
彼女を苦しめる全てが許せなかったからだ。
何なら、今でも研究者を見ると嫌悪感でどうにかなりそうだ。
「ここはどこだ。」
僕がそう問い詰めれば、研究員どもは一度静まり返ったが、すぐにまた喜びを分かち合うように抱き合っていた。
それを見て、僕が苛立たないはずがない。
額に青筋を浮かべた僕は、大声で研究員共に再び問いかけた。
「ここは何処だと聞いている!!!答えろ!!!」
「うわっ!元気だな…!」
「ここは政府公認の研究所よ、リオンくん。久しぶりね。」
「やはりそうか…!」
あぁ、全身が痛すぎて話しにならない。
こいつらに頼むのは死んでも嫌だが、鎮痛剤か何か貰わないと動けなさそうなのは確実である。
僕は近くにいた研究員を睨みながら鎮痛剤を持ってくるように命令する。
慌てて去って行った研究員を溜息をつきながら見ていれば、先程僕の名前を呼んだ女の研究員が無闇に近寄ってきた。
警戒した僕を見て苦笑いし、両手を上げて後ろに下がった女を睨みつければようやく鎮痛剤のお出ましときた。
水と一緒に持ってこられた鎮痛剤を口に含み、飲み込んでいると女は手を挙げたまま話しかけてきた。
「相変わらずね、リオンくん。その警戒の強さは昔と全く変わらないわ。」
「ふん。知ったような口を…。」
「ごめんなさいね。機嫌を損ねてしまったかしら? でも、そんなに強がってはいるけど、あなたも今の現状を知りたいんじゃないかしら?」
「……チッ。」
迷わず舌打ちすれば女はクスリと一つ笑う。
確かにこの女は昔、僕が起こした暴動のお陰で更生された研究員時代の研究員の一人だというのを僕も覚えている。
だが、研究員は研究員だ。
どこのどいつも似たようなものだ、と僕はずっとそう思っている。
「リオンくん。痛みが少なければ、今一度、自身の全身を見てみてちょうだい。」
「……僕の体だと?」
痛みのないようにゆっくりと下を見れば、そこには驚くべきものがあった。
両手には樹状の図形……詳細を言うならば“リヒテンベルク図形”と呼ばれる模様が僕の両腕には刻まれていた。
所謂、火傷の状態である。
慌てて全身を見れば胸も足も、全てにその模様が浮かんでいた。
どういう事だ、と女の研究員を見れば、女はざっくりと説明をしてきた。
僕がここに運ばれた時、息はしていたが意識の無い状態であり、火傷も酷かった為正直、生きるか死ぬかの瀬戸際だったこと。
そして恐らくだが、研究員の見立てでは僕は雷に打たれたのだろうということ。
それを聞いて僕は疑問を持った。
何故、研究員どもは僕が雷に打たれたことを“断定”しなかったのか。
僕の近くには彼女もいたはず…。
……いや、待てよ?
雷に打たれた僕の近くにいたという事は、彼女も雷に打たれた可能性があるということ。
そしてその彼女から何かしらの理由で話が聞けなかったのであれば……先程の仮定の話も納得がいってしまう。
だとすれば、まずは彼女の安否を聞かなければ…!
「…ちょっと待て。あいつは……スノウはどうなっている?何故あいつから話を聞かなかった?」
「「「……。」」」
途端に研究員どもは僕から目線を逸らし、気まずい空気を作り出す。
それを見た僕は、逸る気持ちを押さえながら研究員どもに問い質した。
……ただ、嫌な想像が浮かんでしまって僕自身、正気ではいられなかった。
「……まさか、あいつは死んだのか…?」
「……。」
「あ、えっと……。」
「どうなんだ!?答えろ!!」
それでも、誰もが口を開かなかった。
女の研究員を睨み付けたが、そいつも口ごもっていて、何かを隠しているように見えた。
それか、どう言おうか迷っているのかもしれない。
「……よく聞いてちょうだい、リオンくん。スノウさんは……あの日から行方不明なのよ。」
「……は?行方不明…?」
どういう事だ?
彼女はちゃんと、光学迷彩機能付きの布を全身に纏っていたはずだ。
誘拐などされることは無いと思っていたが……、もしやあの新製品に不具合でも出たのか?
だとしても、何処へ連れ去られた…?
僕が壊し損ねたはずの〈シャドウクリスタル〉の所在も気になるところではある。
あの後、もし彼女が生きていたのなら彼女が壊したはずだろうし…。
「詳細を教えろ。」
「私たちから言えることはそれだけなのよ。スノウさんに、事関してはね?」
「……。」
こうしてはいられない。
彼女が攫われたのであれば、早く助け出さなければならない。
こうしている間にも彼女が苦しんでるかもしれないのだから。
僕は痛む体を必死に動かし、ベッドから降りようとした。
しかし、雷によって全身に出来た電紋のせいで体は思うようには動いてくれなかった。
自分の体なのに、まるで自分の体ではないような感覚だった。
「まだダメよ!そんな体で何が出来るというの?」
「煩いっ! 僕は行かないといけないんだ…!あいつを…助けないと!!」
「場所、分かってるの?」
「……っ。」
「それにそんな状態で助けに行ったところで、スノウさんを助けられるとは思えないわ。」
「だがっ!!あいつが苦しんでるかもしれないんだぞ!?ここで黙って見てろと言うのか!?」
「そうじゃないわ。ちゃんと体を直してからでも遅くはないと言っているの。今、政府の人達がちゃんと動いてるから安心してちょうだい。」
「どうせあいつらは、スノウを体の良い実験台だとしか思ってない!!!助けてからあいつに何か代償を求めるつもりだろう?!」
「……うわぁ、政府も信用ないなぁ…?」
他の奴がそう呟いたのを睨めば、肩を竦めてどこかに行った。
目の前にいる女の研究員は、それでも僕を説得するつもりらしく、僕の睨みでも怯みやしない。
それどころか徐々に近付いて来ているので、僕が最大に警戒すれば女はようやく立ち止まる。
「…相変わらず、スノウさんを大事にしてて安心したわ。」
「当たり前だろう。僕とあいつは〝星の誓約者〟で離れられないんだからな。」
「本当にそれだけ?」
「何が言いたい。」
「ううん。なんでもないわ。その顔を見たらすぐに分かったから。」
「…チッ。」
女の研究員はその後も僕を説得し続け、僕も諦めてそれを受け入れることにした。
どうせ政府だけではなく、レンブラントの方でも情報を掴んで探しているだろうしな。
ならば、帰って聞き出せばいいだけのこと。
その為にも、まずは自分の体を治してしまえばこっちの物だ。
「……と、いうより。何故僕は普通の病院ではなく、研究所送りになった?」
「良い質問ね、リオンくん。実は、あなたを苦しめているその電紋から〈シャドウクリスタル〉と同じ反応が見られてるのよ。それでここで調べないといけなくなって……今に至る、ということよ。」
「……何だと?」
確かに近くに〈シャドウクリスタル〉はあったが、雷に打たれただけでそんな物が現れるとは到底思いにくい。
なら、何故…?
「これは私たち研究員が考えた、あくまでも仮定の話なんだけど…、あなたを見つけたのは〈シャドウクリスタル〉があっただろう場所の近くだったのよ。」
「僕が発見された時、〈シャドウクリスタル〉は既に無かったという事なんだな?」
「えぇ、そうよ。」
「……なら、スノウの奴が壊したのか…。」
「その話なんだけど……それも後にさせてちょうだいね?」
「……?」
おかしな言い方をする。
彼女が壊してなければ〈シャドウクリスタル〉は僕の近くに在り続けたはずだ。
それか、別の〝星の誓約者〟の誰かが来て壊したか、だ。
「まず〈シャドウクリスタル〉に雷が落ち、そして偶然近くに居たあなたの体にも雷による電流が一緒に流れてしまった、という事なんだけど……思い当たる節があるかしら?」
「……確かに気絶する前の最後の記憶は…〈シャドウクリスタル〉の前だった。」
「そうだったのね。ならこの仮定の話は証明されたことになるわ。」
「……だが、〈シャドウクリスタル〉のエネルギーは人間にとって害のあるものじゃないのか?」
「いいえ。あくまでも〈シャドウクリスタル〉は〈シャドウ〉を生み出す為の母体であって、そのエネルギー自体は人間に害をなすものではないわ。……まぁ、多少は影響あると思うけれど。」
「あるんじゃないか。」
「そこは今、研究中よ。」
……心配になってきた。
僕自身が健康でないと、彼女が心配してしまう。
だからこそ、日頃健康には気を使ってると思っているし、運動もしっかりこなしている。(……なるべく苦手な野菜も摂るようにはしているつもりだ。)
…なのに、ここに来てまさかこんな事になるとは。
僕が溜め息を吐けば、女の研究員は苦笑いをして僕を見ていた。
それを睨み返せば、女は慣れた様子で僕を見返すので僕の方が先に根負けして、視線を逸らす羽目になった。
「あなたが生きるか死ぬかの瀬戸際だった時、色々調べさせてもらったわ。だから安心してちょうだい。あなたと〈シャドウクリスタル〉の波動はちゃんと調和が取れているから。」
「本人の許可もなく人の体を調べるとはな。やはり研究員はどいつもこいつも同じだな。」
「ふふ、ごめんなさいね? でも、あなたの体を調べたから今の情報が分かったんだと思ったら、ちょっとは得した気分にならない?」
「ならん。逆に損した気分になる。これで〈シャドウクリスタル〉並の強い力をつけられたのだったら、すぐにここに馳せ参じて、破壊の限りを尽くすつもりだったんだがな。」
「相変わらずの冗談ね?」
……割と本気だったが?
そんな僕の気持ちなど知らない目の前の女は、変わらず可笑しそうに笑っていて、僕は余計に舌打ちしてやりたくなった。
いや、こういう時こそ彼女の笑顔を思い出して、このイライラを鎮めなければ。
「……そう言えば、先程言い残した事があったな?結局何だ?」
「〈シャドウクリスタル〉の話よね? そうね……?…実は、あの周りで〈シャドウクリスタル〉が破壊された形跡は見つからなかったの。」
「……は?」
「通常、〈シャドウクリスタル〉が破壊された時は周りに〈シャドウクリスタル〉の残骸とも呼べる岩石や鉱石が散らばるはずなの。でも…あそこには、雷が落ちて地面に模様があっただけで、他の何も発見されなかったの。勿論、スノウさんもよ?」
「…どういう事だ……?」
だとしたら彼女は〈シャドウクリスタル〉を壊せなかったのか?
……いや、待てよ…?
僕が気絶する前に、そう言えば近くで彼女の悲鳴が聞こえた気がする。
だが、それは絶望を孕んだような……そんな悲鳴だったはずだ。
てっきり気絶した僕を見て、彼女が悲鳴を上げたものだと思っていたが……。
それがもしや、何か事件に巻き込まれた悲鳴だったのか、それとも〈シャドウクリスタル〉から現れた〈シャドウ〉によって何かしら起きた悲鳴だったのか…。
あぁ…くそ。心配だ…。
「他に情報は?」
「全て調査中だとしか言えないわ。あなたが雷に打たれたあの日から5日は経ったのだけど、何の進展もないのよ。」
「……待て。今なんと言った? 5日、だと…?」
「えぇ、5日よ。今日でちょうど6日目になるかしらね…?」
「そんなに死の淵をさまよっていたのか…。」
「だから他の研究員があれほど騒いでいたのよ。“奇跡が起きた”ってね?」
まさか、そんなに経っていたとは。
…というより、そんなに時間が経っても尚、彼女の行方が分からない方が僕としては問題ではあるのだが?
頭を抱えた僕を見て、「良かったわね?意識が戻って。」と見当違いな事を言う女を最早呆れた目でしか見れない僕は、最大の溜め息を吐くだけに留めた。
これ以上何か妙な情報があれば、卒倒する自信がある。
…あぁ、何故こんなにも問題が続くんだ。
「それで、これから検査をしたいのだけれど。良いかしら?」
「何の検査だ。」
「あなたの中に潜む〈シャドウクリスタル〉の波動とあなたの体の調子を見る検査よ。簡単な検査だから安心して?」
「どうせ断れば、紐にでも繋いで強制的にやらせるつもりだろう?」
「そんな事しないわよ。……昔とは違うんだから。」
「ふん、どうだか。」
車椅子を持ってきた別の研究員を睨みつつ、ゆっくりと体を動かしそこへ座る。
痛みは酷いが、初めほどではない。
少しなりとも鎮痛剤が効いてきたのだろう、と僕が車椅子の背もたれにもたれかかれば、ゆっくりと車椅子は何処かへと向かっていく。
開けられた部屋の寝台に乗せられ、機械を繋がれていくさまを黙って見ていれば、何処からか無機質な音がピッ、ピッ、と規則正しく聞こえてくる。
僕は一度苛立ちを外へ吐き出すように大きく息を吐き、やりきれない気持ちを隠すように目を閉じた。
……彼女も、ずっとこんな検査を受けさせられていたのだと思えば、少しは気が紛れる気がした。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
そこからは怒涛の日々だった。
毎日のように…いや、違うな。
毎時間度に何かしらの検査を強要され、その度に車椅子で移動する。
それも、夜中であってもだ。
そんなに夜中の検査が頻回ある訳では無いが、碌な睡眠が取れない上に何の成果も進展も得られない今の状況にストレスを感じるのは仕方がないと思う。
ただただ、時間が過ぎていくだけ。
彼女の情報も、自分の中に潜む〈シャドウクリスタル〉の波動だって、何の進展も変化もない。
……もう、こんな生活懲り懲りだ。
そうは思っていても、彼女は昔こんな毎日を強要されていたのだ。
自分だって耐え抜きたいとは思っている。
だが、こうしている間にも彼女は何処かで苦しんでるかもしれないと思えば、僕の中の気持ちは荒ぶり、時にはその怒りを外に出すこともあった。
不甲斐ない自分と周りの慣れない環境もあって、宛てがわれている部屋のベッドを仕方なく殴る日々。
今日こそは、と研究員どもに文句を垂れようとした、そんな時だった。
「リオンくん。朗報よ? 痛みも取れてきているみたいだし、歩けるようにもなってきているのも相まって、近々退院出来るわよ。おめでとう。」
いつもの女研究員がそう言っては、笑顔で拍手をしてくる。
わざとらしい拍手を聞いて、僕は女研究員を睨み返した。
「何が退院だ。どうせ帰った所で保護観察期間を設けるつもりだろうに。」
「それに関してはごめんなさいね。帰った後もスノウさんみたいに定期的に検査を受けて貰うことになるわ。」
「……待て。あいつはまだ検査を受けさせられているのか?」
「あら、スノウさんから聞いてなかった?一週間に一回……、ううん、今は二週間に一回のペースでここへ通ってもらって検査を受けてもらってるの。特殊な事例だから完全には解放してあげられなくて…本当にごめんなさい。」
「……。」
彼女の口から一回もその話を聞いたことがなかったし、日中は学校に行って…帰った後も買い物だとか一人暮らしで忙しいと聞いていただけに、僕に何も言ってこなかったのが…何だか虚しかった。
でも彼女の心情から察するに、僕に心配をかけたくなかったのかも知れない。
僕が研究所を酷く嫌っているのを彼女自身も知っているし、僕が彼女の検査の結果を何とかして聞きだそうとするのも分かっていたのかも知れない。
だから彼女は口を噤んだんだ。
僕に心配をかけさせないために……。
「あいつの検査結果を聞かせてくれ。」
「ふふ。本当に聞いてないのね?じゃあ、少しだけ話すわね?」
そこからは彼女の検査結果を聞いた。
体には特に異常がない事、成長するに連れて健康体になってきていること…。
だが、そうなると僕としては多少気になることがある。
「…本当に健康体なのか?」
「え?何かあったかしら?」
「雷に打たれる前の記憶ではあるが…急な眠気に襲われたり、喉が渇いていたり…。いつもとは違う感じがしたが?」
「あら、そんなことが…。戻り次第、検査に入ってもらわないとだめね?」
「…手荒な真似はするなよ?」
「分かってるわよ。大丈夫、ちゃんと来客扱いだから。」
はっ!口ならなんとでも言える。
彼女がこの研究所での検査のことを明かさなかったのも、そう言う理由があったからではないのか?
僕は怪訝な顔をして、女研究員を見る。
「少なくとも今の僕の扱いは、相当酷いぞ?夜中に検査に呼び出されたり、検査中に別の検査が入ったり…。まともな睡眠が取れない。」
「ごめんなさい…。〈シャドウクリスタル〉のエネルギーを体に宿しているのが中々珍しい事例だったから、研究者の間で仮定や空想の話が飛び交っちゃって…。その議論を収めるために仕方なく起こしちゃってたわね…。」
「ふん、まるで本物の実験体モルモットのようだ。」
「ちゃんとスノウさんは来賓扱いにするわ。何なら、見学してってもいいのよ?」
「…そうさせてもらおうか。」
「ただ、一緒に中には入れない検査もあるから、それだけは了承してちょうだい。」
「…分かった。」
「苦虫を噛み潰したような顔してるわよ?」
「気のせいだ。」
早くここから出れるように僕が少しずつ体を動かしていると、それを見た女研究員が肩を竦める。
そして車椅子を扉の外から押してきた。
…どうやらまた検査のようだ。
「その模様が、少しでも落ち着くことを祈っているわ。」
「…ケロイドは、時間とともに消えていく。僕の中の〈シャドウクリスタル〉の波動も、直に消えていくさ。」
「そうね…。そうだといいわね。」
「不服そうだな。」
「そんな事無いわ。とてもおめでたいことよ。」
「ふん。思ってもないことを。」
他愛無い会話を強制的に終了させて、僕は持ってこられた車椅子に乗る。
…後少し、あと少しの辛抱だ。
「────っ?!!!」
僕が飛び起きれば、全身が痛んだ。
そのまま蹲るほどには痛みが全身を走り、ついでに目頭が熱くなる。
痛みで生理的に涙が出てきたのもあるが、ここに戻ってこれた事も僕を泣かせる要因だった。
願ってもない、生還だったのだから。
「お、起きたぞ!!!」
「奇跡だ!!」
「素晴らしい!!!」
「……???」
途端に周りから声がドッと溢れ、声のする方へ顔を向けてみれば、白衣を着た連中がお互いに抱き合って喜びを噛み締めているではないか。
しかも…その白衣は、僕にとって見慣れたものであった。
「(あの白衣…! 例の施設の研究者共じゃないか…!!)」
彼女を研究所へ閉じ込めた挙句、彼女の名前を番号なんかで呼び、その上彼女を拘束して痛めつけてくれた無情で非情な研究者の奴らだ。
僕が捕まってた頃は、それはそれはもう悪の限りを尽くしていた連中だった。
反抗した僕の行った暴動によって中の研究員の改善はされてはいたが……僕は兎角、研究者というものが大っ嫌いだった。
彼女を苦しめる全てが許せなかったからだ。
何なら、今でも研究者を見ると嫌悪感でどうにかなりそうだ。
「ここはどこだ。」
僕がそう問い詰めれば、研究員どもは一度静まり返ったが、すぐにまた喜びを分かち合うように抱き合っていた。
それを見て、僕が苛立たないはずがない。
額に青筋を浮かべた僕は、大声で研究員共に再び問いかけた。
「ここは何処だと聞いている!!!答えろ!!!」
「うわっ!元気だな…!」
「ここは政府公認の研究所よ、リオンくん。久しぶりね。」
「やはりそうか…!」
あぁ、全身が痛すぎて話しにならない。
こいつらに頼むのは死んでも嫌だが、鎮痛剤か何か貰わないと動けなさそうなのは確実である。
僕は近くにいた研究員を睨みながら鎮痛剤を持ってくるように命令する。
慌てて去って行った研究員を溜息をつきながら見ていれば、先程僕の名前を呼んだ女の研究員が無闇に近寄ってきた。
警戒した僕を見て苦笑いし、両手を上げて後ろに下がった女を睨みつければようやく鎮痛剤のお出ましときた。
水と一緒に持ってこられた鎮痛剤を口に含み、飲み込んでいると女は手を挙げたまま話しかけてきた。
「相変わらずね、リオンくん。その警戒の強さは昔と全く変わらないわ。」
「ふん。知ったような口を…。」
「ごめんなさいね。機嫌を損ねてしまったかしら? でも、そんなに強がってはいるけど、あなたも今の現状を知りたいんじゃないかしら?」
「……チッ。」
迷わず舌打ちすれば女はクスリと一つ笑う。
確かにこの女は昔、僕が起こした暴動のお陰で更生された研究員時代の研究員の一人だというのを僕も覚えている。
だが、研究員は研究員だ。
どこのどいつも似たようなものだ、と僕はずっとそう思っている。
「リオンくん。痛みが少なければ、今一度、自身の全身を見てみてちょうだい。」
「……僕の体だと?」
痛みのないようにゆっくりと下を見れば、そこには驚くべきものがあった。
両手には樹状の図形……詳細を言うならば“リヒテンベルク図形”と呼ばれる模様が僕の両腕には刻まれていた。
所謂、火傷の状態である。
慌てて全身を見れば胸も足も、全てにその模様が浮かんでいた。
どういう事だ、と女の研究員を見れば、女はざっくりと説明をしてきた。
僕がここに運ばれた時、息はしていたが意識の無い状態であり、火傷も酷かった為正直、生きるか死ぬかの瀬戸際だったこと。
そして恐らくだが、研究員の見立てでは僕は雷に打たれたのだろうということ。
それを聞いて僕は疑問を持った。
何故、研究員どもは僕が雷に打たれたことを“断定”しなかったのか。
僕の近くには彼女もいたはず…。
……いや、待てよ?
雷に打たれた僕の近くにいたという事は、彼女も雷に打たれた可能性があるということ。
そしてその彼女から何かしらの理由で話が聞けなかったのであれば……先程の仮定の話も納得がいってしまう。
だとすれば、まずは彼女の安否を聞かなければ…!
「…ちょっと待て。あいつは……スノウはどうなっている?何故あいつから話を聞かなかった?」
「「「……。」」」
途端に研究員どもは僕から目線を逸らし、気まずい空気を作り出す。
それを見た僕は、逸る気持ちを押さえながら研究員どもに問い質した。
……ただ、嫌な想像が浮かんでしまって僕自身、正気ではいられなかった。
「……まさか、あいつは死んだのか…?」
「……。」
「あ、えっと……。」
「どうなんだ!?答えろ!!」
それでも、誰もが口を開かなかった。
女の研究員を睨み付けたが、そいつも口ごもっていて、何かを隠しているように見えた。
それか、どう言おうか迷っているのかもしれない。
「……よく聞いてちょうだい、リオンくん。スノウさんは……あの日から行方不明なのよ。」
「……は?行方不明…?」
どういう事だ?
彼女はちゃんと、光学迷彩機能付きの布を全身に纏っていたはずだ。
誘拐などされることは無いと思っていたが……、もしやあの新製品に不具合でも出たのか?
だとしても、何処へ連れ去られた…?
僕が壊し損ねたはずの〈シャドウクリスタル〉の所在も気になるところではある。
あの後、もし彼女が生きていたのなら彼女が壊したはずだろうし…。
「詳細を教えろ。」
「私たちから言えることはそれだけなのよ。スノウさんに、事関してはね?」
「……。」
こうしてはいられない。
彼女が攫われたのであれば、早く助け出さなければならない。
こうしている間にも彼女が苦しんでるかもしれないのだから。
僕は痛む体を必死に動かし、ベッドから降りようとした。
しかし、雷によって全身に出来た電紋のせいで体は思うようには動いてくれなかった。
自分の体なのに、まるで自分の体ではないような感覚だった。
「まだダメよ!そんな体で何が出来るというの?」
「煩いっ! 僕は行かないといけないんだ…!あいつを…助けないと!!」
「場所、分かってるの?」
「……っ。」
「それにそんな状態で助けに行ったところで、スノウさんを助けられるとは思えないわ。」
「だがっ!!あいつが苦しんでるかもしれないんだぞ!?ここで黙って見てろと言うのか!?」
「そうじゃないわ。ちゃんと体を直してからでも遅くはないと言っているの。今、政府の人達がちゃんと動いてるから安心してちょうだい。」
「どうせあいつらは、スノウを体の良い実験台だとしか思ってない!!!助けてからあいつに何か代償を求めるつもりだろう?!」
「……うわぁ、政府も信用ないなぁ…?」
他の奴がそう呟いたのを睨めば、肩を竦めてどこかに行った。
目の前にいる女の研究員は、それでも僕を説得するつもりらしく、僕の睨みでも怯みやしない。
それどころか徐々に近付いて来ているので、僕が最大に警戒すれば女はようやく立ち止まる。
「…相変わらず、スノウさんを大事にしてて安心したわ。」
「当たり前だろう。僕とあいつは〝星の誓約者〟で離れられないんだからな。」
「本当にそれだけ?」
「何が言いたい。」
「ううん。なんでもないわ。その顔を見たらすぐに分かったから。」
「…チッ。」
女の研究員はその後も僕を説得し続け、僕も諦めてそれを受け入れることにした。
どうせ政府だけではなく、レンブラントの方でも情報を掴んで探しているだろうしな。
ならば、帰って聞き出せばいいだけのこと。
その為にも、まずは自分の体を治してしまえばこっちの物だ。
「……と、いうより。何故僕は普通の病院ではなく、研究所送りになった?」
「良い質問ね、リオンくん。実は、あなたを苦しめているその電紋から〈シャドウクリスタル〉と同じ反応が見られてるのよ。それでここで調べないといけなくなって……今に至る、ということよ。」
「……何だと?」
確かに近くに〈シャドウクリスタル〉はあったが、雷に打たれただけでそんな物が現れるとは到底思いにくい。
なら、何故…?
「これは私たち研究員が考えた、あくまでも仮定の話なんだけど…、あなたを見つけたのは〈シャドウクリスタル〉があっただろう場所の近くだったのよ。」
「僕が発見された時、〈シャドウクリスタル〉は既に無かったという事なんだな?」
「えぇ、そうよ。」
「……なら、スノウの奴が壊したのか…。」
「その話なんだけど……それも後にさせてちょうだいね?」
「……?」
おかしな言い方をする。
彼女が壊してなければ〈シャドウクリスタル〉は僕の近くに在り続けたはずだ。
それか、別の〝星の誓約者〟の誰かが来て壊したか、だ。
「まず〈シャドウクリスタル〉に雷が落ち、そして偶然近くに居たあなたの体にも雷による電流が一緒に流れてしまった、という事なんだけど……思い当たる節があるかしら?」
「……確かに気絶する前の最後の記憶は…〈シャドウクリスタル〉の前だった。」
「そうだったのね。ならこの仮定の話は証明されたことになるわ。」
「……だが、〈シャドウクリスタル〉のエネルギーは人間にとって害のあるものじゃないのか?」
「いいえ。あくまでも〈シャドウクリスタル〉は〈シャドウ〉を生み出す為の母体であって、そのエネルギー自体は人間に害をなすものではないわ。……まぁ、多少は影響あると思うけれど。」
「あるんじゃないか。」
「そこは今、研究中よ。」
……心配になってきた。
僕自身が健康でないと、彼女が心配してしまう。
だからこそ、日頃健康には気を使ってると思っているし、運動もしっかりこなしている。(……なるべく苦手な野菜も摂るようにはしているつもりだ。)
…なのに、ここに来てまさかこんな事になるとは。
僕が溜め息を吐けば、女の研究員は苦笑いをして僕を見ていた。
それを睨み返せば、女は慣れた様子で僕を見返すので僕の方が先に根負けして、視線を逸らす羽目になった。
「あなたが生きるか死ぬかの瀬戸際だった時、色々調べさせてもらったわ。だから安心してちょうだい。あなたと〈シャドウクリスタル〉の波動はちゃんと調和が取れているから。」
「本人の許可もなく人の体を調べるとはな。やはり研究員はどいつもこいつも同じだな。」
「ふふ、ごめんなさいね? でも、あなたの体を調べたから今の情報が分かったんだと思ったら、ちょっとは得した気分にならない?」
「ならん。逆に損した気分になる。これで〈シャドウクリスタル〉並の強い力をつけられたのだったら、すぐにここに馳せ参じて、破壊の限りを尽くすつもりだったんだがな。」
「相変わらずの冗談ね?」
……割と本気だったが?
そんな僕の気持ちなど知らない目の前の女は、変わらず可笑しそうに笑っていて、僕は余計に舌打ちしてやりたくなった。
いや、こういう時こそ彼女の笑顔を思い出して、このイライラを鎮めなければ。
「……そう言えば、先程言い残した事があったな?結局何だ?」
「〈シャドウクリスタル〉の話よね? そうね……?…実は、あの周りで〈シャドウクリスタル〉が破壊された形跡は見つからなかったの。」
「……は?」
「通常、〈シャドウクリスタル〉が破壊された時は周りに〈シャドウクリスタル〉の残骸とも呼べる岩石や鉱石が散らばるはずなの。でも…あそこには、雷が落ちて地面に模様があっただけで、他の何も発見されなかったの。勿論、スノウさんもよ?」
「…どういう事だ……?」
だとしたら彼女は〈シャドウクリスタル〉を壊せなかったのか?
……いや、待てよ…?
僕が気絶する前に、そう言えば近くで彼女の悲鳴が聞こえた気がする。
だが、それは絶望を孕んだような……そんな悲鳴だったはずだ。
てっきり気絶した僕を見て、彼女が悲鳴を上げたものだと思っていたが……。
それがもしや、何か事件に巻き込まれた悲鳴だったのか、それとも〈シャドウクリスタル〉から現れた〈シャドウ〉によって何かしら起きた悲鳴だったのか…。
あぁ…くそ。心配だ…。
「他に情報は?」
「全て調査中だとしか言えないわ。あなたが雷に打たれたあの日から5日は経ったのだけど、何の進展もないのよ。」
「……待て。今なんと言った? 5日、だと…?」
「えぇ、5日よ。今日でちょうど6日目になるかしらね…?」
「そんなに死の淵をさまよっていたのか…。」
「だから他の研究員があれほど騒いでいたのよ。“奇跡が起きた”ってね?」
まさか、そんなに経っていたとは。
…というより、そんなに時間が経っても尚、彼女の行方が分からない方が僕としては問題ではあるのだが?
頭を抱えた僕を見て、「良かったわね?意識が戻って。」と見当違いな事を言う女を最早呆れた目でしか見れない僕は、最大の溜め息を吐くだけに留めた。
これ以上何か妙な情報があれば、卒倒する自信がある。
…あぁ、何故こんなにも問題が続くんだ。
「それで、これから検査をしたいのだけれど。良いかしら?」
「何の検査だ。」
「あなたの中に潜む〈シャドウクリスタル〉の波動とあなたの体の調子を見る検査よ。簡単な検査だから安心して?」
「どうせ断れば、紐にでも繋いで強制的にやらせるつもりだろう?」
「そんな事しないわよ。……昔とは違うんだから。」
「ふん、どうだか。」
車椅子を持ってきた別の研究員を睨みつつ、ゆっくりと体を動かしそこへ座る。
痛みは酷いが、初めほどではない。
少しなりとも鎮痛剤が効いてきたのだろう、と僕が車椅子の背もたれにもたれかかれば、ゆっくりと車椅子は何処かへと向かっていく。
開けられた部屋の寝台に乗せられ、機械を繋がれていくさまを黙って見ていれば、何処からか無機質な音がピッ、ピッ、と規則正しく聞こえてくる。
僕は一度苛立ちを外へ吐き出すように大きく息を吐き、やりきれない気持ちを隠すように目を閉じた。
……彼女も、ずっとこんな検査を受けさせられていたのだと思えば、少しは気が紛れる気がした。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
そこからは怒涛の日々だった。
毎日のように…いや、違うな。
毎時間度に何かしらの検査を強要され、その度に車椅子で移動する。
それも、夜中であってもだ。
そんなに夜中の検査が頻回ある訳では無いが、碌な睡眠が取れない上に何の成果も進展も得られない今の状況にストレスを感じるのは仕方がないと思う。
ただただ、時間が過ぎていくだけ。
彼女の情報も、自分の中に潜む〈シャドウクリスタル〉の波動だって、何の進展も変化もない。
……もう、こんな生活懲り懲りだ。
そうは思っていても、彼女は昔こんな毎日を強要されていたのだ。
自分だって耐え抜きたいとは思っている。
だが、こうしている間にも彼女は何処かで苦しんでるかもしれないと思えば、僕の中の気持ちは荒ぶり、時にはその怒りを外に出すこともあった。
不甲斐ない自分と周りの慣れない環境もあって、宛てがわれている部屋のベッドを仕方なく殴る日々。
今日こそは、と研究員どもに文句を垂れようとした、そんな時だった。
「リオンくん。朗報よ? 痛みも取れてきているみたいだし、歩けるようにもなってきているのも相まって、近々退院出来るわよ。おめでとう。」
いつもの女研究員がそう言っては、笑顔で拍手をしてくる。
わざとらしい拍手を聞いて、僕は女研究員を睨み返した。
「何が退院だ。どうせ帰った所で保護観察期間を設けるつもりだろうに。」
「それに関してはごめんなさいね。帰った後もスノウさんみたいに定期的に検査を受けて貰うことになるわ。」
「……待て。あいつはまだ検査を受けさせられているのか?」
「あら、スノウさんから聞いてなかった?一週間に一回……、ううん、今は二週間に一回のペースでここへ通ってもらって検査を受けてもらってるの。特殊な事例だから完全には解放してあげられなくて…本当にごめんなさい。」
「……。」
彼女の口から一回もその話を聞いたことがなかったし、日中は学校に行って…帰った後も買い物だとか一人暮らしで忙しいと聞いていただけに、僕に何も言ってこなかったのが…何だか虚しかった。
でも彼女の心情から察するに、僕に心配をかけたくなかったのかも知れない。
僕が研究所を酷く嫌っているのを彼女自身も知っているし、僕が彼女の検査の結果を何とかして聞きだそうとするのも分かっていたのかも知れない。
だから彼女は口を噤んだんだ。
僕に心配をかけさせないために……。
「あいつの検査結果を聞かせてくれ。」
「ふふ。本当に聞いてないのね?じゃあ、少しだけ話すわね?」
そこからは彼女の検査結果を聞いた。
体には特に異常がない事、成長するに連れて健康体になってきていること…。
だが、そうなると僕としては多少気になることがある。
「…本当に健康体なのか?」
「え?何かあったかしら?」
「雷に打たれる前の記憶ではあるが…急な眠気に襲われたり、喉が渇いていたり…。いつもとは違う感じがしたが?」
「あら、そんなことが…。戻り次第、検査に入ってもらわないとだめね?」
「…手荒な真似はするなよ?」
「分かってるわよ。大丈夫、ちゃんと来客扱いだから。」
はっ!口ならなんとでも言える。
彼女がこの研究所での検査のことを明かさなかったのも、そう言う理由があったからではないのか?
僕は怪訝な顔をして、女研究員を見る。
「少なくとも今の僕の扱いは、相当酷いぞ?夜中に検査に呼び出されたり、検査中に別の検査が入ったり…。まともな睡眠が取れない。」
「ごめんなさい…。〈シャドウクリスタル〉のエネルギーを体に宿しているのが中々珍しい事例だったから、研究者の間で仮定や空想の話が飛び交っちゃって…。その議論を収めるために仕方なく起こしちゃってたわね…。」
「ふん、まるで本物の実験体モルモットのようだ。」
「ちゃんとスノウさんは来賓扱いにするわ。何なら、見学してってもいいのよ?」
「…そうさせてもらおうか。」
「ただ、一緒に中には入れない検査もあるから、それだけは了承してちょうだい。」
「…分かった。」
「苦虫を噛み潰したような顔してるわよ?」
「気のせいだ。」
早くここから出れるように僕が少しずつ体を動かしていると、それを見た女研究員が肩を竦める。
そして車椅子を扉の外から押してきた。
…どうやらまた検査のようだ。
「その模様が、少しでも落ち着くことを祈っているわ。」
「…ケロイドは、時間とともに消えていく。僕の中の〈シャドウクリスタル〉の波動も、直に消えていくさ。」
「そうね…。そうだといいわね。」
「不服そうだな。」
「そんな事無いわ。とてもおめでたいことよ。」
「ふん。思ってもないことを。」
他愛無い会話を強制的に終了させて、僕は持ってこられた車椅子に乗る。
…後少し、あと少しの辛抱だ。
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