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12.花結晶とゴーレム
土曜日の午後はと言うと、寝てしまったという罪悪感から申し訳無さそうにする彼女を無理矢理机の前に座らせ、勉強会をすることにした。
体を動かすものでは、再び彼女に妙な現象が起きてしまいそうで僕とシャルが嫌煙したのもある。
机に向かい姿勢を正した彼女の隣で、僕はひとつひとつ丁寧に科目ごとの今の授業範囲を教えてやれば、彼女は少しだけ慌てた顔をしていた。
彼女が思うよりもずっと先に授業が進んでいたことが、ここに来て発覚したからだ。
「え、もうそこ?」
「ほらな。言わんこっちゃない。」
『丁度良かったですね。僕も坊ちゃんと一緒に授業受けてましたけど、いつもよりも結構早い授業の進みだった気がします。』
「うわぁ、そうか…。てっきりまだここらへんだとヤマはってたんだけど…。」
「……ちなみにこの科目は今、ここまで来ている。お前は?」
「あ、それはここまで行ったから大丈夫そうだね。」
高校生になると覚えることも増えてくる。
教科も中学に比べて増えたし、公式もたくさん出てくる。
彼女の勉強を教えつつ自分の復習をしていたが、元々賢い彼女のことだから範囲と公式さえ教えていれば後はすんなり頭の中に入ったらしい。
すらすら問題集を解いていく彼女を見てシャルが驚いてしまうほどだし、僕からしても勉強の教え甲斐もない。
地味な作業が続く中、窓に叩きつけるような雨の音と雷鳴が轟いたことで僕たちの手は一旦止まってしまった。
「…すごい雨だね。」
『これは明日も止みそうにないですね…?晴れならどこかにでも行きたかったんですが…。』
「ふふ、晴れようが晴れまいが、残念だけど私は外に出れないんだよ?シャルティエ。」
「お前、話を聞いてなかったのか?」
『す、すみません…忘れてました…。』
全く…。彼女が気にしたらどうするつもりだったんだ。
そんな意味も込めてシャルを睨んだが、再び僕たちの耳には雷鳴の轟く音が響いてくる。
それも先ほどの雷はかなり近くの方だった。
「近くに落ちたみたいだけど…大丈夫かな?」
『ここの周りって山ばっかりですから、木に落ちたんじゃないですか?先端の尖ってるものに雷は落ちるって言いますし。』
「そうだよね。木って先端は尖ってるし───」
スノウが思い出しながら話をしていたその時だった。
あの雷鳴に匹敵するようなけたたましいサイレンが外で鳴り響き、そしてこの建物内の防災無線にもサイレンが流れてくる。
そのサイレンは無論、〈シャドウクリスタル〉が落ちてきたことを知らせる緊急時報だ。
一般人には避難を呼びかけ、〝星の誓約者〟たちには出動を命じるサイレン────と、言うことは。
「………………まじか。」
雨を嫌う彼女が机に顔を乗せて項垂れたところで、部屋にレンブラントが慌てた様子で入ってくる。
そして僕達を見て、手に持っていたものを僕達に見せつけてきた。
「リオン坊ちゃん!スノウ様!!これを身に着けてご出発を!」
「…何だ、それは。」
「よくぞ聞いてくれました!これは雨の凌げる合羽機能もついていますが、何より!光学迷彩機能やその他諸々を搭載していまして!これでスノウ様とリオン坊ちゃんの居場所や姿の特定などは出来ないはずです!!」
『それもオベロン社きっての最新グッズでしょうか…?』
「…行こうか、レディ…。」
「だが…。」
こんな状態での戦闘など、彼女に不利でしか無い。
それは僕にとっても関係のあることで、勿論、僕も不利になる事を意味する。
彼女の支援技が見込めないとなると、相当な覚悟で挑まなければならなくなるし、この悪天候で彼女を庇いながら戦うのは正直かなり厳しいものがある。
『ど、どうします? この状態での戦闘は、僕はオススメしませんが…?』
「行くしかないんじゃないかな?それに、レンブラントさんの新発明も試させてもらおう。」
彼女がレンブラントから例の合羽のような発明品を受け取り説明を聞く姿を、僕らは心配そうに見つめていた。
敵が何処に潜んでいるか分からない状態───尚且つ、保護観察期間中である彼女を外に出してもいいという父上の意向も、今の僕らには疑問を持たざるを得ないものだ。
それほどまでにオベロン社総意で、あの発明品に自信を持っているということなのだろうか?
「分かりました、レンブラントさん。」
「くれぐれもお気を付けください、おふたりとも。天候も悪くなってきまして本降りとなっていますから。」
「……あぁ。」
シャルのコアクリスタルが不安そうに揺らぐ。
しかし彼女自身が行く、と強い覚悟を決めたのだ。
ここで男を見せなくては女々しくて仕方ないし、それで人からからかわれるのも嫌だ。
僕はレンブラントから発明品を受け取り、それを被る。
説明を受けたあとにお互いの姿を消したはずなのだが……、僕らの位置関係は未だに見えて、お互い把握出来ている。
これはちゃんと機能しているのか?
「おお!ちゃんと姿が見えませんね!流石旦那様の発明品でございます!!」
「本当に見えてないのか?僕達はお互いの位置が分かるが…。」
「その様に設計されたと聞き及んでおります。戦闘において大事なのはパートナーの位置関係だそうで、その光学迷彩を着ている間はお互いの姿が分かるようになっております。脱がれた瞬間、お互いの姿が見えなくなりますからその点だけお気を付けください。」
「分かった。外への扉を開けてくれ、レンブラント。」
レンブラントの持っているカードキーでなければ外に出られない。
それは、ここに来た時に確認した事実だ。
実質、軟禁状態の彼女を不憫に思わない訳もなく、説明してきたレンブラントに少しだけ反抗心が湧いたのは言うまでもない。
あの施設に似た環境だったから余計に、だ。
「……無理はするな、絶対に。」
「ふふ。それはお互い様だよ?レディ?」
お互いに左手を上げてハイタッチを交わす。
変身後、彼女の海色の瞳の奥の覚悟を垣間見た所で僕も覚悟をようやく決める。
守ると決めたからにはきちんと守り通す。────必ず。
「さぁ、行こう!」
彼女の掛け声と共に、降りしきる雨の中を出た僕達は強く手を握って〈シャドウクリスタル〉の元へと急いだ。
元々山岳地帯にあったこの建物の周りに人の作った建造物があるはずも無く、僕達は仕方なく鬱蒼と茂る木々の合間を通る事にした。
「場所は?!」
『探知してます!』
「同じく!…でも、密接した木の間を通ってるからか、地面に落ちてくる雨の量が少ないのが助かる!」
声からしても嬉しそうな彼女を見ながら、僕も僅かに口元を緩めてしまう。
確かに葉に当たる雨の音はすごいが、僕達のいる地面に近いところまで雨が来ることはほんの僅かだ。
それもそのはず、上を見ても天を突くような木々の葉が一つ一つ折り重なる様にしてそこに存在しているため、彼女の苦手とする悪天候の空を拝むこともない。
それで彼女が喜んでいるのだ。
まぁ、その喜びもあと少しで終わりそうだが。
『坊ちゃん!探知出来ました!ここから西に1kmです!』
「西……と言われてもな…。同じ見た目の空間ばかりで、方向感覚を失う。」
「こっちだよ、レディ!」
スノウが手を引いて僕を導いてくれる。
どうやら同じ時間に探知が完了したらしく、彼女の足取りは迷いなく何処かへと向かっている。
それに合わせて足を動かせば、彼女は少しだけ速度を早めた。
どうやらさっさと終わらせて、建物の中に避難したいと見える。
「援軍は?!」
『残念ですが…こんな辺鄙な地なので、応援は期待出来ないかと…!!』
「逆に好都合だ!今私たちは周りから見えてないし、変に恐怖心を持たれたくない!」
「ふん。言い得て妙だな!」
そんな他愛ない話も突如終わりを告げて、僕達は目的地である〈シャドウクリスタル〉が落ちた場所へとやってきた。
その場所は、〈シャドウクリスタル〉が飛来してきた事で周りの木々が燃えて破壊された、拓けた場所だったため、彼女が僅かに嫌そうな声を漏らす。……雨が直接自分の身に降りかかってくるからだろう。
標高が高い場所なのか酸素が薄いのが僅かに気になる程度で、戦闘において問題になりそうな事といえば、ぬかるみに足を取られないかくらいである。
僕は彼女の手を離し、一目散に〈シャドウクリスタル〉目掛けて走る。
その間にも後ろからは支援技が飛んできて、飛躍的に能力が上がっていく……はずだったのだが、いつもよりも彼女の支援技を繰り出す頻度が遅い気がした。
『……?』
「……シャル。お前も感じたか?」
『え、えっと…、そうですね…。言葉にしづらいんですが…、何となくスノウの援護のペースがいつもより落ちている気がします。』
「やはりそうか。……雨、だからだろうな。」
『なら、早く終わらせましょう!坊ちゃん!』
「言われるまでもない!」
僕は一気にペースを上げて、〈シャドウクリスタル〉から現れる魔物……〈シャドウ〉を次々と倒していく。
その間にもシャルには彼女の状態を見張るよう、伝えておいた。
戦闘中に集中力を欠く訳にもいかないからな。
『坊ちゃん!スノウの動きが明らかに悪くなってます!』
「分かった。」
ここまで来ればこちらのものだ。
彼女の支援技はある程度僕に届いているし、悪天候という事と地面の悪路を考慮しても僕が負けるなど万に一つもない。
残るは〈シャドウクリスタル〉の破壊のみだからだ。
シャルの応援が聞こえてくる中、僕は闇色の光を放つ〈シャドウクリスタル〉を破壊しようと最後の一歩の距離を踏みだした。
そして大きくシャルを振りかざし、後は破壊するためにこの愛剣を下ろすだけ────そのはずだったんだ。
目の前が急に白い光で覆われたかと思えば、僕の耳に轟く酷い雷鳴と強い衝撃。
僕は全身に痛みを感じながら息をつまらせ、そして目の前が真っ暗になった。
最後に僕の耳に聞こえてきたのは、彼女の絶望したような悲鳴だった。
* … * … * … * …* … * …* … * … * … * …* … * …
(スノウside)
降りしきる雨の中、彼の手を繋ぎ、走る森の中────
私達は急遽出現した〈シャドウクリスタル〉を破壊するために、ただひたすら目的地へと走り続けていた。
彼の心配そうな視線をたまに肌で感じながら、私は目的の場所まで彼を案内する。
しかし……森の中だから本当、助かった…!
空を突き刺すような木々が密接にあるために、地面に近い私達に降り掛かって来る雨はほんの僅かだ。
それが私にとって、どれほど喜ばしいことか。
他愛ない会話も彼と一緒だから成り立つし、気が紛れる。
苦手な雨の中で気が紛れるというのがどれほど役に立つか、今実際に身に沁みているよ……。
「援軍は?!」
『残念ですが…こんな辺鄙な地なので、応援は期待出来ないかと…!!』
「逆に好都合だ!今私たちは周りから見えてないし、変に恐怖心を持たれたくない!」
「ふん。言い得て妙だな!」
走る最中、そんな会話をしていればどうやら例の場所にたどり着いたようである。
私の探知でも目的地はここだと言っている。
ならば早く倒してしまい、早く建物の中に避難したいのが今の私の心情である。
手を離し、敵に突っ込んでいく彼の背中を見ながら私は急ピッチで術を仕上げていく。
攻撃上昇、防御上昇、速度上昇支援術……。
それらをやっていく内に何故か、急な眠気に襲われたんだ。
一度それでふらついた私は、すぐに足を踏ん張らせてその場に立ち止まる。
しかしこの襲い来る眠気に抗う手段など、今の私に持ち合わせている訳もない。
……でも、何故?
午前中、あんなにも寝たのに……?
どうしてこんなにも眠気が取れないんだろう…?
「っ、」
首を横に振って、眠気に抗おうとしたが徐々に体が重くなってくる。
いやいやいや……駄目だ、駄目だ。
今は戦闘中なんだから、集中しなければ。
私が再び支援技を彼に届ければ、一瞬だけ彼がこっちを見た気がした。
その瞳は何かを探るような目でもあった。
「レディ!こっちは大丈夫だから!」
そう言ってみたが、どうやらこの雨で聞こえていないようだ。
私は大丈夫だという意味を込めて彼へ絶えず支援を送る。
しかし今の私がしている術のペースは、明らかに今までよりも遅いペースだ。このままでは彼に心配をさせてしまうだろう。
それでは駄目だ、と自分自身を戒めて彼を見れば、もう〈シャドウクリスタル〉の元まで辿り着いて破壊するところである。
これだったら勝利は目前だ────その時の私は、そう思っていた。
ピシャッ!!!!
白い光が目の前を覆い尽くし、一瞬目が眩んだ私は反射的に腕で光を遮った。
近くで雷が落ちたのだと分かるのに、そう時間はかからなかった。
だから背中に冷や汗が流れ落ちる。
落ちた場所は何処だった、と自問自答するように腕を退かせば、目の前に広がる光景に私は思わず叫んでいた。
「リオンっ!!!!!」
〈シャドウクリスタル〉の前に立っていたはずの彼の体が、徐々に地面へと倒れようとしている。
まるでスローモーションのように見えたその光景を、信じられない気持ちで見つめながら私は必死に足を動かした。
倒れる直前に受け止めた私だったが、急なことでその場で尻餅をつく。
しかし彼を落とすことは決してなかった。
……無かったのだけれど、
「うああああぁあぁあぁあぁあぁ…!!!!」
彼の体は先程の雷で所々焼け焦げ、息だってしていない。
血の滲んだ体が痛々しい。
近くに捨てられた彼の愛剣であるシャルティエも、大事な機構部分であるコアクリスタルが機能していない。
一気に喪った喪失感と諦めきれないという感情が渦巻いて、必死に彼へ回復技をかけ続けた。
その間にも目の前にあった〈シャドウクリスタル〉は雷が落ちた影響なのか、みるみるうちに闇色の光を強めながら変化していき、人の3倍はあるだろう大きさまで膨れ上がると、その形をゴーレムのような形へと変えていた。
回復しながらそんな状況を把握した私は、これまでにない絶望感を味わった。
涙が流れ、
体に降りかかる雨のせいで酷く体がだるいし、眠い。
彼がこんな状態になっているのに眠たいなど言ってる場合ではないし、なんなら目の前の敵をどうにかしないと私達は死んでしまうだろう。
なのに、体が思うように動かなかった。
────悔しい。
私と契約してなかったら、今頃彼はこんな目に遭わなかった。
────悔しい。辛い。
この状況をどうすることも出来ない私が、本当に嫌だ。
────苦しい。
胸が張り裂けそうなほど、辛くて苦しい。
彼が死んでしまったら私には……何が残る……?
「っ、っ、っ、」
悲しみに囚われて、涙が流れていく。
嗚咽もこの雨の中では、誰にも届かない。
泣いてばかりいたって、目の前の彼を救うことなんか出来やしない。
回復を、快復をしなくては……!
「っ、ディス、ペル…キュア…!」
もう何度もかけた。
掛け続けた。
なのに、彼はその瞳を開けてはくれない。
その逞しい胸を上下してくれない。
口から空気を感じさせてくれない。
私は泣きながら、謝りながら、強く彼を抱きしめた。
冷たくなっていく彼の体を感じながら、迫るゴーレムの手を避ける気にもならなかった。
もう、彼も生きてはくれないなら……私がここにいる理由もないのだから。
叩き潰そうとする大きなゴーレムの手が私の頭上に来たのが分かった。
────あぁ、これで終わりだ。
そう思った。
「……………………?」
だが、ゴーレムの手が一向に私たちを潰そうとしてこない。
寧ろその手を広げて、まるで雨に晒されないように私達の上で覆ってくれてる気さえした。
私が恐る恐る顔を上げると、ゴーレムの目と合った気がした。
《……あめ、よけ、る……》
「……。」
今、“雨、避ける”って言ってなかったか…?
でも目の前にいるのは、私達にとって敵である〈シャドウクリスタル〉で構成されたゴーレムだ。
そんな敵が、私達を守るようにして雨を防いでくれるなんてあり得るだろうか…?
それでも防いでくれてることは間違いなさそうなので、取り敢えず私はお礼を言った。
「ありがとう……。」
《おれい、いわれた……。姫、ありがとう……。》
「??(姫?姫って、誰のことだ…?)」
すると僅かに腕の中にいる彼が動いた気がした。
ハッとして慌てて下を見るが、先程と変わらない状況だ。
再び私が彼を強く抱きしめると、ゴーレムが話しかけてくる。
《……姫? なかない、で……》
「私はっ、姫なんかじゃ、ないっ!!」
《姫……、たすける?》
「……助けられるの?」
こんな死人のように冷たい人間が、死の淵から生き返るというのならば、私はなんだってする。
大事な、大事な彼をこのまま死なせたくなんかない。
「お願いっ…!彼を、この人を、助けてっ……!!!」
我ながら、切実な声だったと思う。
泣きながら言ったその言葉で、ゴーレムは私達を雨で守りながらもう一つの手……正確には、人差し指を私に向けてきた。
何がなんだか分からない私からすれば、疑問を浮かべた顔でそれを見るしか出来ない。
でも、何故かその人差し指から何かを感じたんだ。
「っ!」
徐々に胸が熱くなる。
胸の……“あれ”が熱を持って熱くなってくる。
彼を支える手とは反対の方で、私は自身の胸に手を置いた。
その場所は以前、未知の病〝フロラシオン〟によって苦しめられた場所であり、今現在でもその名残が残っている場所。
そう、皮膚に結晶が残っている場所である。
「────」
言葉にならない声が、その瞬間、口から出たと思う。
体の皮膚から覗くように存在している胸の結晶が、確かな熱を持って私に何かを訴えかけていた。
これを唱えろ、と────そう言われてる気がしたんだ。
「____フルレイズデッド……。」
何がなんだか分からないまま、私は胸の結晶に促されるようにしてその言葉を唱える。
すると見たこともない魔法陣が私達を囲い、そのまま暖かな光を与えてくれた。
ホッと一息つくような人心地を感じた瞬間、その時が訪れた。
「(あぁ…………、すごく、眠いよ……。……………………リオン……。)」
まるで休眠しろ、と言われてるような感じがして、目を閉じそうになる。
私がそのまま目を閉じた瞬間、胸の結晶痕から例の〝花結晶〟が現れてはそのまま花開き、周りを否応なく結晶化させていく。
同時に体の自由が奪われて、そのまま眠りにつくように私は気を失っていた。
…………これで、私は彼を……助けられただろうか…………?
薄れる意識の中、胸の花結晶が光り輝いていたのを、私は最後に覚えていた。
土曜日の午後はと言うと、寝てしまったという罪悪感から申し訳無さそうにする彼女を無理矢理机の前に座らせ、勉強会をすることにした。
体を動かすものでは、再び彼女に妙な現象が起きてしまいそうで僕とシャルが嫌煙したのもある。
机に向かい姿勢を正した彼女の隣で、僕はひとつひとつ丁寧に科目ごとの今の授業範囲を教えてやれば、彼女は少しだけ慌てた顔をしていた。
彼女が思うよりもずっと先に授業が進んでいたことが、ここに来て発覚したからだ。
「え、もうそこ?」
「ほらな。言わんこっちゃない。」
『丁度良かったですね。僕も坊ちゃんと一緒に授業受けてましたけど、いつもよりも結構早い授業の進みだった気がします。』
「うわぁ、そうか…。てっきりまだここらへんだとヤマはってたんだけど…。」
「……ちなみにこの科目は今、ここまで来ている。お前は?」
「あ、それはここまで行ったから大丈夫そうだね。」
高校生になると覚えることも増えてくる。
教科も中学に比べて増えたし、公式もたくさん出てくる。
彼女の勉強を教えつつ自分の復習をしていたが、元々賢い彼女のことだから範囲と公式さえ教えていれば後はすんなり頭の中に入ったらしい。
すらすら問題集を解いていく彼女を見てシャルが驚いてしまうほどだし、僕からしても勉強の教え甲斐もない。
地味な作業が続く中、窓に叩きつけるような雨の音と雷鳴が轟いたことで僕たちの手は一旦止まってしまった。
「…すごい雨だね。」
『これは明日も止みそうにないですね…?晴れならどこかにでも行きたかったんですが…。』
「ふふ、晴れようが晴れまいが、残念だけど私は外に出れないんだよ?シャルティエ。」
「お前、話を聞いてなかったのか?」
『す、すみません…忘れてました…。』
全く…。彼女が気にしたらどうするつもりだったんだ。
そんな意味も込めてシャルを睨んだが、再び僕たちの耳には雷鳴の轟く音が響いてくる。
それも先ほどの雷はかなり近くの方だった。
「近くに落ちたみたいだけど…大丈夫かな?」
『ここの周りって山ばっかりですから、木に落ちたんじゃないですか?先端の尖ってるものに雷は落ちるって言いますし。』
「そうだよね。木って先端は尖ってるし───」
スノウが思い出しながら話をしていたその時だった。
あの雷鳴に匹敵するようなけたたましいサイレンが外で鳴り響き、そしてこの建物内の防災無線にもサイレンが流れてくる。
そのサイレンは無論、〈シャドウクリスタル〉が落ちてきたことを知らせる緊急時報だ。
一般人には避難を呼びかけ、〝星の誓約者〟たちには出動を命じるサイレン────と、言うことは。
「………………まじか。」
雨を嫌う彼女が机に顔を乗せて項垂れたところで、部屋にレンブラントが慌てた様子で入ってくる。
そして僕達を見て、手に持っていたものを僕達に見せつけてきた。
「リオン坊ちゃん!スノウ様!!これを身に着けてご出発を!」
「…何だ、それは。」
「よくぞ聞いてくれました!これは雨の凌げる合羽機能もついていますが、何より!光学迷彩機能やその他諸々を搭載していまして!これでスノウ様とリオン坊ちゃんの居場所や姿の特定などは出来ないはずです!!」
『それもオベロン社きっての最新グッズでしょうか…?』
「…行こうか、レディ…。」
「だが…。」
こんな状態での戦闘など、彼女に不利でしか無い。
それは僕にとっても関係のあることで、勿論、僕も不利になる事を意味する。
彼女の支援技が見込めないとなると、相当な覚悟で挑まなければならなくなるし、この悪天候で彼女を庇いながら戦うのは正直かなり厳しいものがある。
『ど、どうします? この状態での戦闘は、僕はオススメしませんが…?』
「行くしかないんじゃないかな?それに、レンブラントさんの新発明も試させてもらおう。」
彼女がレンブラントから例の合羽のような発明品を受け取り説明を聞く姿を、僕らは心配そうに見つめていた。
敵が何処に潜んでいるか分からない状態───尚且つ、保護観察期間中である彼女を外に出してもいいという父上の意向も、今の僕らには疑問を持たざるを得ないものだ。
それほどまでにオベロン社総意で、あの発明品に自信を持っているということなのだろうか?
「分かりました、レンブラントさん。」
「くれぐれもお気を付けください、おふたりとも。天候も悪くなってきまして本降りとなっていますから。」
「……あぁ。」
シャルのコアクリスタルが不安そうに揺らぐ。
しかし彼女自身が行く、と強い覚悟を決めたのだ。
ここで男を見せなくては女々しくて仕方ないし、それで人からからかわれるのも嫌だ。
僕はレンブラントから発明品を受け取り、それを被る。
説明を受けたあとにお互いの姿を消したはずなのだが……、僕らの位置関係は未だに見えて、お互い把握出来ている。
これはちゃんと機能しているのか?
「おお!ちゃんと姿が見えませんね!流石旦那様の発明品でございます!!」
「本当に見えてないのか?僕達はお互いの位置が分かるが…。」
「その様に設計されたと聞き及んでおります。戦闘において大事なのはパートナーの位置関係だそうで、その光学迷彩を着ている間はお互いの姿が分かるようになっております。脱がれた瞬間、お互いの姿が見えなくなりますからその点だけお気を付けください。」
「分かった。外への扉を開けてくれ、レンブラント。」
レンブラントの持っているカードキーでなければ外に出られない。
それは、ここに来た時に確認した事実だ。
実質、軟禁状態の彼女を不憫に思わない訳もなく、説明してきたレンブラントに少しだけ反抗心が湧いたのは言うまでもない。
あの施設に似た環境だったから余計に、だ。
「……無理はするな、絶対に。」
「ふふ。それはお互い様だよ?レディ?」
お互いに左手を上げてハイタッチを交わす。
変身後、彼女の海色の瞳の奥の覚悟を垣間見た所で僕も覚悟をようやく決める。
守ると決めたからにはきちんと守り通す。────必ず。
「さぁ、行こう!」
彼女の掛け声と共に、降りしきる雨の中を出た僕達は強く手を握って〈シャドウクリスタル〉の元へと急いだ。
元々山岳地帯にあったこの建物の周りに人の作った建造物があるはずも無く、僕達は仕方なく鬱蒼と茂る木々の合間を通る事にした。
「場所は?!」
『探知してます!』
「同じく!…でも、密接した木の間を通ってるからか、地面に落ちてくる雨の量が少ないのが助かる!」
声からしても嬉しそうな彼女を見ながら、僕も僅かに口元を緩めてしまう。
確かに葉に当たる雨の音はすごいが、僕達のいる地面に近いところまで雨が来ることはほんの僅かだ。
それもそのはず、上を見ても天を突くような木々の葉が一つ一つ折り重なる様にしてそこに存在しているため、彼女の苦手とする悪天候の空を拝むこともない。
それで彼女が喜んでいるのだ。
まぁ、その喜びもあと少しで終わりそうだが。
『坊ちゃん!探知出来ました!ここから西に1kmです!』
「西……と言われてもな…。同じ見た目の空間ばかりで、方向感覚を失う。」
「こっちだよ、レディ!」
スノウが手を引いて僕を導いてくれる。
どうやら同じ時間に探知が完了したらしく、彼女の足取りは迷いなく何処かへと向かっている。
それに合わせて足を動かせば、彼女は少しだけ速度を早めた。
どうやらさっさと終わらせて、建物の中に避難したいと見える。
「援軍は?!」
『残念ですが…こんな辺鄙な地なので、応援は期待出来ないかと…!!』
「逆に好都合だ!今私たちは周りから見えてないし、変に恐怖心を持たれたくない!」
「ふん。言い得て妙だな!」
そんな他愛ない話も突如終わりを告げて、僕達は目的地である〈シャドウクリスタル〉が落ちた場所へとやってきた。
その場所は、〈シャドウクリスタル〉が飛来してきた事で周りの木々が燃えて破壊された、拓けた場所だったため、彼女が僅かに嫌そうな声を漏らす。……雨が直接自分の身に降りかかってくるからだろう。
標高が高い場所なのか酸素が薄いのが僅かに気になる程度で、戦闘において問題になりそうな事といえば、ぬかるみに足を取られないかくらいである。
僕は彼女の手を離し、一目散に〈シャドウクリスタル〉目掛けて走る。
その間にも後ろからは支援技が飛んできて、飛躍的に能力が上がっていく……はずだったのだが、いつもよりも彼女の支援技を繰り出す頻度が遅い気がした。
『……?』
「……シャル。お前も感じたか?」
『え、えっと…、そうですね…。言葉にしづらいんですが…、何となくスノウの援護のペースがいつもより落ちている気がします。』
「やはりそうか。……雨、だからだろうな。」
『なら、早く終わらせましょう!坊ちゃん!』
「言われるまでもない!」
僕は一気にペースを上げて、〈シャドウクリスタル〉から現れる魔物……〈シャドウ〉を次々と倒していく。
その間にもシャルには彼女の状態を見張るよう、伝えておいた。
戦闘中に集中力を欠く訳にもいかないからな。
『坊ちゃん!スノウの動きが明らかに悪くなってます!』
「分かった。」
ここまで来ればこちらのものだ。
彼女の支援技はある程度僕に届いているし、悪天候という事と地面の悪路を考慮しても僕が負けるなど万に一つもない。
残るは〈シャドウクリスタル〉の破壊のみだからだ。
シャルの応援が聞こえてくる中、僕は闇色の光を放つ〈シャドウクリスタル〉を破壊しようと最後の一歩の距離を踏みだした。
そして大きくシャルを振りかざし、後は破壊するためにこの愛剣を下ろすだけ────そのはずだったんだ。
目の前が急に白い光で覆われたかと思えば、僕の耳に轟く酷い雷鳴と強い衝撃。
僕は全身に痛みを感じながら息をつまらせ、そして目の前が真っ暗になった。
最後に僕の耳に聞こえてきたのは、彼女の絶望したような悲鳴だった。
* … * … * … * …* … * …* … * … * … * …* … * …
(スノウside)
降りしきる雨の中、彼の手を繋ぎ、走る森の中────
私達は急遽出現した〈シャドウクリスタル〉を破壊するために、ただひたすら目的地へと走り続けていた。
彼の心配そうな視線をたまに肌で感じながら、私は目的の場所まで彼を案内する。
しかし……森の中だから本当、助かった…!
空を突き刺すような木々が密接にあるために、地面に近い私達に降り掛かって来る雨はほんの僅かだ。
それが私にとって、どれほど喜ばしいことか。
他愛ない会話も彼と一緒だから成り立つし、気が紛れる。
苦手な雨の中で気が紛れるというのがどれほど役に立つか、今実際に身に沁みているよ……。
「援軍は?!」
『残念ですが…こんな辺鄙な地なので、応援は期待出来ないかと…!!』
「逆に好都合だ!今私たちは周りから見えてないし、変に恐怖心を持たれたくない!」
「ふん。言い得て妙だな!」
走る最中、そんな会話をしていればどうやら例の場所にたどり着いたようである。
私の探知でも目的地はここだと言っている。
ならば早く倒してしまい、早く建物の中に避難したいのが今の私の心情である。
手を離し、敵に突っ込んでいく彼の背中を見ながら私は急ピッチで術を仕上げていく。
攻撃上昇、防御上昇、速度上昇支援術……。
それらをやっていく内に何故か、急な眠気に襲われたんだ。
一度それでふらついた私は、すぐに足を踏ん張らせてその場に立ち止まる。
しかしこの襲い来る眠気に抗う手段など、今の私に持ち合わせている訳もない。
……でも、何故?
午前中、あんなにも寝たのに……?
どうしてこんなにも眠気が取れないんだろう…?
「っ、」
首を横に振って、眠気に抗おうとしたが徐々に体が重くなってくる。
いやいやいや……駄目だ、駄目だ。
今は戦闘中なんだから、集中しなければ。
私が再び支援技を彼に届ければ、一瞬だけ彼がこっちを見た気がした。
その瞳は何かを探るような目でもあった。
「レディ!こっちは大丈夫だから!」
そう言ってみたが、どうやらこの雨で聞こえていないようだ。
私は大丈夫だという意味を込めて彼へ絶えず支援を送る。
しかし今の私がしている術のペースは、明らかに今までよりも遅いペースだ。このままでは彼に心配をさせてしまうだろう。
それでは駄目だ、と自分自身を戒めて彼を見れば、もう〈シャドウクリスタル〉の元まで辿り着いて破壊するところである。
これだったら勝利は目前だ────その時の私は、そう思っていた。
ピシャッ!!!!
白い光が目の前を覆い尽くし、一瞬目が眩んだ私は反射的に腕で光を遮った。
近くで雷が落ちたのだと分かるのに、そう時間はかからなかった。
だから背中に冷や汗が流れ落ちる。
落ちた場所は何処だった、と自問自答するように腕を退かせば、目の前に広がる光景に私は思わず叫んでいた。
「リオンっ!!!!!」
〈シャドウクリスタル〉の前に立っていたはずの彼の体が、徐々に地面へと倒れようとしている。
まるでスローモーションのように見えたその光景を、信じられない気持ちで見つめながら私は必死に足を動かした。
倒れる直前に受け止めた私だったが、急なことでその場で尻餅をつく。
しかし彼を落とすことは決してなかった。
……無かったのだけれど、
「うああああぁあぁあぁあぁあぁ…!!!!」
彼の体は先程の雷で所々焼け焦げ、息だってしていない。
血の滲んだ体が痛々しい。
近くに捨てられた彼の愛剣であるシャルティエも、大事な機構部分であるコアクリスタルが機能していない。
一気に喪った喪失感と諦めきれないという感情が渦巻いて、必死に彼へ回復技をかけ続けた。
その間にも目の前にあった〈シャドウクリスタル〉は雷が落ちた影響なのか、みるみるうちに闇色の光を強めながら変化していき、人の3倍はあるだろう大きさまで膨れ上がると、その形をゴーレムのような形へと変えていた。
回復しながらそんな状況を把握した私は、これまでにない絶望感を味わった。
涙が流れ、
体に降りかかる雨のせいで酷く体がだるいし、眠い。
彼がこんな状態になっているのに眠たいなど言ってる場合ではないし、なんなら目の前の敵をどうにかしないと私達は死んでしまうだろう。
なのに、体が思うように動かなかった。
────悔しい。
私と契約してなかったら、今頃彼はこんな目に遭わなかった。
────悔しい。辛い。
この状況をどうすることも出来ない私が、本当に嫌だ。
────苦しい。
胸が張り裂けそうなほど、辛くて苦しい。
彼が死んでしまったら私には……何が残る……?
「っ、っ、っ、」
悲しみに囚われて、涙が流れていく。
嗚咽もこの雨の中では、誰にも届かない。
泣いてばかりいたって、目の前の彼を救うことなんか出来やしない。
回復を、快復をしなくては……!
「っ、ディス、ペル…キュア…!」
もう何度もかけた。
掛け続けた。
なのに、彼はその瞳を開けてはくれない。
その逞しい胸を上下してくれない。
口から空気を感じさせてくれない。
私は泣きながら、謝りながら、強く彼を抱きしめた。
冷たくなっていく彼の体を感じながら、迫るゴーレムの手を避ける気にもならなかった。
もう、彼も生きてはくれないなら……私がここにいる理由もないのだから。
叩き潰そうとする大きなゴーレムの手が私の頭上に来たのが分かった。
────あぁ、これで終わりだ。
そう思った。
「……………………?」
だが、ゴーレムの手が一向に私たちを潰そうとしてこない。
寧ろその手を広げて、まるで雨に晒されないように私達の上で覆ってくれてる気さえした。
私が恐る恐る顔を上げると、ゴーレムの目と合った気がした。
《……あめ、よけ、る……》
「……。」
今、“雨、避ける”って言ってなかったか…?
でも目の前にいるのは、私達にとって敵である〈シャドウクリスタル〉で構成されたゴーレムだ。
そんな敵が、私達を守るようにして雨を防いでくれるなんてあり得るだろうか…?
それでも防いでくれてることは間違いなさそうなので、取り敢えず私はお礼を言った。
「ありがとう……。」
《おれい、いわれた……。姫、ありがとう……。》
「??(姫?姫って、誰のことだ…?)」
すると僅かに腕の中にいる彼が動いた気がした。
ハッとして慌てて下を見るが、先程と変わらない状況だ。
再び私が彼を強く抱きしめると、ゴーレムが話しかけてくる。
《……姫? なかない、で……》
「私はっ、姫なんかじゃ、ないっ!!」
《姫……、たすける?》
「……助けられるの?」
こんな死人のように冷たい人間が、死の淵から生き返るというのならば、私はなんだってする。
大事な、大事な彼をこのまま死なせたくなんかない。
「お願いっ…!彼を、この人を、助けてっ……!!!」
我ながら、切実な声だったと思う。
泣きながら言ったその言葉で、ゴーレムは私達を雨で守りながらもう一つの手……正確には、人差し指を私に向けてきた。
何がなんだか分からない私からすれば、疑問を浮かべた顔でそれを見るしか出来ない。
でも、何故かその人差し指から何かを感じたんだ。
「っ!」
徐々に胸が熱くなる。
胸の……“あれ”が熱を持って熱くなってくる。
彼を支える手とは反対の方で、私は自身の胸に手を置いた。
その場所は以前、未知の病〝フロラシオン〟によって苦しめられた場所であり、今現在でもその名残が残っている場所。
そう、皮膚に結晶が残っている場所である。
「────」
言葉にならない声が、その瞬間、口から出たと思う。
体の皮膚から覗くように存在している胸の結晶が、確かな熱を持って私に何かを訴えかけていた。
これを唱えろ、と────そう言われてる気がしたんだ。
「____フルレイズデッド……。」
何がなんだか分からないまま、私は胸の結晶に促されるようにしてその言葉を唱える。
すると見たこともない魔法陣が私達を囲い、そのまま暖かな光を与えてくれた。
ホッと一息つくような人心地を感じた瞬間、その時が訪れた。
「(あぁ…………、すごく、眠いよ……。……………………リオン……。)」
まるで休眠しろ、と言われてるような感じがして、目を閉じそうになる。
私がそのまま目を閉じた瞬間、胸の結晶痕から例の〝花結晶〟が現れてはそのまま花開き、周りを否応なく結晶化させていく。
同時に体の自由が奪われて、そのまま眠りにつくように私は気を失っていた。
…………これで、私は彼を……助けられただろうか…………?
薄れる意識の中、胸の花結晶が光り輝いていたのを、私は最後に覚えていた。