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05.ハッキングと誘拐事件
スノウが不在の中、一限目が過ぎていく。
不思議に思ったのは何もリオンだけではない、他の生徒たちも疑問に思ってリオンへと疑問を投げかける。
「あれ?スノウは?」
「どこにいったんだ?」
「…知らん。」
「いつも二人一緒だから違和感あるな!」
一限目も終わった休み時間。
そうやって生徒たちに寄ってこられ、リオンは険しい顔をさせていた。
人付き合いが苦手なリオンにとって、この時間は苦行に近いものがあった。
いつもならスノウへと話しかける女生徒も男子生徒も、スノウがいなければリオンに話しかけるといった具合に次々と話しかけてくる。
同じクラスの者同士、仲良くなりたいのが皆の心情だったが……どうやらリオンにとってそこまで感情の深読みは出来なかったようだった。
まだ帰ってこないのか、と腕を組んで待っているリオンの傍ら色んな生徒が話に花を咲かせる。
そんなクラスに緊急の校内放送が掛かった。
『―――1年C組の生徒は今すぐクラスに戻り、待機をしてください。繰り返します、1年C組の生徒は今すぐ―――』
「あ?なんだ?」
「1年Ⅽ組って、ここじゃん?」
そう、まさにリオン達の居る教室が1年Ⅽ組だった。
急な校内放送にざわつく中、全員が席に座ろうとすると疲れた表情で入ってくる担任。
それに自然とクラス内は静かになっていく。
「……皆に知らせる事がある。」
今朝の重苦しい雰囲気再来の予感に、生徒たちも暗雲の表情を浮かべ始める。
まさか、修学旅行が無くなったとか?
それとも、この暗い雰囲気はドッキリだとか?
そんな生徒たちの期待を裏切る言葉を、担任が口走った。
「このクラスのスノウ・エルピスについてだが……。先ほど、退学処分となった。」
「「「は?!!」」」
「…は?」
『ど、どういうことですか?! 何したんですか!スノウ!』
シャルティエも驚きの声を思わず挙げてしまうほど、それは強烈なニュースだった。
朝の負傷者の話もびっくりだったが、それ以上に身近な人の退学処分を聞いてクラス中が驚かないはずがない。
全員が驚きで声に出せないでいると、一人の生徒が恐る恐る手を挙げて発言する。
「な、なにしたんですか?」
「…すまない、それは……言えない。だが、退学処分となった。一応…お前らには伝えておく。」
そう言って重苦しい表情のまま、担任は肩を落としてクラスを出ていった。
その背中には悔しさとか、怒りとかが入り混じっているのは誰が見ても分かってしまった。
あの担任があそこまで寡黙になることなど今までなかった故に、今回の件については何かあると生徒たちは悟ってしまったのだ。
「…なーんか、裏がありそうだよな。」
「リオン君、何か聞いてる?」
「…いや、僕も何がなんだか分からないな…。」
『さっきの三者面談…怪しそうですねぇ…? どうにかして情報を手に入れられないでしょうか?』
クラス内がざわつく中、一人の男子生徒がパソコンに向かいながら衝撃事実を発する。
「……傷害事件…のことかな?」
「は?」
「どうやらこの間あった〈シャドウクリスタル〉の負傷者の話を持ち掛けられてるみたい。それでその責任を問われて、スノウを退学処分にしたって感じ。」
「ど、どういうことだよ?!」
「…詳しく教えろ。」
何故、あの負傷者の事件をスノウが責任を負わなければならなかったのか。
折角…学校に通えるようになったというのに、それはあまりにも残酷すぎるではないか。
パソコンを持っていた生徒はイヤホンを外し、パソコンから直接スピーカーで流せるようにすると音声を流し始める。
ノイズが走っているがなんとなく会話が聞こえてくる。
…スノウと担任と、誰かの声だ。
『―――〝星の誓約者〟でもあるあなたが?――――一般人を守れなかった――――由々しき事態だ!』
「「「!?」」」
「…これは、」
「校長室の植木に付けてた盗聴器の音声。」
「お前、何でそんなことしてんだよ…。」
「なんかあった時に便利だと思って。ほら、役に立ったでしょ?」
『―――保護・救済義務放棄罪で罪に――――ばならない!であれば、退学処分は当然でしょう?』
「待って。もうちょっとノイズ消してみる…。」
「頼む…!」
かなり重要なところだ。
罪状を持ち込んだ時点で、不穏な空気がクラス内に流れる。
全員がその音声を聞き漏らさない様に静かになって、そして耳をそばだてる。
だって、同じクラスの人間が退学処分なんて……おかしいと思っているから。
『―――保護・救済義務放棄罪で罪に問われなければならない!であれば、退学処分は当然でしょう?』
『そんなことを言ったら他の〝星の誓約者〟だって…!』
『一人処分すればいいのですよ。……兎角、目の前にいるこの子供とかですかね?』
「「「「 !!!! 」」」」」
「ひどいわ…。だって、スノウは何もしてないのに…!」
「っ、」
『……スノウ・エルピス。貴女の退学処分を宣言します。』
『校長!!!』
『謹んでお受けします。』
『スノウも!!』
真実が流れる音声。
その真実は、……現実は―――今のクラス内にはあまりにも衝撃的な事実だった。
凍り付くクラス内に、パソコンを持っていた生徒が再び手を動かし始める。
「……待って。スノウ、脅されてるっぽい。」
「どういうこと?」
「今、音声を流す。」
先程の音声が消え、再びノイズが走る。
そしてしばらくの後、流れてきたのは先ほど聞いた知らない誰かの声だった。
『―――そう言えば、――――――修学旅行というものが――――よね?』
「ノイズがうるさくて聞こえない!」
「今から消すから待って。」
『―――そう言えば、もうすぐこの学校では修学旅行というものがあるんですよね?』
『はい。この学校の伝統でして。』
『止めさせてください。その行事。』
『……え?』
『だから。止めさせてください、その行事。』
『何故、でしょうか?』
『それは勿論、この子供の学校にいる学生を、修学旅行という人の多い所を行かせたくないからですよ。』
『……なんだって?』
「これって、差別じゃない!」
「どういうこと?この人って、スノウにとって何なんだろう?」
「…少なくとも、僕は聞いたことがない人物の声だ。」
『僕もですよ。一体相手は誰なんでしょうか?』
「リオンも聞いたことないんじゃ…、これってスノウの知り合いを騙った誰かって事?」
「それか、政府の人間か…。僕達〝星の誓約者〟はよく政府に呼ばれるからな。」
『それは、どうしても実行しなければならない事ですか…?』
『まぁ、条件次第では……行なってもいいですよ?』
『その条件とは?』
『その子供の退学処分です。』
「「「「っ!!!」」」」
「完全に脅しじゃない!!」
「……だが、何の得があってスノウの奴の退学を促すんだ…?」
『え、』
『この子は関係ないだろう?!!』
「よく言った!担任!!」
「もっとぶちかませ!担任!!!」
「(一体、何が起こってる…?)」
そこからは全員がヤジを飛ばしながら聞いていく。
そしてスノウが自分の退学処分を受け入れようとしていることも聞いてしまったクラス中の生徒たちは、意を決したように立ち上がる。
しかしそれを止める様にパソコンの前の生徒が皆を見る。
「待って。駐車場にあるカメラにハッキングしたんだけど…。黒い高級車に……スノウが強引に乗せられてる…!誘拐みたい。」
「「「はぁ?!」」」
「どうもあの退学処分を促した人は政府の人間みたい。それでスノウを罪人に仕立て上げて連れて行ってるみたいだね。…校長も何で退学処分を受け入れたか分からないけど。…通常、退学処分って重い判決を下すときはその場のノリで言うものじゃないし、他の先生とかと話をしてからするはずなのに、なんで校長はそれを受け入れたんだろう…?」
「そんなことより、その車はどっちに向かっていった!?」
「……それが…」
「「「それが?」」」
「ここで途切れてしまってるんだ。何かの干渉を受けてるみたいに。この後、市内の全カメラを見てみたけどこの黒い車はどこにも映ってなかった…。…でもひとつ気になる事があるんだ。」
「気になる事?」
「何でもいい!早くしてくれ!」
「この大きな交差点…不自然に車が居ないんだ。それに…パトカーが多い。ここで何かあったって思うのが普通なのかもね。それがスノウに係わる事なのか分からないけど…。」
リオンがそれを聞いて慌てて駆け出す。
しかしそれと同時に、二限目の教師が怠そうな顔を引き締めもせず欠伸をしながら中に入ってくる。
「おーい、授業だぞー。」
「退け!」
「おっと。」
外へ駆け出したリオンを見届け、頭をポリポリ掻いた先生は一言「元気だねー」と言って教室の中に入ってくる。
しかし、中はもぬけの殻で生徒たちは何処にもいなかった。
…ただ一人を除いて。
「先生。今、大事なところなんです。授業は後回しにしてもらえませんか。」
あのパソコンを持っていた生徒だ。
マイク付きのヘッドホンをしながら、生徒はパソコンに向かっている。
そして他の生徒は誰も居ない。
二限目の理科の先生であった教師はフッと笑うと、怠そうに教壇の椅子に腰かけて教科書を顔の上に乗せると眠りこけてしまった。
「……青春だねー。」
寝る前にそう呟いて、こっそりと手元のスマホを弄っていた。
そのスマホに映し出された文字には"社長"という文字が入っていたことは、誰も知らない。
◆───-- - - - - - - – --───◆
リオンは校門から外に出ると、急いで駆け出した。
『坊ちゃん、場所分かるんですか?!』
「あの交差点はこの街でもとくに有名な交差点だ。そこが封鎖されるという事は何かしら大きな事件が起こっていると言っていい。なら、誘拐されたスノウがそこに居る可能性は非常に高い。」
『なるほど!あの一瞬でよく気付きましたね!』
「…むしろ、あの音声を聞いても尚疑問が残る。何故、政府の人間が〝星の誓約者〟であるスノウを預かると言い出した? そして、何故退学処分を理由にしなければならなかったのか。」
『うーん、やっぱり誘拐する理由が欲しかった、とかですかね。』
「馬鹿か。それだと色んな奴らが見ていて足がつくだろうが。何故スノウが一人の所を狙わなかった?」
そんな時、リオンのスマホに着信が入る。
知らない番号であるが、もしかしたらスノウを誘拐した犯人からの要求の可能性も否めない。
慌てて電話に出たリオンだったが、その声は聞き覚えのある声だった。
『リオン君、声聞こえる?』
「何だ。今それどころじゃ──」
『今、君の携帯を逆探知してるよ。道案内するからそこを通って。今警察が厄介な所にいるんだ。』
「……お前、末恐ろしいやつだな。」
『褒め言葉として受け取っておくよ。ハッキングとかなら任せて。』
クラスで先程、盗聴音声を聞いてる時にパソコンの前にいた生徒だ。
こいつのお陰でスノウが攫われたと分かった訳だが……こいつの能力を鑑みても、恐ろしいものだ。
急ぎたい身である為に、走りながら電話を受ける。
『リオン君、そこを右に行って。じゃないと警察と鉢合わせて事情聴取だよ。』
「分かった。」
今はまだ学生は学校に居なければならない時間帯だ。
こんな辺鄙な場所に居れば、警察の事情聴取など目に見えている。
言うことを聞いて右へと移動し、そのまま走り続ける。
『100m先、左折したあと、すぐに斜め斜め左に入って。細い路地だよ。』
「あぁ。」
警察の穴を見つけては案内してくれるクラスの奴に感謝しながら、徐々にリオンは例の交差点へと近付いていた。
すると喧騒が徐々に聞こえてきて、それはどんどんと大きくなってくる。
その声は、あの音声で聞いていたあの声と全く一緒な人物の声だった。
もう警察が捕らえている事が分かり、電話越しに伝えておく。
「既に警察が捕らえたようだな。声が聞こえてくるぞ。」
『うーん、やっぱり防犯カメラが何者かに干渉されてるみたいだ。交差点には何も映っちゃいない。』
「という事は、相手も相当なやり手という訳か。」
『そんな事言われたら、僕のハッキング手技の腕がなるよ。』
途端にカタカタ…と雑音がして耳からスマホを離す。
暫くはパソコンを打ち込む音しか聞こえなさそうである。
例の交差点近くの建物の影に身を潜めたリオンは目を細めながら交差点の様子を窺う。
そこはもう既に片付けが始まっている状態だった。
例の犯人は既にパトカーに乗せられた後なのか、喧騒は無くなっており、残りの警察やパトカーも徐々にその姿を消して行くところだった。
「…もう片付けが始まってるな。」
『リオン君、今そこから動かない方がいいよ。近くに警察が巡回に出てる。恐らく犯人の取りこぼしとかを捜索してる班っぽい。』
「犯人のいる車両は?」
『ナンバーがOC-UILと書かれているパトカーだよ。……結構複数の犯人だったんだね。何台もパトカーに乗せられてるよ。』
「何人か分かるか?」
『うーんとねー…。5人、かな?』
「……大掛かりだな。スノウ一人に対して5人での犯行とは…。」
『それほど〝星の誓約者〟を危険視してるんだと思う。特に政府の人間はその傾向が強いから。』
「……そうだな。」
スノウもだが、リオンもまた政府の人間に良い感情を持ち合わせていない。
シャルティエも然りだ。
散々今まで扱き使われた分、今政府の奴らに対して、彼らの小さい反抗期なのかもしれない。
リオンがそのまま警察の様子を窺っていると、スマホから再び指示が飛び、慌ててその場から離れる。
『リオン君、そのまま後ろに向かって下がって。警察がそっちに向かってる。』
「やっぱりもう既に終わっていそうだな。スノウも無事、警察に保護されていればそれで───」
『その事なんだけど…、実はスノウを乗せた車両がひとつも見当たらないんだ。』
「……は?」
警察から避難している最中に、まさかの言葉。
思わず立ち止まりそうになった足を叱咤し、警察から逃れるように走り出す。
言葉の続きを聞き逃すまい、と走りながらスマホの音を拾うが、まだ捜索中なのか向こうからの音声はない。
『…………うん。やっぱりどのパトカーにもスノウが乗っている形跡はないよ。それにスノウのスマホにも誰かから干渉されてる様に妨害されてる。…えっとつまり、スノウのスマホは逆探知出来ないってこと。』
「……まさか、まだ誘拐されてるのか?」
『正直、可能性はあると思う。スマホの電源が落ちてる可能性も無くはないけど…それだったらすぐに分かるはず。』
「どうにかして調べられないか?」
『やってみてるよ。分かったら教えるけど…取り敢えず学校に戻ってきて。そこにはもう犯人も居ないから。』
「分かった。」
警察の目を掻い潜り、リオンは学校へと帰還する。
教室に戻った時には眠りこけている理科の教師とパソコンに向かう例の生徒だけだった。
……もう4限目になってもおかしくはないはずだが?
「……なんで、この教師はここで眠りこけている。」
「なんかよく分からないけど、皆が帰ってくるまで理科の授業が始められないから、他の教科すっ飛ばしてずっと待ってるって訳。」
「……変なやつだな、この教師。」
「ぐがー」
大いびきをかいて寝ている理科教師を呆れて見遣ったリオンだったが、すぐにパソコンの生徒の近くに寄り、現状を聞き出す。
「どんな状況だ。」
「結構難航してる。思ったよりも敵が強くて。」
「敵が強い、か…。なら、やはり政府が情報を操作しているのか…?」
「うーん、政府にそんなこと出来る奴なんているのかな?政府の情報なんてガバガバだけど?」
「…。」
『それは困りましたね…。変な情報掴まれてないと良いですけど…。あとスノウの居場所も分からないんじゃ、どうしようもないですよ…。』
「…うーん、なーんか、学校内から誰かに干渉されてるっぽいけどな…?」
「学校の中に犯人に加担している誰かが居るって事か?」
「うん。こんな近距離で干渉されてなかったら、他の回線使ってすぐに情報をあらゆるところから引き出すんだけど…。あ、えっとつまりね。自分の能力を鑑みても、近距離で干渉されてるとしか考えられないって事。」
「あぁ、理解している。この短時間で嫌というほどお前のすごさを見せつけられたからな。」
「…! へへっ。リオン君にそう言われたらすっごい嬉しいな。今まで話しかけてもあんまり話してくれなかったから、ちょっと嬉しいんだ。」
いつもスノウの隣に居ては、スノウに話を任せていた人物だ。
会話が続くはずもない。
だからこういう機会でもないと話せない事が残念だが、こうやって話すことが出来て、この男子生徒は純粋に嬉しいと思ってくれていたのだ。
それにシャルティエが感動したようにコアクリスタルをピカピカさせる。
「……スノウにはいつもいつも助けられてるから、今度は自分が助けたいんだ。」
パソコンが趣味で、いつも陰キャで根暗だった自分にスノウは「すごいね」と言って、接してくれた。
それからだった。
自分の周りに友達が出来てきたのは。
根暗な自分に構わず、周りのクラスの人はたくさん話しかけてくれる。
陰キャな自分には時々それが息苦しいと思う事もあるけど、昔の自分を思い出せば今は格段に楽しい。
それもこれも、スノウが話しかけてくれて、そして「すごいね」と言ってくれたあの一言があったからだ。
それを思えば、助けたいと思うのは当然の事だった。
必死になって探してみるが、何処を探しても見つからない。
彼の為にも、早く探してあげたいが…。
『(スノウはすごいな…。こうやって誰かを助けてる。それが今に繋がるんだね。坊ちゃんも、スノウが居なかったらどうなってたことか…。)』
「…やはり、駄目そうか。」
「……うん、もう少し頑張ってみるけど…。気を落とさないで、リオン君。絶対にスノウは無事だから。」
結局その日他の生徒も帰ってこらず、終ぞ授業が始まることは無かった。
時折、起きてはスマホを弄る理科教師を二人が見ることは無かった。
その眼光は優しげでもあったが、同時に野性味溢れる眼光をしていたのも、二人は知らなかった。
「(こんな身近にハッキング出来る奴がいたなんてな…? 将来性のある子供はこれだから怖いねー。…おっと、もう少し妨害しておくか。)」
そして、教科書の下でニヤリと笑うのだ。
子供に勝負を仕掛けられている気分になって、理科教師は胸を躍らせながら自身のスマホをこっそりと弄るのだった。
スノウが不在の中、一限目が過ぎていく。
不思議に思ったのは何もリオンだけではない、他の生徒たちも疑問に思ってリオンへと疑問を投げかける。
「あれ?スノウは?」
「どこにいったんだ?」
「…知らん。」
「いつも二人一緒だから違和感あるな!」
一限目も終わった休み時間。
そうやって生徒たちに寄ってこられ、リオンは険しい顔をさせていた。
人付き合いが苦手なリオンにとって、この時間は苦行に近いものがあった。
いつもならスノウへと話しかける女生徒も男子生徒も、スノウがいなければリオンに話しかけるといった具合に次々と話しかけてくる。
同じクラスの者同士、仲良くなりたいのが皆の心情だったが……どうやらリオンにとってそこまで感情の深読みは出来なかったようだった。
まだ帰ってこないのか、と腕を組んで待っているリオンの傍ら色んな生徒が話に花を咲かせる。
そんなクラスに緊急の校内放送が掛かった。
『―――1年C組の生徒は今すぐクラスに戻り、待機をしてください。繰り返します、1年C組の生徒は今すぐ―――』
「あ?なんだ?」
「1年Ⅽ組って、ここじゃん?」
そう、まさにリオン達の居る教室が1年Ⅽ組だった。
急な校内放送にざわつく中、全員が席に座ろうとすると疲れた表情で入ってくる担任。
それに自然とクラス内は静かになっていく。
「……皆に知らせる事がある。」
今朝の重苦しい雰囲気再来の予感に、生徒たちも暗雲の表情を浮かべ始める。
まさか、修学旅行が無くなったとか?
それとも、この暗い雰囲気はドッキリだとか?
そんな生徒たちの期待を裏切る言葉を、担任が口走った。
「このクラスのスノウ・エルピスについてだが……。先ほど、退学処分となった。」
「「「は?!!」」」
「…は?」
『ど、どういうことですか?! 何したんですか!スノウ!』
シャルティエも驚きの声を思わず挙げてしまうほど、それは強烈なニュースだった。
朝の負傷者の話もびっくりだったが、それ以上に身近な人の退学処分を聞いてクラス中が驚かないはずがない。
全員が驚きで声に出せないでいると、一人の生徒が恐る恐る手を挙げて発言する。
「な、なにしたんですか?」
「…すまない、それは……言えない。だが、退学処分となった。一応…お前らには伝えておく。」
そう言って重苦しい表情のまま、担任は肩を落としてクラスを出ていった。
その背中には悔しさとか、怒りとかが入り混じっているのは誰が見ても分かってしまった。
あの担任があそこまで寡黙になることなど今までなかった故に、今回の件については何かあると生徒たちは悟ってしまったのだ。
「…なーんか、裏がありそうだよな。」
「リオン君、何か聞いてる?」
「…いや、僕も何がなんだか分からないな…。」
『さっきの三者面談…怪しそうですねぇ…? どうにかして情報を手に入れられないでしょうか?』
クラス内がざわつく中、一人の男子生徒がパソコンに向かいながら衝撃事実を発する。
「……傷害事件…のことかな?」
「は?」
「どうやらこの間あった〈シャドウクリスタル〉の負傷者の話を持ち掛けられてるみたい。それでその責任を問われて、スノウを退学処分にしたって感じ。」
「ど、どういうことだよ?!」
「…詳しく教えろ。」
何故、あの負傷者の事件をスノウが責任を負わなければならなかったのか。
折角…学校に通えるようになったというのに、それはあまりにも残酷すぎるではないか。
パソコンを持っていた生徒はイヤホンを外し、パソコンから直接スピーカーで流せるようにすると音声を流し始める。
ノイズが走っているがなんとなく会話が聞こえてくる。
…スノウと担任と、誰かの声だ。
『―――〝星の誓約者〟でもあるあなたが?――――一般人を守れなかった――――由々しき事態だ!』
「「「!?」」」
「…これは、」
「校長室の植木に付けてた盗聴器の音声。」
「お前、何でそんなことしてんだよ…。」
「なんかあった時に便利だと思って。ほら、役に立ったでしょ?」
『―――保護・救済義務放棄罪で罪に――――ばならない!であれば、退学処分は当然でしょう?』
「待って。もうちょっとノイズ消してみる…。」
「頼む…!」
かなり重要なところだ。
罪状を持ち込んだ時点で、不穏な空気がクラス内に流れる。
全員がその音声を聞き漏らさない様に静かになって、そして耳をそばだてる。
だって、同じクラスの人間が退学処分なんて……おかしいと思っているから。
『―――保護・救済義務放棄罪で罪に問われなければならない!であれば、退学処分は当然でしょう?』
『そんなことを言ったら他の〝星の誓約者〟だって…!』
『一人処分すればいいのですよ。……兎角、目の前にいるこの子供とかですかね?』
「「「「 !!!! 」」」」」
「ひどいわ…。だって、スノウは何もしてないのに…!」
「っ、」
『……スノウ・エルピス。貴女の退学処分を宣言します。』
『校長!!!』
『謹んでお受けします。』
『スノウも!!』
真実が流れる音声。
その真実は、……現実は―――今のクラス内にはあまりにも衝撃的な事実だった。
凍り付くクラス内に、パソコンを持っていた生徒が再び手を動かし始める。
「……待って。スノウ、脅されてるっぽい。」
「どういうこと?」
「今、音声を流す。」
先程の音声が消え、再びノイズが走る。
そしてしばらくの後、流れてきたのは先ほど聞いた知らない誰かの声だった。
『―――そう言えば、――――――修学旅行というものが――――よね?』
「ノイズがうるさくて聞こえない!」
「今から消すから待って。」
『―――そう言えば、もうすぐこの学校では修学旅行というものがあるんですよね?』
『はい。この学校の伝統でして。』
『止めさせてください。その行事。』
『……え?』
『だから。止めさせてください、その行事。』
『何故、でしょうか?』
『それは勿論、この子供の学校にいる学生を、修学旅行という人の多い所を行かせたくないからですよ。』
『……なんだって?』
「これって、差別じゃない!」
「どういうこと?この人って、スノウにとって何なんだろう?」
「…少なくとも、僕は聞いたことがない人物の声だ。」
『僕もですよ。一体相手は誰なんでしょうか?』
「リオンも聞いたことないんじゃ…、これってスノウの知り合いを騙った誰かって事?」
「それか、政府の人間か…。僕達〝星の誓約者〟はよく政府に呼ばれるからな。」
『それは、どうしても実行しなければならない事ですか…?』
『まぁ、条件次第では……行なってもいいですよ?』
『その条件とは?』
『その子供の退学処分です。』
「「「「っ!!!」」」」
「完全に脅しじゃない!!」
「……だが、何の得があってスノウの奴の退学を促すんだ…?」
『え、』
『この子は関係ないだろう?!!』
「よく言った!担任!!」
「もっとぶちかませ!担任!!!」
「(一体、何が起こってる…?)」
そこからは全員がヤジを飛ばしながら聞いていく。
そしてスノウが自分の退学処分を受け入れようとしていることも聞いてしまったクラス中の生徒たちは、意を決したように立ち上がる。
しかしそれを止める様にパソコンの前の生徒が皆を見る。
「待って。駐車場にあるカメラにハッキングしたんだけど…。黒い高級車に……スノウが強引に乗せられてる…!誘拐みたい。」
「「「はぁ?!」」」
「どうもあの退学処分を促した人は政府の人間みたい。それでスノウを罪人に仕立て上げて連れて行ってるみたいだね。…校長も何で退学処分を受け入れたか分からないけど。…通常、退学処分って重い判決を下すときはその場のノリで言うものじゃないし、他の先生とかと話をしてからするはずなのに、なんで校長はそれを受け入れたんだろう…?」
「そんなことより、その車はどっちに向かっていった!?」
「……それが…」
「「「それが?」」」
「ここで途切れてしまってるんだ。何かの干渉を受けてるみたいに。この後、市内の全カメラを見てみたけどこの黒い車はどこにも映ってなかった…。…でもひとつ気になる事があるんだ。」
「気になる事?」
「何でもいい!早くしてくれ!」
「この大きな交差点…不自然に車が居ないんだ。それに…パトカーが多い。ここで何かあったって思うのが普通なのかもね。それがスノウに係わる事なのか分からないけど…。」
リオンがそれを聞いて慌てて駆け出す。
しかしそれと同時に、二限目の教師が怠そうな顔を引き締めもせず欠伸をしながら中に入ってくる。
「おーい、授業だぞー。」
「退け!」
「おっと。」
外へ駆け出したリオンを見届け、頭をポリポリ掻いた先生は一言「元気だねー」と言って教室の中に入ってくる。
しかし、中はもぬけの殻で生徒たちは何処にもいなかった。
…ただ一人を除いて。
「先生。今、大事なところなんです。授業は後回しにしてもらえませんか。」
あのパソコンを持っていた生徒だ。
マイク付きのヘッドホンをしながら、生徒はパソコンに向かっている。
そして他の生徒は誰も居ない。
二限目の理科の先生であった教師はフッと笑うと、怠そうに教壇の椅子に腰かけて教科書を顔の上に乗せると眠りこけてしまった。
「……青春だねー。」
寝る前にそう呟いて、こっそりと手元のスマホを弄っていた。
そのスマホに映し出された文字には"社長"という文字が入っていたことは、誰も知らない。
◆───-- - - - - - - – --───◆
リオンは校門から外に出ると、急いで駆け出した。
『坊ちゃん、場所分かるんですか?!』
「あの交差点はこの街でもとくに有名な交差点だ。そこが封鎖されるという事は何かしら大きな事件が起こっていると言っていい。なら、誘拐されたスノウがそこに居る可能性は非常に高い。」
『なるほど!あの一瞬でよく気付きましたね!』
「…むしろ、あの音声を聞いても尚疑問が残る。何故、政府の人間が〝星の誓約者〟であるスノウを預かると言い出した? そして、何故退学処分を理由にしなければならなかったのか。」
『うーん、やっぱり誘拐する理由が欲しかった、とかですかね。』
「馬鹿か。それだと色んな奴らが見ていて足がつくだろうが。何故スノウが一人の所を狙わなかった?」
そんな時、リオンのスマホに着信が入る。
知らない番号であるが、もしかしたらスノウを誘拐した犯人からの要求の可能性も否めない。
慌てて電話に出たリオンだったが、その声は聞き覚えのある声だった。
『リオン君、声聞こえる?』
「何だ。今それどころじゃ──」
『今、君の携帯を逆探知してるよ。道案内するからそこを通って。今警察が厄介な所にいるんだ。』
「……お前、末恐ろしいやつだな。」
『褒め言葉として受け取っておくよ。ハッキングとかなら任せて。』
クラスで先程、盗聴音声を聞いてる時にパソコンの前にいた生徒だ。
こいつのお陰でスノウが攫われたと分かった訳だが……こいつの能力を鑑みても、恐ろしいものだ。
急ぎたい身である為に、走りながら電話を受ける。
『リオン君、そこを右に行って。じゃないと警察と鉢合わせて事情聴取だよ。』
「分かった。」
今はまだ学生は学校に居なければならない時間帯だ。
こんな辺鄙な場所に居れば、警察の事情聴取など目に見えている。
言うことを聞いて右へと移動し、そのまま走り続ける。
『100m先、左折したあと、すぐに斜め斜め左に入って。細い路地だよ。』
「あぁ。」
警察の穴を見つけては案内してくれるクラスの奴に感謝しながら、徐々にリオンは例の交差点へと近付いていた。
すると喧騒が徐々に聞こえてきて、それはどんどんと大きくなってくる。
その声は、あの音声で聞いていたあの声と全く一緒な人物の声だった。
もう警察が捕らえている事が分かり、電話越しに伝えておく。
「既に警察が捕らえたようだな。声が聞こえてくるぞ。」
『うーん、やっぱり防犯カメラが何者かに干渉されてるみたいだ。交差点には何も映っちゃいない。』
「という事は、相手も相当なやり手という訳か。」
『そんな事言われたら、僕のハッキング手技の腕がなるよ。』
途端にカタカタ…と雑音がして耳からスマホを離す。
暫くはパソコンを打ち込む音しか聞こえなさそうである。
例の交差点近くの建物の影に身を潜めたリオンは目を細めながら交差点の様子を窺う。
そこはもう既に片付けが始まっている状態だった。
例の犯人は既にパトカーに乗せられた後なのか、喧騒は無くなっており、残りの警察やパトカーも徐々にその姿を消して行くところだった。
「…もう片付けが始まってるな。」
『リオン君、今そこから動かない方がいいよ。近くに警察が巡回に出てる。恐らく犯人の取りこぼしとかを捜索してる班っぽい。』
「犯人のいる車両は?」
『ナンバーがOC-UILと書かれているパトカーだよ。……結構複数の犯人だったんだね。何台もパトカーに乗せられてるよ。』
「何人か分かるか?」
『うーんとねー…。5人、かな?』
「……大掛かりだな。スノウ一人に対して5人での犯行とは…。」
『それほど〝星の誓約者〟を危険視してるんだと思う。特に政府の人間はその傾向が強いから。』
「……そうだな。」
スノウもだが、リオンもまた政府の人間に良い感情を持ち合わせていない。
シャルティエも然りだ。
散々今まで扱き使われた分、今政府の奴らに対して、彼らの小さい反抗期なのかもしれない。
リオンがそのまま警察の様子を窺っていると、スマホから再び指示が飛び、慌ててその場から離れる。
『リオン君、そのまま後ろに向かって下がって。警察がそっちに向かってる。』
「やっぱりもう既に終わっていそうだな。スノウも無事、警察に保護されていればそれで───」
『その事なんだけど…、実はスノウを乗せた車両がひとつも見当たらないんだ。』
「……は?」
警察から避難している最中に、まさかの言葉。
思わず立ち止まりそうになった足を叱咤し、警察から逃れるように走り出す。
言葉の続きを聞き逃すまい、と走りながらスマホの音を拾うが、まだ捜索中なのか向こうからの音声はない。
『…………うん。やっぱりどのパトカーにもスノウが乗っている形跡はないよ。それにスノウのスマホにも誰かから干渉されてる様に妨害されてる。…えっとつまり、スノウのスマホは逆探知出来ないってこと。』
「……まさか、まだ誘拐されてるのか?」
『正直、可能性はあると思う。スマホの電源が落ちてる可能性も無くはないけど…それだったらすぐに分かるはず。』
「どうにかして調べられないか?」
『やってみてるよ。分かったら教えるけど…取り敢えず学校に戻ってきて。そこにはもう犯人も居ないから。』
「分かった。」
警察の目を掻い潜り、リオンは学校へと帰還する。
教室に戻った時には眠りこけている理科の教師とパソコンに向かう例の生徒だけだった。
……もう4限目になってもおかしくはないはずだが?
「……なんで、この教師はここで眠りこけている。」
「なんかよく分からないけど、皆が帰ってくるまで理科の授業が始められないから、他の教科すっ飛ばしてずっと待ってるって訳。」
「……変なやつだな、この教師。」
「ぐがー」
大いびきをかいて寝ている理科教師を呆れて見遣ったリオンだったが、すぐにパソコンの生徒の近くに寄り、現状を聞き出す。
「どんな状況だ。」
「結構難航してる。思ったよりも敵が強くて。」
「敵が強い、か…。なら、やはり政府が情報を操作しているのか…?」
「うーん、政府にそんなこと出来る奴なんているのかな?政府の情報なんてガバガバだけど?」
「…。」
『それは困りましたね…。変な情報掴まれてないと良いですけど…。あとスノウの居場所も分からないんじゃ、どうしようもないですよ…。』
「…うーん、なーんか、学校内から誰かに干渉されてるっぽいけどな…?」
「学校の中に犯人に加担している誰かが居るって事か?」
「うん。こんな近距離で干渉されてなかったら、他の回線使ってすぐに情報をあらゆるところから引き出すんだけど…。あ、えっとつまりね。自分の能力を鑑みても、近距離で干渉されてるとしか考えられないって事。」
「あぁ、理解している。この短時間で嫌というほどお前のすごさを見せつけられたからな。」
「…! へへっ。リオン君にそう言われたらすっごい嬉しいな。今まで話しかけてもあんまり話してくれなかったから、ちょっと嬉しいんだ。」
いつもスノウの隣に居ては、スノウに話を任せていた人物だ。
会話が続くはずもない。
だからこういう機会でもないと話せない事が残念だが、こうやって話すことが出来て、この男子生徒は純粋に嬉しいと思ってくれていたのだ。
それにシャルティエが感動したようにコアクリスタルをピカピカさせる。
「……スノウにはいつもいつも助けられてるから、今度は自分が助けたいんだ。」
パソコンが趣味で、いつも陰キャで根暗だった自分にスノウは「すごいね」と言って、接してくれた。
それからだった。
自分の周りに友達が出来てきたのは。
根暗な自分に構わず、周りのクラスの人はたくさん話しかけてくれる。
陰キャな自分には時々それが息苦しいと思う事もあるけど、昔の自分を思い出せば今は格段に楽しい。
それもこれも、スノウが話しかけてくれて、そして「すごいね」と言ってくれたあの一言があったからだ。
それを思えば、助けたいと思うのは当然の事だった。
必死になって探してみるが、何処を探しても見つからない。
彼の為にも、早く探してあげたいが…。
『(スノウはすごいな…。こうやって誰かを助けてる。それが今に繋がるんだね。坊ちゃんも、スノウが居なかったらどうなってたことか…。)』
「…やはり、駄目そうか。」
「……うん、もう少し頑張ってみるけど…。気を落とさないで、リオン君。絶対にスノウは無事だから。」
結局その日他の生徒も帰ってこらず、終ぞ授業が始まることは無かった。
時折、起きてはスマホを弄る理科教師を二人が見ることは無かった。
その眼光は優しげでもあったが、同時に野性味溢れる眼光をしていたのも、二人は知らなかった。
「(こんな身近にハッキング出来る奴がいたなんてな…? 将来性のある子供はこれだから怖いねー。…おっと、もう少し妨害しておくか。)」
そして、教科書の下でニヤリと笑うのだ。
子供に勝負を仕掛けられている気分になって、理科教師は胸を躍らせながら自身のスマホをこっそりと弄るのだった。