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02.仲が良い理由
黒の高級車が学校前に停まり、これまた豪華絢爛な家には一人居そうな礼儀正しい執事が車の扉を開ける。
そこから出てきたのは、黒髪黒目をした少年である。
学校前のアスファルトへと足を着けた瞬間、湧き上がる黄色い悲鳴。
そして少年はその黄色い悲鳴を受け取る事もなく、喜ぶこともなく完全に無視し、前を見据えると、目当ての人物をものの数秒で探し当てる。
歩き出した足は徐々に加速し、小走りになったかと思えば先程見つけた目当ての人物の横へと並んだ。
「ん、おはよう?レディ。今日も麗しいね?」
「だから、いつもいつも言ってるだろう。僕はレディじゃないと何度―――」
いつもの挨拶もそんな調子で返せば、二人には笑顔が零れる。
これが二人にとって、いつもの恒例行事だからだ。
「昨日は遅刻したのに、今日は遅刻しなかったんだな?」
「昨日はちょっと色々あってね…?」
難しい顔になったスノウを見て、リオンもその腰にあるシャルティエも不思議そうな顔をする。
昨日は制服ではなく、体操着で登校していた事やら、いつもは遅刻しないのに珍しく遅刻していた事を踏まえれば何かしらあったのだろうが、スノウが口を割りそうにない。
心配事を後回しにしておくタイプでもないリオンが追撃をかける。
「……何があった?」
「まぁ、色々だよ。色々。」
最後を強調させるような言い方に、余計に気になってしまったリオンはムッと顔を顰めさせた。
クラスに着き、二人で中に入れば辺りから「おはよー」と挨拶が来るので、スノウがすかさず笑顔で挨拶を返す。
そんな事をしているから聞くに聞き出せず、リオンはヤキモキしながらスノウを見つめ続けた。
「……で?何で遅刻したんだ?」
「ふふ…。君も心配性だね?」
「当たり前だろう?僕達は二人で一つ、なんだからな。」
「…! ……うん。」
嬉しそうにはにかみながら、返事を返すスノウ。
するとようやく彼女の口からゆっくりと、昨日の遅刻理由を聞かされた。
「実はね?空から女の子が降ってきてね…。それを助けてたんだ。」
「……。」
『え、えっと…?』
「……お前、もっとまともな嘘つけなかったのか。」
「ほらね?そういう反応すると思ったから言わなかったんだよ?」
苦笑いをした彼女は自身の机の上にカバンを置くとリオンを振り返り、後ろ手に机に触れる。
「嘘じゃなくて、本当のことさ。」
『幾ら〈シャドウクリスタル〉で色々おかしな事があるからと言って……女の子が降ってくるなんて…』
「まぁ、嘘をついている様子は…なさそうだしな。」
チラッとリオンはスノウの指を見た。
しかし片手は机に手を置いているし、もう片方はぶらりとそのまま下ろしている状態。
左手の薬指にある〝星の誓約者〟が着ける指輪に触れていない事が、彼女が嘘をついていない何よりの証拠だった。
どうにも、彼女は嘘を吐くとあの指輪に触れる事が多い。
この事は彼女自身は知らないらしく、無意識に触れているようなので知らないのも無理はないが…。
「まぁ、それだから昨日は遅刻したのさ。」
「制服じゃなかった理由は?」
「女の子を助けた後、上から水も降ってきたんだよ。女の子にかからないよう、被さるようにしたんだけど……物の見事にびしょ濡れになってしまってね?一旦自宅に帰って着替えたんだよ。」
『な、なんと言うか…大変でしたね…?』
「お前が無事で何よりだ。」
キーンコーンカーンコーン…
始令のチャイムが校内スピーカーから流れてくる。
それと同時に教師が入ってきて、出席確認を始めていった。
「────よし!全員いるな!今日のホームルームはちょっと長いぞー!」
「「「えぇぇ!!!?」」」
「文句を言うなー?俺だって早く終わらせたいんだからなー?」
人気のある教師がクラス担任ということもあり、クラス内の雰囲気は非常に明るい。
席に着いた二人もまた、いつもと変わりないホームルームの様子に一人は苦笑いをして見遣り、もう一人は腕を組んで教師を見ていた。
「…なんだろうね?」
「ふん、どうせ下さらない事だろう? あの教師は少しの事でも大袈裟に言う癖があるからな。」
リオンの後ろの席に座っているスノウが口横に手を添えて小声で前の席のリオンに話しかける。
後ろは向かず、そのままの体勢で答えたリオンは呆れた声でそれを返した。
その返答に「ふふ。」と笑ったスノウも座り直し、前を見つめる。
「今朝のテレビを見た人ならもう知ってると思うが、ここ最近物騒な事件や事故が多いからな。一応、各クラスの担任が注意喚起をしろ、と上からのお達しが出ている。もう分かったな?お前ら。くれぐれも外で遊ぶときは大人と一緒にだな―――」
その瞬間、クラス内からはブーイングの嵐が巻き起こる。
彼らはもう16歳で、仮にも高校一年生である。
そんな多感期な彼らに大人と一緒に過ごすというのはキツイ以外の何物でもない。
大人からすれば心配で口煩く言っているだけだが、この頃の子供というのはそんな大人の事情も聞けないような難しい時期なのだ。
しかし、それを分かっていた様子で担任が頭を掻き出し、盛大に大きなため息を吐いた。
流石はクラス担任である。
そして彼が生徒から人気な理由はここから来ているのだろうことが誰から見ても分かるだろう。
要は、引き際が大切なのだ。
押して駄目なら引いてみる、というのを弁えている大人が、大体は生徒にも大人気なようだ。
「分かった分かった。もう言わねえから、十分注意しろよー?それから何かあったら警察にな。」
「「「はーい。」」」
「じゃあ、一限目に遅れるなよー、お前らー?」
そう言って、名簿を持ち上げ軽々と去って行った担任を見送り、各々一限目である国語に向けて準備が進められる。
二人もそんな生徒らしい事をしていればクラス内の誰かが重大なことを口走る。
「そういえばさー。今日の一限目の国語って、視聴覚室じゃなかったっけ?」
「「「は?」」」
「……聞いてないぞ。」
「私も耳にしてないね?」
二人も記憶を遡っては見るが、一向に思い出せない記憶である。
しかしその生徒は思い出したように、うんうんと頷いていた。
「うん、やっぱり視聴覚室だよ。だって、隣のクラスの人たちも言ってたもん。」
「隣は数学だろ?」
「ううん。確か変わったんだって。一緒になって国語を受けることになってたはずだよー?」
「「「……。」」」
全員が顔を青ざめさせる。
国語の担当教師といえば、学校内でも一、二を争うくらい凶悪な先生だったはずだ。
遅刻しようものなら、どんな罰が来るか…。
全員がそれを想像し、身震いした所で慌てて教室の出入り口に生徒が殺到する。
それを見越していた二人は全員が出払った頃にようやく動き出す。
「私は国語の先生、嫌いじゃないけどね?」
「口煩いから生徒からは不人気なんだろうな。…まぁ、真面目過ぎるというのも問題だ、というのを体現している教師ではあるがな。」
二人で仲良く視聴覚室へと向かえば、視聴覚室には緊張した面持ちで座っているクラスの皆と、隣のクラスの人たちだった。
…そういえば、二葉達も隣のクラスだったような…?
「まぁ!相変わらず二人お揃いで。」
視聴覚室に入ろうとした二人へ背後から声を掛けてくる者がいた。
声や口調からして二葉なんだが…。
「そういう君達も、今日も仲良しだね?」
「す、すみません。今日も二葉がお騒がせしていて…。」
「ちょっと!それって私が悪いみたいじゃない!どういう事よ!和也!」
憤慨する二葉は口をへの字にさせては和也に言い寄っている。
それを両手であわあわとさせながら、和也はどうしようかと困った様子でいるので、傍から見れば二人は相性が悪い様に見える。
しかし、二人は何と言ったってお互いに〝誓約〟しあった〝星の誓約者〟である。
ということは、仲が悪い筈がないのだ。
「そういえば、結局二人のヒーロー名は決まったのかい?」
「まだよ。ちゃんと考えに考え抜いて…そうしてようやく名前を付けるのよ…! 変な名前じゃあ、示しがつかないじゃない!」
スノウの言うヒーロー名とは、一般人が呼ぶ二人の相称みたいなものだ。
今やスマホやテレビが普及している時代。
それもあって、"ヒーロー名一覧"なんてサイトも出来上がり、〝星の誓約者〟ではない一般人がそれを見て盛り上がりを見せるほどだ。
マスコミだって、そのヒーロー名を使ってテレビ放送することから、〝星の誓約者〟にとっては大事な、大~事な恒例行事でもあるのだ。
今は二人にヒーロー名などはなく、和也&二葉なんてマスコミで呼ばれているから、それを二葉が気に喰わないと日夜考えているらしい。
…早くしないと手遅れになるような気がするが。
「こうなったら国語の先生に考えてもらいましょ!国語の先生なら、語彙力が豊富に違いないわ!……ということで、先生!!」
後ろから近付いてきていた国語の教師が眉間に皺を寄せながら二葉を見遣る。
怪訝な顔だが一応聞く態勢になった教師へ、二葉が問いかける。
「私たちに合うようなヒーロー名考えてくださらないかしら?」
「何故私が…。」
「国語の先生ならば、語彙力も兼ね備えていらっしゃいますわよね?こんなにも悩んでいる生徒を見放すんですの?」
「…。」
真面目な先生が二葉の言葉を聞いて、相談に乗らないはずがない。
ここは二葉が上手く丸め込めた、というのを誰もが確信してしまった。
「二葉というのは若い新芽。そして和也の名前に入っている和の文字は協調性を表し、同時に感情の意味合いでも使われるもの。ということで、二人の相称は"新たな若葉の芽生え"だ。」
「……すご。」
「長いな。」
「うーん、もう少しなんとかなりません?」
「え、僕はいいと思うけど…。ほら、僕達って〝星の誓約者〟の中でも新参者だし…。それに…二葉の"葉"の文字が入ってて僕は好きだな…?」
「え、」
すると二葉が照れたように顔を赤く染め、口元を隠す。
しかし次の瞬間、二葉は限界に達したのか和也の背中を叩くとズンズンと視聴覚室へと入って行ってしまった。
それを見た教師がやれやれと首を振り、三人にも座るように促した。
「ふふ。これで新しいヒーロー名、決定だね?」
「ふん。あいつららしい良い名前なんじゃないか?」
教師がスクリーンの準備をしている最中、そんな二人の会話が繰り広げられていたのだった。
* … * … * … * …* … * … * … * …* … * … * … * … * … * … * … * … *
___一限目国語、終了
ガヤガヤと漏れる視聴覚室から、徐々に生徒が遠のいていく。
次の科目の準備を急ぐ者もいれば、悠長に会話に勤しむ生徒たちもいる。
だがしかし、今だけは後者の方が多そうだった。
「ヒーロー"新たな若葉の芽生え"……かぁ。」
「長い名前だけど、他にも長ったらしい奴もいるしなぁ?」
そう、先程決まったばかりのヒーロー名について、生徒たちの話題の中心となってしまっていたからだ。
スマホや携帯を見ては何かを打ち込んでいるのを見る限り、もうこの名前で決定しそうな勢いである。
「良かったのかい?あんなに簡単に決めてしまって。」
「いいのよ。…和也が珍しく自分の意見を言ってくれたから。」
「ふふ…。君も、恋する乙女だね?」
「う、うるさいわね!!」
元々同じ〝星の誓約者〟ということもあり、二葉の前でも素の自分を出しているスノウ。
そんな二葉に、スノウはちゃんと最終確認をしていた。
ヒーロー名は人によっては大事なものだと、スノウは知っているからだ。
……というのも、知り合いの〝星の誓約者〟に可哀想な名前を付けられた人物を知っているというのが一番、要因として大きい。
「"新たな若葉の芽生え"…。」
「私は、君達らしいと思うけどね?」
「勿論よ! この名前を全国に……いえ!世界中に轟かせるわ!」
「そうしたら、後々、"新たな"というのはいらないんじゃない?」
「その時はその時よ。メディアの力をもってすればどうせ改変したってついてくるわよ。」
「それもそうか。」
確かにマスコミやらメディアというのは、どこから嗅ぎ付けたのか、次々と情報を手に入れてくる。
それこそ政府の極秘重要案件だって、たまにテレビで流れてくるくらいなのだ。
事実、侮れない…。
「あなたたちこそ、早くユニット名を考えたらどうですの?」
「痛いところを突かれたね。」
「何故…、あなたたちほどの実力の人が名前を持たないのか甚だ疑問でしたけど……。……もしかして、仲が悪いんですの?」
最後は小声で耳に寄せてそっと二葉が疑問を囁く。
その疑問に心外だ、とスノウは苦笑する。
「仲が悪いように見えるかい?」
「いえ、全く。 寧ろ…見ていてリオンさんが可哀想だとは思いますけど…。」
「え?」
「あんなにも女性に心を砕いてくださる殿方というのは、世の中珍しいんですのよ?あなたのその性格を知っても尚、彼は寛大に見てくださってるんですから、もう少し彼に応えてあげたらどうです?」
「一応、彼の言葉には耳を傾けているけどね。まだ足りないという事か。」
「………そういうことじゃありませんわ…。」
リオンがスノウに対して、愛情を持って接しているというのは周知の事実。
そして、スノウが恋愛に関して天然の域に達しているというのも最早周知の事実であった。
だからこそ、二葉はヤキモキしていた。
彼女が二人に対して突っかかってしまうのは、そういう理由もあるのかもしれない。
「…この際だから、お二人の仲が良い理由を聞いても?」
「ふふ。聞いても面白くないよ?」
「それでもですわ。…だって、あなた方二人は―――」
―――思い出すのは、子供の頃だ。
二葉が記憶している限り、小学生の頃だっただろうか?
そんな頃、世界中やマスコミ…所謂テレビ界に衝撃が起きていた。
"小さな子供二人が、〝星の誓約者〟として覚醒した"―――と。
勿論、子供でも〝星の誓約者〟として覚醒するのは何もおかしくない。
しかし、あまりにも早すぎる覚醒は人々を驚かせた。
その時の最年少組といえば、まだ18や19そこらの〝星の誓約者〟のペアだったのだから。
それに対して、彼らはまだ小学生になりたてか、それよりも前ぐらい幼い容姿だったのだ。
その時に世界中を席捲したのが、今目の前に居る二人……リオン・マグナスとスノウ・エルピスだ。
所謂有名人でもあり、その時は二葉も二人が映って大活躍するテレビ映像を子供ながらに夢中になり、日夜テレビに釘付けになったものだ。
だからこそ、二葉や和也の憧れでもあった二人であった。
それがまさか同い年で、同じ学校に居るとは思っても見なかったが…。
その話題二人の活躍は、遂には世界中に広がる。
あの〈シャドウクリスタル〉相手にものともしないような二人の振る舞いや、戦闘シーン。
見るものを虜にしてしまうような流れる剣技や支援術の応酬。
そしてお互いを信頼し合う二人の動きや視線、言葉の数々。
子供とは到底思えない動きで次々と〈シャドウ〉を倒して、そして最後にはかっこよく〈シャドウクリスタル〉を壊してしまうのだ。
…正直、人気にならない方がおかしかった。
こんな小さな子供がかっこよく敵を退治していく様は民間の間に勇気を与え、そして活気づくものだ。
一時期なんてマスコミが二人を追いかけ、戦闘特集を組む様な番組もあったが、突如としてマスコミから消えた二人。
しかし考えればすぐに分かる話だ。
一人は、あのレンズで世界を相手にする大企業であるオベロン社の社長子息様。
そんな社長子息様が日夜マスコミで追いかけられるのは、大企業だとしても許しがたい何かがあったのだろう。
メディアから消えた二人の消息を一時期数社のマスコミが追いかけていたが、とうとう見つからず。
こうして都市部ではあるが、都心部よりも穏やかなこの地で二人を見かけることになってしまった。
つまり、二葉にとって二人は憧れの対象であり、お近づきになりたかった人たちなのだ。
話すだけでも嬉しいのに、自分の性格を考えれば仲良くなるなんて無理な話だと……当時はそう思っていた。
それが、自分たちも〝星の誓約者〟となり二人と一緒に共闘する身になってからは二人ととても身近になった。
そのお陰で二人と話す機会も増え、スノウからも公認の友人となった今、……やはり性格が邪魔してしまっているが、それを意に介さないスノウの性格もあって友人を続けられている。
それが、二葉にとってどんなに嬉しく、喜ばしい事だろう。
「いえ、是非聞きたいですわ。」
「私達が仲が良い理由、か…。考えたこともなかったけど、やっぱりあれかな。」
「あれ…とは?」
「私は昔、彼に命を救われたことがあるんだ。」
「え、」
意外な返答だった。
だからこそ、二葉の目は点になり、スノウを見つめる瞳は大きく見開かれている。
「阿呆。それよりももっと昔から仲が良かっただろうが。」
「それもそうか。なら、あれかな?幼稚園で会った時かも。」
「幼稚園で会って…それから?」
「その時、私を男の子と間違えたリオンと会ったのがファーストコンタクトだったかな?」
「今も昔も変わらないが、こいつの服装は誰がどう見ても男の格好だったが?」
「あの時、私もリオンを女の子だと間違えたのが最初だったよ。それからどういう訳か、いつの間にか仲良くなったんだ。」
「…あぁ。だからリオンさんを"レディ"なんて言うんですのね。殿方にそれは失礼ですわよ?」
「ははっ。治らないんだよ、それ。」
「"治す気がない"、の間違いだろう?」
「ご名答。」
二人は顔を見合わせると、おかしそうに二人して笑う。
それを見て、二葉も困ったように笑う。
ここまで仲が良さそうなのに、本当、何故ヒーロー名を決めてしまわないのか。
勿論、マスコミを避けているのは分かっているが、それにしても何かしらつけても良さそうなものなのに。
「お二人は、本当、昔からの仲良しさんですのね。」
「うん!そうだね。」
良い返事をしたスノウに、リオンが顔を赤らめて俯く。
それをスノウは見ていないので、意味が無いのだが…。
やれやれと和也と二葉は溜息を吐いた。
「逆に二人は?」
「私たちも同じ理由ですわよ?私達も幼稚園からで、所謂幼馴染ってやつですわね。」
「そうなんだ?」
「和也は今と変わらない性格をしてたので周りの子たちからのいじめが酷かったんですのよ。それを私が守る形でいたのが最初ですわね。小学も中学もずっと彼だけを守っていましたわね…。」
「へぇ? だから、二葉嬢は〈シャドウ〉との戦闘でも強いんだね。」
「それがあるから今がある、というのも使い古された言葉ですが…、そういうもんですわ。」
「とても素敵だね?」
「ええ。ありがとうございます。」
「(二葉嬢は興奮したり、戦闘の時じゃなかったらこんなにも穏やかで素敵なのにね?でも、それが二葉嬢の良いところでもあるのかな?)」
戦闘の時になると人が変わる二葉。
それはまるで、二重人格かのような変貌ぶりである。
それを〝星の誓約者〟で対となる和也も知っている。
そしてスノウやリオンも最初の方では驚いていたが、かなり慣れてしまっていた。
「…と、言うより。早く行かないと次の授業に遅刻するぞ。」
「え?!ま、まずいですわ!行くわよ、和也!」
「う、うん!」
「いい?! さっきのは誰にも言わないでよ?!」
「ふふ。誰にも言わないよ?」
そう言って豪快に去って行った二人を見送り、反対の方へと歩き出すスノウ達。
その二人の口元は弧を描いていた。
しかし次の瞬間、リオンがスノウへと説教を始めていた。
「…あの事は、政府から秘密だと言われているだろう?」
「ふふ。ごめんって。つい、思い出したら口に出してしまったよ。」
「今後気を付けろ。…どこから情報が洩れるか分からん。」
「うん、そうだね。私の命の為にも、気を付けないとね…。」
そう言って、スノウはそっと憂う様に指輪に触れたのだった。
黒の高級車が学校前に停まり、これまた豪華絢爛な家には一人居そうな礼儀正しい執事が車の扉を開ける。
そこから出てきたのは、黒髪黒目をした少年である。
学校前のアスファルトへと足を着けた瞬間、湧き上がる黄色い悲鳴。
そして少年はその黄色い悲鳴を受け取る事もなく、喜ぶこともなく完全に無視し、前を見据えると、目当ての人物をものの数秒で探し当てる。
歩き出した足は徐々に加速し、小走りになったかと思えば先程見つけた目当ての人物の横へと並んだ。
「ん、おはよう?レディ。今日も麗しいね?」
「だから、いつもいつも言ってるだろう。僕はレディじゃないと何度―――」
いつもの挨拶もそんな調子で返せば、二人には笑顔が零れる。
これが二人にとって、いつもの恒例行事だからだ。
「昨日は遅刻したのに、今日は遅刻しなかったんだな?」
「昨日はちょっと色々あってね…?」
難しい顔になったスノウを見て、リオンもその腰にあるシャルティエも不思議そうな顔をする。
昨日は制服ではなく、体操着で登校していた事やら、いつもは遅刻しないのに珍しく遅刻していた事を踏まえれば何かしらあったのだろうが、スノウが口を割りそうにない。
心配事を後回しにしておくタイプでもないリオンが追撃をかける。
「……何があった?」
「まぁ、色々だよ。色々。」
最後を強調させるような言い方に、余計に気になってしまったリオンはムッと顔を顰めさせた。
クラスに着き、二人で中に入れば辺りから「おはよー」と挨拶が来るので、スノウがすかさず笑顔で挨拶を返す。
そんな事をしているから聞くに聞き出せず、リオンはヤキモキしながらスノウを見つめ続けた。
「……で?何で遅刻したんだ?」
「ふふ…。君も心配性だね?」
「当たり前だろう?僕達は二人で一つ、なんだからな。」
「…! ……うん。」
嬉しそうにはにかみながら、返事を返すスノウ。
するとようやく彼女の口からゆっくりと、昨日の遅刻理由を聞かされた。
「実はね?空から女の子が降ってきてね…。それを助けてたんだ。」
「……。」
『え、えっと…?』
「……お前、もっとまともな嘘つけなかったのか。」
「ほらね?そういう反応すると思ったから言わなかったんだよ?」
苦笑いをした彼女は自身の机の上にカバンを置くとリオンを振り返り、後ろ手に机に触れる。
「嘘じゃなくて、本当のことさ。」
『幾ら〈シャドウクリスタル〉で色々おかしな事があるからと言って……女の子が降ってくるなんて…』
「まぁ、嘘をついている様子は…なさそうだしな。」
チラッとリオンはスノウの指を見た。
しかし片手は机に手を置いているし、もう片方はぶらりとそのまま下ろしている状態。
左手の薬指にある〝星の誓約者〟が着ける指輪に触れていない事が、彼女が嘘をついていない何よりの証拠だった。
どうにも、彼女は嘘を吐くとあの指輪に触れる事が多い。
この事は彼女自身は知らないらしく、無意識に触れているようなので知らないのも無理はないが…。
「まぁ、それだから昨日は遅刻したのさ。」
「制服じゃなかった理由は?」
「女の子を助けた後、上から水も降ってきたんだよ。女の子にかからないよう、被さるようにしたんだけど……物の見事にびしょ濡れになってしまってね?一旦自宅に帰って着替えたんだよ。」
『な、なんと言うか…大変でしたね…?』
「お前が無事で何よりだ。」
キーンコーンカーンコーン…
始令のチャイムが校内スピーカーから流れてくる。
それと同時に教師が入ってきて、出席確認を始めていった。
「────よし!全員いるな!今日のホームルームはちょっと長いぞー!」
「「「えぇぇ!!!?」」」
「文句を言うなー?俺だって早く終わらせたいんだからなー?」
人気のある教師がクラス担任ということもあり、クラス内の雰囲気は非常に明るい。
席に着いた二人もまた、いつもと変わりないホームルームの様子に一人は苦笑いをして見遣り、もう一人は腕を組んで教師を見ていた。
「…なんだろうね?」
「ふん、どうせ下さらない事だろう? あの教師は少しの事でも大袈裟に言う癖があるからな。」
リオンの後ろの席に座っているスノウが口横に手を添えて小声で前の席のリオンに話しかける。
後ろは向かず、そのままの体勢で答えたリオンは呆れた声でそれを返した。
その返答に「ふふ。」と笑ったスノウも座り直し、前を見つめる。
「今朝のテレビを見た人ならもう知ってると思うが、ここ最近物騒な事件や事故が多いからな。一応、各クラスの担任が注意喚起をしろ、と上からのお達しが出ている。もう分かったな?お前ら。くれぐれも外で遊ぶときは大人と一緒にだな―――」
その瞬間、クラス内からはブーイングの嵐が巻き起こる。
彼らはもう16歳で、仮にも高校一年生である。
そんな多感期な彼らに大人と一緒に過ごすというのはキツイ以外の何物でもない。
大人からすれば心配で口煩く言っているだけだが、この頃の子供というのはそんな大人の事情も聞けないような難しい時期なのだ。
しかし、それを分かっていた様子で担任が頭を掻き出し、盛大に大きなため息を吐いた。
流石はクラス担任である。
そして彼が生徒から人気な理由はここから来ているのだろうことが誰から見ても分かるだろう。
要は、引き際が大切なのだ。
押して駄目なら引いてみる、というのを弁えている大人が、大体は生徒にも大人気なようだ。
「分かった分かった。もう言わねえから、十分注意しろよー?それから何かあったら警察にな。」
「「「はーい。」」」
「じゃあ、一限目に遅れるなよー、お前らー?」
そう言って、名簿を持ち上げ軽々と去って行った担任を見送り、各々一限目である国語に向けて準備が進められる。
二人もそんな生徒らしい事をしていればクラス内の誰かが重大なことを口走る。
「そういえばさー。今日の一限目の国語って、視聴覚室じゃなかったっけ?」
「「「は?」」」
「……聞いてないぞ。」
「私も耳にしてないね?」
二人も記憶を遡っては見るが、一向に思い出せない記憶である。
しかしその生徒は思い出したように、うんうんと頷いていた。
「うん、やっぱり視聴覚室だよ。だって、隣のクラスの人たちも言ってたもん。」
「隣は数学だろ?」
「ううん。確か変わったんだって。一緒になって国語を受けることになってたはずだよー?」
「「「……。」」」
全員が顔を青ざめさせる。
国語の担当教師といえば、学校内でも一、二を争うくらい凶悪な先生だったはずだ。
遅刻しようものなら、どんな罰が来るか…。
全員がそれを想像し、身震いした所で慌てて教室の出入り口に生徒が殺到する。
それを見越していた二人は全員が出払った頃にようやく動き出す。
「私は国語の先生、嫌いじゃないけどね?」
「口煩いから生徒からは不人気なんだろうな。…まぁ、真面目過ぎるというのも問題だ、というのを体現している教師ではあるがな。」
二人で仲良く視聴覚室へと向かえば、視聴覚室には緊張した面持ちで座っているクラスの皆と、隣のクラスの人たちだった。
…そういえば、二葉達も隣のクラスだったような…?
「まぁ!相変わらず二人お揃いで。」
視聴覚室に入ろうとした二人へ背後から声を掛けてくる者がいた。
声や口調からして二葉なんだが…。
「そういう君達も、今日も仲良しだね?」
「す、すみません。今日も二葉がお騒がせしていて…。」
「ちょっと!それって私が悪いみたいじゃない!どういう事よ!和也!」
憤慨する二葉は口をへの字にさせては和也に言い寄っている。
それを両手であわあわとさせながら、和也はどうしようかと困った様子でいるので、傍から見れば二人は相性が悪い様に見える。
しかし、二人は何と言ったってお互いに〝誓約〟しあった〝星の誓約者〟である。
ということは、仲が悪い筈がないのだ。
「そういえば、結局二人のヒーロー名は決まったのかい?」
「まだよ。ちゃんと考えに考え抜いて…そうしてようやく名前を付けるのよ…! 変な名前じゃあ、示しがつかないじゃない!」
スノウの言うヒーロー名とは、一般人が呼ぶ二人の相称みたいなものだ。
今やスマホやテレビが普及している時代。
それもあって、"ヒーロー名一覧"なんてサイトも出来上がり、〝星の誓約者〟ではない一般人がそれを見て盛り上がりを見せるほどだ。
マスコミだって、そのヒーロー名を使ってテレビ放送することから、〝星の誓約者〟にとっては大事な、大~事な恒例行事でもあるのだ。
今は二人にヒーロー名などはなく、和也&二葉なんてマスコミで呼ばれているから、それを二葉が気に喰わないと日夜考えているらしい。
…早くしないと手遅れになるような気がするが。
「こうなったら国語の先生に考えてもらいましょ!国語の先生なら、語彙力が豊富に違いないわ!……ということで、先生!!」
後ろから近付いてきていた国語の教師が眉間に皺を寄せながら二葉を見遣る。
怪訝な顔だが一応聞く態勢になった教師へ、二葉が問いかける。
「私たちに合うようなヒーロー名考えてくださらないかしら?」
「何故私が…。」
「国語の先生ならば、語彙力も兼ね備えていらっしゃいますわよね?こんなにも悩んでいる生徒を見放すんですの?」
「…。」
真面目な先生が二葉の言葉を聞いて、相談に乗らないはずがない。
ここは二葉が上手く丸め込めた、というのを誰もが確信してしまった。
「二葉というのは若い新芽。そして和也の名前に入っている和の文字は協調性を表し、同時に感情の意味合いでも使われるもの。ということで、二人の相称は"新たな若葉の芽生え"だ。」
「……すご。」
「長いな。」
「うーん、もう少しなんとかなりません?」
「え、僕はいいと思うけど…。ほら、僕達って〝星の誓約者〟の中でも新参者だし…。それに…二葉の"葉"の文字が入ってて僕は好きだな…?」
「え、」
すると二葉が照れたように顔を赤く染め、口元を隠す。
しかし次の瞬間、二葉は限界に達したのか和也の背中を叩くとズンズンと視聴覚室へと入って行ってしまった。
それを見た教師がやれやれと首を振り、三人にも座るように促した。
「ふふ。これで新しいヒーロー名、決定だね?」
「ふん。あいつららしい良い名前なんじゃないか?」
教師がスクリーンの準備をしている最中、そんな二人の会話が繰り広げられていたのだった。
* … * … * … * …* … * … * … * …* … * … * … * … * … * … * … * … *
___一限目国語、終了
ガヤガヤと漏れる視聴覚室から、徐々に生徒が遠のいていく。
次の科目の準備を急ぐ者もいれば、悠長に会話に勤しむ生徒たちもいる。
だがしかし、今だけは後者の方が多そうだった。
「ヒーロー"新たな若葉の芽生え"……かぁ。」
「長い名前だけど、他にも長ったらしい奴もいるしなぁ?」
そう、先程決まったばかりのヒーロー名について、生徒たちの話題の中心となってしまっていたからだ。
スマホや携帯を見ては何かを打ち込んでいるのを見る限り、もうこの名前で決定しそうな勢いである。
「良かったのかい?あんなに簡単に決めてしまって。」
「いいのよ。…和也が珍しく自分の意見を言ってくれたから。」
「ふふ…。君も、恋する乙女だね?」
「う、うるさいわね!!」
元々同じ〝星の誓約者〟ということもあり、二葉の前でも素の自分を出しているスノウ。
そんな二葉に、スノウはちゃんと最終確認をしていた。
ヒーロー名は人によっては大事なものだと、スノウは知っているからだ。
……というのも、知り合いの〝星の誓約者〟に可哀想な名前を付けられた人物を知っているというのが一番、要因として大きい。
「"新たな若葉の芽生え"…。」
「私は、君達らしいと思うけどね?」
「勿論よ! この名前を全国に……いえ!世界中に轟かせるわ!」
「そうしたら、後々、"新たな"というのはいらないんじゃない?」
「その時はその時よ。メディアの力をもってすればどうせ改変したってついてくるわよ。」
「それもそうか。」
確かにマスコミやらメディアというのは、どこから嗅ぎ付けたのか、次々と情報を手に入れてくる。
それこそ政府の極秘重要案件だって、たまにテレビで流れてくるくらいなのだ。
事実、侮れない…。
「あなたたちこそ、早くユニット名を考えたらどうですの?」
「痛いところを突かれたね。」
「何故…、あなたたちほどの実力の人が名前を持たないのか甚だ疑問でしたけど……。……もしかして、仲が悪いんですの?」
最後は小声で耳に寄せてそっと二葉が疑問を囁く。
その疑問に心外だ、とスノウは苦笑する。
「仲が悪いように見えるかい?」
「いえ、全く。 寧ろ…見ていてリオンさんが可哀想だとは思いますけど…。」
「え?」
「あんなにも女性に心を砕いてくださる殿方というのは、世の中珍しいんですのよ?あなたのその性格を知っても尚、彼は寛大に見てくださってるんですから、もう少し彼に応えてあげたらどうです?」
「一応、彼の言葉には耳を傾けているけどね。まだ足りないという事か。」
「………そういうことじゃありませんわ…。」
リオンがスノウに対して、愛情を持って接しているというのは周知の事実。
そして、スノウが恋愛に関して天然の域に達しているというのも最早周知の事実であった。
だからこそ、二葉はヤキモキしていた。
彼女が二人に対して突っかかってしまうのは、そういう理由もあるのかもしれない。
「…この際だから、お二人の仲が良い理由を聞いても?」
「ふふ。聞いても面白くないよ?」
「それでもですわ。…だって、あなた方二人は―――」
―――思い出すのは、子供の頃だ。
二葉が記憶している限り、小学生の頃だっただろうか?
そんな頃、世界中やマスコミ…所謂テレビ界に衝撃が起きていた。
"小さな子供二人が、〝星の誓約者〟として覚醒した"―――と。
勿論、子供でも〝星の誓約者〟として覚醒するのは何もおかしくない。
しかし、あまりにも早すぎる覚醒は人々を驚かせた。
その時の最年少組といえば、まだ18や19そこらの〝星の誓約者〟のペアだったのだから。
それに対して、彼らはまだ小学生になりたてか、それよりも前ぐらい幼い容姿だったのだ。
その時に世界中を席捲したのが、今目の前に居る二人……リオン・マグナスとスノウ・エルピスだ。
所謂有名人でもあり、その時は二葉も二人が映って大活躍するテレビ映像を子供ながらに夢中になり、日夜テレビに釘付けになったものだ。
だからこそ、二葉や和也の憧れでもあった二人であった。
それがまさか同い年で、同じ学校に居るとは思っても見なかったが…。
その話題二人の活躍は、遂には世界中に広がる。
あの〈シャドウクリスタル〉相手にものともしないような二人の振る舞いや、戦闘シーン。
見るものを虜にしてしまうような流れる剣技や支援術の応酬。
そしてお互いを信頼し合う二人の動きや視線、言葉の数々。
子供とは到底思えない動きで次々と〈シャドウ〉を倒して、そして最後にはかっこよく〈シャドウクリスタル〉を壊してしまうのだ。
…正直、人気にならない方がおかしかった。
こんな小さな子供がかっこよく敵を退治していく様は民間の間に勇気を与え、そして活気づくものだ。
一時期なんてマスコミが二人を追いかけ、戦闘特集を組む様な番組もあったが、突如としてマスコミから消えた二人。
しかし考えればすぐに分かる話だ。
一人は、あのレンズで世界を相手にする大企業であるオベロン社の社長子息様。
そんな社長子息様が日夜マスコミで追いかけられるのは、大企業だとしても許しがたい何かがあったのだろう。
メディアから消えた二人の消息を一時期数社のマスコミが追いかけていたが、とうとう見つからず。
こうして都市部ではあるが、都心部よりも穏やかなこの地で二人を見かけることになってしまった。
つまり、二葉にとって二人は憧れの対象であり、お近づきになりたかった人たちなのだ。
話すだけでも嬉しいのに、自分の性格を考えれば仲良くなるなんて無理な話だと……当時はそう思っていた。
それが、自分たちも〝星の誓約者〟となり二人と一緒に共闘する身になってからは二人ととても身近になった。
そのお陰で二人と話す機会も増え、スノウからも公認の友人となった今、……やはり性格が邪魔してしまっているが、それを意に介さないスノウの性格もあって友人を続けられている。
それが、二葉にとってどんなに嬉しく、喜ばしい事だろう。
「いえ、是非聞きたいですわ。」
「私達が仲が良い理由、か…。考えたこともなかったけど、やっぱりあれかな。」
「あれ…とは?」
「私は昔、彼に命を救われたことがあるんだ。」
「え、」
意外な返答だった。
だからこそ、二葉の目は点になり、スノウを見つめる瞳は大きく見開かれている。
「阿呆。それよりももっと昔から仲が良かっただろうが。」
「それもそうか。なら、あれかな?幼稚園で会った時かも。」
「幼稚園で会って…それから?」
「その時、私を男の子と間違えたリオンと会ったのがファーストコンタクトだったかな?」
「今も昔も変わらないが、こいつの服装は誰がどう見ても男の格好だったが?」
「あの時、私もリオンを女の子だと間違えたのが最初だったよ。それからどういう訳か、いつの間にか仲良くなったんだ。」
「…あぁ。だからリオンさんを"レディ"なんて言うんですのね。殿方にそれは失礼ですわよ?」
「ははっ。治らないんだよ、それ。」
「"治す気がない"、の間違いだろう?」
「ご名答。」
二人は顔を見合わせると、おかしそうに二人して笑う。
それを見て、二葉も困ったように笑う。
ここまで仲が良さそうなのに、本当、何故ヒーロー名を決めてしまわないのか。
勿論、マスコミを避けているのは分かっているが、それにしても何かしらつけても良さそうなものなのに。
「お二人は、本当、昔からの仲良しさんですのね。」
「うん!そうだね。」
良い返事をしたスノウに、リオンが顔を赤らめて俯く。
それをスノウは見ていないので、意味が無いのだが…。
やれやれと和也と二葉は溜息を吐いた。
「逆に二人は?」
「私たちも同じ理由ですわよ?私達も幼稚園からで、所謂幼馴染ってやつですわね。」
「そうなんだ?」
「和也は今と変わらない性格をしてたので周りの子たちからのいじめが酷かったんですのよ。それを私が守る形でいたのが最初ですわね。小学も中学もずっと彼だけを守っていましたわね…。」
「へぇ? だから、二葉嬢は〈シャドウ〉との戦闘でも強いんだね。」
「それがあるから今がある、というのも使い古された言葉ですが…、そういうもんですわ。」
「とても素敵だね?」
「ええ。ありがとうございます。」
「(二葉嬢は興奮したり、戦闘の時じゃなかったらこんなにも穏やかで素敵なのにね?でも、それが二葉嬢の良いところでもあるのかな?)」
戦闘の時になると人が変わる二葉。
それはまるで、二重人格かのような変貌ぶりである。
それを〝星の誓約者〟で対となる和也も知っている。
そしてスノウやリオンも最初の方では驚いていたが、かなり慣れてしまっていた。
「…と、言うより。早く行かないと次の授業に遅刻するぞ。」
「え?!ま、まずいですわ!行くわよ、和也!」
「う、うん!」
「いい?! さっきのは誰にも言わないでよ?!」
「ふふ。誰にも言わないよ?」
そう言って豪快に去って行った二人を見送り、反対の方へと歩き出すスノウ達。
その二人の口元は弧を描いていた。
しかし次の瞬間、リオンがスノウへと説教を始めていた。
「…あの事は、政府から秘密だと言われているだろう?」
「ふふ。ごめんって。つい、思い出したら口に出してしまったよ。」
「今後気を付けろ。…どこから情報が洩れるか分からん。」
「うん、そうだね。私の命の為にも、気を付けないとね…。」
そう言って、スノウはそっと憂う様に指輪に触れたのだった。