カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
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ホワイトデー
『坊ちゃん、どうするんですか? もうすぐホワイトデーですよ?折角スノウからバレンタイン貰ったんですから、何か返さないと…。』
「…分かっている。分かっているからこそ…困ってるんじゃないか…。」
ジューダスは旅の合間の休憩中という事もあり、一人で街に繰り出していた。
そこで何かホワイトデーのお返しの品を考えようという魂胆だったのだが…。
「…くそ。あいつの好きな物が思い浮かばん。」
『まぁ…スノウったら何でも美味しく感じる主義ですし、何よりプレゼントは貰うよりも渡す方が好きそうな感じはしますよねー?』
「はぁ…。前途多難とはこの事か…。」
『坊ちゃん…、それは早いですって…。』
そんな話をしていれば、向こうの方からスノウが呑気に歩いてくる。
人混みの波に沿って街並みを見ながら歩いている様で、ジューダス達に気付く様子もない。
そのままジューダス達を通り過ぎて行ったスノウを見たジューダスはふと、妙案を浮かばせる。
“このまま後ろを追いかけて彼女の気になる物を買えば良いんじゃないか”、と。
そこまで至った瞬間、ジューダスの足は自然とスノウの方へと向いていた。
そのまま人混みに流されていく彼女を追いかける様に後を追うと、シャルティエが疑問を口にする。
『スノウに声を掛けるんですか?』
「いや、あいつの好きそうな物があったらそれを買おうかと思ってな。だからあいつの後を追う。」
『ほー!それは良い考えですねー!流石坊ちゃん!』
「ふん。早く行くぞ。」
ジューダス達は、そのまま人混みに流されていくスノウとつかず離れずの距離を保ちながら歩いていく。
するとスノウが何かに気付いた様に人混みに逆らっていく。
何に興味を持ったのか、とジューダス達がそれを追いかければ、スノウは自身の相棒である武器に手を掛けながら歩いているのが分かる。
その上、その歩き方も先程の呑気な歩き方とは全く話にならないほど別物であり、前世で任務をしていた頃の様な、何かを警戒している歩き方だった。
それにシャルティエがコアクリスタルに光を転写させる。
『あれ?なんか物騒な面持ちですけど…?』
「何かあったんだろう。じゃなかったら、あいつがあんなに神経を尖らせる事もないだろうしな。」
ジューダス達がそれを追いかけていくと、細い路地裏へと辿り着く。
そこには既に自身の相棒を男の首に当てるスノウが見えて、二人は慌てて隠れる。
そして様子を窺っていれば、どうやらスノウは路地裏に連れ込まれた女性を助けようとした様だ。
男は慌てて逃げて行き、それを呆れた息を吐きながらスノウが見届ける。
そして瞬時に柔らかな笑顔へと表情を変えて、スノウは連れ込まれた女性へと優しく手を差し伸べる。
「危なかったですね、お嬢さん。お怪我は?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
そんなやり取りを見ていたジューダス達だったが、女の動きが僅かにおかしい事に気付く。
後ろ手に何かを隠している様な仕草であり、それは真正面から立つスノウからすれば死角の場所である。
咄嗟にジューダスが駆け出し、スノウを庇う様に体を押したその瞬間、ジューダスの体にガラス瓶が当たり、音を立ててそれは割れる。
そしてジューダスの周りに煙がモクモクと発生してスノウの驚く声も聞こえてくる。
「えっ?! ジューダス?!」
『わわっ!!何ですか?!この煙!!坊ちゃん!?スノウ?!』
シャルティエの慌てる声が聞こえ、スノウも煙で咽せていると徐々にその煙は風に流されていき、視界も良好になってくる。
そこに現れたのは────
「…にゃー。」
「っ!!?」
『ぼ、ぼぼぼぼぼ坊ちゃん?!!』
そう、猫姿のジューダスであった。
艶やかな黒い毛並みをし、紫水晶を彷彿とさせるその瞳は、誰がどう見てもジューダスだとしか思えない容姿であった。
愕然としているスノウとシャルティエの耳に、先程の女の声が響く。
「キャハハ!安心して!ホワイトデーが終わるその日の0時に元に戻るから!じゃあね!ハッピーホワイトデー!!」
ポカンとしていたスノウ達は女が去っていくのを呆然と見遣る。
そんな中、ジューダスは自分の体が猫になっていた事に驚き、しばらくニャーニャー鳴いていた。
「ニャーニャー!!(なんだ、この姿は!!)」
「………いい…。」
「ニャー?(スノウ?)」
顔を俯かせ、表情が見えないスノウを心配し、ジューダスがその姿のままそっと近付けば、急にスノウはジューダスを持ち上げて胸に抱き、満面の笑みを浮かべた。
「か、可愛い…!!!」
「ニャー?!(スノウ?!)」
「あぁ…!なんて可愛いんだろうっ…!?これがレディだと分かってるから余計に可愛いっ…!!!」
頬を擦り寄らせて嬉しそうにしているスノウを見て、慌てるジューダスだったが、あまりにも嬉しそうな顔が見えてしまったので、借りてきた猫のように大人しくすることにした。
しかし、されるがままになっていたが、スノウはずっとすりすりとジューダスへ擦り寄っていていつまで経っても解放される気配が無い。
痺れを切らしたジューダスがその拘束から抜け出せば、スノウが非常に残念そうな声を出していた。
「あぁ…!」
『相当ショック受けてますよ?坊ちゃん。もう少し抱かれていた方が良かったんじゃないですか?』
「ニャ、ニャニャっ!!!(な、何を言うんだ…!)」
「あぁ、ごめんね?嫌だったよね…。」
「ニャニャニャ……。(いや、そういう訳じゃ……)」
猫語など分かるはずもないスノウは、悲しそうな顔をしたあとに立ち上がる。
そんな顔を見てしまえばジューダスの中の良心と、大切な人の悲しい顔を見たくないという恋心がジューダスを苦しめる。
「うっ…」と唸ったジューダスは、少し躊躇った後にスノウの足に近付き、少しだけ擦り寄ってあげた。
しかし先程と違い、スノウの反応が薄い。
見上げてみれば、何やら真剣に考えてる様子のスノウがそこにはいた。
「……。」
『あれ?スノウ?』
「……もし、私が旅をすることなく、家を持っていたなら……猫を飼うのも有りだね……?帰った時に誰も居ない家じゃなくて、猫がいる生活もいいのかもしれない……。」
『え、えっと…?』
「いや、でも…寂しい思いをさせてしまうか…。何が起きてもおかしくない身の上だし…ねぇ…?」
ブツブツと何かを話しながらスノウがいやに真剣に考えていたことと言えば、猫の話である。
ジューダスもシャルティエも、そんなスノウを見てふと思う所がある。
“────もしかして、スノウは猫が好きなのではないか?”と。
『……坊ちゃん、これはチャンスですよ…!ホワイトデーのお返しは存分に坊ちゃんネコでお返ししたらどうですか?』
「ニャニャ…。(そんな安直な…。)」
『ですが、それも良いと思いません?僕は結構いい線いってると思ってるんですが…。』
「ニャニャ、ニャーニャニャ。(というより、お前…僕の言葉が分かるんだな。)」
『あれ?確かに…。』
そんな事を話していれば、急にジューダス(猫)の体が持ち上がる。
片手で掬うように持ち上げられた体に、思わず体を硬直させたジューダスだったが、持ち上げた正体が分かると僅かに硬直を解いていた。
「ごめんね?嫌かもしれないけど、ここにいたら危ないから宿に行こうね?」
優しくて柔らかな声音で話すスノウの声には、どこか少し恐怖の色も混じっている気がした。
ジューダスが目を丸くさせて上を見上げたが、スノウは地面に落ちていたシャルティエを拾い上げ、腰に刺すとジューダスを持ち上げたまま移動をした。
「ニャ(スノウ)────」
スノウに呼びかけたが、猫語なんて分かるはずもない。
そのままスノウは宿に向かって歩き続けた。
そしてジューダスを抱えたスノウが宿へ着くと、自分達に充てがわれた部屋へ移動し、そっとジューダスを下ろしてあげていた。
その優しい下ろした方にジューダスも驚いてスノウを見上げる。
なんて酷く優しいんだろう、と。
「さ、ここなら安全だ。だからここにいるんだよ?レディ?」
「ニャッ!(待て!)」
扉の向こうに消えてしまったスノウを見て、足を止めたジューダスは机の上に置かれたシャルティエを見上げる。
スノウが先程ジューダスを下ろした後に、シャルティエも机に置いていたのだ。
『いやぁ……しっかし、坊ちゃんが猫になるなんて人生何が起こるか分からないなぁ…。』
「ニャニャーニャニャ。(それよりも、ここからどうやって出るか一緒に考えろ。)」
『なんか、さっきのスノウは、少し心配になるような感じがしましたしね。ここから出て探しに行ってあげましょう!坊ちゃん!』
「ニャニャニャニャ?(そう言葉にするということは、何か策でもあるのか?)」
『無いですね!』
「……。」
ジューダスは地面から高く跳躍し、シャルティエのある机にトンと乗ると、容赦なくその鋭い爪を見せつける。
それを見たシャルティエが慌てて説得を始めようとした。
『ぼ、坊ちゃん?!そんな爪で引っ掻いたら本当にコアクリスタルが傷付いてしまいますよ?!だからやめてぇぇぇええええええ!!』
ガリガリという音と共に、コアクリスタルが引っ掻かれていく。
途端に悲鳴が鋭くなり、ジューダスもしばらくコアクリスタルをガリガリと引っ掻き続けたのだった。
‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥
結果、扉の外に出る方法を見つけられず、夜に帰ってきた仲間たちに発見されてしまう形で猫姿のジューダスは仲間たちに捕まってしまう。
可愛い、と散々言われたジューダスは何とか仲間たちの腕から逃れようと体を捻ったのだが、複数人いる仲間の腕から逃れるなど今の慣れない体では至難の業であった。
「ニャニャ…!(離せっ…!)」
しかし今のジューダスの言葉を理解する者など、シャルティエくらいしか居ないので鳴いた所で無意味なのである。
そして、ジューダスが一番に待ち望んでいたスノウの姿もそこには無かった。
それに焦燥に駆られるジューダス。
何故スノウだけ帰ってこないのだろう、と。
仲間たちも不思議そうに思うものの、帰ってくるだろうと誰もが呑気に構えている。
ジューダスは何とか仲間たちの手を掻い潜り、スノウを探しに走り出す。
……後ろから情けないシャルティエの声がした気がしたジューダスだったが、無視をしておいた。
「ニャニャ!(スノウ!)」
鳴きながら、そして走りながら目的の人物を探すこと数十分。
ジューダスはようやく目的の人物を探し当てた。
その人物は夜になって周りが暗くなっているというのに、街の高台から足を投げ出してボーッと光る街並みを見下ろしていた。
その横顔は何かを憂いている様な表情であった。
「ニャニャ!!(スノウ!!)」
ジューダスが精一杯鳴けば、スノウはふと我に返ったように顔を上げ、声のした方を見遣った。
するとスノウは猫の姿のジューダスを見て、困った顔をさせた。
「……レディか…。駄目じゃないか……こんな所まで来て。危ないよ?」
「ニャニャニャニャ。ニャーニャニャ?(お前を一人にさせるか。そう約束しただろう?)」
「ほら、お帰り?」
スノウはその場で指をパチンと弾く。
するとジューダスの体は急に浮遊感に襲われ、次の瞬間宿屋へと戻っている事に気付いた。
再び戻ってきた事にジューダスが愕然とし、ジューダスの気配が近くなった事に驚いたシャルティエまでもコアクリスタルを明滅させていた。
『えぇ?!坊ちゃん?!どうしたんですか、急に現れて!』
「ニャニャニャニャーニャニャ。(スノウの奴が術でここまで飛ばしたんだ!何も話が出来ていないというのに…!)」
『スノウ、大丈夫でした?元気そうならそれで安心なんですが…。』
「……ニャニャ。(……少し憂いている感じはした。)」
『それなら尚更もう一度行かないとですね!坊ちゃん!』
「ニャー。ニャーニャニャ。(あぁ。もう一度行ってくる。)」
ジューダスは少しの隙間だけ開けられた扉を潜り、再びあの場所を目指す。
先程スノウが憂いていた、あの場所へと。
「ニャニャ!(スノウ!)」
「……。」
ジューダスの鳴き声が聞こえた瞬間、スノウは顔だけジューダスへ向けて指同士を合わせる。
そしてジューダスが「やめろ」という前に、残酷に指をパチンと鳴らした。
「……。」
そうしてジューダスはまた宿屋へと戻っていて、振り出しに戻ったのだった。
こうなったら声も出さずに静かに忍び寄るしか方法は無い。
ジューダスは再び隙間を通り、宿屋の扉を潜るとあの場所へと駆け出す。
憂いている彼女の元へと急がなければ、と半ば使命感のようなものを感じていた。
しかし、ジューダスが辿り着いた場所にはスノウは居なかった。
慌てるジューダスは四方八方を見渡したが、一向にスノウの姿が見えない。
仕方なくしばらく探すことにしたジューダスは、そのまま道なりに足を進めてみる。
するとそこには何処かへ向かうスノウの背中が見えた。
静かに駆け出し、その小さな背中へとジャンプを決め込んだジューダスだったが、急な事で驚いたスノウによって落ちそうになり慌てて爪を立てた。
「おっと…!」
咄嗟に背中へと手を回したスノウの手によって落下を回避したジューダスは、少しばかり安堵の息を吐き出した。
そのままつままれた猫の様に背中から正面に持って来られたジューダスは、スノウの瞳をジッと見つめる。
お願いだから何処にも飛ばさないでくれ。とそういう気持ちを込めて。
「……はぁ。全く、君は…。こんな夜中に一人で外に出たら危ないだろう?」
「ニャニャニャニャ?(それはお前にも当てはまるが?)」
「ちゃんと宿屋で待ってるように言ったはずだよね?私。」
「ニャニャニャニャニャーニャニャ。(お前を一人にさせるものか。それに守ると言っただろう?)」
「……何だか、反抗されてる気がする…。」
「ニャ。(ふん。当然だ。)」
街明かりで照らされたスノウの顔は徐々に諦めの顔になっていく。
しかしスノウはジューダスを地面へ下ろすと、反対の方を向いてしまった。
ジューダスが顔を見ようとしたが、それを察してか、スノウがまた違う方を向く。それの繰り返しだった。
「…ちゃんと宿屋へ戻るから。先に帰っててくれないかな。」
聞こえた言葉は拒絶の言葉。
初めて聞くスノウの拒絶に、ジューダスは体を固くする。
そしてスノウが歩き出したのを見て、ジューダスも慌てて歩きだそうとした。
しかし、
「___テレポーテーション。」
指を鳴らすでもなく、あからさまに詠唱したその言葉を聞いてジューダスが悲しい顔をする。
そして結局、宿屋へと戻ってきたのだった。
しかし、そんなことで諦めるジューダスではない。
再び外へ駆け出せば、先程の場所の近くを探し、居なければまた別の場所を探した。
鳴き声はあげず、ただ静かに探していく。
すると道の端で片膝の上に額を乗せ、俯いているスノウがいた。
慌てて近寄ったジューダスだったが、どうやら寝ているようである。
こんな夜に、こんなところで寝ていたら風邪を引いてしまう、とジューダスがそっと体を擦り寄らせれば、その瞬間ジューダスの体はビクッと反応する。
スノウの体が異常に冷たかったのだ。
思わずヒュッと喉を鳴らしたジューダスは慌ててスノウの体を温めようとする。
そしてちらりと彼女の口元を確認した。
「(息はしている…。だが、夜の寒さで体が冷えているんだ…!)」
起こそうとしたが、その声は喉元まで来て止まる。
もしこれで起こそうものなら、また宿屋に飛ばされてしまい本末転倒だ。
なら、今できる最大のことをするしかない。
ジューダスはなるべく体を引っ付けては彼女を温めようと努力する。
しかし猫の姿となり、小さくなった今の体ではその努力も微々たるものであった。
悔しさで目をギュッと閉じたその時だった。
「………あたた…かい…。」
「!!」
その温もりの正体を探そうとしているのか、だらりと下がっていたほうの手が手探りで動き出す。
それがジューダスの体に触れた瞬間、あまりの冷たさにジューダスが体を無意識に震わせた。
しかし、それがいけなかったのだ。
「っ?!!!」
その震えた体のお陰で一瞬にして目を覚ましたスノウが、ジューダスから距離を取ろうと立ち上がり瞬時に後退する。
しまった、と思うよりも先にスノウがジューダスを見つけ、怯えた表情を見せた。
「(何故、そんな顔をする…?何に怯えてるんだ?スノウ…。)」
「はぁっ、はぁっ…。君か…。はぁ…。」
呼吸を落ち着かせたスノウは一度下を向くと、ジューダスとは反対を向いてしまう。
そして残酷な一言を残した。
「…君にはホワイトデーが終わるまで会えない。だから、ごめんけど…帰ってくれ。」
「ニャ───」
無情にも響いた指の音で、ジューダスは再び宿へと戻ってきていた。
落ち込んだ様子のジューダスを発見し、シャルティエが不穏な空気と共にコアクリスタルにぼんやりと光を灯す。
あぁ、うまくいかなかったのか。…と。
しかし、そんなシャルティエの予想とは違い、今度は落ち込んだ様子ではなく何かとてつもない感情がメラメラと燃えている気がして、コアクリスタルを明滅させる羽目になったシャルティエは、そっと窺うようにジューダスを見る。
そこには闘志を燃やしたマスターの姿があった。
『ぼ、坊ちゃん…?』
「ニャニャ…!!ニャニャッニャニャーニャ…!!!(あの阿呆め…!!今度会ったらただじゃすまさん…!!!)」
『え、えっと…。そうです…ね…?』
「ニャニャ(何がホワイトデーが終わるまでは会えない、だ…!!そんなもの、我慢できるか!!!)」
『…えっと、はい…。』
ジューダスの圧倒的な熱量を前にして、シャルティエの言葉数も減っていく。
というよりも、どう声を掛けるか迷っているのである。
そうして、メラメラ燃えたジューダスに声をかけることもなく、扉を潜って行ったマスターをただ静かに見届けたシャルティエだった。
。o○゚+.。o○゚+.。o○゚+.。o○゚+.。o○+.。o○゚+.。o○+.。o○+.。o○
___次の日。
結局その日にスノウを探し出すことは出来なかったジューダス。
しかし昨日の状態の彼と同じく…
「ニャニャ…。(今日こそ…!)」
意気込んで朝早くから探すジューダスの瞳には闘志が宿っていた。
絶対に見つけ出してやる、といったそんな瞳だ。
目を光らせ、ジューダスが街の隅から隅まで探しているとふと思ったことがある。
"まさかだが、屋根の上に居たりしないよな?"────ということに。
こんなにしてまで探し出せないということは、一人屋根の上で高みの見物をしているというのも今なら有り得てしまう。
ジューダスは高く跳び、屋根の上へ上がる。
そうしてまた駆け出せば、なんとこの街の一番高い教会の屋根の上にスノウはいた。
それもいい天気ということもあり、スノウは屋根の上で安らかな寝息をして完全に寝ていた。
ポカポカする屋根の上だからこそ、眠くなったのだろうが…。
「(こんな所で寝ていたら落ちるぞ…。)」
探し出せたことで安堵したことも相まって、ジューダスはその場でそっと呆れたため息を吐き、そしてゆっくりとスノウの近くに寄ったジューダスは寝ている彼女の顔を覗き込む。
そこには少しだけくまを残した顔をし、どこか疲れも感じさせるような、そんな顔をジューダスは見つめていた。
心配していた体に触れてみれば昨日の夜とは違い、お日さまの暖かさでポカポカと温まっている体に安心してスノウのお腹の上にそっと乗った。
そしてゆっくりと丸くなり、ジューダスも目を閉じた。
…昨日から探して、少しだけ疲れた。だから今は…
「(…少しだけ、寝かせてくれ。)」
そう思いながら、夢の中へと旅立っていった。
そうして数十分経てば、先に起きたのはスノウの方だった。
お腹の上に何か重いものを感じ、ふと目を開ける。
眠たい瞼を無理矢理押し上げ、顔だけを上げればそこには気持ちよさそうにして自分のお腹の上で寝る黒猫が居た。
瞳の色が確認できない為に、これが猫になったジューダスなのか、それともただの野生の猫なのか見当もつかないスノウは「はぁ…」とため息をつく。
だが、スノウの中ではもう確信していた。
これはきっと、私を追いかけてきた"ジューダス"なのだろう。…と。
頭を元に戻して眩しい光を遮るように腕を目の前に宛がうと、余計にお腹の上の存在が誇示してくる気がした。
しかしまさか、ここが見つかるとは思っていなかった。
一番高い場所だったため、下からは絶対に見えない。
だからこそここを選んだというのに…。彼には全てお見通しのようである。
「(あぁ…駄目だ…。こんな近くにいられると…………触りたくなる。)」
スノウがジューダスを避けていた理由は、"彼に嫌われたくなかったから"だ。
スノウが触れた時、怖がるように体を硬直させていたジューダス。
そしてすりすりとその暖かさを堪能するように擦り寄れば、逃げていかれる始末。
嫌がる行動しかしていない自分に辟易しながら、無闇に触らないように、触れないようにと自制の意味を込めて彼を避けていたのだ。
「(あぁ…温かい、な…?猫の体温って、こんなに高いんだ…。)」
ペットを飼ったことのないスノウからすれば、それは不思議だと思う要因でもあり、目の前の存在が酷く愛おしく、そして可愛いから触れたくなる要因でもある。
猫吸いというのも地球では流行っていたが、……今やろうものなら絶対に嫌われるのは目に見えている。
嫌われたくないが、目の前にいられると我慢できなくなるのだ。
可愛いものに目がないからこそ、というのが心情であった。
「(あぁぁぁぁぁ…駄目だ駄目だ…!触りたい…!!こんなに可愛いものを前にしてお預けを食らうなんて…まっぴらゴメンだ…!!!!)」
それがジューダスだと分かっているからこそ、余計に可愛いと思えるわけで。
昔見た、夢小説のようで胸が高鳴ったのを覚えている。
しかしそのよくある夢小説のように、仕方なく触らせてくれる彼がいるわけでもない。
逆に何の許可もなく触ってしまい、怖がらせてしまったタイプなのだ。
もう後戻りなど出来はしない。
スノウの手は徐々に寝ているジューダスの方へと伸びていく。
しかしその手を止めさせて、我慢をしようとしたが…無理そうである。
こうなったらジューダスを退けて、さっさと別の場所で別の猫を探してモフモフしたほうがまだ効率的である。
スノウは遂に我慢の限界を越え、ガッとジューダスを掴むと屋根に乗せて魔法を使いすぐさまその場から消えた。
そして念願が叶う。
魔法で飛んだ先、目の前に……可愛いネコが居た。
思わず近くへ寄って、抱き上げればその猫は大人しくされるがままである。
「うわぁぁぁぁ…!可愛い…!!」
あぁ、我慢の限界であった。
ジューダスと言う猫に触れられないのならせめて別の猫で代用するという作戦は、意外にもスノウの心を穏やかにさせた。
なめらかな毛並みを堪能するがごとく、頬でスリスリしていると向こうの方からもすり寄ってくれて……正直、感動した。
涙を流すのではという勢いで感動したスノウは、そのまま暫くその猫を堪能したのであった。
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何か動く気配で目が覚めたジューダス。
それは屋根の上で寝ていたスノウだったことは確実だった。
目を開けずに寝たふりをしていたジューダスは、近くにスノウの手が忍び寄ってきたことに気付いた。
しかしそれは止まってしまい、ジューダスに触れることもない。
片目だけ開けたジューダスは近くにあった手を見て、少しだけ期待する。しかしその期待もすぐに失ってしまった。
まるで、自分に触るのを迷っているかのように揺れ動く手がそこにはあったからだ。
それを見て起き上がろうとしたジューダスだったが、まさか急に強く掴まれて屋根の上に置かれるとは思っておらず、急なことで驚いたジューダスは慌てて目を開けてスノウを見上げたはずだった。
しかしそこにはスノウの姿など無かった。
またしても逃げられた、とジューダスはがっかりした様子で肩を落とす。
また探さなければならなくなってしまった、とその場で項垂れていたジューダスだったが、すぐに気を持ち直しスノウを探しに出かける。
行く人行く人に見られ、時折子供に追いかけられながらも苦労して探したジューダスは、ようやく念願の人物を見つける。
…しかし、そこにいたのは自分とは違う別の猫を可愛がっているスノウだった。
嬉しそうに猫の顔へ頬を擦り寄らせ、まるでその猫の体温を堪能するかのように抱き上げた体を大事そうに抱きしめる彼女が居たのだ。
それに嫉妬しないはずもない。
一瞬にして黒い感情が腹の底から湧き上がったジューダスは、その可愛がられている猫を睨みつける。
するとその猫はジューダスに気づくと、ニヤリとジューダスを嘲笑い、そしてわざとらしくスノウの頬を舌で舐めていた。
「~~~っ!! うぅ…!君だけだよ…!!私がこうやっても逃げないのは…!!もう持って帰りたいくらいだよ…!!」
「にゃ~。」
「可愛いっ…!!!」
感動したような声でギュッと猫を抱きしめたスノウ。
そして反対に、抱かれた猫は挑発的な顔でジューダスを見下ろしていた。
ピクピクと頬を引きつらせたジューダスは、この街の自然区でもあるこの公園の椅子に座って猫を堪能するスノウにひと鳴き浴びせる。
「ニャニャ!!!(スノウ!!!)」
「ん?」
その声で我に返ったスノウが、椅子の下にいたジューダスに気づく。
するとバッとジューダスから離れ、またしても怯えた顔をする。
それにジューダスは怒りを示した。
「ニャニャッニャニャー!?(何故、僕を見て怯える!?何故僕を避ける!?)」
「……。」
しかし言葉がわからないスノウにそんな事を言っても無意味である。
勝ち誇ったような顔を見せる猫に対して、まだスノウは恐怖の眼差しをジューダスへ向けていた。
そして固まったスノウをほぐすように、抱いていた猫がスノウの頬を舐める。
それを見て、幾ばくか安心したような顔を見せたスノウ。
だがそれも、ジューダスの怒りのボルテージを上げるには十分な要因だった。
それは自分の役目なのに。
彼女を温めるのは自分の役目なのに。
彼女を夢中にさせるのは自分だけであってほしいのに。
そんな気持ちがグチャグチャになってジューダスを襲う。
遂にはジューダスの瞳から少しだけ涙が溢れる。
「…! レディ…?」
「(言葉が通じれば、こんな思いもせずに済んだというのに…。全ては猫になってからだ、こんな苦しい思いをする羽目になったのは…!僕を、僕だけを見てほしいのに…!!なぜこんなにも、通じない…?)」
猫姿のジューダスが泣いた事で、スノウが慌てだす。
今抱いている猫を下ろし、慌ててジューダスのそばに寄って背中を擦ろうとしたが、その手は途中で止まってしまう。
触れたら嫌われないか、また嫌がられないだろうか、とそればかりを気にしてしまって。
するとジューダスはそんなスノウの手に思い切って擦り寄っていく。
"思いが伝われ"────その一心で。
「…ごめん、レディ…。君を泣かせるつもりじゃなかったんだ…。」
流石に自ら擦り寄ってきてくれたジューダスを見て、スノウがそっとジューダスを持ち上げる。
「…そして、君を怖がらせるつもりもなかった…。…怖かったんだ。君に嫌われるのが…。あんなに嫌そうに逃げていったから、触れられるのが好きじゃないかと思って…。それに触れたことで嫌われたら、と思ったら…君に触れるのが怖くて…。でも、君が猫になったことで余計に触れたくて、触れたくなって…我慢できなくなるんだ。だから、見なければ我慢できると思ったんだ…。」
「(あぁ…そう言う理由だったのか…。原因は僕にあった、というわけか…。)」
涙をひとつ流しながらジューダスはスノウの瞳を見た。
まだ恐怖の色を湛えているものの、それでもさっきよりは幾許か良くなっている。
そっと恐る恐る抱きしめたスノウに、ジューダスもスノウに擦り寄る形で思いを伝える。
怖くない、大丈夫だから。────そんな意味を込めて。
「(………待て。この臭い…腹が立つな。)」
彼女から匂うのは、彼女自身の香りと一緒になって先程の猫の匂いも移って混じり合っている匂いだ。
それに一瞬にして涙が引っ込み、再び嫉妬の嵐に見舞われたジューダスは、スノウの足元であざとく鳴く猫を見下ろし、睨みつけた。
するとその猫もジューダスを見て、毛を逆立てて威嚇をする。
「え、えっと…?」
先程まであんなに愛らしく擦り寄ってきたのに、いきなり毛を逆立ててきた猫に困惑するスノウを見て、いい気味だとジューダスがほくそ笑めば、その猫は怒り狂った顔をしてジューダスを見る。
そしてジューダスを攻撃しようとスノウの足に爪を立て、跳ぶ準備をした。
「いたっ…!」
「!!!」
ジューダスが慌てて降りて、スノウの足に爪を立てる猫を引っ掻く。
すると相手の猫も黙っていない。
高速猫パンチを繰り出そうとする猫を避けて、ジューダスの爪が閃く。
その爪が相手の体に入った途端、猫は走って逃げ帰っていった。
逃げ帰った猫の後ろ姿を見ながら「ふん」と鼻を鳴らしたジューダスを、スノウがポカンと見やる。
そして、思わずと言った感じでくすりと笑っていた。
「ははっ…!その仕草、本当に人間の時のレディを見ているみたいだよ。」
「ニャニャ。(当然だろう。僕は僕でしか無いのだから。)」
「そっか、そっか…。」
そうしてスノウはまたジューダスを持ち上げる。
そして優しく抱きしめた。
「嫌われない程度に触れるだけにするから、今は…今だけは抱きしめさせて?レディ。」
そう言って、スノウもまた泣き笑いのような顔でジューダスを抱きしめた。
それを見て大人しくされるがままになったジューダスだった。
そこからは宿に戻ったスノウ達を歓迎するかのようにシャルティエが待ち構えていて、何なら置き去りにされたことを恨んでいる様子でもあった。
そしてジューダスの気持ちをシャルティエを通じてスノウに伝えれば、スノウは驚いていた。
いくらでも触ってもいいし、いくらでも抱きしめて良いと聞いた時のスノウの顔と言ったら、面白かった。
ジューダスもシャルティエもその顔を見て苦笑いをこぼしたくらいだ。
感動したように口元を手で押さえて、ジューダスを見下ろすスノウといったら今までにないくらい嬉しそうだった。
そしてそこからは常にジューダスという黒猫を腕に抱え、嬉しそうに鼻歌を零すスノウがいた。
無論、そこにはシャルティエもいる。
ただひとつ違うのは、嫉妬に狂ったジューダスが他の猫の臭いを消すかのように、必死にスノウの頬を舐めていたことくらいである。
くすぐったそうにするスノウと、呆れた様子のシャルティエが見られたのはホワイトデーが終わるその日の零時までであった。
【嫌われたくなくて。】
___「…最高のホワイトデーだったなぁ?」
___「二度と猫になんてなるものか。」
___「でも君が頬を舐めてくれたときは、ちょっと感動した。」
___「……それは忘れろ。今すぐに。」
___「くすっ。忘れないよ?君との…大事な思い出だから。」
*スノウは〝猫好き?〟の称号を手に入れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハッピーホワイトデー。
皆さんいかがお過ごしでしょうか?
管理人です。
もうすぐホワイトデーということで慌てて書いたものになりますがいかがでしたでしょうか。
ジューダスかスノウが猫になるという構想は既にあったので、ここで使わせてもらいました。
なんだか盛りだくさんな話でしたね。
皆さんもホワイトデーが返ってくることを祈ってます。
(管理人は帰ってきませんでした。)
管理人・エア
『坊ちゃん、どうするんですか? もうすぐホワイトデーですよ?折角スノウからバレンタイン貰ったんですから、何か返さないと…。』
「…分かっている。分かっているからこそ…困ってるんじゃないか…。」
ジューダスは旅の合間の休憩中という事もあり、一人で街に繰り出していた。
そこで何かホワイトデーのお返しの品を考えようという魂胆だったのだが…。
「…くそ。あいつの好きな物が思い浮かばん。」
『まぁ…スノウったら何でも美味しく感じる主義ですし、何よりプレゼントは貰うよりも渡す方が好きそうな感じはしますよねー?』
「はぁ…。前途多難とはこの事か…。」
『坊ちゃん…、それは早いですって…。』
そんな話をしていれば、向こうの方からスノウが呑気に歩いてくる。
人混みの波に沿って街並みを見ながら歩いている様で、ジューダス達に気付く様子もない。
そのままジューダス達を通り過ぎて行ったスノウを見たジューダスはふと、妙案を浮かばせる。
“このまま後ろを追いかけて彼女の気になる物を買えば良いんじゃないか”、と。
そこまで至った瞬間、ジューダスの足は自然とスノウの方へと向いていた。
そのまま人混みに流されていく彼女を追いかける様に後を追うと、シャルティエが疑問を口にする。
『スノウに声を掛けるんですか?』
「いや、あいつの好きそうな物があったらそれを買おうかと思ってな。だからあいつの後を追う。」
『ほー!それは良い考えですねー!流石坊ちゃん!』
「ふん。早く行くぞ。」
ジューダス達は、そのまま人混みに流されていくスノウとつかず離れずの距離を保ちながら歩いていく。
するとスノウが何かに気付いた様に人混みに逆らっていく。
何に興味を持ったのか、とジューダス達がそれを追いかければ、スノウは自身の相棒である武器に手を掛けながら歩いているのが分かる。
その上、その歩き方も先程の呑気な歩き方とは全く話にならないほど別物であり、前世で任務をしていた頃の様な、何かを警戒している歩き方だった。
それにシャルティエがコアクリスタルに光を転写させる。
『あれ?なんか物騒な面持ちですけど…?』
「何かあったんだろう。じゃなかったら、あいつがあんなに神経を尖らせる事もないだろうしな。」
ジューダス達がそれを追いかけていくと、細い路地裏へと辿り着く。
そこには既に自身の相棒を男の首に当てるスノウが見えて、二人は慌てて隠れる。
そして様子を窺っていれば、どうやらスノウは路地裏に連れ込まれた女性を助けようとした様だ。
男は慌てて逃げて行き、それを呆れた息を吐きながらスノウが見届ける。
そして瞬時に柔らかな笑顔へと表情を変えて、スノウは連れ込まれた女性へと優しく手を差し伸べる。
「危なかったですね、お嬢さん。お怪我は?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
そんなやり取りを見ていたジューダス達だったが、女の動きが僅かにおかしい事に気付く。
後ろ手に何かを隠している様な仕草であり、それは真正面から立つスノウからすれば死角の場所である。
咄嗟にジューダスが駆け出し、スノウを庇う様に体を押したその瞬間、ジューダスの体にガラス瓶が当たり、音を立ててそれは割れる。
そしてジューダスの周りに煙がモクモクと発生してスノウの驚く声も聞こえてくる。
「えっ?! ジューダス?!」
『わわっ!!何ですか?!この煙!!坊ちゃん!?スノウ?!』
シャルティエの慌てる声が聞こえ、スノウも煙で咽せていると徐々にその煙は風に流されていき、視界も良好になってくる。
そこに現れたのは────
「…にゃー。」
「っ!!?」
『ぼ、ぼぼぼぼぼ坊ちゃん?!!』
そう、猫姿のジューダスであった。
艶やかな黒い毛並みをし、紫水晶を彷彿とさせるその瞳は、誰がどう見てもジューダスだとしか思えない容姿であった。
愕然としているスノウとシャルティエの耳に、先程の女の声が響く。
「キャハハ!安心して!ホワイトデーが終わるその日の0時に元に戻るから!じゃあね!ハッピーホワイトデー!!」
ポカンとしていたスノウ達は女が去っていくのを呆然と見遣る。
そんな中、ジューダスは自分の体が猫になっていた事に驚き、しばらくニャーニャー鳴いていた。
「ニャーニャー!!(なんだ、この姿は!!)」
「………いい…。」
「ニャー?(スノウ?)」
顔を俯かせ、表情が見えないスノウを心配し、ジューダスがその姿のままそっと近付けば、急にスノウはジューダスを持ち上げて胸に抱き、満面の笑みを浮かべた。
「か、可愛い…!!!」
「ニャー?!(スノウ?!)」
「あぁ…!なんて可愛いんだろうっ…!?これがレディだと分かってるから余計に可愛いっ…!!!」
頬を擦り寄らせて嬉しそうにしているスノウを見て、慌てるジューダスだったが、あまりにも嬉しそうな顔が見えてしまったので、借りてきた猫のように大人しくすることにした。
しかし、されるがままになっていたが、スノウはずっとすりすりとジューダスへ擦り寄っていていつまで経っても解放される気配が無い。
痺れを切らしたジューダスがその拘束から抜け出せば、スノウが非常に残念そうな声を出していた。
「あぁ…!」
『相当ショック受けてますよ?坊ちゃん。もう少し抱かれていた方が良かったんじゃないですか?』
「ニャ、ニャニャっ!!!(な、何を言うんだ…!)」
「あぁ、ごめんね?嫌だったよね…。」
「ニャニャニャ……。(いや、そういう訳じゃ……)」
猫語など分かるはずもないスノウは、悲しそうな顔をしたあとに立ち上がる。
そんな顔を見てしまえばジューダスの中の良心と、大切な人の悲しい顔を見たくないという恋心がジューダスを苦しめる。
「うっ…」と唸ったジューダスは、少し躊躇った後にスノウの足に近付き、少しだけ擦り寄ってあげた。
しかし先程と違い、スノウの反応が薄い。
見上げてみれば、何やら真剣に考えてる様子のスノウがそこにはいた。
「……。」
『あれ?スノウ?』
「……もし、私が旅をすることなく、家を持っていたなら……猫を飼うのも有りだね……?帰った時に誰も居ない家じゃなくて、猫がいる生活もいいのかもしれない……。」
『え、えっと…?』
「いや、でも…寂しい思いをさせてしまうか…。何が起きてもおかしくない身の上だし…ねぇ…?」
ブツブツと何かを話しながらスノウがいやに真剣に考えていたことと言えば、猫の話である。
ジューダスもシャルティエも、そんなスノウを見てふと思う所がある。
“────もしかして、スノウは猫が好きなのではないか?”と。
『……坊ちゃん、これはチャンスですよ…!ホワイトデーのお返しは存分に坊ちゃんネコでお返ししたらどうですか?』
「ニャニャ…。(そんな安直な…。)」
『ですが、それも良いと思いません?僕は結構いい線いってると思ってるんですが…。』
「ニャニャ、ニャーニャニャ。(というより、お前…僕の言葉が分かるんだな。)」
『あれ?確かに…。』
そんな事を話していれば、急にジューダス(猫)の体が持ち上がる。
片手で掬うように持ち上げられた体に、思わず体を硬直させたジューダスだったが、持ち上げた正体が分かると僅かに硬直を解いていた。
「ごめんね?嫌かもしれないけど、ここにいたら危ないから宿に行こうね?」
優しくて柔らかな声音で話すスノウの声には、どこか少し恐怖の色も混じっている気がした。
ジューダスが目を丸くさせて上を見上げたが、スノウは地面に落ちていたシャルティエを拾い上げ、腰に刺すとジューダスを持ち上げたまま移動をした。
「ニャ(スノウ)────」
スノウに呼びかけたが、猫語なんて分かるはずもない。
そのままスノウは宿に向かって歩き続けた。
そしてジューダスを抱えたスノウが宿へ着くと、自分達に充てがわれた部屋へ移動し、そっとジューダスを下ろしてあげていた。
その優しい下ろした方にジューダスも驚いてスノウを見上げる。
なんて酷く優しいんだろう、と。
「さ、ここなら安全だ。だからここにいるんだよ?レディ?」
「ニャッ!(待て!)」
扉の向こうに消えてしまったスノウを見て、足を止めたジューダスは机の上に置かれたシャルティエを見上げる。
スノウが先程ジューダスを下ろした後に、シャルティエも机に置いていたのだ。
『いやぁ……しっかし、坊ちゃんが猫になるなんて人生何が起こるか分からないなぁ…。』
「ニャニャーニャニャ。(それよりも、ここからどうやって出るか一緒に考えろ。)」
『なんか、さっきのスノウは、少し心配になるような感じがしましたしね。ここから出て探しに行ってあげましょう!坊ちゃん!』
「ニャニャニャニャ?(そう言葉にするということは、何か策でもあるのか?)」
『無いですね!』
「……。」
ジューダスは地面から高く跳躍し、シャルティエのある机にトンと乗ると、容赦なくその鋭い爪を見せつける。
それを見たシャルティエが慌てて説得を始めようとした。
『ぼ、坊ちゃん?!そんな爪で引っ掻いたら本当にコアクリスタルが傷付いてしまいますよ?!だからやめてぇぇぇええええええ!!』
ガリガリという音と共に、コアクリスタルが引っ掻かれていく。
途端に悲鳴が鋭くなり、ジューダスもしばらくコアクリスタルをガリガリと引っ掻き続けたのだった。
‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥
結果、扉の外に出る方法を見つけられず、夜に帰ってきた仲間たちに発見されてしまう形で猫姿のジューダスは仲間たちに捕まってしまう。
可愛い、と散々言われたジューダスは何とか仲間たちの腕から逃れようと体を捻ったのだが、複数人いる仲間の腕から逃れるなど今の慣れない体では至難の業であった。
「ニャニャ…!(離せっ…!)」
しかし今のジューダスの言葉を理解する者など、シャルティエくらいしか居ないので鳴いた所で無意味なのである。
そして、ジューダスが一番に待ち望んでいたスノウの姿もそこには無かった。
それに焦燥に駆られるジューダス。
何故スノウだけ帰ってこないのだろう、と。
仲間たちも不思議そうに思うものの、帰ってくるだろうと誰もが呑気に構えている。
ジューダスは何とか仲間たちの手を掻い潜り、スノウを探しに走り出す。
……後ろから情けないシャルティエの声がした気がしたジューダスだったが、無視をしておいた。
「ニャニャ!(スノウ!)」
鳴きながら、そして走りながら目的の人物を探すこと数十分。
ジューダスはようやく目的の人物を探し当てた。
その人物は夜になって周りが暗くなっているというのに、街の高台から足を投げ出してボーッと光る街並みを見下ろしていた。
その横顔は何かを憂いている様な表情であった。
「ニャニャ!!(スノウ!!)」
ジューダスが精一杯鳴けば、スノウはふと我に返ったように顔を上げ、声のした方を見遣った。
するとスノウは猫の姿のジューダスを見て、困った顔をさせた。
「……レディか…。駄目じゃないか……こんな所まで来て。危ないよ?」
「ニャニャニャニャ。ニャーニャニャ?(お前を一人にさせるか。そう約束しただろう?)」
「ほら、お帰り?」
スノウはその場で指をパチンと弾く。
するとジューダスの体は急に浮遊感に襲われ、次の瞬間宿屋へと戻っている事に気付いた。
再び戻ってきた事にジューダスが愕然とし、ジューダスの気配が近くなった事に驚いたシャルティエまでもコアクリスタルを明滅させていた。
『えぇ?!坊ちゃん?!どうしたんですか、急に現れて!』
「ニャニャニャニャーニャニャ。(スノウの奴が術でここまで飛ばしたんだ!何も話が出来ていないというのに…!)」
『スノウ、大丈夫でした?元気そうならそれで安心なんですが…。』
「……ニャニャ。(……少し憂いている感じはした。)」
『それなら尚更もう一度行かないとですね!坊ちゃん!』
「ニャー。ニャーニャニャ。(あぁ。もう一度行ってくる。)」
ジューダスは少しの隙間だけ開けられた扉を潜り、再びあの場所を目指す。
先程スノウが憂いていた、あの場所へと。
「ニャニャ!(スノウ!)」
「……。」
ジューダスの鳴き声が聞こえた瞬間、スノウは顔だけジューダスへ向けて指同士を合わせる。
そしてジューダスが「やめろ」という前に、残酷に指をパチンと鳴らした。
「……。」
そうしてジューダスはまた宿屋へと戻っていて、振り出しに戻ったのだった。
こうなったら声も出さずに静かに忍び寄るしか方法は無い。
ジューダスは再び隙間を通り、宿屋の扉を潜るとあの場所へと駆け出す。
憂いている彼女の元へと急がなければ、と半ば使命感のようなものを感じていた。
しかし、ジューダスが辿り着いた場所にはスノウは居なかった。
慌てるジューダスは四方八方を見渡したが、一向にスノウの姿が見えない。
仕方なくしばらく探すことにしたジューダスは、そのまま道なりに足を進めてみる。
するとそこには何処かへ向かうスノウの背中が見えた。
静かに駆け出し、その小さな背中へとジャンプを決め込んだジューダスだったが、急な事で驚いたスノウによって落ちそうになり慌てて爪を立てた。
「おっと…!」
咄嗟に背中へと手を回したスノウの手によって落下を回避したジューダスは、少しばかり安堵の息を吐き出した。
そのままつままれた猫の様に背中から正面に持って来られたジューダスは、スノウの瞳をジッと見つめる。
お願いだから何処にも飛ばさないでくれ。とそういう気持ちを込めて。
「……はぁ。全く、君は…。こんな夜中に一人で外に出たら危ないだろう?」
「ニャニャニャニャ?(それはお前にも当てはまるが?)」
「ちゃんと宿屋で待ってるように言ったはずだよね?私。」
「ニャニャニャニャニャーニャニャ。(お前を一人にさせるものか。それに守ると言っただろう?)」
「……何だか、反抗されてる気がする…。」
「ニャ。(ふん。当然だ。)」
街明かりで照らされたスノウの顔は徐々に諦めの顔になっていく。
しかしスノウはジューダスを地面へ下ろすと、反対の方を向いてしまった。
ジューダスが顔を見ようとしたが、それを察してか、スノウがまた違う方を向く。それの繰り返しだった。
「…ちゃんと宿屋へ戻るから。先に帰っててくれないかな。」
聞こえた言葉は拒絶の言葉。
初めて聞くスノウの拒絶に、ジューダスは体を固くする。
そしてスノウが歩き出したのを見て、ジューダスも慌てて歩きだそうとした。
しかし、
「___テレポーテーション。」
指を鳴らすでもなく、あからさまに詠唱したその言葉を聞いてジューダスが悲しい顔をする。
そして結局、宿屋へと戻ってきたのだった。
しかし、そんなことで諦めるジューダスではない。
再び外へ駆け出せば、先程の場所の近くを探し、居なければまた別の場所を探した。
鳴き声はあげず、ただ静かに探していく。
すると道の端で片膝の上に額を乗せ、俯いているスノウがいた。
慌てて近寄ったジューダスだったが、どうやら寝ているようである。
こんな夜に、こんなところで寝ていたら風邪を引いてしまう、とジューダスがそっと体を擦り寄らせれば、その瞬間ジューダスの体はビクッと反応する。
スノウの体が異常に冷たかったのだ。
思わずヒュッと喉を鳴らしたジューダスは慌ててスノウの体を温めようとする。
そしてちらりと彼女の口元を確認した。
「(息はしている…。だが、夜の寒さで体が冷えているんだ…!)」
起こそうとしたが、その声は喉元まで来て止まる。
もしこれで起こそうものなら、また宿屋に飛ばされてしまい本末転倒だ。
なら、今できる最大のことをするしかない。
ジューダスはなるべく体を引っ付けては彼女を温めようと努力する。
しかし猫の姿となり、小さくなった今の体ではその努力も微々たるものであった。
悔しさで目をギュッと閉じたその時だった。
「………あたた…かい…。」
「!!」
その温もりの正体を探そうとしているのか、だらりと下がっていたほうの手が手探りで動き出す。
それがジューダスの体に触れた瞬間、あまりの冷たさにジューダスが体を無意識に震わせた。
しかし、それがいけなかったのだ。
「っ?!!!」
その震えた体のお陰で一瞬にして目を覚ましたスノウが、ジューダスから距離を取ろうと立ち上がり瞬時に後退する。
しまった、と思うよりも先にスノウがジューダスを見つけ、怯えた表情を見せた。
「(何故、そんな顔をする…?何に怯えてるんだ?スノウ…。)」
「はぁっ、はぁっ…。君か…。はぁ…。」
呼吸を落ち着かせたスノウは一度下を向くと、ジューダスとは反対を向いてしまう。
そして残酷な一言を残した。
「…君にはホワイトデーが終わるまで会えない。だから、ごめんけど…帰ってくれ。」
「ニャ───」
無情にも響いた指の音で、ジューダスは再び宿へと戻ってきていた。
落ち込んだ様子のジューダスを発見し、シャルティエが不穏な空気と共にコアクリスタルにぼんやりと光を灯す。
あぁ、うまくいかなかったのか。…と。
しかし、そんなシャルティエの予想とは違い、今度は落ち込んだ様子ではなく何かとてつもない感情がメラメラと燃えている気がして、コアクリスタルを明滅させる羽目になったシャルティエは、そっと窺うようにジューダスを見る。
そこには闘志を燃やしたマスターの姿があった。
『ぼ、坊ちゃん…?』
「ニャニャ…!!ニャニャッニャニャーニャ…!!!(あの阿呆め…!!今度会ったらただじゃすまさん…!!!)」
『え、えっと…。そうです…ね…?』
「ニャニャ(何がホワイトデーが終わるまでは会えない、だ…!!そんなもの、我慢できるか!!!)」
『…えっと、はい…。』
ジューダスの圧倒的な熱量を前にして、シャルティエの言葉数も減っていく。
というよりも、どう声を掛けるか迷っているのである。
そうして、メラメラ燃えたジューダスに声をかけることもなく、扉を潜って行ったマスターをただ静かに見届けたシャルティエだった。
。o○゚+.。o○゚+.。o○゚+.。o○゚+.。o○+.。o○゚+.。o○+.。o○+.。o○
___次の日。
結局その日にスノウを探し出すことは出来なかったジューダス。
しかし昨日の状態の彼と同じく…
「ニャニャ…。(今日こそ…!)」
意気込んで朝早くから探すジューダスの瞳には闘志が宿っていた。
絶対に見つけ出してやる、といったそんな瞳だ。
目を光らせ、ジューダスが街の隅から隅まで探しているとふと思ったことがある。
"まさかだが、屋根の上に居たりしないよな?"────ということに。
こんなにしてまで探し出せないということは、一人屋根の上で高みの見物をしているというのも今なら有り得てしまう。
ジューダスは高く跳び、屋根の上へ上がる。
そうしてまた駆け出せば、なんとこの街の一番高い教会の屋根の上にスノウはいた。
それもいい天気ということもあり、スノウは屋根の上で安らかな寝息をして完全に寝ていた。
ポカポカする屋根の上だからこそ、眠くなったのだろうが…。
「(こんな所で寝ていたら落ちるぞ…。)」
探し出せたことで安堵したことも相まって、ジューダスはその場でそっと呆れたため息を吐き、そしてゆっくりとスノウの近くに寄ったジューダスは寝ている彼女の顔を覗き込む。
そこには少しだけくまを残した顔をし、どこか疲れも感じさせるような、そんな顔をジューダスは見つめていた。
心配していた体に触れてみれば昨日の夜とは違い、お日さまの暖かさでポカポカと温まっている体に安心してスノウのお腹の上にそっと乗った。
そしてゆっくりと丸くなり、ジューダスも目を閉じた。
…昨日から探して、少しだけ疲れた。だから今は…
「(…少しだけ、寝かせてくれ。)」
そう思いながら、夢の中へと旅立っていった。
そうして数十分経てば、先に起きたのはスノウの方だった。
お腹の上に何か重いものを感じ、ふと目を開ける。
眠たい瞼を無理矢理押し上げ、顔だけを上げればそこには気持ちよさそうにして自分のお腹の上で寝る黒猫が居た。
瞳の色が確認できない為に、これが猫になったジューダスなのか、それともただの野生の猫なのか見当もつかないスノウは「はぁ…」とため息をつく。
だが、スノウの中ではもう確信していた。
これはきっと、私を追いかけてきた"ジューダス"なのだろう。…と。
頭を元に戻して眩しい光を遮るように腕を目の前に宛がうと、余計にお腹の上の存在が誇示してくる気がした。
しかしまさか、ここが見つかるとは思っていなかった。
一番高い場所だったため、下からは絶対に見えない。
だからこそここを選んだというのに…。彼には全てお見通しのようである。
「(あぁ…駄目だ…。こんな近くにいられると…………触りたくなる。)」
スノウがジューダスを避けていた理由は、"彼に嫌われたくなかったから"だ。
スノウが触れた時、怖がるように体を硬直させていたジューダス。
そしてすりすりとその暖かさを堪能するように擦り寄れば、逃げていかれる始末。
嫌がる行動しかしていない自分に辟易しながら、無闇に触らないように、触れないようにと自制の意味を込めて彼を避けていたのだ。
「(あぁ…温かい、な…?猫の体温って、こんなに高いんだ…。)」
ペットを飼ったことのないスノウからすれば、それは不思議だと思う要因でもあり、目の前の存在が酷く愛おしく、そして可愛いから触れたくなる要因でもある。
猫吸いというのも地球では流行っていたが、……今やろうものなら絶対に嫌われるのは目に見えている。
嫌われたくないが、目の前にいられると我慢できなくなるのだ。
可愛いものに目がないからこそ、というのが心情であった。
「(あぁぁぁぁぁ…駄目だ駄目だ…!触りたい…!!こんなに可愛いものを前にしてお預けを食らうなんて…まっぴらゴメンだ…!!!!)」
それがジューダスだと分かっているからこそ、余計に可愛いと思えるわけで。
昔見た、夢小説のようで胸が高鳴ったのを覚えている。
しかしそのよくある夢小説のように、仕方なく触らせてくれる彼がいるわけでもない。
逆に何の許可もなく触ってしまい、怖がらせてしまったタイプなのだ。
もう後戻りなど出来はしない。
スノウの手は徐々に寝ているジューダスの方へと伸びていく。
しかしその手を止めさせて、我慢をしようとしたが…無理そうである。
こうなったらジューダスを退けて、さっさと別の場所で別の猫を探してモフモフしたほうがまだ効率的である。
スノウは遂に我慢の限界を越え、ガッとジューダスを掴むと屋根に乗せて魔法を使いすぐさまその場から消えた。
そして念願が叶う。
魔法で飛んだ先、目の前に……可愛いネコが居た。
思わず近くへ寄って、抱き上げればその猫は大人しくされるがままである。
「うわぁぁぁぁ…!可愛い…!!」
あぁ、我慢の限界であった。
ジューダスと言う猫に触れられないのならせめて別の猫で代用するという作戦は、意外にもスノウの心を穏やかにさせた。
なめらかな毛並みを堪能するがごとく、頬でスリスリしていると向こうの方からもすり寄ってくれて……正直、感動した。
涙を流すのではという勢いで感動したスノウは、そのまま暫くその猫を堪能したのであった。
。o○゚+.。o○゚+.。o○゚+.。o○゚+.。o○+.。o○゚+.。o○+.。o○+.。o○
何か動く気配で目が覚めたジューダス。
それは屋根の上で寝ていたスノウだったことは確実だった。
目を開けずに寝たふりをしていたジューダスは、近くにスノウの手が忍び寄ってきたことに気付いた。
しかしそれは止まってしまい、ジューダスに触れることもない。
片目だけ開けたジューダスは近くにあった手を見て、少しだけ期待する。しかしその期待もすぐに失ってしまった。
まるで、自分に触るのを迷っているかのように揺れ動く手がそこにはあったからだ。
それを見て起き上がろうとしたジューダスだったが、まさか急に強く掴まれて屋根の上に置かれるとは思っておらず、急なことで驚いたジューダスは慌てて目を開けてスノウを見上げたはずだった。
しかしそこにはスノウの姿など無かった。
またしても逃げられた、とジューダスはがっかりした様子で肩を落とす。
また探さなければならなくなってしまった、とその場で項垂れていたジューダスだったが、すぐに気を持ち直しスノウを探しに出かける。
行く人行く人に見られ、時折子供に追いかけられながらも苦労して探したジューダスは、ようやく念願の人物を見つける。
…しかし、そこにいたのは自分とは違う別の猫を可愛がっているスノウだった。
嬉しそうに猫の顔へ頬を擦り寄らせ、まるでその猫の体温を堪能するかのように抱き上げた体を大事そうに抱きしめる彼女が居たのだ。
それに嫉妬しないはずもない。
一瞬にして黒い感情が腹の底から湧き上がったジューダスは、その可愛がられている猫を睨みつける。
するとその猫はジューダスに気づくと、ニヤリとジューダスを嘲笑い、そしてわざとらしくスノウの頬を舌で舐めていた。
「~~~っ!! うぅ…!君だけだよ…!!私がこうやっても逃げないのは…!!もう持って帰りたいくらいだよ…!!」
「にゃ~。」
「可愛いっ…!!!」
感動したような声でギュッと猫を抱きしめたスノウ。
そして反対に、抱かれた猫は挑発的な顔でジューダスを見下ろしていた。
ピクピクと頬を引きつらせたジューダスは、この街の自然区でもあるこの公園の椅子に座って猫を堪能するスノウにひと鳴き浴びせる。
「ニャニャ!!!(スノウ!!!)」
「ん?」
その声で我に返ったスノウが、椅子の下にいたジューダスに気づく。
するとバッとジューダスから離れ、またしても怯えた顔をする。
それにジューダスは怒りを示した。
「ニャニャッニャニャー!?(何故、僕を見て怯える!?何故僕を避ける!?)」
「……。」
しかし言葉がわからないスノウにそんな事を言っても無意味である。
勝ち誇ったような顔を見せる猫に対して、まだスノウは恐怖の眼差しをジューダスへ向けていた。
そして固まったスノウをほぐすように、抱いていた猫がスノウの頬を舐める。
それを見て、幾ばくか安心したような顔を見せたスノウ。
だがそれも、ジューダスの怒りのボルテージを上げるには十分な要因だった。
それは自分の役目なのに。
彼女を温めるのは自分の役目なのに。
彼女を夢中にさせるのは自分だけであってほしいのに。
そんな気持ちがグチャグチャになってジューダスを襲う。
遂にはジューダスの瞳から少しだけ涙が溢れる。
「…! レディ…?」
「(言葉が通じれば、こんな思いもせずに済んだというのに…。全ては猫になってからだ、こんな苦しい思いをする羽目になったのは…!僕を、僕だけを見てほしいのに…!!なぜこんなにも、通じない…?)」
猫姿のジューダスが泣いた事で、スノウが慌てだす。
今抱いている猫を下ろし、慌ててジューダスのそばに寄って背中を擦ろうとしたが、その手は途中で止まってしまう。
触れたら嫌われないか、また嫌がられないだろうか、とそればかりを気にしてしまって。
するとジューダスはそんなスノウの手に思い切って擦り寄っていく。
"思いが伝われ"────その一心で。
「…ごめん、レディ…。君を泣かせるつもりじゃなかったんだ…。」
流石に自ら擦り寄ってきてくれたジューダスを見て、スノウがそっとジューダスを持ち上げる。
「…そして、君を怖がらせるつもりもなかった…。…怖かったんだ。君に嫌われるのが…。あんなに嫌そうに逃げていったから、触れられるのが好きじゃないかと思って…。それに触れたことで嫌われたら、と思ったら…君に触れるのが怖くて…。でも、君が猫になったことで余計に触れたくて、触れたくなって…我慢できなくなるんだ。だから、見なければ我慢できると思ったんだ…。」
「(あぁ…そう言う理由だったのか…。原因は僕にあった、というわけか…。)」
涙をひとつ流しながらジューダスはスノウの瞳を見た。
まだ恐怖の色を湛えているものの、それでもさっきよりは幾許か良くなっている。
そっと恐る恐る抱きしめたスノウに、ジューダスもスノウに擦り寄る形で思いを伝える。
怖くない、大丈夫だから。────そんな意味を込めて。
「(………待て。この臭い…腹が立つな。)」
彼女から匂うのは、彼女自身の香りと一緒になって先程の猫の匂いも移って混じり合っている匂いだ。
それに一瞬にして涙が引っ込み、再び嫉妬の嵐に見舞われたジューダスは、スノウの足元であざとく鳴く猫を見下ろし、睨みつけた。
するとその猫もジューダスを見て、毛を逆立てて威嚇をする。
「え、えっと…?」
先程まであんなに愛らしく擦り寄ってきたのに、いきなり毛を逆立ててきた猫に困惑するスノウを見て、いい気味だとジューダスがほくそ笑めば、その猫は怒り狂った顔をしてジューダスを見る。
そしてジューダスを攻撃しようとスノウの足に爪を立て、跳ぶ準備をした。
「いたっ…!」
「!!!」
ジューダスが慌てて降りて、スノウの足に爪を立てる猫を引っ掻く。
すると相手の猫も黙っていない。
高速猫パンチを繰り出そうとする猫を避けて、ジューダスの爪が閃く。
その爪が相手の体に入った途端、猫は走って逃げ帰っていった。
逃げ帰った猫の後ろ姿を見ながら「ふん」と鼻を鳴らしたジューダスを、スノウがポカンと見やる。
そして、思わずと言った感じでくすりと笑っていた。
「ははっ…!その仕草、本当に人間の時のレディを見ているみたいだよ。」
「ニャニャ。(当然だろう。僕は僕でしか無いのだから。)」
「そっか、そっか…。」
そうしてスノウはまたジューダスを持ち上げる。
そして優しく抱きしめた。
「嫌われない程度に触れるだけにするから、今は…今だけは抱きしめさせて?レディ。」
そう言って、スノウもまた泣き笑いのような顔でジューダスを抱きしめた。
それを見て大人しくされるがままになったジューダスだった。
そこからは宿に戻ったスノウ達を歓迎するかのようにシャルティエが待ち構えていて、何なら置き去りにされたことを恨んでいる様子でもあった。
そしてジューダスの気持ちをシャルティエを通じてスノウに伝えれば、スノウは驚いていた。
いくらでも触ってもいいし、いくらでも抱きしめて良いと聞いた時のスノウの顔と言ったら、面白かった。
ジューダスもシャルティエもその顔を見て苦笑いをこぼしたくらいだ。
感動したように口元を手で押さえて、ジューダスを見下ろすスノウといったら今までにないくらい嬉しそうだった。
そしてそこからは常にジューダスという黒猫を腕に抱え、嬉しそうに鼻歌を零すスノウがいた。
無論、そこにはシャルティエもいる。
ただひとつ違うのは、嫉妬に狂ったジューダスが他の猫の臭いを消すかのように、必死にスノウの頬を舐めていたことくらいである。
くすぐったそうにするスノウと、呆れた様子のシャルティエが見られたのはホワイトデーが終わるその日の零時までであった。
【嫌われたくなくて。】
___「…最高のホワイトデーだったなぁ?」
___「二度と猫になんてなるものか。」
___「でも君が頬を舐めてくれたときは、ちょっと感動した。」
___「……それは忘れろ。今すぐに。」
___「くすっ。忘れないよ?君との…大事な思い出だから。」
*スノウは〝猫好き?〟の称号を手に入れた。
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ハッピーホワイトデー。
皆さんいかがお過ごしでしょうか?
管理人です。
もうすぐホワイトデーということで慌てて書いたものになりますがいかがでしたでしょうか。
ジューダスかスノウが猫になるという構想は既にあったので、ここで使わせてもらいました。
なんだか盛りだくさんな話でしたね。
皆さんもホワイトデーが返ってくることを祈ってます。
(管理人は帰ってきませんでした。)
管理人・エア
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