カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
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「「「「お疲れー!」」」」
コップを掲げ、乾杯したカイル達。
その中身はもちろんジュースであるが、今日の疲労を労うため一回乾杯したかったらしい。
スノウやジューダスも交じり、乾杯をすると一気にカイルがジュースを飲み干した。
「何か、こうしてみるとお酒飲んでるみたいでいいね!!」
「やっぱお前はまだまだ子供の発想だなぁ?」
「なんだよ、ロニ。一人だけお酒が飲めるからってさ!」
そう。ロニのコップの中身はお酒である。
成人済みの彼はいくらでもお酒を飲んでもいいからと、ここぞとばかりにお酒を飲む彼にジューダスは鼻で笑い、ナナリーは心配そうに彼を見ていた。
私は皆と同じジュースだけどゆっくりとそれを飲んでいると、頼んでもないのにお代わりのジュースがテーブルに運ばれてくる。
カイルが嬉しそうに受け取りすぐにそれを飲み干すので、他の仲間達もジュースを受け取ってゆっくりと口に運んでいた。
そして今日の出来事を話したりして、食事をして、皆で同じ時間と空間を過ごしていた。
そんな時だった。
「っ!」
ズキズキと頭が痛くなってきた。
あれ、おかしいな…。
今飲んでいたこれはお酒ではないのに…?
「…?」
頭を押さえる私を見てジューダスが目敏くそれを見つける。
そして小声で体調を聞いてきた。
「…頭が痛いのか?」
「…実はそうみたいなんだ。お酒なんて飲んでないのに…。」
「……。」
私が飲んでいたコップを持って微かに匂いを嗅ぐジューダスだったが、やはり酒ではなかったのか首を横に振った。
疲れてるんじゃないか、という彼の言葉に少しだけ疑問を持ったが、それよりも頭痛が先程から酷くなってきていた。
「っ、」
「おい、大丈夫か。」
「?? スノウ、大丈夫?」
カイルが不思議そうな顔で私を見てきたので何とかして取り繕ってあげたいが、どうやらそこまでする余裕が回せそうにない。
机に頭を伏せた私を見て、仲間達が慌てて立ち上がりアワアワとし始める。
ナナリーとジューダスだけは冷静で、水を持ってきて私の背中を摩ってくれるナナリーに苦しみながらお礼を言い、ジューダスはどうやら寝床の場所の手配をしてくれたようだ。
肩を貸してくれるようで、そのまま私はジューダスとナナリーの肩を借りて寝床へと向かうことになった。
「ーーっ!!」
「……。」
「ここまで酷い頭痛だと心配になるね…。一応医者に来てもらおうか。」
時折痛みで膝が折れる私を心配しながらベッドへと私を横にさせ、二人は医者の所へ向かうために部屋から出て行った。
部屋の向こう側では、カイル達が騒がないようにと年長者が釘を刺してくれていたみたいだが、頭痛が酷い私にそこまでの状況把握が出来なかった。
痛い…
頭が割れる様に痛い…!
私はそのあまりの痛みに意識を手放していた。
*:.。..。.:*●*:.。..。.:*○*:.。..。.:*●*:.。..。.:*○*:.。..。.:*●*:.。..。.:*○
翌日になって、私が起きるとおかしなことが起きていた。
何故かポカリと空いた白い空間に居る私。
目をぱちくりさせ、状況を把握しようと必死に努める。
だが、あまりにも見たこともない場所に頭を捻らせた。
昨日、あのまま宿屋のベッドで寝たはずなんだが…。
その上、昨日まであった酷い頭痛も治まっている。
どういうことだ…?
「おい!!見つかったか?!」
「ううん、居ないわ…!何処に行ったのかしら…?スノウ。」
ロニとリアラが慌てた声色で話しているのが聞こえる。それも頭上から。
ともかくこの白い空間を抜け出そうと歩いてみれば、床はいやに柔らかく歩きづらい。
まるでベッドのような弾力……。
そこまで思った私はふと勘付いたことがある。
昨日、ジューダス達に連れられベッドに寝かせられたところまで覚えているし、そのままベッドで寝たことも覚えている。
そしてこの床の感触…と見上げれば白い布のような天井…。
もしかして…
「体が小さくなってる…とか?」
いや、そんなまさか。
流石に小説の読み過ぎだろう。
あの白い布のような天井が布団で、床がベッドだなんて…そんな…。
私がそんなことを思っていると再び頭上から声が聞こえる。
「…昨日、あんなに苦しんでいたのに急に何処かに行くだろうか?」
『でも、何処にもいませんよ?ベッドにもいない以上どこかに行ったと考える方が妥当だと思いますが…。』
「全く…あいつは相談もなしに毎回毎回…。」
『〈赤眼の蜘蛛〉に攫われてないといいですけど…。心配ですね…、もう一度この周辺を探しましょう!』
いや、私はここに…。
慌てて走り、この白い空間を脱出する。
すると開けた空間はやはり想像していた通りで、何もかもが私にとっては巨大だった。
机も、ベッドも、人も……全てが大きく感じる。
「おーい!」
大きな大きなジューダスに向けて声を張り上げるが、小さな私の声なんて蚊のような音だろう。
全く聞こえていない。
このままでは気付いてもらえず、皆が心配して別の場所に行ってしまうかもしれない。
それだけは困る、非常に。
何か大きな音がするものがないか…。
辺りを見渡したがそんな都合の良い道具がそこらへんに落ちているはずもなく、そして恐らく人の小指ほどの小ささになった私にそんなピッタリなアイテムなどある訳もない。
何処かに向かおうとするジューダスにもう一度声を掛けたが、本当に聞こえていない。
「っ、」
どうしよう。
このままでは私は永遠に行方不明扱いだ。
というか、こうなった経緯を考えて元に戻した方が圧倒的に効率的だと思った。
でも、それでも…
「…気付いて…!ジューダスっ!!!」
「???」
何かに気付いたようにジューダスが振り返った。
それにどれだけ私が安心したか。
「……は?」
『どうしました?坊ちゃん……って、えええええ??!!』
小さくなった私を見た二人は驚きの声を上げ、目を見張った。
そしてジューダスは恐る恐る近付いて、私を見つめた。
「お前…」
「はあ…。気付いてくれたか…。良かった…。」
あまりにも安堵してその場に座り込んだ私を見て、ジューダスが少しだけ思案してゆっくりと私の方へ手を近づけた。
だが、私からするとジューダスの手はあまりにも大きい。
思わず体が硬直してしまうのは仕方ないと思う。
硬直した私を見て僅かに手を戻したジューダスだったが、今度は手のひらを上に向けた状態でベッドに置いた。
「??」
「来い、スノウ。いつまでもそこに居れないだろう。」
恐る恐る彼の手のひらに足を乗せた私はそのまま掌の中央の方へと歩を進める。
優しい彼だから、ゆっくりとそのまま手を上げ移動させると、机の方へと私を誘導させた。
『こんなこと言うのもなんですけど…ちっちゃくて可愛いですね…。』
「……頭痛は?」
「頭痛は起きた時から治まってたんだ。昨日あんなに痛かったのにね?」
「状況は良くないが、取り敢えずあの酷そうな頭痛が治ったならいい。問題はどうして小さくなったか、だが…。」
そこなんだよなぁ?
私にも何が何だかさっぱり分からなくて困ってるんだ。
そう伝えれば彼も思案するような仕草をし、目を閉じた。
シャルティエも頑張って考えてくれているのか、コアクリスタルをぼんやりと光らせた。
しかしお互い、何も思いつかないので取り敢えず私を探してくれているらしい他の人たちをジューダスが呼んできてくれるらしい。
外の風で吹き飛んでまた行方不明になってもいけないので、私はこのまま机の上でお留守番することになった。
心配そうに私を見たジューダスだが、すぐ戻ると言って扉向こうへ消えていった。
「しっかし…、全てが大きいな…?」
机の上にあるこの鉛筆でさえ私が持つには全身で支えないとダメだろう。
そう思うと小さくなるって不便だな…。
……いや、なりたくてなった訳ではないが…。
そんな時、部屋の扉が開く音がして「流石ジューダス、早いな」なんて思った私が馬鹿だった。
扉の方を向くと見知らぬ男性がこちらを見て、下卑た笑いを浮かべていた。
「っ!?」
いや、知らない人なんかじゃない…!
昨日、私たちが居るテーブルにジュースを運んできたおじさんだ。
もしかして、あのジュース…薬が盛ってあったのか…?!
私は思わず後退した。
あまりにも気持ちの悪い笑いを浮かべていたから咄嗟に命の危険を感じたのだ。
男性はツカツカと何の躊躇もなくこちらに歩み寄ると、私を見てほくそ笑んだ。
「薬の効果は成功だな…!」
「やっぱりか…!!」
あんなに酷い頭痛だったのだ。
薬の影響ならば副作用でもなんでも起きるから、何もおかしくはないのだ。
男性は無造作に私を掴むとそのまま私を透明な小瓶の中に入れ、キュッとコルクで蓋をした。
それに慌てて私はガラスの小瓶を叩く。
ちょ、理解が追いつかない…!
何故こんなことを…?!
小瓶の素材がガラスなだけあって、私の拳ではビクともしない。
このままじゃ、何処かに連れて行かれる!
それは流石にまずい…!
何とかして今の状況をジューダス達に知らせられないだろうか。
「出して!!」
「ヘッヘッヘ…。悪く思うなよ?」
自分の顔の前に小瓶を持っていき、再び下卑た笑いを浮かべる男性。
流石にこんなに間近でそんな笑いをされれば、誰だって身震いすると思う。
私が思わず身震いをすると余計に男性は嬉しそうな顔になる。
…特殊性癖の持ち主か。厄介な…。
ガチャ
「連れてきたぞ…、って、貴様っ、何をしている?!!」
「ジューダス!!」
ジューダスが小瓶に入れられた私を視認して目を丸くし、男性を睨みつけた。
私の方も逃げ出そうと小瓶を叩くが、やはりビクともしない。
「チッ、邪魔が入ったな。」
男性はそのまま小瓶をポケットに突っ込むと、窓へと向かい、これまた派手に窓へ突っ込んでいった。
ポケットの中から見えていたわけじゃないが、ガラスの割れる音がしたから恐らくそうかもしれない。
何が何だか分からないまま、私は男性に連れて行かれるのだった。
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どれほど時間が経っただろう。
一向にポケットから出れる気配がなく、その上、揺られる小瓶の中、私は必死に体を安定させようとしていた。
あまりにも男性が激しく走るから、小瓶の中までそれが影響しているのだ。
身体が浮いたり、小瓶に当たったりして痛い。
……段々、気持ち悪くなってきた。
これが乗り物酔いか……。ジューダスの気持ちが今、ようやく分かるようになってきた…。
今まで優しくしていたつもりだが、今後はもっと優しくしよう、うん。
気持ち悪さにそのまま何もせずぐったりしていると、急に振動が無くなり思わず期待した。
彼らが助けてくれたのだろうか、と。
しかし現実はそう上手くいかなかった。
急に明るいところに出されて、しかもぐったりしている私に日の光という刺激はかなり辛い。
思わず腕を顔の前に持っていき、光に慣れてようやく顔を上げるとそこは見知らぬ場所だった。
コトリと優しくテーブルに置かれた小瓶。
そして目の前にはあの男性の顔……。
私は戦慄した。
身体が無性に震える。
もう知らない土地なのか、ここが何処なのか、私はこれからどうなるんだろう、とか……色々なことが頭に回り始めて、そして恐怖を抱いた。
そんな私を見て男性は喜ぶ。
あぁ、震えてはこの男性を喜ばせるだけなのに、どうしても体の震えが止まらない。
いや、ここは解決策を考えるべきなんだ。
いつもしているそれを実行しようとするも、何故だろう……出来ない。
小瓶に顔を近づける男性に嫌悪感を抱き、咄嗟に後ろに下がったが、すぐ小瓶のガラスに背中が当たってしまう。
じっと見つめてくる大きな瞳に耐えられなくて、私は顔を手で覆い隠し、しゃがみこんだ。
これでは男性の思う壺だ。
私を怖がらせたいだけに決まっている。
だから顔を上げなくては。
「ヘッヘッヘ…。怖いかい?お嬢ちゃん。怖くて怖くて堪らないかい?」
「………。」
「顔を見せてくれよ?どんな顔してるんだい?うん?」
「……。」
このまま、このままでいよう。
男性に顔を見せたら終わりだと思え。
私はそのまましゃがんで顔を見せないようにずっと手で覆った。
いつかは諦めてくれる。
そう願って。
「……。」
物音がしない。
あの男性はもうどこかに行っただろうか。
いつのまにか体の震えは止まっていて、少しだけ考える余裕が出来た。
…今頃、きっと彼らが私の事を捜してくれているはずだ。
私もここから逃げ出さないと、何をされるか分かったものじゃない。
それにあんな下卑た笑いをして、人を怖がらせようとする男性の傍になんていたくない。
そうと分かればここを脱出しよう。
まずは銃杖でこのガラスを壊して…。
私が顔を上げるとそこには男性の姿はなく、代わりに黒猫が私を見つめていた。
ここの家のペットだろうか。
それにしても大人しいな、と思っていると黒猫はニャア、と一声鳴き小瓶の上の部分を口に咥え始めた。
「え?ちょ、」
そのまま何事もなかったかのように黒猫は颯爽と歩き、テーブルを降りると扉を潜り抜けた。
あれ、もしかしたらこのまま外に出れるのでは?
そんな浅はかな考えを持ったが、どうやら当たりのようで何事もなく簡単にこの男性の家を出る事が出来た。
そのまま咥えられ、移動する黒猫は果たしてどこに連れて行ってくれるのやら…。
為すがままその状態で居ると、向こうの方にリアラを発見する。
必死に探している様子のリアラに私は思わず声を出す。
「!! 猫さん…!ここで降ろしてー…!」
しかし私の願いも虚しく、黒猫はそのまま小瓶を咥えたまま何処かへ歩いていく。
そして無情にもリアラがその横を通り過ぎていくのを、ガクリと肩を落として落ち込んだ。
「あーー…。そう、上手くはいかないか…。」
ですよねー…?
猫は気まぐれともいうしね?
ガックリと項垂れていると、今度は運良くカイルを発見する。
しかし、また黒猫さんがその横を通り過ぎてしまい、また肩を落とした。
こうなったらこの厄介な小瓶を割りたいが…、銃杖を使えばこの猫にガラスの破片が飛んでしまって、危害を加えてしまうかもしれない。
折角あそこから出してくれて感謝しているのに、そんな酷い事はしたくない。
結局私はそのまま黒猫の気まぐれに付き合うことになってしまい、気付いた時には辺りがもう暗くなってしまっていた。
「……おーい、猫さーん?少し休憩しないかい?」
声を掛けてみるも駄目そうだ。
しかし、あそこのペットならばもしかしてこのままあの家に戻ったりしないよね?
なんて物騒な事が頭の中で浮かんでしまい、一瞬にして冷や汗が流れる。
いやいやいや…。それは困る。
一番良いのはここで猫さんがこの小瓶を捨ててくれることなんだが…。
ふと、鳥の鳴き声がして外の方へ目を凝らすと、いつの間にやら黒猫vs鳥の戦いになっていた。
小瓶を咥えた猫の猫パンチが炸裂する。しかし鳥もそれを軽々と避け、つつく攻撃に切り替えたー…って、どうなってんのよ?!
何でこんなことになった?
猫と鳥ってそんなに相性悪かったっけ?
暫く両者の攻防が続く中、猫が遂に諦めたのか小瓶を手放してくれる。
カラカラと横に転がるお陰で、中に居る私も転がる羽目になってしまったが好都合だ。
急いで銃杖の準備をしたが、今度は鳥が足で小瓶を掴み、飛び立ってしまったではないか。
「ええ?!待って、鳥さん…!!」
今度はそのまま鳥に連れて行かれる羽目になり、またしても重なる疲労で私はぐったりと体をガラスに預ける。
……いつになったら皆の所に帰れるのだろう…。
私は呆然と空を飛んでいる景色を見ながら、そのまま溜息を吐いたのだった…。
◇◆゚+..+゚゚+..+゚゚+..+゚+..+゚゚+..+゚◆◇
結局夜のうちに鳥の巣に連れて行かれた私は何故か卵たちの中心に置かれていた。
…卵にしては小さいと思わないのかな。
その証拠に周りにある鳥の卵は私よりもデカい…。
もしかして餌として連れてこられた、とか?
いや…でも鳥は、卵から孵った後に親鳥が餌を取りに行く習性を持っていたはずだ。
生まれてないのに餌を連れてくるか…?
なら何故ここに連れてこられたのだろう……。
度重なる謎と、容赦なく小瓶に叩きつけられ痛む体に私は酷い疲労を感じていた。
「……一旦、寝よう。…うん。」
私は諦めて寝る事にした。
そのまま横になり目を閉じるが夜は冷える分、やはり寒い。
でも、周りのたまごが僅かに放熱してくれてるから寒すぎるとまではいかない。
我慢だ、我慢…。
私は強引に目を瞑り、眠りに入った。
翌日、日の光が当たるころ…。
私は目を覚まし、体を起こした。
しかし、体中が痛んですぐに顔を顰める。
……特に左腕が痛い。
昨日は気を張っていたから痛みに気付かなかったが、どうやら至る所に打ち身をしているらしい。
その上、おとといの夜から何も食べてないのもあって、空腹もある。
思考回路が朧げになってしまうのも、無理ない気がした。
「あー…。このまま行くと餓死だな…。」
それだけは嫌だ。
せめてもっといい死に方をしたいものだ。
痛む身体を𠮟咤し、体を起こすと目の前に広がる不可解な出来事を感じ取ってしまった。
「………たまごは?」
昨日あれほど小瓶の周辺にはたまごが複数あったのに、それが一つも存在していない。
それに、この巣の中にはあのたまごの殻だけ残っている。
……あぁ、もしかして巣立ったのだろうか?
「……あんな短時間に…?しかも夜中に…?」
おかしい、おかしいと思うのに思考回路が働かない。
何か見落としている気がする。
大事な、何かを……。
「…………は、」
そしてそんな思考途中の私の目の前に現れたのが、大きな蛇だった。
……そうか、これでようやく分かった。
蛇は木の上にある鳥の巣へやってきては、鳥の卵を食べてしまうと聞いたことがある。
つまり、周りにあるこのたまごの殻は全てこの蛇が食べた残骸なのだ、と。
__瞬間。
蛇は急に小瓶に巻き付くとギリギリと力を入れ始める。
蛇の力は個体にもよるが、かなり強い。
相手を締め付けて気絶させなければならないから、それほど強い締め付け力を持っていると聞いた事がある。
当然、そんな強い力を四方八方から入れられガラスの小瓶はピシピシと悲鳴を上げ始めていた。
このままでは私もこの蛇の締めつけに巻き込まれて圧死してしまう!!
何故、もっと早く蛇がいた事に気付かなかったんだ!!私!!
バリンッ!!
ガラスが割れた瞬間襲ってくる蛇の尾を潜り抜け慌てて走る。
しかしここは木の枝の上である。
体が小さくなって木の枝が大きく見えるとはいえ、不安定な足場…。
その上ただの勘で走り、向かった先が悪かった。
枝の幹だったらどれほど良かったか。
私は枝の先端に向けて走っていたのだ。
当然、背後には大きな蛇が待ち構えている。
……もう逃げ場は無い。
無意識に痛い左腕を押えながら私は蛇に睨まれつつ、少しずつジリジリと後退していく。
もう後ろは無いのに、蛇が前進してくるので下がるしかないのだ。
こうなれば、戦うか……?
だが、こんな左腕で?
無意識に押さえる程痛むのだ。
もしかしたら…折れてるかもしれない。
「っ、」
でもやるしかないんだ。
銃杖を片手で構え、蛇に対峙したが蛇は一向に襲ってくる気配は無い。
だが、分かる……。
長い尾が徐々に動いていってる。
それも木の枝に巻き付きながら、こちらに。
後ろから巻きついてくる気なのか、いやに警戒心の強い蛇である。
「逃がしては…くれなさそうだね…?」
ふと下を見ればかなり地上まで距離があるように見えた。
これが普通の人の大きさならば、大丈夫だったかもしれないが、今の私のこの小さな体でこの高さは即死レベルだ。
あまりにも下を見すぎたか、ふらりと目眩がした。
そして私は運が悪い事に足を滑らせてしまったんだ。
慌てて両手で枝を掴んだが、左腕に負荷がかかると嫌な音を立て左腕が痛んだ。
「くっ?!うっ…!!!」
あまりの痛みに左手を離してしまい、残るは右手のみ。
だが、そんな中でも蛇は私を諦めてはくれないようで、好都合だとばかりその長い尾を私の体に巻き付かせようと伸ばしてきていた。
……蛇の圧迫死か、消化されて死ぬか、それともこのまま落ちて落下死か…。
どれをとっても最悪な最期である。
だが、もう逃げ場が無い。
片手で上に上がれるほど体力もなければ、空腹で力も出ない。
それに今ジリジリと落ちていってるのが分かる。
もう指が離れそうなんだ。
情けないことに、あまりにも力が入らなくて笑えてしまう。
そして___
「っ!?」
__私は木から落ちた。
その瞬間から何時ぞやと同じで、全てがスローモーションに見えた。
そして頭の中で、色々とフラッシュバックする記憶たち。
懐かしい記憶を見たからか、私の目から一雫の涙が零れ、空中に散開した。
だって、
あんなにも彼と約束をしたのに──
こんな所で、私が死ぬなんて思わなかった──
最期の時まで君の隣にいると、
最期まで君の隣で生きてみせると、
そう誓ったのに──
「っ、ごめんっ…!…ジューダスっっ…!!」
震える声で私は謝った。
私がそのまま落ちている最中、あまりにも私に都合が良い声が耳に届いてきた。
「スノウっ!!!!」
その瞬間、何かが私を包み込み、そして何かが着地した音が響いた。
衝撃が来るかと思いきや、それは暖かく優しいもので包まれていたので衝撃など皆無だった。
蓋が開いたように視界が開けると、そこには心配そうに見ているジューダスの顔があって、私は堪らず息を呑んだ。
だって、こんなタイミングで君が助けてくれるなんて、小説でしか読んだことがないよ。
「じゅ、だ…す……?」
「……ほっ。…大丈夫か、スノウ。」
『本当大丈夫ですか?!!坊ちゃんに潰されてません?!』
「人聞きの悪いことを言うな。シャル。」
途端にムッとしたジューダスだったが、私は呆然とその様子を見ていた。
まさか、あの状態から生きてるなんて誰が思うだろう。
「生き……てる…?」
「……っ。」
『スノウ……。』
目を見開いて驚いて、呆然としている私の目から大粒の涙が一つ一つ落ちて行く。
それを見て驚いたように目を見張ったジューダスは、次に苦しそうな表情を見せた。
「……すまない。遅くなった。」
「あり、がとう……ジューダ──」
痛みからか、生きていて安堵したからか、それとも彼の姿が見れたからか。
私は意識を失っていた。
.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*
町の人の話を聞いていると「鳥が小瓶を持って飛んでった」という目撃情報を得て、町でよく見かける、木だけが植えられている場所へと僕は出向いていた。
そこなら鳥の巣も沢山あるよと子供らが話していたからだ。
『居ないですねぇ…?本当、大丈夫でしょうか?スノウ。』
「もう2日目だからな…。流石に心配になってくる所だが…こうも見つからないとな……」
木の上を見ながら歩いているがそれらしき鳥の巣など見当たりはしない。
ここでは無かったか、と溜息を吐きそうになった瞬間、シャルの悲鳴じみた声が耳を劈く。
『坊ちゃんっ!!あそこっ!!!?』
「一体なんだ…。」
その声にうんざりしながら言われた方へと視線を向けると木の上で蛇と対峙しているスノウがいた。
左腕を庇っている様子でじりじりと後退している。
しかし後退しているその先は枝の先端部で、このまま行けば落ちるのが目に見えている。
僕は慌ててその木の近くへと寄るとスノウが足を滑らせたのが目に入り、ヒュッと喉が鳴った。
『ぼぼぼ坊ちゃんっ!!早く助けないとっ!!』
「分かっている!!」
その木に足をかけ一気にスノウが必死に掴んでいる枝の一個下まで登ると、じりじりと落ちているのが見えた。
左腕をあんなに庇っていたのだ。
左腕は使えない状態だとして、右腕だけで自重を支えるにはあまりにも無謀だった。
僕が近付こうとした矢先、スノウの指の力の限界が訪れ、音もなく落ちていくのが見えた。
慌てて手を伸ばすとスノウが何かを呟いた。
「っ、ごめんっ…!…ジューダスっっ…!!」
それを聞いた瞬間、僕は無意識に彼女の名前を叫んでいた。
そして必死に伸ばした手はスノウを捉え、上手く彼女をキャッチをし、手で彼女を守る様に覆った僕はそのまま木の下へ着地をした。
一瞬だけ力を入れてしまったが、潰れていないだろうか…。
僕は恐る恐る手を開いた。
そこには呆然とこちらを見る彼女の姿があった。
しかし、彼女の顔や手…見える範囲には痣の跡がたくさんあり、かなり痛々しい姿になっていた。
「じゅ、だ…す……?」
呆然と呟かれたそれに、ともかく無事で良かったと僕は安堵の息を吐いた。
「……ほっ。…大丈夫か、スノウ。」
『本当大丈夫ですか?!!坊ちゃんに潰されてません?!』
「人聞きの悪いことを言うな。シャル。」
なんて酷い言い方だ。
それではまるで僕が本当にそれをしたかのようではないか。
無意識に顔を歪めた僕だったが、未だ呆然とする小さな彼女を見ると僅かに口が動いていた。
「生き……てる…?」
「……っ。」
『スノウ……。』
目を見開いて呆然としている彼女の目から大粒の涙が一つ一つ落ちて行く。
ポツリと呟かれたその言葉も、彼女のその痛々しい姿も、ポトリポトリと僕の手に落ちてくる彼女の涙も……今の僕には胸が苦しくなるものばかりだ。
この二日で彼女にとっては相当辛い事ばかりが起きたのだろう。
いつも余裕そうな顔でいる彼女からは考えもしない、涙が溢れているのだから。
本当ならば抱き締めて慰めてやりたい。
だけど彼女のこの小さな体ではどうすることも出来ない。
その歯痒さに僕は顔を歪めていた。
「……すまない。遅くなった。」
「あり、がとう……ジューダ──」
お礼を言う彼女だったが、急に事切れたかのように僕の掌の上で倒れた。
慌てて僕は声を掛け、指を彼女の口元に近付けた。
「……息はしている。」
『ホッ…。本当に死んだのかと思いました……。』
二人で安堵の息を吐き彼女の様子を見ると、ふと袖から見える赤黒く腫れあがった左腕が目に入り、慌てて彼女の左腕の袖を捲り上げる。
そこには明らかな熱を持った腫れと先ほど見た赤黒い痣があって、その瞬間、僕は腹の底から黒い感情が湧き上がってくるのが分かった。
……もしかしたらあの男に暴力を振るわれたのかもしれない。
だからこんなにも彼女の至る所に痣があるんだ。
そう思ったら黒い感情が次々と湧き上がってきて、やり場のないその感情に思わず手に力を入れてしまった。
『坊ちゃん?!スノウを握り潰さないで下さいよ?!!』
「…っ!」
慌てて手のひらを広げ、彼女の無事を確認し息を吐いた。
…雪国出身の彼女の肌はあまりにも白い。
だからか、その痣たちはかなり浮き出て見える。
そっと袖を戻し、医者へ診せようと決断した僕はその場を後にしようとした。
「ジューダス!!」
例の男を捕まえたらしいカイル達が男を連れ、僕の所へ走ってきた。
その男を見た瞬間、僕は再び黒い感情に襲われる。
あいつの所為で彼女はこんなにも苦しんだんだ、と。
「体を元に戻す薬があるらしい!それを飲ませたら元に戻るんだそうだ!!」
「早くスノウに飲ませましょ?」
「……。」
「ジューダス…?」
『坊ちゃん。気持ちは分かりますが、今は抑えてください…。スノウが潰れちゃいます…。』
「……。…チッ。」
隠さず舌打ちをした僕は男の横を通り過ぎる。
カイル達も一瞬見たスノウの様子に息を呑んでいたが、何も言わずに僕を見送った。
早く、早く医者の所へ。
急く僕の背中を仲間達が不安そうに見ていた。
+o●*.。+o○*.。+o●*.。+o○*.。+o●*.。+o○*.。+o●*+.。o
あれから医者に診せた所、一番酷かった腕の痣部分は折れてはいないようで、それでも「骨にヒビが入ってるかもしれないので安静に」と言われた。
シーネ固定という、患部に木を当てグルグルと包帯で巻かれた左腕を見て、僕は堪らず目を逸らせた。
そしてこの二日間結局何も食べていない様子だった彼女は、本当ならば点滴をしなければならないのだが、今の彼女の小ささに合う点滴針が見つからない事から目を覚まして元に戻してから点滴をするという形をとることにした。
…早く目が覚めないと一刻を争う事もある、と医者から言われた時はカイル達同様、僕も気が気でなかった。
「……。」
カイル達が小さくなった彼女のために特別に作ったベッドがこんなに役に立つとは思いもしなかったが、そのベッドで彼女は未だ、目を覚まさない。
その事に僕は溜息をつく。
早く点滴をしないと彼女が餓死してしまう。
そう思うのに、彼女は一向に目を覚まさない。
『……早く目を覚ますといいですね。』
「…あぁ。」
こうしていても思い出すのは憎きあの男だ。
その例の男にあの後、何発か拳を入れてやってスッキリした僕は、その後から男を見ていない。
カイル達もかなりやっていたようだが、どうせそこら辺の憲兵にでも引き渡したのだろう。
カイル達の口からもあの男の話題が飛び出ることは無かった。
「……う、」
「!!」
呻く声が聞こえ、僕が顔を上げると目を覚ましている途中の彼女の姿を視認した。
僕はそれを見てすぐに医者の所へ向かった。
本当ならば誰か一人彼女の傍に付いていないと危ないが、そうも言っていられない。
医者を連れ、急がせた僕は彼女のいる部屋に急いで飛び込んだ。
目を丸くし、苦笑いした彼女に思わず泣きそうになる。
「…起きるのが遅い…。馬鹿…!」
「はは。ごめんよ?レディ?」
起き上がらずに苦笑いのままそう言った彼女は次に体を起こそうと試みようとしていたが、痛みに顔を歪ませ、そのまま敢え無く撃沈した。
「………力が入らない。」
「当たり前だ。何日食ってないと思っている。」
「ともかく体を元に戻しますから、これを飲んでくださいね。」
医者が渡した薬は彼女にとっては大きく、彼女の身体の半分近くを占めるそれを見て絶句していた。
「……え。これを……飲む?」
「はい。」
酷なこと言う医者に引き攣り笑いをしたスノウ。
しかし早く体を戻したいからか、頑張って起き上がった彼女はその薬を少しずつ噛んで口に入れていった。
流石に1/3…いや、1/5噛んだ辺りで嫌そうな顔になってくる。
まだ大きくならないのか、と彼女が医者に視線を向けるも医者は静かに首を振った。
仕方なく薬を口にしてどれくらい経っただろう、ようやく半分くらいまで食べ終えた彼女の体に変化が起こる。
「っ!!」
急に頭を押さえ、フラフラとする彼女に僕は目を見張る。
この頭痛…、あの時と同じだ…!
そのまま頭を押さえ、苦しみだす彼女に医者を見れば、医者はそのまま静かに頷いた。
恐らくこれが前兆だったのだろう。
彼女が倒れて意識が飛んだ瞬間、身体が見る見るうちに大きくなるので途中彼女の体を抱え、机から離れさせた。
そして医者がテキパキと点滴の準備をし出すので僕は近くにあった普通の大きさのベッドに彼女を下ろす。
「…これで餓死は免れたな。」
『良かったです…、本当に。』
その後は皆の想像通り、点滴をして元気になった彼女を連れ旅を続けている。
だが左腕はヒビが入っていて無理出来ないため、そこはカイル達からも強く言われている彼女は戦闘には参加せず、見守るだけにしていた。
「もう、薬は懲り懲りだよ…。」
彼女は元気になってから、皆にそう愚痴を零していた。
あの男は未だに許せないが、彼女が元気になったことが何より僕には安心出来た。
僕ももう薬は懲り懲りだ。
【不思議な薬の物語。】
「はぁ、今度から飲み物の差し入りには注意することにしよう…。 …?ジューダス?」
「……お前が生きていて良かった。」
「ジューダス…。ありがとう、助けてくれて。…あの時、すごく嬉しかったよ。」
「…ふん、当然だ。…馬鹿が。」