カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
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「今年もクリスマスが来たけど……オレ、スノウ達がいた所のクリスマスがもっと知りたいな!」
カイルが唐突にそんなことを言う。
去年のクリスマスよりも旅の仲間も大所帯になり、カイルが私と新たな仲間である修羅を見てそう言っていた。
そんな私達はお互いを見ては目を丸くさせていた。
同じ日本で生まれて、同じ日本で育った者同士だからクリスマスと言えど同じ文化圏でそうそう違いがあるはずもなく、私達は思い出す様に首を傾げていた。
「つってもな…?クリスマスって言ったらご馳走食って、プレゼント貰ったりあげたりして……」
「あ、知ってる!サンタさんって言うんでしょ?!去年、サンタさんからプレゼント貰ったんだ!」
「……は?」
純粋な顔は何もカイルだけでは無い。
リアラやナナリーまでもサンタを信じている事に修羅は驚いていた。
そんな修羅を見て苦笑いをしたスノウは、彼の肩を叩いた。
「……ちょっと、諸事情と言う物があってね…?」
「あー……なるほどな?」
小声で話しかけた私の言葉をすぐさま理解した修羅はニヤリと笑い、カイル達を見る。
それはそれは意地悪そうな顔付きで、だ。
「今年は良い子にしてたのか?ちゃんと良い子にしてないとサンタは来ないだろ?」
「うん!ちゃんと良い子にしてたよ!困ってる人を助けたり、オレの食事を分けてあげたりさ!」
「……おい、ちょっと待て? いつ? 誰が? メシを譲ったって?」
「ロニ!覚えてないの!?この間、お腹を空かせてる町のニワトリにオレのご飯を渋々あげたじゃん!」
「おいおい…それであげたことになんのか?善行が小さすぎるだろ!」
「なんだよ!ロニなんて今年何もしてないじゃん! ただ女の人を追い掛けてただけ───」
「シッ…!バカヤロウ…! あいつに聞こえてたらどうすんだよ…!?」
ロニの視線の先にはリアラと話すナナリーがいた。
なるほど、次にどうなるかは身を持って知っているらしいロニが、ナナリーに聞かれていないことに大きく息を吐いていた。
粗方の事情を知っている修羅でさえ、その行動に苦笑いをしているくらいだ。
「……ふん。」
「ははっ。」
「お前ら!笑うんじゃねえ!」
ロニが必死そうに話す中、海琉が“ご馳走”という言葉に修羅へと食ってかかった。
「ご馳走…!」
「あぁ……失敗した……。こいつ、ご飯の事となると食い付いてくるの忘れてたわ…。」
「ふふ、それほど人として健康だって事だよ。ね?海琉。」
「うん!ご飯は世界を救う…!」
「えらく大きく出たな……。」
「それ、オレも分かるよ!ご飯は人も動物も全て救ってくれるよね! ご飯を食べたら争いなんてなくなるもん。」
「二人に増えた…。」
助けてくれ、と言わんばかりに修羅が私の方をゲッソリとした顔で見る。
それに苦笑いをして応えてあげると、修羅が仕方ないと立ち直り再び考え出す。
きっと地球時代の事を思い出してるに違いないね?
「……そうだな。折角だから全員でご馳走でも作ってみるか。そしたらこの胃袋無限収納器二人も満足だろ。」
「それは良い考えだけど……。ふふっ…!“胃袋無限収納器”…ふふっ。」
「まぁ、あながち間違いではないな。」
「問題は、ご馳走を皆で食べる際にご飯がちゃんと机に並んでいるか、だよね?」
「その“胃袋無限収納器”が途中でつまみ食いさえしなければな。」
流石にそれは嫌なのか、ジューダスが険しい顔で二人を見つめる。
その肝心の二人はこちらの話も聞かずに、もう既に何を作るかの相談に入っており、実に微笑ましい。
「逆にあの二人が羨ましいよ。私なんて、もう歳だからそんなに食べられないしね?」
「お前は前世からだっただろうが。それに10代がそんな事言っていたら、20代の奴に悪いと思わないのか?」
「おーい?ジューダスさーん?誰の事を言ってますー?」
ロニがニコニコとジューダスに向かって言えば、彼も彼で売り言葉に買い言葉で「お前の事だが?」なんて、口にしてしまい私はその場で静かに首を振った。
そして横で始まってしまった喧嘩を横目で見ながら、私は修羅にご飯の提案をすることにした。
「七面鳥……は無いから、チキンで代用しよっか?」
「そうだな。後はケーキ担当と……各々作りたい物を作るか?」
「それだと被ってしまったときに残念だから、メニューはこちらで考えてしまおう。」
「それもそうだな。後はクリスマスツリーとか、色々考えられるが……。スノウは何かやってたか?クリスマスの日は。」
「カップルを心底恨みながら一人で家に引き篭もってたよ。」
「へぇ?意外だな? あんたなら、恋人の一人や二人いそうでもおかしくはないのに。」
「前前世では、いわゆる陰キャって奴でね?」
「クスクス……。その言葉、久しぶりに聞いたな。それこそ、今の感じからして意外や意外だけどな?」
修羅とそんな話をしながら二人で食材の調達がてら買い物をしようとすれば、ナナリーやリアラ、後は修羅の命名した“胃袋無限収納器”二人も集合する。
後残るは喧嘩組だが……。
「おーい!二人とも!食材を買いに行かないかい!!」
大声を上げて向こうに言ってみたが……あれは効果が薄そうだ。あまりにも喧嘩に夢中になりすぎている。
私は諦めたように肩を竦めさせては皆を振り返った。
「じゃあ、このメンバーで行こうか?」
「いいの?あの二人をそのままにして……」
「ほっときゃあ直るでしょ?それよりも、ご馳走作るなら時間が足りなくなるよ!私達で行ってしまおうよ!」
「「さんせーい!」」
「スノウもそれでいいか?」
「うん、行こうか。」
私達は喧嘩をしている二人を放っておいて買い物に出掛けた。
途中女性陣で下ごしらえをする話になり、修羅とも別れた私はリアラ達と宿に向かっていた。
「ご馳走が食べれるなんて、去年も思ったけどクリスマスってとっても良い日ね!」
「そうだね。一年に一回の大切な日だからね? そうだ、リアラもちゃんと事前に好きな物言うんだよ?折角なら誰もが幸せになれるクリスマスにしよう。」
「良いねぇ!スノウの意見にアタシも賛成だよ!」
「ふふ。ありがとう?ナナリー。」
「そうと決まったら早く行かなくちゃね!」
ナナリーの言葉で私達が走ろうとすると空から白い雪が降り出した。
思わず立ち止まった私達は薄灰色の空を見上げて、ほうと白い息をひとつ吐いた。
ふと、感じた手のぬくもりに私が横を見ればリアラが私に笑いかけて手を繋いでくれていた。
その反対にナナリーが来ると、私のもう片方の手を取り、しっかりと握り直す。
それが温かく、とても心地良かった。
「ジューダスじゃないけど、これくらいはさせて?」
「そうだね。ジューダスじゃないけど、手を温めるのはアタシ達でも出来るからね!」
「……ふふ、ははっ!ありがとう、二人とも。両手に花だなんて、私は幸せ者だね!」
「もう、アンタって子は…。」
そう言いながらもナナリーは笑って私を見ていた。
リアラも私を見て嬉しそうに笑顔を零していたので、その二人の手を優しく引いてあげる。
────さぁ、行こう。
早く行かないと、“胃袋無限収納器”がやってきて摘み食いをしてしまうからね!
* … * … * … * …* … * …* … * … * … * …* … * …
___数時間後。
食事作り組と飾り付けの組に別れて各々仕事を進める。
さすがに喧嘩組二人も帰ってきたので、二人も各々仕事を別れて分担する。……また喧嘩されても困るから少しだけ叱っておいたのは記憶に新しいが…。
ロニがナナリーの方……つまり、調理組へと行ったのでジューダスは私の方の飾り付けを手伝ってくれる事となった。
「……。」
怒られた事に機嫌が悪いのか、ムスッとした顔を見せるジューダス。
……しかし、だ。
そんな顔でも彼の顔は整っている。つまりそれがどういうことかと言うと────私からすればそれは可愛いのだ。
可愛くて、可愛くて仕方がない。
ムスッとした顔で椅子に座って何処かを見ている彼は、仮面越しからでも分かるほどに可愛かった。
最早、見慣れているとかそんな問題じゃない。
私としてはこの顔を“写真に収めたい”のだ!(そして勿論だが愛でる。)
……だが、残念な事にこの世界ではカメラなるものは出回っていないし、〈赤眼の蜘蛛〉の技術力を以てしても市販する、と言う事は出来ないらしい。
それに思わず大溜息を吐いてしまえば、彼の視線はツリーの飾り付けをする為に脚立に登っていた私へと注がれる。
「……何だ。」
「ううん。何でもないよ?」
「……。」
やはり機嫌が悪いらしい。
再び子供の様にムスッとして私から視線を外したので、くすりと笑ってしまう。
そして次の飾りを手に取ろうとしたのだが…。
「(……あ、ジンジャーブレッドくんが手元に無い……。)」
飾り付けでも可愛い部類に入る“ジンジャーブレッド”は、茶色のクッキー生地をした人型のクッキーの飾りだ。
そのクッキーには白やピンクでアイシングされており、実に美味しそうな見た目をしている。(なんなら食いしん坊二人によって食べられそうになっていた)
人型なので、ちゃんと目も口もアイシングで描かれていて、その可愛い見た目から子供にも人気な飾りである。
その飾りが手元に無い事に気づいた私は、もう一つ予備で近くに置いていた脚立に置かれたジンジャーブレッドを見つける。
それを手に入れるには少し遠いので手を伸ばして取れるかどうか……兎角、骨が折れそうだ。
彼が手伝ってくれる事は…………無さそうだね……。
「~~~!!」
頑張って手を伸ばして何とかその飾りを取ろうとする。
え?他のを付ければ良いって?
いやいや、ここにはきっとジンジャーブレッドくんが似合うよ。うん、きっとね。
暫しの格闘の後、私はようやくその手にジンジャーブレッドくんを掴む事が出来た。
思わず歓喜の声を上げるほどには達成感があり、私は笑顔を咲かせた。
「やった───」
しかし、運の悪い事に脚立が傾いてしまい、そのまま私は脚立と共にバランスを崩してしまう。
下には彼が居るのに、こんな所で脚立が倒れてしまったら────無論、下に落ちる冷や汗より、彼が怪我をしたら……という冷や汗が出てしまうのは仕方ないと思う。
咄嗟に脚立を精一杯蹴り飛ばして彼の方へと倒れないようにすれば、後は私が骨折するという光景が目に浮かんだので普通に受け身を取るのを忘れていた。
しかし地面に落ちた衝撃ではない、何かの衝撃が私を襲ったのだ。
急な衝撃に目を見張った私の視界に飛び込んだのは、焦った顔をした“彼”だった。
「お前っ…!受け身くらい取れ!!阿呆が!!」
「あはは……、レディに逆に叱られてしまったね……?」
「その上、空中で脚立を蹴り飛ばす馬鹿がいるか!!!自分の身の事を先に心配しろ!!!」
『あっぶな…?!あー、冷や汗が止まんないですよ~…。かんべんしてくださいよ……スノウ~。』
「ごめんごめん。まさかバランス崩すなんて思わなかったから────」
その瞬間、地面に下ろされ頭を殴られた。
咄嗟に私が頭を押さえれば、目のフチに自然と涙が溜まっていた。……それ程痛かったよ、うん。
涙で滲む視界の中、レディを見上げれば腕を組み、私を見下ろした状態で説教の格好をしていた。
あ……これは、長いやつだ……。
「手伝わなかった僕も悪いが、隣の脚立にあった飾りを取ろうとし、尚且つ他に手伝いを要求しなかったお前にも非があるからな?分かってるのか。」
「スミマセンデシタ。」
「ほう?この現状を見てそんな事が言えるのか。そうか。」
「ほんっとにすみませんでしたっっっ!!!」
喰らえ!日本で培った土下座を!
私が地面に頭をつけば、彼はその頭を鷲掴み、強制的に頭を上げさせられる。
そして、そのまま────
「いっ!? 痛い痛いっ!!!レディ!痛いって?!」
これでもか、と御自慢の握力を発揮させた彼に涙目になりながら(既に涙が溜まっていたが)許しを乞う。
しかし、彼の鉄拳制裁が終わることは無い。
思わず彼の手をなけなしの力で叩けば、ようやくその制裁が終わりを告げてくれた。
咄嗟に身構えて彼(今は敵)と距離を取るために後方へ飛んだ私は、相変わらず頭を押さえていた。
いや、冗談じゃなくマジで痛いからね!?
「全く……。さっきもそれ程警戒して受け身を取れていれば文句はなかったがな。」
『まぁ、説教コースは目に見えていましたけどね!』
「いってて……。これなら骨折の方がマシだったかも……?」
「は?骨折だと? お前、平衡感覚も無いのか?」
「へ?」
『ちょっと、スノウ!あのまま坊ちゃんが受け止めてなかったら一体どうなると思ってたんですか?!』
「そりゃあ……どっかを骨折するだろうなぁ?とは思ってたけど。それより君に怪我させた方が、私が死ぬと思って脚立を────」
あ、やばい……。地雷踏んだわ……。
だって、前を見たら彼の顔が般若の如く恐ろしい事になっている。いや寧ろ私には般若と鬼が見える。
すぐさま口を噤んだ私は、そろりそろりと後方へと足を下げていく。
彼の相棒でさえも、暗い色の光を灯しているとなると応援を見込めそうにないから、逃げよう…うん。
勢い良く後ろを向いて脱兎のごとく逃げ出した私だが、いつの間に真後ろに居たのか、彼が私の肩を掴んでいた。
……あー、私の人生、終わったなぁ…。
「……そこに直れ!この馬鹿者っ!!!!」
* … * … * … * …* … * …* … * … * … * …* … * …
___その日の夜。
「せーの!」
「「「「メリークリスマス!」」」」
何とか無事飾り付けも終わり、盛大なお祝いの中ナナリーたち調理組特製のご馳走が机の上に並べられていた。
若干二名がまだかまだかとヨダレを垂らしながら待ち侘びているので、修羅が二人へと食べるように促せばすぐさま皿を持ち、カトラリーを持ち、大食いのように食べ始めたカイル達を見て私達も各々まずは食事を楽しむことにした。
……え?あの説教はどうなったかって?
そりゃあ、彼から長い、長ーい説教を受けましたよ? …途中で修羅が助けに入ってくれたけどね?
「(いてて……。流石にレディの愛が痛かったなぁ…?まさか脚立から落ちたあの時、頭から落ちてたなんて思わなかったよ…。)」
そう、だから彼があんなにも憤慨していたのだ。
もう少しで地面へと頭から落ちていた私は、彼によって助けられたのだ。
表ではあんなに仏頂面だが実は心優しい彼だからこそ、あんなにも怒ってくれたのだ。こちらも不平不満など言えるはずもない。
……一つ言っていいのであれば、もう少し制裁の力を緩めてくれると助かったのだが。
「(……あれから、もう一年になるのか…。時は…中々どうして早いものだね…?)」
美味しく食事を食べながら歓談する仲間たちを、私は目を細めて見る。
皆の笑い声や雰囲気で途端にお腹が一杯になってしまうのだから不思議だ。
さっきまで説教を受けて、あんなにもお腹が空いていたというのに。
……カチャ
「……?」
私は今目の前にある食事の途中ではあるが、そっとカトラリーを置いた。
そして仲間たちの談笑に、暫し耳を傾ける。
ガヤガヤ…
ザワザワ……
……あぁ、こんなにも身近で、とても近しい存在たちが……堪らなくとても愛おしいんだ。
そんな私の様子に誰も気付く事なく、食事は進んでいく。
目の前の食事が徐々に無くなっていくのを笑顔で見届けていると、私の皿に誰かが今回のクリスマスのメインでもある鶏の香味焼きを入れてくれる。
……“誰か”だなんて。もうそれが誰かなんて、私には分かっているのにね。
「はぁ…。何を考えてるのかは知らないが、食わないとこの先持たないぞ。不必要な遠慮などするな。……阿呆。」
ため息付きで彼がこちらを呆れた眼差しで見てくるものだから、私は思わず苦笑いをしたんだけど、彼の皿に忍び寄る悪魔の手を見てしまい更に苦笑いをせざるを得なくなってしまった。
そう、海琉が横でジューダスの食べ物を狙っていたのだ。
しかし彼も気配に長けている人であるからそれには初めから気付いていたようで、すぐさま口の中に狙われていた食べ物を放り込んでしまった。
その横では残念そうな顔をした海琉がガクリと肩を落としては、トボトボと自分の席へと戻っていったのを見送った。
彼は鼻で笑ってたけどね。
「気付いてたんだ?」
「ふん、あの程度の気配の消し方ではまだまだだな。欲にまみれ過ぎだ。」
「ふふ。恐れ多いな?」
「それより、お前が憂いている理由は何だ。」
疑わしそうな、そんなジト目でこちらを見遣る彼は自分の食事を終えたようで、持っていたカトラリーを音も無く皿の上に置いた。……流石、元上流貴族さまだね?
「うーん、時は早いなって思ってね?」
「……は?」
「もうあれから一年が経った。だから感傷に浸っていたって感じかな?」
「はぁ…。お前はいつもながら急な思考転換だな…。心配した僕が馬鹿だった。」
呆れ過ぎるほど呆れ返っている彼の横顔を見てすぐに顔を元に戻す。
その視線の先は勿論、談笑している皆に向けて。
「……大切なんだ。」
「…?」
「ここにいる皆が、私には大事で大事で……大切なんだ。」
「……。」
「なのに…。目の前にいるのに、私からすると彼らはとても眩しいんだ。その眩しい光の余韻に浸っていた…と言えば分かるかな?」
「相変わらずの哲学者だな、お前は。僕にはそんな思考、どう足掻いても辿り着かない。それにお前のその哲学を理解する程の能力も残念ながら持ち合わせていない。」
「ふふ。だから憂いていた、ということだよ。勝手に私のやっていることだから君が気にする必要は無いよ。」
そこまで言えば彼は本日何度も見た、あのムスッとした顔になる。
紫水晶の瞳が他を見たのを見て、私もクスッと笑ってまた彼らを見る。
「(手を伸ばせばすぐ手が届くのに……本当に不思議だな…?)」
「ねえ?!スノウもそう思うよね?!」
「ん?何の話かな?」
「だからさ!女の人のお尻を追いかけるより、絶対もっと他の方法があると思うんだよね!?」
「……。」
一体何の話からそんな話になったというのか、あまりにも斜め上の質問に思わず顔を引きつらせて沈黙してしまう。
ロニやら修羅も話に混じっているのを見れば、何となく分かるが…。
「女性をナンパする事に長けていたモネだったお前からも言ってやってくれよ? これは男のさがだってよー?」
「ふっ、あっははっ!別に、前世で私が男だった訳じゃないけどね?でも、ふふっ!そうだね…?」
笑いながら返事をすれば、横からは侮蔑の視線を貰う羽目になるし、ロニからは熱い視線を貰うことになるし。
全く…こんなに正反対な反応をされるなんて有り得ると思うかい?
「まぁ、まだ君達は若いんだから、この先幾らでも君達を慕う女性は出てくるさ。今からそんな事を考えていたら近くに居る大切な人を見失うよ?」
「おいおい、何でそんな年寄り臭いアドバイスなんだよー?もっと、モネとしてこう……」
「と言っても、今日は聖夜だから外なんかうろつこうものなら、(憎き)カップル達が────」
ふと、視線を彷徨わせるとナナリーが聞き耳を立てているのが分かる。
それにフッと笑って、そして同時に妙案を思いついてニヤリとロニを見据える。
「────気が変わった。…良いだろう。私をモネとして見込んでくれるというのであれば、今から外に出て実践してみようじゃないか。」
「「「は?/え?」」」
「さっすが!モネ先生!!早く行こうぜ!」
そうしてロニは急いで外に出て行ったのを見て、私も外に出て行こうとする。
……隣の彼から酷い視線を受けたけどね?
他の人は心配そうに私を見送っていた。
「おーい!スノウ!早くしろよー!!」
「ふふ。腕が鳴るね?」
外に出た私達は、雪の降る聖夜を二人で歩いていく。
そして同時に探知を行い、仲間たち全員の位置を把握する。
「(ナナリーだけは別行動してるのか…。なら、こちらとしても好都合だ。他の人達は……意外にも隠れて追いかけて来ているのか…。)」
「おい、スノウ?まずはどうすんだよ?」
「うん?そうだね……。まずは君が気になる女性を見つける所から、かな?」
「なるほど?」
「君が気になる人じゃなければ、交際なんて長続きしないだろう?それは向こうも望んじゃいない。なら、まずは君の気になる人を見つけるのが先決だ。」
「うーん…、俺としちゃあ引っ掛けられたら誰でも……。いや、ここはあのお姉さん…、いや、あっちのお姉さんもいいな…?」
カップル達が行き交う中、やはりそういった事目当てなのか、単独で行動している男性や女性も目立つ。
周りを見ていた私だったが、仲間たちが割と近くで隠れているのを探知で悟り、思わず口元を緩ませた。
特に……レディは、怒り心頭なのかそれとも侮蔑の眼差しなのか、こちらを見る視線が特にとても痛く感じる。
気付かないフリをして空を見上げれば、黒い雲に覆われた空を拝む事になり、ほうと一息つく。
まだ彼は選り好みしているようだしね?
白く長い息が空に向かっていくのを見ていれば、私に話し掛ける女性がいた。
「あ、あの……お一人ですか…?」
「ん?」
その女性は赤く染まった頬を隠しもせずこちらを見ており、ふと前世の事を思い出す。
昔もこうやって女性達は声を掛けてくれていたなぁ…ってね?
「お嬢さんこそ、こんな夜にお一人ですか?」
「はっ、はいっ…!」
なるほど、奥手な女子だ。
だけど、奥手故にここまで大胆な行動に出たのには何か訳があるはず。
視線だけを彷徨わせ周りを見てみても、この子の彼氏がいるような様子は無い。
なら、他の理由か…それとも私の考え過ぎか。
「……。(いや、やはり何かある。この女性の頬には涙の跡が残っている…。なら振られたか、それとも彼氏と喧嘩別れしてヤケを起こしたか…。)」
「あ、あの……?」
「あぁ、すまない。あまりにも君が可憐で美しいものだから見惚れてしまっていたよ。」
「~~~///」
頬を上気させ、俯いてしまった目の前の女子を見て、すぐさまロニを振り返った。
「ちょっと離れるよ!ロニ!」
「へっ?!モネ様っ?!そんな殺生なー!?」
首を傾げさせキョトンとさせた女子の手を取り、優しく手を引いてあげる。
目を見開いた女子の瞳を見ながら、私は優しげに笑ってみせエスコートする。
「少し歩きながらお話ししましょうか。お嬢さん?」
「は、はい…!!」
ロニがまだ何か言っていたが、そのまま私達は歩き出す。
後ろに大人しくついてくる女子に時折振り返り、笑顔を見せればようやく緊張が解けたのか僅かにはにかんでくれた。
そして歩きながら話を聞けば、やはり私の予想は当たりのようだ。
盛大な喧嘩別れしてきたようで、そのままヤケになって私に話し掛けたようである。
しゅんとしてしまった女子だが、ひとつ彼女は勘違いをしている。
「(やはり…ついてきている…。一人だけ、ね…?)」
どうやら元カレと言う奴はしぶとい…というか、未練タラタラの様で、歩く私達を追ってきては隠れて見ているのがバレバレである。
しかも、ジューダス達まで私の方を追いかけてきているのだから……何だか笑えてくる。
「では、その男とはもう決別したい…と。そういう事ですか?」
「……。私がこうやって未練を持っていては、彼は……いつまで経っても次の幸せに行かないと思うんです。私も…切り替えなくちゃ…!」
「(君の後ろには未練タラタラな男がいるけれども…ね?)なら、私と付き合ってみますか?」
「え?」
「もしその恋を終わらせる事が出来たのなら、あなたも次の幸せを見つけられた…ということ。なら、私と付き合って新たに幸せを手に入れる、というのもまた一つの手だと思いますよ?」
「そう、よね…。そうよね…!」
「(おーおー…、男の方は焦ってるなぁ…?)」
「私…あなたと────」
その言葉を言われる前に女性を抱き締めれば、顔を真っ赤にさせた。
私はそんな女性の耳元でとある言葉を囁く。
「……どうか、もう少しこのままで……。」
「……え?」
「……今宵は聖夜…。特別な日です。あなたにも、聖夜の奇跡が起きますように……。3、2、1……」
「??」
……ダッダッダッ
「リヤナ!」
「…!」
男の声に反応した女性を離し、そっと背中を押す。
すると決壊した涙を溢れさせ、リヤナと呼ばれた女性が男へと抱き着いた。
「さっきはすまない!好きだ!愛している!!」
「わ、私も…!!」
二人でひしと抱き合っているさまを見て、腰に手を当てて笑って溜息を吐けば、ジューダス達が駆け寄ってくる。
「おいおい…分かってたのかよ?」
「まぁね。彼女、明らかに様子がおかしかったからね。……あの性格で私に話し掛けることは、普通なら万に一つもない。そして彼女の頬にあった涙の跡……これだけで、何かあったんだろうとは察したさ。」
「流石、前世で女を口説き倒しただけあるな。」
「棘があるよ?レディ?」
相変わらず侮蔑を孕んだ声音で言うジューダスを見れば、ふんと鼻を鳴らして別の所へと顔を背けてしまった。
「さて、後はもう一人……。」
探知をしてみれば、まだ女性を口説いているのかロニがさっきと同じ場所で留まっている。
先に仲間たちに断りを入れた私は瞬間移動で別行動をしていたナナリーの前に現れる。
「!?」
「ナナリー。一つお願いがあるんだけど。」
「お、なんだい?明日の晩御飯かい?」
「ふふ。それは別として……ロニに防寒具を持っていってあげてくれないかな?今頃風邪を引いてるかもしれないからね?」
「はあ?なんでアタシが…。」
「ふふ。何でだろうね?……まぁ、一つ言えるのは…今夜は聖夜だから今の時間行ったら、何か素敵な事が起こるかもね?」
「素敵なこと?それって?」
「行けばわかるよ。ほら、持っていってあげて?本当に風邪引くよ?彼。」
「全く……女のケツ追いかけて風邪引くなんて馬鹿のやることじゃないかい。」
そう言いつつもナナリーはロニのコートを持って外に出掛けていった。
それを笑って見送って、私は中に入って例のツリーの前に立つ。
今は見事な飾り付けがなされているこれも、レディに怒られながらやったものだ。
いや、寧ろ高い所はもうさせてはくれなかったのだが、それも彼の優しさなのだ。
もう私が怪我をしないようにって。
「……何でお前がここにいる。」
一人帰ってきたらしい彼と鉢合わせてしまい、私は苦笑いを零した。
そんな彼は、まだまだ機嫌降下中らしい。
私に顔一つ合わせないで中に入ろうとするので、湧き上がってくる淋しい気持ちを押し殺して私も黙ってツリーを見上げた。
……あのジンジャーブレッドくん、落ちそうになってるなぁ…?
別の事を考えだしたと言うことは、今の彼から逃げている証拠なのだが……、まぁ、今日くらい彼の好きにさせてあげよう。
明日になったら機嫌が治っているよ、きっとね。
「……脚立…」
せめてジンジャーブレッドくんが落ちないように、直してあげたい。
そう思って片付けられていた脚立に手を掛けると、すぐに肩を叩かれた。
「……貴様、反省の色がないようだな…?」
「あれ、」
君、今向こうの部屋に消えていったよね?
こっち見てなかったよね?
「大丈夫だよ。ちょっと直すだけだから。」
「……僕がやる。お前はそれに乗るな。また転落しても知らないぞ、僕は。」
「ふふ……じゃあ、お願いしようかな?」
「全く…。」
私から脚立を奪い取ると、彼はすぐにツリーの近くへ持っていき組み立てる。
そして私が教えた通りに飾りを直してくれた。(おまけの溜息も健在だったけどね)
「……ねぇ、レディ?」
「今日こそ言わせてもらうが、僕はレディじゃないと何度言わせる気────」
脚立から降りた彼の背後からそっと抱き締める。
体を強張らせた彼は言葉を途切れさせ、そして息を呑んでいた。
すると、そのまま動かないかと思っていた彼が私の僅かな拘束から抜け出し、逆に私を正面から抱き締めていた。
「………………冷たい。」
「ははっ。それはさっきまで外にいたから勘弁願いたいけどな?」
怒気を孕んだ声で一言物申す彼に笑いながらも抱き締め返す。
背中を擦って温めてくれる彼に甘えていると、また沈黙が降りてくる。
だから私はその沈黙を終わらせる為、彼に言葉を贈った。
「……ごめんね?…ありがとう。」
「やめろ。お前がそう言う時は大抵悪い事をする時の前触れだからな。」
「うん、それでも言わせて欲しい。こんな私を受け入れてくれて……いつも感謝してる。ありがとう。」
「……。」
「こんな私だけど、これからも君の隣にいて良いかな…?君の……隣に居させてくれるかな…?」
背中を擦る手が止まる。
それが何を意味しているかなんて、怖くて彼の顔も見れないけど…それでも、彼を信じてる。
これで、駄目だって言われたら勿論、今すぐにでも彼の元から去るに決まってる。
そしてあの“約束”も無かった事にするに決まってる。
…………でもね?きっと彼が拒否するなんてことはないと思うんだ。
じゃなかったらこうして私の体を温めてなんてくれないだろうから。
他の人の前でする様に、ぶっきらぼうに拒否してくるだろうから。
だから────信じてる。
「……だったら、勝手に一人で無理するな…。無茶なんてしてくれるな…。お前が死にそうになる度に…心臓が張り裂けそうになる……。」
思わぬ痛切な言葉を聞いて、私は一瞬目を丸くさせたが、すぐにそれは苦笑へと変わり、彼を強く抱き締め直すことで返事をした。
「僕は……お前が居ないと死ぬ様な人間だと何度言えば分かる…?」
「……うん。」
「だから、僕から離れるな……阿呆。」
「……うん。ありがとう───リオン。」
今、彼の前世の名前を呼ぶなんて、ずるいかもしれないけど。
でも、今だからこそ呼ばせて欲しい。
前世であれほど呼んだ、大事なその名前を。
大切な────親友の名前を。
「ねぇ、レディ。仲直りの印に、少しだけ付き合ってくれないかな?」
「……は?仲直り…?」
彼が何かを言う前に彼から体を離し、そして手を引いて外へと向かう。
そして、聖夜の奇跡を一緒に見に行こう。
「……そろそろだね。」
「おい、一体何が始まる?」
「3、2、1…」
カウントダウンを始めれば、ゼロになった瞬間、辺りを眩く照らすイルミネーションが始まった。
目を丸くさせ、目を見張る彼のその様子に連れてきて良かったな、って思う。
その瞳はアメジストがキラキラと反射しているようにも見えた。
「レディ───」
私は彼の仮面を取って、その頬へとキスをする。
そして、仮面を取ったまま少しだけ離れた場所で振り返り、精一杯の満面の笑顔で叫んだ。
「────Merry Christmas!!」
そう言って、私はイルミネーションの町中へと逃げ出した。
だって、頬にキスをした彼はまるで────ファーストキスを奪われた、乙女の顔をしていたのだから。
……無論、あとで捕まってしまったが。
【仲直りはイルミネーションで。】
___「(これで少しは仲直り出来たかな…?)」
___「(僕達はいつ……喧嘩したんだ…?仲直り、とは…???)」