カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
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___海洋観光都市、アマルフィ
私達は暫しの旅の疲労を癒すべく、再びこの観光地へと訪れていた。
何だかんだ皆、ここが気に入っていたのである。
誰かがアマルフィの話をした途端に、仲間たちの目的地は一気にここに注がれていた。
まさか、またここに来れるとは思っていなかっただけに、私も内心では喜ばしい心地でアマルフィの地を踏みしめたのであった。
一日目は皆各々に自由行動という事もあり、私も今では一人で観光を楽しんでいる、そんな時だった。
「いらっしゃい!ピアントの際はここを使ってくれよ!!」
「ん?」
聞きなれない単語に、私は知らず知らずその店の前で立ち止まっていた。
その店では同じ色の宝石の指輪を売っているようだ。
……いや、絶妙に宝石の色彩が変わっている。
私の瞳のような海色には変わりない。けれども、その海色でも奥深い色や白濁とした物、薄くなってしまった色もあり、見ていて飽きさせない様な色合いだった。
「ん?お兄さん、瞳の色が海色だね~!こりゃあ、良い物を見せてもらった!」
私の方を見てハッキリと言った店員に不快感を表す事なく接する。
今の私の格好はどっちに間違えられてもおかしくないしね?
「瞳の色が海色だと、何かあるのかい?」
「お兄さん、もしかして何も知らずにこの時期のアマルフィに来たのかい?」
「あぁ。内々で観光しようって事で今日ここに到着したんだ。」
「朝早くからお疲れ様だな!」
まぁ、朝早い方が涼しくて動きやすいと、他の人たちがカイルを激しく叩き起したしね。
それでこんなに朝早くに到着した訳だが……。
「今の時期、ここアマルフィではピアントっていうイベントが毎年行われてるんだ。」
「へぇ……?聞いたことないね。」
「ピアントはいわゆる縁起物でな。毎年開催され、観光客で賑わうくらい名高い祭りごとなんだ。」
「お祭りか……。いいね?」
「だろ?気になってきただろ?」
快活な笑顔を見せる店の青年に笑顔で頷けば、気を良くした店員がピアントについて教えてくれた。
どうも、海の神を鎮める為のお祭りのようで、中でも海色の瞳を持つ者は海の神の化身と言われ、崇め奉られるそうだ。
縁起が良い物として、ね?
「海の神を鎮める為……って、ここは他の大陸と違い、出来てまだ歴史が浅いだろう?それなのに海の神を冒涜するような何かをしたのかい?」
「なんつーか、この時期を越えると海の荒れる時期があったりするんだ。海岸の際どい所まで荒波が押し寄せるから危なくてなぁ?それから、それは海の神が暴れてるからではないか、ってこの地元では言われてるんだよ。よって今の時期に海の神を鎮める祭礼をしようってことになって……まぁ、それが今じゃ観光イベントになっちまったんだけどな?」
ハハッ、と笑った店員に興味深そうに私は頷いて見せた。
歴史が浅いとはいえ、依然としてそのよう事は何処も同様なもので、欠かせない神事らしい。
……それに、一応世界の神の〈御使い〉となった私である訳だし、海の神と聞いて余所事ではない気がしてしまい、思わず微苦笑をした。
「お兄さんの様な瞳を持つ人は少ないんだよ。だから地元のヤツらに見られたら、手を合わせて拝まれるだろうさ。」
左目の眼帯の事は気にせず話してくれる店員に心の中で感謝をしながら、話に相槌を打っておく。
それから私達の話題はピアントと、店に置かれた指輪になって行く。
「全員がお兄さんみたいな瞳の色をしてる訳じゃない。だから、海の神を鎮める為に、海色に近い宝石の指輪を相手に贈って一年の健康や安全を願うのさ。」
「へぇ?素敵な祭事だね。」
「だろ?このイベント目当てで来る観光客が後を絶たないくらいだ。儲けも出るってもんよ。」
「で?この指輪を相手に贈って、それから?」
「相手に贈った後はお昼すぎに行われるイベントに向かうんだ。その際、ちゃーんと相手の利き手の中指にその指輪を着けること!」
「何故?」
「利き手っていうのはその人にとっての生命線で、且つ中指っていうのは丁度指の真ん中に位置する場所だからここらでは“心臓”って意味も兼ねてるらしいぜ?」
「心臓……ねぇ?」
「相手の心臓にあたる場所に海色の指輪を着ければ、健康安全祈願ってな!ちゃんと自分から相手に着けないと駄目だぞ?恥ずかしがらずにな!」
「ふふ……そういった事に恥じらいはないつもりだよ?」
指輪を相手に着けて健康安全祈願、か……。
中々面白そうなイベントだ。
結果私はピアントのイベントに参加する事にした。
その店員の指輪を仲間の数分だけ買えば、店員もニッコリ笑顔で見送ってくれる。
「今日の海のご機嫌が、お兄さんの指輪と合えばいいな!」
「ふふ。ありがとう?」
どうやら、指輪の宝石の色が異なるのはわざとらしい。
贈った指輪を昼のイベントで海の中へと落とすっていう祭事らしいんだが、その際に指輪の宝石の色が海の色に近ければ近いほど良いとされる。
連日海の色味が変わるアマルフィならではの祭事、という事だ。
それに、その海の色味が変わる事をここらでは“海のご機嫌”なんて洒落た言葉を用いるらしい。
まぁ、それもこの時期限定らしいが。
私は仲間達を探し出し、次々と利き手の中指へと買った指輪を着けていく。
それを不思議がる仲間たちはどうやらピアントの事は知らないらしい。
それならそれで好都合だと、私は笑いながらお昼にとある場所へ行くようしっかりと告げておく。
仲間たちは不思議がりながらも頷いたのを見て、そして私はまた他の仲間たちを探しに行き、彼らへと着々と指輪を着けていった。
……あと、残るはレディのみ。
「────レディ!」
『あ、スノウ!』
「?? どうした、そんなに急いで。」
どうやら観光真っ只中の彼は、彼にしては珍しい商業地区にいた。
言っても、建造物が多く立ち並ぶと言うより露店が連なっている商業地区なのだが。
それでも喧騒が不得意な彼らしからぬ場所ではあるので、僅かに驚いてはいる。
「レディ?左手を貸してくれないか?」
「左手……?」
彼の利き手は左手。
何度も見てきたその手を恐る恐る出した彼に苦笑いをしながら、そっと手を取る。
そして私の中で最も気に入っていた色味の指輪を彼の中指へと着ければ、彼もまた不思議そうにその指輪を見ていた。
「……何だ、これは。まだ僕はお前とここでデートした訳じゃないが?」
「クスッ……。気にしてくれてたんだ?」
「……悪いか。」
「ううん?凄く嬉しい。」
そう言った私が笑顔で彼を見れば、彼は僅かに驚いた顔はしたが、すぐに顔を真っ赤にさせ顔を背けてしまった。
そんな彼を見て、心の中が暖かくなるのが分かる。
あぁ、私はその顔が見たかったんだ。
「レディ。この指輪を着けたまま、13時……海岸に向かってくれないか?」
「海岸?」
『海岸に何かあるんですか?』
「うん。大事な、大事な事がね?」
「いつもの事ながらよく分からんが……、お前がそう言うなら行ってみよう。」
「うん、お願いね?」
私はそこまで言って彼と別れる。
だから、私は気づかなかったんだけど、その時彼は手を伸ばして引き留めようとしてくれていたみたいだ。
そのまま観光客に紛れた私の手を、彼は取れなかったようだった。
こうして、任務を終えた私は海岸が一通り見える高い建物へと足を運んでいた。
海を一望出来るここは時計台として使われていて、何時もならアマルフィ全体が見渡せると人気なここも、ピアントのイベントのお陰で誰一人時計台に上る者はいなかった。
特等席になったそこへ辿り着いた私は、昼過ぎの丁度良いタイミングで着いていたのだ。
海には沢山の舟やゴンドラが海へと出ていて、そろそろイベントも佳境なのだろう事が窺えた。
「……うん。皆揃ってるね?」
私以外の皆はちゃんと同じゴンドラに乗って、船乗り……ここではゴンドリエーレって言うらしいけど、その人からこのイベントの説明を受けているみたいだ。
……因みに言っておくと、双眼鏡を使ってるから見えてるんだからね?
ここの時計台は無償で双眼鏡を貸し出してくれるのだが、この時期のこの時間帯に客が来ることはまれらしく、下の受付で怪訝な顔をされたなぁ?
さながらピアントに行かないのかって顔だった。
「……。」
仲間たちがそれぞれの指輪を見ながら、海を見ている事から色味が同じだと縁起が良いと説明されているようで、暫くその姿が見られる。
そして全員がジューダスの指輪を見ている事から、レディの指輪がどうも今日の海の色に近かったらしい。
……なんか、それが少し嬉しかった。
好きな色味の宝石をあしらった指輪をレディに贈っていたから、それが今日の海の色と重なるなんて……凄く運命的だとも思う。
時間ごとでも異なるってあの店員さん言ってたから。
「……お?」
どうやら、指輪を海の中へと落とす儀式が始まったみたいだ。
色んな所でそれをしているからか、太陽の光に当てられ、指輪がそれぞれキラキラと輝きを放ち、そして海の中へと消えていった。
「……どうか、皆が健康で……それでいて安全にこの旅を終えられますように……。」
───強く、乞い願う。
思わず手を合わせて願うくらいにはちゃんと願っている私がいて、私は苦笑いをして再び双眼鏡を持った。
すると、何故か仲間たちは私がここにいると分かったのかこちらを見ては手を振っていたので、それに手を振り返しておいた。
……恐らく、修羅辺りが探知して仲間たちに教えたのだろう。
双眼鏡から見える皆の口は、まるで“ありがとう”って言っているような気がして、私は思わず頬が緩んだ。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*+..:*○o。+
その日の夜、私はジューダスに呼び出され海へと来ていた。
すると、周りはカップルだらけで僅かに驚く。
こういった場所を、彼はあまり好まない。
それに夜といえど、こんなにもカップルが沢山いて彼が嫌そうな顔をしないはずもないのに、彼は私をここに連れて来たのだ。
いまだに昼間のイベントを引きずっているのか、露店やらライトで照らされたアマルフィ海岸を見渡す。
「一日中、ピアントのお祭り騒ぎだね?」
「フッ……。そうだな?」
『スノウはこのお祭りの事をどれくらい知ってるんですか?』
「ん?このピアントは海の神様を鎮める鎮魂祭っていうことと、指輪を贈った相手の健康安全祈願をすることくらい、かな?」
『あ、そうなんですね!』
何か含みのある言い方だ。
何か間違ってただろうか、と首を傾げてシャルティエを見たが、それよりも早くレディに手を引かれ、私達は海岸へと足を踏み入れる。
そこには燈籠を提げたゴンドラが待ち構えていて、ゴンドリエーレはこちらを見て、笑顔で接客してくれる。
訳も分からず促されるまま私がゴンドラに乗ると、ジューダスも後からゴンドラに乗るのが見える。
……まぁ、レディと一緒なら大丈夫か。
ゴンドラはゆっくりと動き始め、そのままアマルフィの街並みがどんどんと遠くなっていく。
他にもカップルがゴンドラに乗り、それぞれ思い思いの時間を過ごしているのを横目で確認した私は、今度こそレディの方へと顔を向けて困った顔をする。
一体何が起きるというのか。
「……レディ?」
「……大丈夫だ。海に落ちることはない。」
過去のトラウマがある私に優しくそう言ってくれるが、彼は腕を組みながらも遠ざかるアマルフィの眺めを見てこちらを見ようとはしない。
次第に私たちを乗せるゴンドラは、他のゴンドラよりも沖へと進んでいく。
遠ざかる街の灯り、そして他の燈籠を提げたゴンドラたち。
音さえも、徐々に喧騒が遠ざかり静かになっていく。
「……スノウ。」
「ん?」
「目を閉じていろ。」
私は彼に言われるがままそっと目を閉ざす。
すると、彼が動いたのかゴンドラが少しだけ揺れた。
何が起こってるか分からないまま私はじっとその時を待つ。
するとレディの手がそっと私の頬へと触れた。
そして左目にかけられた眼帯をそっと外され、その瞼へと……彼はキスをしてくれた。
ゆっくりと目を開ければ、眼前には仮面を外した彼の顔があって……。
添えられた手はそのままに、暫くお互いを見つめ続ける時間が流れていた。
でも決して悪い空気なんかじゃない。
気まずいとかそんなのではなく、……なんて言うのかな?きっとこれは……、そう……夢見心地って言うのかもしれない。
彼からキスしてくれるなんて、と思う気持ちと、もう少し彼をこのまま見ていたい……、そんな気持ちがグラグラ揺れ動いてはボーッと彼を見つめていた。
「スノウ。」
「……うん?」
目前にある彼の口から名前を呼ばれ、その甘い響きが体の芯にジンと温かみを与えてくれる。
抱き締められている訳でもないのに、私は抱きしめられた時と同じ様な感覚に襲われていた。
「僕は……、お前が───」
ヒュー……、ドーン!
途端に空が明るくなり、二人して空を見上げた。
そこには大輪の花を咲かせる色とりどりの花火が打ち上げられていた。
こんな真夜中でも花火をやるのは、恐らくこのイベントが観光都市アマルフィにとって大切な祭事だから、なのだろう。
「綺麗……」
「(はぁ……またしても邪魔されるのか……。)」
一人は溜息を吐き、もう一人は夜空を彩る花火を堪能する。
暫く止まないそれに、ジューダスも花火を見上げてしかし、チラッと横にいる彼女へと視線を向ける。
空を見上げ、その瞳に輝く海色は花火の明かりでキラキラと一層輝きを増していた。
「……ねぇ、レディ?」
「何だ。」
「……また、このピアントの時期に、二人で来たいね?」
そう言ってはにかんだ彼女に、ジューダスが目を丸くさせる。
“仲間たちと”ではなく、“自分と二人で”と言ってくれたのだ。
……驚かざるを得ないだろう?
「ふん……。」
つい照れ隠しでそう言ってしまえば、それでも彼女はジューダスの本心を分かっているかの様に笑顔になる。
そしてそっとスノウはジューダスの手を取り、その手甲へとキスを落とす。
それに顔を真っ赤にさせ、瞬時に手を引いたジューダス。
ところがスノウも今の雰囲気に酔いしれているのか、止めようとしない。
今度はそっとジューダスの頬へと手を添え、ふわりと微笑む。
離れた距離を埋めるかのようにスノウが距離を縮め、ゴンドラが僅かに揺らぐ。
ゆっくりと近付いて来る顔に、ジューダスの中の羞恥心が限界を迎えてしまい、ギュッと目を閉じれば、彼女はそっとジューダスの額に口付けを落とし離れていく。
呆気に取られたジューダスが、ぽかんとしていると彼女はそのままジューダスの頭を優しく撫でた。
「(馬鹿か、僕は……。恋心とか、そういうのに気付いていないこいつが口にする訳───)」
そこまで思ってジューダスはふと我に返る。
そして赤くなっていた顔を更に真っ赤にさせたのだった。
「ありがとう。」
急に口にされたお礼の言葉。
真っ赤になっていた顔は、その不穏な言葉で一気に冷めていく。
だって、彼女のお礼は何故かいつだって不穏だと思えてしまうからだ。
ジューダスが怪訝な顔をしたことに気付いたスノウは、途端に口元に手を当て苦笑いをした。
だが彼女は、首を横にゆっくりと振る。
「心の底からのお礼だよ?そんな不安そうな顔をしないで、レディ?」
「……お前が礼を言うと碌なことが無い。」
「ふふ、酷いなぁ?」
そう言ってスノウは未だ止まない花火を見上げ、目を細めさせた。
その口元はゆるりと弧を描いていたので、ジューダスも安堵して花火を見上げる。
そして、どちらともなく手を動かし、二人は手を繋いだ。
結局二人はその花火が止むまでずっと、手を繋いで空を見上げていた。
どちらが何かを語る訳でもない。
じっと空を見上げてはお互いの体温を堪能するように、指を絡ませていた。
「……終わったね。」
そう寂しそうに私が言えば、レディの手が僅かに強まる。
そして見上げていた顔をこちらに向け、じっと私を見ていた。
「……来年も来るんだろう?なら、そんなに寂しがる事もあるまい。」
「……!」
「お前が言い出した事だぞ。忘れたとは言わせないぞ。……それに、」
レディがこのゴンドラを操縦していたゴンドリエーレを見る。
するとそのゴンドリエーレが私の方を見て、手を差し伸べてくれる。
それを私が真似て手を出せば、その掌へと何かを乗せられる。
「これは?」
「海色の瞳を持つ者は、海の神の化身とされこのアマルフィでは重宝される。」
「……知ってたのか。」
「お前が午前に変な策略を組んだお陰だがな。」
手のひらに乗せられた雫型の宝石を見る。
それも海色に程近い色をしていて、非常に綺麗に形作られている。
職人技だな、とひと目で分かるほど高級そうな宝石だった。
「このピアントのイベントは昼と夜の部がある。」
「え、そうなの?」
「あぁ。というより、昼のを知っていて何故夜の部を知らないんだ、お前。」
「店員さんが昼のことしか教えてくれなかったんだよ。」
「……まぁいい。それで、その瞳を持つ者はアマルフィでは崇め奉られる存在なんだが、その者がゴンドラに乗ったらやらなければならない事がある。」
「やらなければならない事……?」
「その雫の宝石に祈りを込めて海に落とす行為なんだそうだ。海が荒れないように、そして今年も沢山の観光客を呼んでくれたお礼を兼ねて。」
「……へぇ?」
その宝石に祈りを込める、か。
なんか、本当に神秘的だなぁ?
昼は皆が海色の宝石の付いた指輪を落としたけど、夜は私がこの宝石を海に落とす……。
……うん、やってみようか。
「素直に祈りを込めれば良いんだろう?」
「あぁ。」
私は海色の雫の宝石を持ち、両手でそっと握りしめる。
どうか、今年も海が荒れないように。
どうか、来年もピアントの祭事を行えるように。
……どうか、彼と一緒にまたここへと来れますように。
「「……!!」」
ジューダスとゴンドリエーレが息を呑んで驚く。
何故ならば、目を閉じて祈りを込めているスノウの指の隙間から光が漏れていたからだ。
溢れる海色の光が勢いを消すことなく、スノウの指から漏れだしとても神秘的である。
そっと目を開けたスノウは驚きもせず、その宝石を見て海へとそっと沈める。
海色の光が海の奥底へと消えていくのを三人はじっと見つめていた。
「……お前、マナを込めただろう……?」
「はは、多分無意識なんだ。でも光ってたってことは……そういう事なのかもね?」
「馬鹿……。倒れるなよ?」
「そこまで込めてないよ。だからこの通り、元気ピンピンだよ?」
私たちがそんな会話をしていると、海の底から声が聞こえた気がした。
─────……ありがとう……世界の神の〈御使い〉よ……
流石にジューダスもその声が聞こえたみたいで、その声に反応し目を丸くさせる。
次いで嫌そうな顔をしては、彼は私を睨んできた。
「……また別の神に気に入られるのは御免だぞ。」
「気に入られたとしても、きっと私だろうから君に危害は無いよ。」
「はぁ…、そういう事を言ってるんじゃない。」
「ふふ……分かってるよ。ありがとう、ジューダス?」
「分かってるなら初めからやるな、阿呆め。」
「でも君の事だから、私が何か危険に巻き込まれていたら助けてくれるんだろう?今までみたいに。」
「………………当然だ。」
仮面を被り直し、伏せた彼の顔は私からじゃ見えないし、その言葉も消え入る様な声だったけれど。
「(……ちゃんと、聞こえたよ。レディ……。)」
ゴンドラが動き始め、私達は海岸へと戻っていく。
そっとそれを惜しむように彼の手を握れば、彼もその手を握り返してくれる。
もはや周りにはゴンドラが居なくなっていたけど、それはそれで特別感があって良かったんじゃないかな?
後に聞いた話なんだけど。
実は、夜の部は花火が上がるだけで昼の部と変わりないらしい。(まぁ、後はカップルが多いだけらしいが。)
そして、海色の瞳を持つ者へは指輪を贈るのではなく、贈る者の利き手である……つまり今回はジューダスが左利きだから私の左まぶたへと口付けを落とすのが慣習なんだとか。
勿論、意味や効果は指輪と同じものらしく、彼からそれをされた私もまた、彼から健康安全祈願をされた訳だった。
それを聞いた時、本当、嬉しかったんだ。
それに彼がそんな積極的だった事も少し驚いていたから、これで納得した訳だ。
最後の雫の宝石もまた慣習なので、昼だろうが夜だろうがやるしかなかったらしい。
まぁ、私としては毎年来てやりたいイベントではある事は間違いないけどね?
そしてこれはアマルフィに居た人達だけが知ってることだけど───
───その年は、海が荒れることなく多くの観光客で賑わったらしい。
ひっそりと語られるその真実に、一部の住民達からは海色の瞳を持った人物に深く感謝していたのだとかなんだとか。
後は来年も来てくれるように、観光客に話しかけては語り継いでいたのだ……とか!
【海色の瞳は海の神の化身】
___「(…口にするかと思った、なんて……口が裂けてもこいつに言えない…。)」
___「(私の左眼は他のマナに侵されやすい…。……それでも、君がそこへ口付けをしてくれた時、とてつもない愛おしさが込み上げてきたんだ。喩えそれが、ピアントでの決まりだと分かっていても…運命だと……そう感じたんだ。)」