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Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)

Name change.

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カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?

カイル達との旅に出た、私の名前を入れてくれるかい?(TOD2時代)
リオンの友達となった、私の名前は?(TOD時代)





「今日はハロウィンだね!」



カイルが意外にもそう口にしたのを驚いた顔で見るスノウ

まさか、この世界にもそういった文化が有るとは思ってなかったからだ。

ハロウィンといえば外国の収穫祭兼、鎮魂祭という意味合いが強く、そして幅広く色んな説がある。

その中でも一番強い説は10月31日は死者が蘇る日で生きてる人間に死者が襲いかかってくるので、自分達も仮装をして紛らわせる……といったものだった気がする。

子供達が仮装をやり、近所からお菓子を貰うのは近代になってからだと聞いている。

…まぁ、どれもあやふやな噂話であるが。



「カイル、ハロウィンって何?」

「リアラは知らないんだ!ハロウィンって言うのはお菓子が貰える日なんだよ!」

「……ふふ。」



なんと可愛らしい。

きっとルーティや、スタン…、他のご近所の方もそのイベントをわざわざカイルの為にやってくれたのだろう。

その証拠に大人になったロニはそれを聞いた途端、カイルの方を見て頭を掻くと、困った顔をしつつ、呆れている。

食べ物が絡んでいる行事だからカイルも覚えていたのだろうなって事が、そのロニの様子から窺える。

ナナリーも笑いながらそれを聞いているし、ジューダスは……自分は関係無いって顔をしているね。



スノウも知ってるよね?!ハロウィン!」

「ふふ、勿論知っているよ?でも、私のいた世界と、この世界では少し違うかもしれないね?」

「私、スノウの世界のハロウィンが気になるわ!どんなのだったの?」

「私のいた世界では子供達が仮装をして、近所を練り歩きながらお菓子を貰う行事だったんだ。お菓子を貰う時にはちゃんと合言葉もあってね?家を尋ねた時にその家主に向かって“Trick or Treat”って言わないといけなかったんだ。」

「とりっく?」

「それは俺も知らないな。」

「アタシも聞いた事ないねぇ?」



ロニやナナリーも聞いたことがない話だったからか、話に参加し、物珍しそうに聞いてくる。

どうやらジューダスも多少なりとも興味はあるようで、カイル達と同じく聞き耳を立てていた。



「私の世界の言葉で、“お菓子をくれなきゃイタズラするぞ”って意味なんだ。」

「えぇ?!なんでそんな酷いことするの?!スノウの世界って不思議だね!」

「ふ、ははっ!そうかもね?私の所ではこの時期、死者が蘇ると言われていたんだ。その死者を落ち着かせる為に畑にあったカボチャをくり抜いてお菓子を作ったらしい。そうしたら死者も喜んで自分たちの住処……死者の国へと帰って行ったらしい。子供の仮装はお化けやその国々にとって、怖いものを表す仮装をさせるのが礼儀だと言われているんだ。そして家々を歩いて合言葉を言う……これが私の世界のハロウィンだね。」

「ふーん?死者を落ち着かせる為の祭りなんだ!」

「死者がお菓子を求めるようになった、とか色々な説があるけれど…結局は収穫祭の意味も込められた祭りでもあるんだよ?この時期は美味しい野菜や果物……沢山の食べ物が収穫出来るからね。感謝の意味も込めて、食べ物を作って、装飾して、来年の五穀豊穣を願うのさ。」

「うーん、難しい話はわかんないよ。」

「ふふ。ごめんごめん。カイルには難しかったかな?」



頭を撫でれば首を横に振られた。

カイルにとっては難しい話だったかもしれないけれど、私の世界の話が聞けて嬉しかった、なんて、私にとって嬉しいことを言ってくれたのでお礼を言った。



「逆に私はこの世界のハロウィンが気になるね?」

「こっちのは普通だぜ?ただ近所回ってお菓子貰うだけだったしな?」

「そうかい?アタシの所はちゃんと仮装してたよ?」

「場所によって全然風習ややり方が違うのね。不思議ね?」

「ジューダスの所は?」

「……仮装もお菓子を貰う工程もあったな。」

「じゃあオレ達のところだけ貧乏じゃん!」

「貧乏って言うな!あれでもルーティさんや近所の人が頑張ってだな……」

「へぇ?この世界でもやっぱりあるんだね。この世界に来てからは一度も見たことなかったから知らなかった。」

「ハイデルベルグではなかったのかしら?」

「うーん。寧ろそんな事をやる暇が無かった、というのが正しいかもしれないね?この時期……何故か決まって魔物退治に借り出されるからそれでだと思う。」



あぁ、懐かしいな。

何故かこの時期になると魔物が大量に発生するもんで、ハイデルベルグの国王から魔物退治を押し付けられていた。

街に帰ってくるのはそれから大分経ってからだし、その祭りの時期に居なかったから仕方ないと言えば仕方ないのだ。



スノウ…、大変だったんだね…。オレ、この時期は呑気にお菓子貰ってたよ。」

「お前もスノウを見習え。あんなに小さくても頑張ってるんだぞ?」
「身長は仕方ないね?……まぁでも、今では良い思い出さ。」



ふと、昔に思いを馳せる。

もう皆には私が異世界から来ていると知っているし、この話をしても問題は無い。

どれも、今となっては楽しい思い出たちである。



「……。」



少しだけ苦い顔をしたジューダスが見えて、首を傾げたが、彼がすぐに表情を戻したので見なかったことにした。

彼にも色々思い出す事があるのだろう。

今はそっとしておこう。



「ん?アレってなに?」



カイルが指さした先には大きな街が見え、家や露店など、何やら装飾の限りが施されている町である。

というより、こんな所に町なんてあっただろうか?

私のその問いに同じく疑問だと思ったのか、怪しいとばかりに顔を歪めジューダスはその町を見ていた。

シャルの声も僅かに聞こえてくるが、彼も知らないようだ。

ジューダスでも知らないとなると、ここは地殻変動とかで出来た町とかでは無いのかな?



「「「「ようこそ!ハロナイトの街へ!」」」」



街の人がこちらに気付き、声を張り上げる。

それにしても、ハロナイトなんて街…この世界で聞いた事がない。

ジューダスを見ればこちらに気付き、静かに首を横に振っていたので、あちらも知らないと言えよう。

……怪しいが、あまりにも怪しみすぎると街の人にも失礼なので表情はあくまでも普通にしておく。



「さぁさぁ!街の中へどうぞ!」

「今の時期はハロウィンの時期ですから、街の様相も変えているんです!是非楽しんでいってくださいね!」



あれよあれよという間に、私達は街の中に入れられる。

目を瞬かせるカイル達を横目に街の中をぐるりと見渡してみると日中という事もあってか、周辺には出店が並んでおり賑わいを見せている。

試しに近付いて店の商品を見てみればハロウィンにちなんだ商品ばかり並んでいる。



「……可愛い。」



ずっと見続けているとまるでハロウィンの魔法にでも掛かったかのように、なんだかジャック・オ・ランタンが可愛らしく見えてくる。



「気に入るものがありましたか?」

「ふふ。どれも可愛いよ。見せてくれてありがとう。」

「また来てくださいね!」



未だ動けずにいるカイル達の元へ戻ると、目を瞬かせ私を見た。

どうやら、あまりにも街全体が華美で派手な装飾だったのを見て、どうすればいいのか分からないようだ。



「ふふ…!折角だから楽しんでおいで?この街はハロウィン仕様になっていてお祭り騒ぎだから皆楽しめると思うよ?」

「そうなの?じゃあ……カイル、行きましょ!」

「うん!折角だから楽しもう!!」



手を繋ぎキャッキャと走り出していくカイルとリアラにロニが慌てた様について行こうとするが、ナナリーがそれを止める。



「アタシ達は宿を探しておくんだよ!あの子らはそのままにしておきな。」

「で、でもよ…?怪しすぎねぇか?この街…。」

「……まぁ、今のところ害は無さそうだし、君達も今のうちに楽しんでくるといいよ。何かあればここに集合しよう。」

「気楽過ぎだろ…スノウ。なんか根拠でもあるのかよ?」

「ない。」

「は?!」

「ふふ。私もこの街のハロウィンの魔法にかかってしまったようだね?今は楽しむことしか頭にないんだ。……それに。折角皆でこうやってハロウィンの時期を楽しめるんだ。楽しんで損は無いだろう?」

「確かに……そうだけどよ…?」

「ほら、スノウもそう言ってるんだからさ。良いんじゃないかい?」

「じゃあ、私はこれで。ちょっと街を回ってくるよ。」

「はぁ?!ちょ、ちょっと待てよ!?」



ロニの静止を聞かなかった事にして私は街の中を歩き出した。

楽しそうな喧騒、街並み…。

あぁ、歩いているだけでなんだか楽しいな?



「おい、何処に行く。」

『置いていかないでくださいよ!!スノウ!』



後ろから声が聞こえて、そのまま振り返ればジューダスが眉間に皺を寄せながらこちらを見ていた。

それに笑うとすぐさま「笑うな」と返されてしまったので肩を竦めておく。



「君も一緒に街の中を回ってみるかい?レディ?」

「……僕はレディじゃない。」

『相変わらずですね…スノウは。』



それでも私の隣に並んだ所を見ると一緒に回ってくれるようで、嬉しさのあまり笑顔でそれを見ると彼は顔を赤くしてそっぽを向いた。

……全く、可愛いね、君は。



「どこから見て回ろうか?」

「お前の好きにしろ。」

「うーん、そうだね…?」



適当に見て回るつもりだったから目的は無いのだが…。

そんな時、街の女性に話し掛けられる。



「きゃあ!素敵な方!」

「こっち見て!!」



どうやらこの女性の方々はその言葉をジューダスの方へ向けて言っているようで、私はそっと彼から離れた。

するとあっという間に囲まれてしまい、途端に眉間に皺を寄せた彼。

あからさまに迷惑だ、と言わんばかりの表情をしたかと思えば、恨めしそうな瞳を僅かにこっちに向けたので微笑み返しておいた。



「……やっぱり人気だなぁ?」



少しだけ悲しい顔になってしまうと、背後から声を掛けられる。

それも男性の声だ。



「お嬢さん。こんな所で1人ですか?」

「それって私の事かな?」



振り返りながらそう言えば、ハロウィンの仮装をした男の人が胸に手を当て紳士的に話しかけてきていた。

それに自分も胸に手を当て僅かに会釈する。


思えば前世では女性に話し掛けられることはあれど、こんな風に男性に礼儀正しく話しかけられたことなど数回しかない気がする。

大体はハイデルベルグの兵士たちに話し掛けられる機会の方が多いのだから。



「ふふ。その仮装、似合っていますよ?ミスター。」

「!!」



何故か顔を赤くされ、そっぽを向いてしまう男性。

もしや、失礼な事でも言ってしまっただろうか?



「ミスター?失礼があったのであれば申し訳ない。こういう事には些か慣れていないものでね?多少の無礼はお許し頂きたい。」

「あ、あぁ…。」



尚も言い淀む男性。

それに顔も赤いとなると熱でもあるのでは?

私は背伸びをして背の高い彼の頬へと優しく触れた。



「っ!?」

「熱は……無いようですね?大丈夫ですか、ミスター?日中とはいえ、寒くなる時期ですから暖かい羽織を着られた方が良いですよ?」

「…………美しい……」

「??」



急に謎の言葉を残した男性は、顔を真っ赤にさせるとその場を急ぐように逃げていった。

それに目を瞬かせれば、次の瞬間私は何故か女性に囲まれていた。



「きゃあ!かっこいい!」

「握手っ!握手してください!!!」

「次は私よ…!!」



次々と押し寄せる女性の波に、僅かに困った顔をした私だったが女性の期待に応えるべく、次々と女性達の願いを叶えていったのだった。

……たまに男性もいたが、まぁ、気にしないでおこう。

人は皆平等。違いはあれど皆人間なのだから。



「!」



群がる人々の中、必死に手を振る人物がいた。

………カイルとリアラだ。

目を瞬かせ不思議な顔をした私は女性たちの波を優しく押し退けそちらへと歩いていく。



スノウ!凄い人だかりだね!!」

「やぁ、カイル。リアラもハロウィンを楽しんでいるかい?」

「えぇ!とっても楽しいわ!」

「ふふ。そうか。」



嬉しそうに顔を綻ばせると後ろから黄色い悲鳴が飛び交う。

遠くにいたがジューダスも呆れた表情でこちらを見ており、近付いてくる様子は無さそうだ。

それもそうか。

先程女性に囲まれていたし、そういった物には苦手意識の強い彼の事だ。
なるべく災難から遠ざかりたいのだろう。



「それにしても可愛らしい魔女とミイラ男だね?2人とも。」

「え!?スノウ、この格好だけで何か分かったの?!」

「すごいわ!私もカイルも街の人に言われるばかりに着替えたから何の仮装だろうって思ってたのよ!」

「?? 自分達で選んだわけじゃないのかな?」

「うん!街の人がこれが似合うよ!って教えてくれて着替えたんだ!…へぇ、ミイラ男っていうんだ、これ!」

「魔女って、あの魔女よね?私、なりきれてるかしら…?」

「ふふ!2人ともとっても似合っているよ?」

「「ありがとう!スノウ!」」



それにしても仮装なんてものも貸出であるのか。

この街は本当にハロウィンにお金をかけているんだな。



スノウは仮装しないの?」

「私、見てみたいな?スノウの仮装。」

「ふむ、そうだね?折角なら何か着てみようかな?」

「じゃああっちだよ!向こうに行ったら受付みたいな人が話し掛けてくれたよ!」

「楽しみにしてるわね!スノウ!」

「ふふっ!彼と一緒に着替えてくるよ。」



私は後ろの女性陣に別れを言い、真っ直ぐジューダスの元へ歩き出す。

それを不思議そうな顔で見た彼だったが、嫌な予感がしたのか途端に眉間に皺を寄せ、壁から背中を離した。



「さぁ、レディ?行こうか。」

「……何処に行くつもりだ。」

「そんなに警戒しないでくれ。大丈夫。すぐ終わるから。」



彼の手を握り、カイル達が言っていた方向へ歩き出す。

嫌そうな顔をした彼もついては来てくれるので、そのまま貸し衣装屋の所までやってきた。



「どうぞどうぞ!お着替えですね!!」

「2名頼めるかな?」

「はい!2名様ごあんなーい!!」

「待て。僕はやるなんて一言も──」

「さぁ、行こう。レディ。」



ゆっくりと手を引いた私に僅かに目を見張った彼だったが、その後は二手に分かれて更衣室へと向かった。別れ際に手を振れば、彼も諦めた様に男性用の更衣室へと渋々と向かって行くのを見送る。

中では店員さんがあれもこれも勧めてくれるので迷っていると、その店員さんがどうしてもこれを着て欲しいというのがあったのでそちらを着る事にした。



「これはバンシーの衣装なんです!」

「へぇ?懐かしいな。バンシー、ね…?」



バンシーといえば人々に死の宣告をすると言われる魔女だ。

諸説あるが、確か灰色のローブを着た黒髪の魔女だったと聞いている。

灰色のローブに袖を通し、澄み渡る蒼い髪色を黒へと変化させると店員さんからパチパチと賞賛を受けた。



「素晴らしいですっ!!綺麗な黒髪ですねー!!」

「ふふ、ありがとう?君もその衣装似合っているよ?」

「っ///」



途端に照れた店員さんに別れを告げ、そのまま更衣室を後にすると、彼は先に着替え終わっていたようで仮装した状態で外に突っ立っていた。

こちらに気づいていない様子でもあるので、少し意地悪をしたくなった。



「……“君の命は私のモノだよ?”レディ?」

「っ!?」



耳元で囁くようにそういえば、顔を真っ赤にして慌てて後ずさった。

それにくすくすと笑いを堪えられずにいると、彼は少し怒ってしまったようだった。

だが、私の格好……というより髪色を見てすぐに目を見張っていた。

君と同じ、黒色の髪色だから。



「ふふ?バンシーの仮装だから黒髪なんだ。どうかな?似合ってるかい?」

『似合ってますよ!!坊ちゃんと同じ髪色で何だか新鮮ですね!店員さんのオススメですか?』

「うん。そうなんだよ。どうしてもこれにって言われたからね?それでこのバンシーに着替えたんだ。」



未だに髪を見る彼に、似合わなかっただろうかと眉根を下げれば彼はそれに気付いた様で首を横に振っていた。



「お前、疲労は大丈夫なのか?髪色を変えると疲労するんだろう?」

「うん、今回はね?でも暫くは変えられそうにないかな。頻繁にやると目眩がしそうなんだ。でも……これで君とお揃いだね?」

「っ」



自身の髪に触れながらそう言えば、照れた様に顔を俯かせてしまった彼にその場でクスリと笑うが、今度ばかりは怒られそうにない。

それくらい彼の顔が真っ赤だったからだ。



「さぁ、今日は楽しもう。レディ?」



両手を優しく包み、顔を覗き込めば更に顔を真っ赤にさせ逃げてしまった。

……少しやり過ぎたかな?

くすくすと笑っていると、ふと彼の衣装を褒めていないのに気付く。

とても可愛い…いや、かっこいい狼男だった。

あれでは世の女性が黙っていないだろうに、と不憫に思いながら私は再び宛もなく街の中を彷徨う。



ざわざわ
ガヤガヤ


ヒソヒソ
ザワザワ



お祭りで浮かれている人達の声が何処もかしこも聞こえてくる。

久しぶりに落ち着いた観光が出来そうだ、と歩いていると背後から誰かに目を塞がれる。

そして聞き覚えのある声で、耳元へと囁かれた。



「“Trick or Treat?”」

「ふふ。残念だったね?修羅。お菓子なら先程買ったんだ。」



目を塞いでいた手を退け、後ろを振り返れば吸血鬼姿の修羅とこれまた可愛らしい狼男の海琉が手に沢山の食べ物を持ち、食べ歩きをしていた。

海琉はいつでも食べ歩きしているな、と笑い修羅の手にキャンディを落とす。

それに修羅はわざとらしく残念そうな顔をした。



「あーあ。折角ならあんたの血でも貰おうかと思ったんだけどな?」

「流石は吸血鬼だね?役になりきってる。それからその衣装といい、立ち居振る舞いといい、カッコイイよ?修羅。」

「クスクス…!ありがとな、スノウ。あんたの格好も素敵だな。…確か、バンシーだったな?」

「よく分かったね?それに髪色を変えているのによく私だと見分けがついたものだ。驚いているよ。」

「クスクス!それくらいすぐに分かる。髪色を白だろうが蒼だろうが、黒に変えようがな?」

「モグモグ……」



海琉は相変わらず食べるのに忙しい様で手元の食べ物しか見えていない。
修羅もそれを見て呆れてはいたが、優しい顔つきをしていた。



「で、君達もここには観光で来てるのかい?」

「は?あんた、何も知らないんだな。」

「??」

「この街は〈赤眼の蜘蛛〉の組織員が作った街の一つだ。お祭り好きが集まる所でもあるから、来る度に街の名前が変わってるんだよ。今回はハロウィンが近いから“ハロナイト”なんて付けていたがな?」

「そうなのか。じゃあ私達は、〈赤眼の蜘蛛〉の拠点の一つにいた訳だ。」

「そういうこと。俺はここの監視に来てるってだけだ。ついでに催し物もあったからこいつを連れてきたんだ。食べ物があればどこにでも付いてくるからな、こいつ。」



スコーン等のお菓子を頬張りながらようやくスノウに気付いた様子の海琉は、目を丸くして静かにお辞儀をした。



「ほひひちは。(こんにちは)」

「こら。食べながら喋るな。行儀が悪いだろ?」

「ごへんなはい。(ごめんなさい)」

「はぁ、全く…。」



まるで親子のようなやり取りにホッコリしたのは言うまでもない。

本当に何度も言うが、修羅がちゃんとこの子の親代わりをしていて安堵した。



「こんにちは、海琉。可愛らしい狼男だね?」

「…ごくん。うん、店員さんが選んだやつ…。」

「やっぱり君達もあそこの衣装屋に行ったのか。」

「まぁな。折角ハロウィンなら仮装でもしようかと思ってな?そしたらあんたが居たから悪戯でもしようかと思ったんだが…。」

「お生憎様、だね?」

「用意周到すぎだろ。これじゃ悪戯出来ないだろ?クスクス…」



ふと、修羅が辺りを警戒したので僅かに私も警戒したが全然違う事らしい。



「……そういえば、あいつは?」

「あいつ?……あぁ、ジューダスの事かな?彼なら私が悪戯し過ぎて逃げてしまったんだ。」

「は?あんたが悪戯…?どんな悪戯したんだ?」



事の経緯を話せば、修羅は哀れみの目で何処かを見遣った。

しかし直ぐに鼻で笑うと、修羅は私の手を取り歩き出した。



「修羅?」

「折角なんだ。俺たちだけで楽しもうぜ?」

「君は監視の為にここに来たんじゃなかったのかい?」

「今は休憩中だ、休憩中。」



ニタリと笑ってこちらを振り返る修羅に、私も笑って応える。

その後ろをやはり食べ歩きしながら付いてくる海琉。

何だかそれだけで、とても不思議な感じがする。



「ここは〈赤眼の蜘蛛〉が作ってるだけあって、地球の文化が根強い。だから日本の料理なんかも沢山あるぜ?あんたは何食べたい?」

「へぇ、そうなのか。…そうだな、君のオススメでいいよ?」

「了ー解だ!」



嬉しそうに手を引く修羅だったが、すぐにその顔を険しくし私の手を離した。

大きく後退した修羅は鋭い瞳を私の後方へと向けたので、慌てて自分も背後を確認する。

そこには険しい顔をしたジューダスがいて、シャルティエを抜き修羅を睨んでいた。



「貴様…何処からともなく現れおって…!」

「それはこっちの台詞なんだがなぁ?今俺はスノウと絶賛デート中だったんだが、邪魔しないでくれないか。」

『なーにがデート中ですか!!!そんなの、僕が許しませんよ!!!』



シャルティエのコアクリスタルが今までにないくらい激しく点滅している事から、修羅はそれを見て鼻で笑った。



「あー、やめだやめだ。…さ、行くぞスノウ。」



再び私の手を繋ぎ直した修羅は何処かへと歩き出す。

それに合わせて私の足も動いたのだが、修羅の腕を掴んで止めた者がいた。

…まぁ、言わずもがなな人であるが。



「だから俺は今、スノウとデート中だって言ってんだろ。邪魔するなよ。」

「ふん。妄想も休み休み言え。」

『そうだそうだ!!スノウは先に坊ちゃんとデートしてたんですよー?!!』



腕を捕まれ、嫌そうに顔を顰めた修羅だったが次の瞬間手を離し、街の中だと言うのに共に戦闘態勢に入った。



「ここであんたを抹殺しておいたら後が楽だな?」

「言っていろ。たかが負け惜しみの分際で。」

「……何だと?」



メラメラと燃える瞳がお互いに見えた辺りで私は「またか」と頭を抱えた。

いつぞやハイデルベルグでも同じ光景を見た気がする。

まぁ、それくらい二人の仲は良いのだろう。

“喧嘩するほどなんとやら”だ。

そんな時、私の服をクイクイと引っ張る人がいてそちらに気を取られると、どうやらそれは海琉の様だった。



「……これ、あげる。」

「わぁ、懐かしい…!パンプキンタルトだよね?これ。」

「…うん。美味しかったからひとつあげる。……後あっちの方にパンプキングラタンってのがあった。…行ってみる?」

「そうだね。あそこは長引きそうだし、私だけで行ってみようか。」



街中で剣を交える2人を放っておいて、私は海琉と一緒にデートを楽しむ事にした。

途中海琉が沢山の誘惑に負けそうになりながらも、案内してくれたのが先程言ってたパンプキングラタンの店。

カボチャの中をくり抜き、中にグラタンを入れて熱々に焼いたひと品。

チーズがカボチャの皮を伝って溶けているのがとても食欲をそそるのだ。

2人分買ってひとつは海琉へと手渡すと、目を瞬かせてこちらを見た海琉。



「……いいの?」

「案内してくれたお礼だよ。遠慮なく食べて?」

「…うん、ありがとう。」



海琉は木で出来たスプーンでグラタンを持ち上げながらフーフーとグラタンを冷ましにかかる。

そしてそれを口の中に入れると幸せそうな顔をした。

それ程美味しいのだろう。

私も少しだけすくい上げ、冷ましながら口の中へと入れる。

するとホワイトソースと優しいカボチャの味がマッチして美味しいカボチャ色のホワイトソースへと変わっていく。

上のチーズも塩味が良い塩梅でちょうど良い。

なんて美味しいのだろう、と舌鼓を打っているとそんな私を海琉が顔を綻ばせてこちらを見ていた。



「……おいしい?」

「うん。とっても美味しいね?」

「……良かった。」



それだけ言うとグラタンに集中し始める海琉に、小声でお礼を言った。

聞こえているか、いないかは分からなかったが美味しそうに食べているので良しとする。


何だかんだ夜まで海琉と一緒に買い食いをしていれば、流石にお腹も膨れてくる。

しかし海琉はまだ食べ足りない様で、目の前の美味しそうな誘惑をどうしようかと睨みつけていた。

夜でも海琉の表情が分かるくらいに明るいのは恐らく、街中に飾られたジャック・オ・ランタンのお陰だろう。

カボチャをくり抜いた中にロウソクが点してあるのだ。

それが至る所にあるので足元も、露店や家も明るかった。

昼とはまた違った幻想的な風景にほう、と見惚れていると海琉が私の袖を引っ張った。



「……お腹いっぱいになった?」

「うん。とてもね?海琉はまだまだ足りないのかな?」

「……うん。でもお腹がいっぱいなら良い…。」

「まだまだ海琉は育ち盛りだし、遠慮しないでいいよ?折角の祭りだから私達も楽しもうか。」

「…!…………うん!」



子供らしい顔つきで嬉しそうに笑う海琉に、思わず可愛いと思ってしまう。

彼の身長は私と大して変わらないのに。

私の手を取り、走り出す海琉にクスリと笑って後をついていく。

しかし走り出して数秒も経たない内に辺りの景色は全く別物へと変わっていた。



「……?? さっきまで街だったのに…」

「見る限り、森……だね?」



そう。
私達は鬱蒼と茂る森の中にいつの間にかいたのだ。

先程まであんなに明るかった街中の灯りも今じゃ全く見当たらない。

指標となる物もなければ、街の喧騒も何処へやら。

完全な“森”である。



「??」



お互いに首を傾げていると、森の奥の方から誰かがやってくる。

それもランプのような明かりを持って、だ。

流石に警戒し始めた海琉に私も何時でも武器を取り出せる様に構える。

ノソノソと歩いているのは白い髭を生やかしたお爺さんで、その手には棒状の木を持ち、その先にカボチャのランタン……つまりジャック・オ・ランタンを付けて歩いているではないか。

お爺さんはこちらに気付いた様で片眉を上げるとゆっくりとこちらに歩み寄る。
そして、


「“Trick or Treat”」


そうハッキリと言ったのだ。

海琉はこの世界の人間だからその言葉を知らないのも無理は無い。

私はポケットからあるだけのお菓子を老人に渡した。何故か、そうしないといけない気がした。

するとその老人はそのお菓子たちを見ると気味の悪い声で笑うものだから、思わず後退りをする。



「キヒヒヒヒヒ……!タルトにキャンディ……、クッキーにショコラ……。代表的なお菓子ばかりじゃのぉ……?」

「お気に召しませんでしたか?」

「キヒヒヒヒヒ…!いやいや……、そういう訳じゃない…。まさか、こんなに貰えるとは思わなんだ……。キヒヒヒヒヒ…。」

「……。」



流石に不気味すぎる老人に海琉が最大の警戒をしていると、何処からともなく声が聞こえる。

この場にいる3人とはまた違う、別の声だ。

それはとても心配しているような声で、私や海琉の名前を叫んでいる。

だがその声が、近付くこともなければ離れる事もない。

そんな不思議な感覚に海琉と困ったように顔を見合わせれば、老人は再び笑いだした。



「キヒヒヒヒヒ…!……あの声はお友達かい?」

「仲間ですね。もう一人は彼の仲間です。」

「そうかそうか……。キヒヒヒヒヒ…。それはそれは残念じゃ……!一緒に行こうかと誘おうと思ったが…時間が来てしまったようじゃのぉ……?」

「時間……?」

「……くれぐれも死者には気をつけなされ……。キヒヒヒヒヒ……!特にそこのバンシーは魅入られやすそうな顔をしておる……。こちら側に来たくなければそのまま振り返って走るが良い……。キヒヒヒヒヒ…!」



そう言うと老人は森の中へと戻って行った。

その手には大量のお菓子とジャック・オ・ランタンを持って。



「……♪森の奥には死者の国ー♪生きてる人間連れ込んでー♪その魂をじっくり食らうのさー♪」



変な歌を歌いながら老人は歩き、遂にはその姿は森で見えなくなった。

疑問を浮かべながらも私達は老人の言われた通りに振り返り、走る。

さっきと同じで2人で手を繋いで、とにかく走る。

すると森にいる前までの賑やかな街並みがそこにはあった。

そして、彼らの声も鮮明に聞こえた。



スノウっ!!」

「?? ジューダス?」



こちらに駆け寄ってくる2人はありありと心配そうな顔で私達を見ていた。

それを私達は不思議そうな顔で出迎える。

どうしたのだろうか、何かあったのだろうか?



「お前ら、どこに居たんだ?」

「え?さっきまでここに居たけど…?」

「……後は森の中にいた…。見たことないジジイが話しかけてきて……薄気味悪かった…。」

「森?」



怪訝な顔で修羅が私を見たが、それに頷いた。

だっていつの間にか森の中にいたのだから仕方がない。



「お前ら、丸一日行方不明だったんだぞ。」

「え?」

「気付いた時にはお前らはいなくなってるし、探しても見つからない。街のヤツらに聞いたら変な事を言われてな。けど、やっと今見つけたところなんだよ。」



修羅とジューダスの話に少し思案する。



「その街の人が言ってた事って?」

「この時期は死者に魅入られた者が行方不明になる事が多いらしい。戻ってきた奴もいれば帰ってこなかった奴もいる。だが、戻ってきた奴が口を揃えていうには“森の中を彷徨い歩いていた”っていうんだとさ。……ちょうど海琉が言ったようにな。」

「後は白い髭の爺に気をつけろ、だったな。」

「白い髭のじじい…」



見に覚えがありすぎて、私達はお互いを見た。



「じゃあ、私達は無事戻ってこれたってことかな?」

「はぁ…。あんたと居ると本当退屈しないな…。」



修羅が呆れた様に話す。

しかし、近くにいた海琉を見て大きく頷いた。



「海琉。スノウにお礼言っておけ。これから仕事だぞ。」

「……うん。ありがとう、スノウ。」

「!」



初めて海琉から名前を呼ばれた気がする。

それに笑い、手を振る。



「こちらこそ、素敵な夜をありがとう?海琉。」

「……うん!」



修羅の手を握ると直ぐにふたりはその場から消えてしまった。

急ぎの用事だったのだろう。

消えたその場所をボーッと見ていると、ジューダスが心配そうに顔を覗き込んだ。



「…おい、大丈夫か。心做しか顔色が悪い。」

「え?そうかな?さっきまで変な所にいたから、それでかな?」

『はぁー…。でもスノウが無事でよかったですよ!カイル達も心配して今頃探しているはずです。』

「それは悪い事をしたね? …………。」



先程までの光景が忘れられなくて、やはりボーッとその出来事を思い出そうとする。

しかし、その前にグイッと手を引かれ誰かの温かさに包まれた。

あぁ、暖かい……。



「…お前、本当に大丈夫か?身体が異様に冷たいぞ。」

「……。」



思わずその暖かさにしがみつくように擦り寄れば、頭上から息を呑む声がした。

けれども、彼がそれを振りほどく様な事もしなかったので安心して彼に身を委ねる。



「……ジューダス…。」

「…ん?」

「……す、こし……眠たく、なってきた……」

「?? おい、本当に大丈夫か?」

「……ごめ、ん。」



そのあまりにもウットリする温かさに惹き込まれ、そして私はゆっくりと目を閉じた。

……少しだけ彼の焦った声がした気がした。








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目を開けると何処かのベッドの上だった。

何だか不思議な夢を見ていた気がする。

体を起こすと、横に誰かがいるのが薄ら確認出来る。

そちらへと視線を向けると、椅子に座って腕を組んでる状態で寝ている友の姿。

いつもなら起きているか、ちょうど私が起きたタイミングでやって来るかのどちらかなのに。珍しい事もあるものだ。



「……レディ?」

「……。」



完全に寝てしまっている様で反応がない。

少しだけ逡巡したあと、ベッドの端に座る形で彼と対面する。

優しく彼の黒髪を梳けば、反応が返ってくるかと思ったがどうやら眠りは深い様子。

その状態で壁の耳元に口を寄せ、悪戯をしてみる。



「……“Trick or Treat”?」

「……。」



それでも反応が返ってくる事はない。

今着ているバンシーの格好も早い所着替えなければならないし、まだ今だけはハロウィンの悪戯をする事にしよう。

彼の綺麗な黒髪へと口を寄せ、口付けを落とす。



「……。」



それでも彼は起きない。

逆に不安になるような気もするが、彼が起きない今の内に言いたいことを言ってしまおう。

だって、今の私は人々へ死の宣告をするバンシーなのだから。



「……今世はどうか……君の命を私に……」



私は言葉を途切れさせ、そのまま言い逃げの形で部屋を去る。
さて、着替え直してこよう。

そろそろハロウィンナイトも終わっただろうしね?

部屋を去った私は、実は彼が起きていたなんて知りもしない。

項垂れながら真っ赤な顔で顔を押さえるジューダスがそこには居たのだった。



「……スノウ、僕は……」











【魅入られハロウィンナイト】




「(もし私がバンシーだったなら、この旅の最期に……君へ死の宣告を行おう。そして最大のお礼を言うのだ。……最大のありがとうを、私の大切な親友へ伝える為に。)」





「(……あんな事言われなくとも、僕はずっとお前の傍にいる。お前の隣にいるという約束を必ず果たす。今世がお互いどんな終わりだろうと、僕はお前の隣にいる。だから、そんなに案ずるな。馬鹿者。)」
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