カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
Name change.
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「ねぇ、レディ?」
「……僕はレディじゃないと何度言わせれば──」
そんないつもの文句も途中で途切れてしまう。
何故なら、彼女が僕の手を掬い取り手背へと口付けを落としたからだ。
いつもながらに感心すると共に、身体に異常な熱を感知する。
そして羞恥心が徐々に湧いてくるのだ。
「なっ、」
「今夜、君の時間を私に少しでも良いからくれないか…?」
僕の瞳を覗き込むように下から見上げてくるこいつに、僕の体は完全に全身が熱くなってしまって仕方がない。
この熱をどうにか出来ないか、と思っていると彼女がふと悲しそうな顔で僕の手をそっと離した。
…僕がなにも言わなかったから断られた、とでも思っているんだろう。そんな事…あるはずがないのに。
「……今日の夜、何処に行くつもりなんだ?」
「…!」
僅かに反応した彼女は僕を見て嬉しそうに笑った。
それにどうしようも無いくらい、僕の体は痺れるような感覚に襲われ、そして熱に浮かされるのだ。
心が、跳ね上がるような感覚…。
“幸せ”という感覚なんだろうが…、僕のそんな心境を露とも知らない彼女は僕の手を取ってギュッと握る。
……そんな事をされては、余計に心が暖かくなるというのに。
こいつは僕をどうしたいんだ、と顔に出さないように気をつけていれば、彼女は僕の瞳を見て言った。
「今夜、街の外にある大樹の下で待っているよ。」
それだけ言うと彼女は僕の手を離してさっさと何処かへ行ってしまった。
一体何だったんだ、と腕を組めば腰にある相棒が声を掛けてくる。
『なんでしょうかねぇ?今夜、何かありましたっけ?』
「…さぁな。ただのあいつの思い付きなんじゃないのか? 考えるだけ無駄だと思うが。」
『でも、気になるじゃないですか! あんなに必死に頼み込んでくるって事は、絶対に何かありますって!』
「夜になれば分かる。」
シャルの言葉を一蹴し、僕は彼女が去っていった方向とは反対の方向へと足を向ける。
それでもその足取りはいつもよりも軽く感じた。
__夜
彼女に言われた通り、夜になって街の外にある大樹の下へと来た僕だったが、彼女の姿が見えない。
どこかに隠れているのだろうか。
『あれ?居ませんね?』
「その内出てくる。」
そんな話をしていると、何かが上から落ちてきて僕の目の前に立つ。
それは探していた彼女だった。
どうやらこの大樹に登っていたようで、彼女は僕の姿を見てすぐにこうして僕の目の前に降り立ったのだ。
「お疲れ様。」
「ふん。…で、ここで何があるんだ?」
努めて普段のような振る舞いをすれば、彼女は僕の手を握って大樹を見上げた。
「ここじゃないんだ。あの大樹の一番上に上がって欲しい。一緒に行ってくれるかい?レディ。」
「また、何であんなところまで……」
「ちょっとね?」
そう言って彼女は僕の手を引き、大樹の太い幹に足をかけ始めた。
僕は彼女の手を離し、一足飛びで1番下の枝へと上がる。
下にいる彼女へと笑ってやれば、目を丸くした彼女も笑って一足飛びで別の枝へと上がった。
そこからは誰が先に辿り着けるか、と勝負のように上へと駆け上がった。
そして1番上の枝まで来た僕達は、どちらともなく笑った。
「ふふっ。君は相変わらず早いね?」
「ふん。前世の任務で何度もあったからな。これくらい、訳ない。」
そう言って念の為に彼女の手を取ったが、その意味を図りかねているのか彼女は目を丸くして僕を見つめた。
目の前にいる彼女が落ちて急に見えなくならないように。笑った
そう思って握ったが、僕はそれを言うのが気恥ずかしくて何も言わずにいると、彼女は何を思ったのか急にふわりと笑った。
そしてギュッと握り返してくれた。
「ねぇ、レディ? 星降る丘の上で手を繋いだ2人がどうなるか、知ってるかい?」
「…? 聞いた事がない。」
「ふふっ。そうか。なら、良い。」
彼女はそれ以降口を閉ざしてしまい、僕は先程の質問の答えが気になって仕方がないと言うのに彼女は話す気はなさそうだ。
……意地悪なやつだな。
「…ほら、上を見てごらん?」
「……?」
上なんて何も無い──
そこに広がるのは、流星群の如く流れていくキラキラ輝く星たち。
それも白や青などに彩られ、星が一つひとつ分かるほどに輝いていた。
「……」
「ふふ。綺麗だね?この星の輝きは、まるで君の瞳の輝きのようだ。宝石みたいに光を当てると乱反射して…今見ている光景のように、輝くんだ。」
また恥ずかしい台詞を…。
顔が赤くなるのを感じながら、僕は隣にいる彼女を見つめる。
その彼女の海色の瞳も、星の輝きに照らされとても輝いていた。
「……お前のその瞳も、輝いている。」
「ふふっ…、そうか。なら、色は違うけれどもお揃い、だね?」
ふと彼女が僕の耳にあるピアスに触れる。
それは彼女の髪……澄み渡る空の様な蒼色の髪色と同じ色のピアス。
彼女が贈ってくれた大切なピアス…。
絶対に失くさないようにと常に着けているし、着いているか確認する時だってある。
そのピアスに彼女はそっと触れ、そして嬉しそうにはにかんだ。
そんな顔をされたら…堪らなくなる……。
「このピアスも、星の光でキラキラしていて…、なんだか擽ったいな…?」
「ふっ。それを言うならお前の着けているこのピアスも星のように輝いている。」
「そっか…。それは見たいな…?」
お互いに顔を見合せ、そしてお互いに笑ってしまった。
何が可笑しいとか、そんなのじゃなく……自然に笑ってしまったんだ。
「……で?星降る丘で手を繋いだ2人はどうなるんだ?」
「……。」
急に黙り込んだ彼女を見れば、少しだけ顔が赤い気がした。
気の所為じゃなければ、だが。
……それは、もしかして期待していい事なのだろうか。
僕に都合の良いようになっているのは、それこそ気の所為なんじゃないかって途端に臆病になってしまっている自分がいる。
踏み出すなら、今しかないのかもしれない──
「スノウ…。」
「…うん?」
「僕は…、お前が──」
その時。
星空がまるで昼のように明るく輝いた。
眩しそうな顔で空を見上げてしまった彼女を見て、ひっそりと溜息を吐く。
……僕は流星という、自然現象にまで告白を阻まれるのか…。
「星降る丘に、手を繋いだ男女が2人……。それはね?」
彼女は僕の仮面を取ると、とても綺麗に笑った。
そう、目を見張るほど……綺麗に…。
そして僕の耳元へと唇を近付けて、僕の鼓膜を揺るがす。
「……永遠に引き裂かれる事の無い、仲になれるらしいんだ。」
そう言って彼女は僕の手に指を絡めてきた。
あまりにも突然の事で、僕の鼓動が無意識に早くなる。
「……これで、私達を引き裂くものは…きっとない、よね?」
見せつける様に、先程絡めた指を持ち上げた彼女。
早鐘を打つ僕の鼓動は更にドクリと一際大きく脈を打ち、そして僕はゴクリと喉を上下させた。
あぁ…目の前の存在を今すぐ抱きしめたい。
口が裂けても言えないが、なんて可愛らしい事をしてくれるのだろうと僕はクラリと目眩がしそうだった。
こんな所で目眩なんて、木から落ちて洒落にならないが…。
「……ねぇ、レディ。またいつか…こうして流星を見に来れたらいいね…?その時もこうして2人だったら…嬉しいな?」
「……。(やめてくれ。そんな…堪らない事を言わないでくれ…。自分の腕に閉じ込めたくなる…。)」
あまりにも近い距離感に僕は堪らなくなって彼女の髪に触れた。
…これでも我慢した方だ。自分よがりに彼女を掻き抱かなかった僕を褒めて欲しいくらいだ。
そんな彼女は僕の気なんか知らないから、擽ったそうに身を捩って笑っていた。
……あぁ、もっと彼女に触れたい…。
「…レディ?」
どうしたのか、と言った感じで彼女は僕を見て首を傾げた。
僕は彼女に自分の気持ちを悟られたくなくて、髪に触れた後視線を上に向け星を見る。
「……ここまで沢山の流星群は初めて見たな。何故今日だと知っていたんだ?」
「街の人から聞いたんだ。だからすぐに君の顔が浮かんで、今日の昼に君を誘うに至ったんだ。」
「(こいつは…全く……僕の気も知らないでそんな事を平気で言う…。)……その星降る丘の話もか?」
「うん。そうだね。だから……どうしても君と来たかった。」
そう言って珍しく恥ずかしそうにはにかんだ彼女。
僕はそんな彼女を堪らず抱きしめていた。
「(あぁ…、暖かい…。)」
「(相変わらず冷たいな、こいつは…。)」
温かさを求めてか、彼女が僕の方へと擦り寄ってくるので苦笑いをしながら少しだけ腕の力を強める。
前世で僕を守る為に海底洞窟の崩落と濁流に呑み込まれ命を落とした彼女は、それ以降体が冷たくなるという災難に見舞われている。
知らず知らずの内になるらしく、彼女でさえも自分の体だと言うのに制御は出来ないらしい。
だからこうして彼女の体を温めてやるのが、最早自分の仕事になりつつある。
「(離れたくない…。この温かさをまだ…堪能していたい……。)」
「(後どれほど……こいつと居られるのか…。…………少し、怖いのかも…しれないな。)」
光り輝く星の下、2人の男女はお互いを求めるように抱き合っている。
それを見守るかのように星たちが光り輝き、2人を照らすかのように流星となってどこか知らない所へ落ちていく。
今だけは、2人を引き離すものなど──無いのだから。
【今宵、星降る丘の上で。】
__それは2人の周りを覆い隠している大樹さえ、優しく見守っていた。