カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
Name change.
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ようやくその解呪師のいる町に着いたカイル達は、ぐったりした様子を隠しもせず町の入口で座り込んだ。
通り行く人は何をしてるんだ、と言わんばかりに平気そうな顔で通り過ぎていく。
「あっついよー…」
「呪いのアイテムなんかより、先に宿屋で休みてぇぜ…。」
「はいはい。皆、これくらいでへこたれないの!」
パンパンとナナリーが手を叩き、皆に喝を入れる。
そういえば、ナナリーは砂漠の村の出身だ。
だから平気そうな顔で歩けているのだ。
それに皆から羨みの眼差しを貰ったナナリーだったが、その視線は最後尾で未だに町に辿り着いていないスノウへ向けられていた。
「大丈夫なのかい…。あの子…。」
「いつもの事だ。気にするな。」
『相変わらず苦手なんですねぇ?昔と変わりない様子で安心しましたよ。』
町にようやく辿り着いたスノウはその場で倒れ込む。
一言も発せない辺り、もう限界なのだろう。
「こりゃあ、ちょっと宿屋で休まないとダメだね。」
「賛成っ!! 皆、宿屋で休もうよ?!」
カイルが堪らないとばかりに手を挙げ、ナナリーの言葉に賛同したので、一同は宿屋へ向かう事になった。
……倒れたスノウの回収は、暗黙の了解でジューダスに託されたのだった。
「あぁー、涼しい……」
「生き返るー……」
「ダラしないねぇ? これくらいの暑さならアタシの所の方が暑かったよ。」
「あの火山の時よりは…マシ、かも……」
リアラも宿屋に入り休息をとっていた。
最後尾のジューダスはすぐに宿屋の手配を済ませ、暑さで虫の息のスノウを抱えた状態で部屋へと向かってしまった。
その後ろ姿を見て、ナナリーがくすりと笑った。
「(ほら。何だかんだ言ってスノウの事が心配なんじゃないか。)」
「取り敢えず、少し休憩してからにしようぜー? それでいいだろ?カイル。」
「うん! そうしよう! スノウが居ないと場所も分からないしね!」
宿屋内の涼しさからか、元気を取り戻しつつあるカイルが頷く。
そして自分に引っ付いているダウジングマシンを見ていた。
カイルの判断に従い、暫しの快適さを楽しんだ一行だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そろそろ呪いのアイテムを外してくれるという人物の所へ行こうという面々の前に、ジューダス一人が現れ、カイル達は首を傾げる。
ジューダスの近くにいるはずのスノウが居ない。
それ程までに具合が悪かったのだろうか?
「あれ?スノウは?」
「今のあいつは使い物にならん。……それに、あいつからこれを託されている。武器屋の店主にこれを渡せばその呪いのアイテムを解いてくれるそうだ。」
ジューダスが手に持っていたのは一枚の手紙だった。
何が書かれているのかは分からないが、スノウが行かないなら見る訳にもいかないだろう。
カイル達は渋々といった具合にスノウを宿屋に置いた状態で、その町の武器屋へと訪れることにした。
知らない町の武器屋ともなると探すのに苦労するかと思いきや、そうでもなく、メインストリートに建ち並ぶ店の一角にそれはあった。
「こんにちはー!」
「おう、いらっしゃい。」
カウンターにはタバコを吸いながら新聞を読んでいる店主らしき男性が座っていた。
カイルの言葉にすぐ反応し、挨拶を返してくれる辺り、優しそうな店主だ。
…………見た目はかなり厳ついが。
「これを渡せと言われている。」
「ん?誰からだ?」
ガサガサと、折り畳まれた紙を広げた店主はその紙の文字をゆっくりと視線で追っていく。
すると店主の顔がどんどんと怖くなっていくのが分かり、カイル達は思わず後ずさる。
何か、いけないことでも書いてあったのだろうか?
「───ちょっと待ちなさいっ!!」
急に店主が高めの声で目の前のカイル達を睨んだ。
それもオネエの様な話口調で、先程までの優しそうな店主とはまるで違う。
ビクビクしていたカイル達の前にジューダスが立ち、店主を睨み返す。
「この、手紙っ……!! 一体、誰に書いてもらったのよっ!!」
「え、誰って……」
「スノウよ、ね…?ジューダス。」
「あぁ、そうだ。」
「……スノウ? 」
仲間の名前を不安げな声音で話す店主は、瞳を揺れ動かし、明らかに動揺していた。
「待って。 その人って蒼い髪の人じゃなかった?! それから海色の瞳をした…!」
「え、うん。それがスノウだよ?」
「(スノウ…? おかしいわ。 アタシの知ってる名前は…)」
店主は尚も瞳を揺れ動かし、動揺を隠せない様子である。
ここまで来ると何かあるのだろう、と誰もが勘づく。
スノウが来たくなさそうな表情だったことと言い、この人との間で何かがあったのだろう事がすぐに分かる。
「……その人は今どこにいるの? 教えてくれない限りは貴方のそれ、解呪してあげないわ。」
「ええ?! 困るよ!!」
「……。」
『(乙女の心を持つ…デリケートな人…。もしかして、この人がスノウの会いたくない人でしょうか?)』
仲間達の間に不穏な空気が流れる。
仲間を売りたくないし、スノウが嫌がっていたのに教える訳にもいかないし…。
「……ううん。きっと宿屋よね? 貴方たち、どう見たってここの人じゃないし、旅人みたいな格好だもの…!」
「あ、えっと…」
店主はカイルの反応を見て確信を得た。
宿屋にあの人が……、“モネ”がいる、と。
すぐに持っていた新聞を投げ捨て、宿屋へと向かう店主に誰もが焦りを見せた。
「っ。 追うぞ!」
「え? なに?!」
『ちょっと、スノウってばこの人に何したんですか?!えらい怒りようですよ?!』
「そんなこと、僕が知るわけないだろう?! だが、今のあいつに店主を会わせる訳にはいかない! もしかしたらスノウではなく、“モネ”を知っている人物かも知れないんだぞ!!」
『そ、それはマズイですって! スノウはモネって事を隠してるんですよ!?』
「……仲間に打ち明けたとは言え、他の奴らに知られればどうなるか…!」
急いで宿屋へ戻った仲間達。
ジューダスがスノウのいる部屋の扉を開け放つと、中からは乾いた音が鳴り響いた。
──パシンッ!!
「…。」
「…なんか、言ったらどうなのよ…!!」
頬を叩かれたスノウは、頬に手を当て俯いていた。
それに逆上した店主が今度はスノウの胸ぐらを掴み、持ち上げた。
それでもスノウは俯いた状態から顔を挙げなかった。
「なんで…! なんで生きてるって言ってくれなかったのよっ…!!!アタシがっ、どれだけアンタの事を心配したと思ってるのよ!!!!」
「……。」
「なんか言いなさいよっ!!!?」
「ちょ、ちょっとストップ!ストップ!!!」
カイルが店主とスノウの間に入ろうとしたが、店主の鋭い睨みでビクリと後ずさる。
そこにジューダスが入り込み、店主を睨んだ。
「そいつを離せ。」
「……何よ。部外者は黙っててちょうだい。」
「そいつに過去、何があったかは僕は知らん。だが、今のこいつは過去のこいつじゃない。今は“スノウ”なんだからな。」
「……その声。その態度。その瞳の色…。……そして、この子の過去を知ってるような口振り…! 貴方、リオン・マグナスね?」
「…!」
『えぇ?! 坊ちゃんの正体がバレた?!』
「なら、尚更黙っててちょうだい。アタシはこの子と話があるのよ…!!!」
「……私のことは好きにすると良い。だけど……彼の事は見逃してくれ。それに彼の正体も他にバラさないでくれ。」
「……! そんなの、分かってるわよ。」
店主はスノウの胸ぐらを掴んだまま外へ出ようとする。
それにジューダスが遂に武器を手にし、店主の前に立つ。
「三度は言わん。そいつを離せ。」
「……。」
店主は暫くジューダスを睨んだ後、スノウをそっと下ろす。
足が着いたスノウは軽く咳をついた。
近寄る仲間達だったが、それよりも前に店主はスノウの腕を掴み外へと連れ出した。
仲間達は慌ててそれについていったが……。
「おい、ジューダス…!なんで俺達が隠れなくちゃいけねぇんだよ…!」
「大丈夫かしら?スノウ…。あの人、ただ事じゃない感じがするけど…。」
「……ともかく、様子を見るしか出来まい。 ……あいつに何かあれば飛び出して援護する。いいな?」
「「「(こくこく)」」」
建物の陰に隠れ、不穏な様子の2人を窺う仲間達。
その仲間達にも不穏な空気が流れていた。
「……モネ。」
「……。」
「相変わらずね? 急に来て、急に居なくなるのも…全部……昔のままよ…。」
「……。」
「それにしても、今はスノウって名乗ってるのね。 その白磁の肌は相変わらずだし、声もそのまま…。見た目が女の子らしくなったくらいね。……でも、手紙の字ですぐに貴女だって分かったわ…。アタシに会いたくなかったかしら?」
「……そうだね。勘の鋭い君に会いたくなかった…。会えばすぐに私が“モネ”だとバレてしまうだろうから。」
「分かっててあの場所に来なかったのね…! それにお仲間には偽名を名乗ってるなんて…最低よ。」
「……。」
「都合が悪くなったら黙り込むのね。」
「……私は、」
「…。」
「私は“モネ”という名前を捨てた身だ。今はもうスノウとして生きている。だから偽名だろうがなんだろうが──」
「貴女が! 貴方がなんと言おうと、世間は黙ってないわ!!貴女が“モネ・エルピス”だった事実は変わらないのよ?! どうして公表しないのよ!? どうして昔の栄冠を取り戻そうとしないのよ?!! 貴女にとっての“モネ・エルピス”って……何なのよ…!!!」
「……私がなんと言おうと君は納得しない。私にとってモネ・エルピスは、ただの捨て駒だ。」
「やめてちょうだいっ!!! そんな、そんなこと、聞きたくもないのよ!!!」
耳を塞いだ店主が涙を流し、その場に膝を着く。
嗚咽に塗れた声にスノウはただ店主を見つめるだけだった。
ゴクリと仲間達の喉が鳴る。
修羅場といえば、修羅場だが……。
仲間達にはいまいち、彼らがなんの話しをしているか分からないからだ。
「……〝真実ほど人を魅了するものはないけど、真実ほど人に残酷な物もないのだろう〟。……君の昔からの口癖だろう?」
「っ!」
「なら分かるはずだ。〝真実ほど人に残酷なものもない〟のだからね。」
項垂れた店主に近寄り、その頭を優しく撫でたスノウ。
その表情は先程とは違い、微笑みを湛えていた。
「……遅くなったけど。ただいま。」
「っ、おっそいのよ…!!! その言葉を待ってたのよ…!!」
わんわん泣いている店主は、スノウを強く抱き締め、また泣き始める。
それに苦笑いを零しながらスノウは店主の背中をポンポンと叩いた。
「……え、っと…?あれは……仲直り出来たって事で良いんだよな…?ジューダス…」
「僕が知るか。…だが、まぁ……仲直り出来たんじゃないのか?」
『うーん…。なんだか、不思議な関係ですね?あの二人。』
未だに泣いている店主に困った顔をしながらも、スノウはずっと店主の背中を優しく叩いていたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おう、あんたら、すまねえな。取り乱しちまった。」
「う、うん…。とりあえず…仲直り出来たみたいで良かったよ…?」
武器屋へと戻った一行は、困った顔をしながら店主を見る。
さっきまであんなにオネエ言葉だったのに、店主が普通に戻っているからだ。
「あぁ。こいつとは昔に因縁があってな。」
「私からも謝らせてくれ。すまなかった。皆に迷惑をかけたね?」
「いや…良いんだけどよ…? 昔、仲が悪かったのか?」
「いや、すこぶる良かったよ。だから逆に……ね?」
「こいつったら、急に消えたと思ったら……死にやがってたんだ。そしたら生きてやがるし……!!」
「ははっ。まぁ死んだけどね?」
「……ほう?後で聞かせてもらおうかしら? ハイデルベルグの大英雄様?」
「……君、素が出てるよ。」
「ふんっ!」
店主はむくれた顔で視線を逸らせたが、すぐに顔を元に戻すとカイルの手についたダウジングマシンを触る。
「……これくれぇなら、すぐに解呪出来る。だが……」
「素材なら私が取りに行く。だから彼を救ってやってくれ。」
「……デザートステラだ。 暑さの苦手なお前さんには荷が重いかもしれんが…」
次々と話が進んでいき、仲間達が困惑した顔を2人に向ける。
しかし店主の言葉に笑ったスノウは、相棒の調子を確認し始めた。
「彼等の為ならそれくらい、容易いさ。」
「……変わらないな、お前さんは。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
その言葉を最後にスノウがすぐに消え、そして数分と経たずすぐに戻ってきた。
その手には可愛らしい桃色の花──デザートステラが握られていた。
すぐさま店主がその花でカイルの手にある、ダウジングマシンへと近付けると──
──カシャン
「え?!」
不思議な音を立て、あんなに振っても取れなかった呪いのダウジングマシンが取れていった。
それにカイルが一番に目を丸くし、それを見ていた。
たったあれだけの事なのに、もう取れてしまったのだからカイルも驚いているのだ。
てっきりもっと何かをするのかと思っていたが…。
「おう。これで完了だ。」
「あ、ありがとう…!」
「どういたしまして、だ。…さて、これで解呪出来たんだから色々と?話聞かせてもらおうじゃねぇか?“スノウ”さんよ?」
「あ、お腹が痛くなってきたなー。ちょっと宿屋で休んでく──」
「おい、逃がすと思うか…?」
ガシッと肩を掴まれ、身動きの取れなくなったスノウは肩を竦めた。
そして逃げきれないと分かったスノウは、店主と朝まで語り合う羽目になったのだった。
__翌朝
朝帰りとなったスノウは欠伸をしながら、宿屋へと戻っていた。
丁度ジューダスが起きてきていたので去り際に挨拶を交わす。
「ふわぁ…、おはよう……レディ…。」
「……遅かったな。あの武器屋の店主はかなりお前に執着心があるようだが…。」
「あぁ…。彼は武器屋の店主兼、解呪師兼、情報屋でもあるからね…。情報屋は情報が命だって君も知ってるだろう…?」
「にしては、恐ろしいまでの執着心だと思ったが?」
「彼は…モネ・エルピスに対して強いこだわりがあったんだよ…。何があってもモネなら出来る、モネなら生きて帰ってくる…。彼の中の情報屋としての信念より、歪んだ執着心が彼の中で膨らんで……結局どうしようもなくなったんだ。」
「……。」
「それに情報屋を敵に回すと厄介でね…。お陰でかなり今世はやりにくいよ…ふわぁ…。モネ・エルピスが死んだと信じられなかった者の末路だね?」
「……僕は、」
「うん?」
彼の言葉に欠伸を噛み殺したスノウは、優しく微笑み彼の言葉を待つ。
「僕は、武器屋の店主の気持ちが……少しは分かる。」
「……?」
「僕は前世の最期、お前が死んだと聞かされて…あいつらを信じられなかった。だから挙句の果てに自害するまでになった。」
「……」
「モネだったお前が死んだという、その事実は……僕の胸に、重くのしかかった。恐らく店主も同じ気持ちだったはずだ。だから、僕は店主の気持ちが少しは分かるな。」
「……そうか。君達は……本当、言葉を失うくらい優しいね。」
そう言ったスノウはどうやら眠気がなくなったようで、天を仰いで目を閉じては物思いに耽けているようだった。
「……本当……、皆、優しくて…困っちゃうよ……。」
「スノウ…。」
「私は……自分のやってきたことを後悔していない。でも、それで沢山の人を泣かせてきた…。それが……私の罪になって、私の首を絞めるんだ。……前世で交流のあった人に今世で再び出会うのは……だから苦しいんだ…。」
「(そうか。だからスノウはあの時、ここに来るのを渋っていたんだ…。)」
「だからこそ、今世で生きているはずだった君を、そっと影から見たいと願った……。でも…君は私が死んだ後に亡くなっていた。……ここまで来て、再びこの事がのしかかってくるとはね…。前世との縁は、今世の私には中々苦しいものだ。」
そう言って去ろうとしたスノウの腕をジューダスは無意識に掴んでいた。
それは恐ろしいまでに真剣な顔で。
「──以前にも言ったが……、僕はお前との出会いを無かったことにしたくない。お前と出逢えて良かったと思っている。だから……前世での縁がお前を苦しめようとも…僕は…!」
その瞬間、スノウがジューダスを優しく抱き締めた。
その表情は酷く穏やかで、抱き締められたジューダスには見えなかったけど、それでも良い顔をしていた。
「私だって、今では君との出会いを無かったことにしたくないと思う程になった。……だからごめん。寂しい事を言ってしまったね。もう大丈夫だ。……だから、そんな悲しい顔をしないでくれ。君はずっと笑っててくれ。」
そんな言葉に、ジューダスは緩慢とスノウを抱き締め返した。
「これから先…必ず前世での出会いのツケが回ってくる時が来る…。その時に私が歩みを止めてしまったら、君が私を導いてくれ。……君にしか…頼めないことだ…。」
「……それくらい、言われなくともやる。」
「……ありがとう。友よ。」
【前世での縁と呪いのダウジング】
「(私の推しであり、私の親友…。君に出逢えて、心から良かったと思っているよ。だから、ありがとう、リオン。)」