カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
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ハイデルベルグで死に物狂いで玄を倒し、倒れた私が目覚めた後の自由時間の合間。私はリアラに呼ばれていた。
何だろう、とリアラの後を着いていくと彼女は何故か街の外へと向かっていくので必然と勘ぐってしまう。
原作が進まない今、リアラや他の仲間たちの一挙手一投足には目が離せないのだから。
しかしそんな私の警戒も杞憂に終わった。
「……晶術を教えて欲しい、ですか?」
街の外へと出た私達は向かい合い、そしてリアラが真剣にそう私に相談してきた。
私はそれに目を瞬かせ不思議そうな顔でリアラを見遣った。
しかし彼女の顔は至って真剣で、頬を掻きながら私は少し困った顔をする。
正直、晶術と魔法は違う。
発動方法もだが、何より晶術は“レンズを使用して術を発動させる”ものだ。
それに比べ、私の出す魔法は“自身の魔力を使って術を発動させる”ものであって、晶術とは全く毛色の違う術となる。
後は私がレンズを用いた術発動のイメージが湧かないというのが正直な感想だった。
「お願いっ!スノウ!私にはどうしても必要なの!」
「……。理由を聞いてもいいですか?」
両手を合わせお願いをしてくるリアラに優しくそう聞くと、恐る恐るといった様子で私に理由を話してくれた。
「カイルや皆の役に立ちたい…。けど、私の今の晶術じゃ何の役にも立たないから…」
「そんな事、ないとは思いますが…。リアラの回復も攻撃も私からすると申し分ありません。」
「ううん、そんな事ないわ。」
モジモジと地面を見ながら体を動かす彼女。
はて、と頭を動かす。
彼女が不安になるような…そんな出来事があっただろうか?それとも私が気絶している間にそんな事があったのか、どちらかだ。
「参考になるかは分からないですが、私で良ければよろしくお願いします。」
悩んで困っている彼女をそのままにはしておけない。
その性格が祟って引き受ける事を決心したが、後悔はない。……きっと。
「! ありがとう!」
嬉しそうな彼女の顔が見れただけ良しとしようじゃないか。
♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。
「スプラッシュ!」
彼女の力強い詠唱が辺りに響き、詠唱後にはその名の通り激流が現れる。
先程から何が不足なのか、とリアラの晶術を見せて貰ってはいるが、やはり発動される術において懸念される様な事は万に一つもない。
ただの杞憂だと言いたいが、それでは本人は納得しないだろう。
何かないか、と目を凝らして見てみるが……。
「(分からない……!)」
彼女は一体何が不満なのだろうか?
それを見抜かない限り彼女に安息は無いようである。
「スノウ、どうかな?」
「うーん…。」
口元に手を当て考える仕草をするも思いつかない物は思いつかないのだ。
しかしそんな時、私の頭に妙案が浮かんだ。
ここは同じレンズの力を使って、且つそういった類いに詳しい専門家に聞いた方がいい。
「リアラ、ちょっと待っててください!」
「え?あ、うん!」
私はすぐに探知を開始し、目当ての人……ジューダスを探し出す。
彼の持っているシャルティエなら彼女の悩みにもきっと何かしらの答えを導いてくれるはずだ。
私は目当ての人物の場所まで瞬間移動を使い、わざとに彼の目の前に現れる。
「?!」
『うわっ?!びっくりした!!』
「ちょっと頼みたい事があるんだ!特にシャルティエ!君に!」
『え?!僕ですか?!しかもあのスノウが僕に頼み事?』
「何があったんだ?」
「とにかく来てくれ!」
私は有無を言わさず、彼の手を引きリアラの元へと連れていく。
何の為に連れてこられたか分からないジューダス達は目を瞬かせるとリアラに注視した。
『えっと……何が始まるんですか?』
「……シャルティエ。」
小声でこっそり彼の背中にあるシャルティエに話し掛ける。
そして事の発端と手伝って欲しい旨を伝えるとシャルティエは快諾してくれた。
『何だ、そんな事ですか!任せてください!絶対何か見つけてみせますよ!』
「……」
私たちの会話を聞いていたジューダスも手伝ってくれるようで、腕を組み鑑賞するつもりでいるようだ。
「リアラ。もう一回晶術を使ってもらってもいいですか?」
「う、うん!__スプラッシュ!」
先程と同じく激流が現れ、何事もなく終わっていく。
リアラも緊張したように固唾を飲んでジューダスを見る。
暫く考え込むジューダスとシャルティエだったが、ジューダスは私を見ると横に首を振る。
きっと彼には私と同じで何がおかしいのか分からなかったのだ。
期待してシャルティエの言葉を待ってみると、意外な回答が返ってきた。
『うーん……、もしかして術のレンズ含有量が他の人と違うのかもしれません。』
「??」
疑問符を浮かべる私にジューダスがシャルティエの言葉を噛み砕いて伝える。
勿論シャルティエの存在は隠していた。
「晶術を発動する際のレンズ使用量が他者と違うからそう感じるんじゃないのか?」
「え!分かるの?ジューダス」
「なんとなく…だがな。」
「????」
どうやら私は本当に専門外だったようだ。
それを申し訳なく思うと同時に、興味深い内容だな、と感嘆する。
私は魔力を減らして発動させるので、あんな小さなレンズでどうやって術を発動させているのか逆に知りたいくらいだ。
そんな私の思惑とは別にジューダスがリアラの指導に入ったのが分かり、シャルティエも役に立てたのが嬉しいのかここぞとばかりに頑張っていた。
それを離れた場所でじっと見ることにした私は丁度いい木があるのを見つけ、跳躍しそれに飛び乗る。
「……晶術、か。私には無縁な世界だな…」
改めてそう思う。
いやしかし、それならば魔法を教えてくれと言われてもどう教えていいか分からないので困るが…。
そう思うと自分でもよく魔法が使えるな、と感慨深くなる。
別に意識して魔力の量を調整している訳ではなく、勘で全てやっているのだ。
相棒だったガンブレードが壊れ、新たな武器である銃杖を使い戦うことになったが、これまた操作が難しい。
なんと言ったって、この武器は破天荒な天才が使っていた代物なんだから。
銃杖は主に魔法メインになるため、それでリアラが私に頼んできたのかもしれない。
繊細な操作が必要だが、かと言ってそれも意識しているかと言われれば違うと断言出来る。
『……ふふ。』
左手の薬指に着けられた契約指輪が光り、セルシウスが声に出して笑った。
私の心の声を聞いていて、それで笑ったのだろうと笑いながら眉根を下げる。
「繊細さが求められる銃杖だけど、思えば気にしたことが無かったなって思ってね……」
『……貴女はそんな精細さを意識せず操作出来るほどの天才って事……。』
「ははっ。セルシウスからそう言われると嬉しい。精霊から褒められるなんて中々無いだろうからね。」
『……貴女はもっと自信を持っていいのに…』
「ふむ…。一応頭に記憶しておくよ。」
リアラとジューダスが晶術についてやっている間、私は木の上からじっとそれを観察していたのだった。
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毎朝の稽古は欠かさない。
ロニがその為に毎日早起きしてくれており、もう既に私たちの間で稽古は日課となっていた。
「どうしたどうした!!がら空きだぜ!!」
私の武器が銃杖に変わってからも彼に遅れを取ったことなどあまりなかったのだが、今日に至ってはそれが何度も続いた。
明らかにおかしい…。
何故かやりずらさを感じて私は彼の攻撃に堪らず大きく後退した。
「はぁ、はぁ…」
「……おいおい、大丈夫か?」
ロニが心配そうに武器を下ろす。
彼に言われるほどに今の私は絶不調らしい。
荒い息を繰り返す私を見て、ロニが太陽の位置を確認し頷いた。
「そろそろ止めにしようぜ!朝ごはんも出来てるだろうしな。」
「はぁ、はぁ……まだまだ…!」
私の意気込みに頭を掻きながら心配そうに見やるロニだったが、私が武器を構えたことでもう一度武器を手に取った。
「これで最後だからな!」
「ありがとうございます……!」
そしてその一方的な攻防はカイルが呼びに来るまで続いていたのだった。
「ちょっと!2人とも!朝ごはんだよ?!」
「おう!分かった!」
「はぁはぁ…!」
「切羽詰まるのは分かるが……1回休んでからにしようぜ?」
私の肩に手を置き、説得するように背中をポンポンと叩いた彼はカイルと共にご飯の方へと向かっていった。
残された私は息を整えがてら、暫く自身の手を見ていた。
何が起きている…?
昨日までは普通に使えていた銃杖が今日だけは使いにくい。(まぁ、まだこれを使い始めてそんなに時間は経っていないのだが…)
首を傾げ、その原因を探ろうと思考の縁に沈みかけた所でカイルが慣れない雪道を走ってきた。
「ちょっと!スノウ!!ご飯だって!!」
「!! すみません……」
今度は私の手をしっかりと取り、再び慣れない雪道へと歩き出す。
早くご飯が食べたくて仕方がないらしく、早歩きで歩いている彼にクスッと笑ってしまう。
手を握り直し、彼の横に並べば途端に嬉しそうに歩を大きくした。
その食事後もロニは律儀にも稽古に付き合ってくれて、彼の厚意に甘えやってみるもののやはり違和感が拭いきれない。
何故かやりづらさを感じてしまう。
「おいおい…、本当に大丈夫かよ?いつもに比べて洒落にならないくらい外してるぜ?」
彼の言う通り、銃杖から銃弾を込め撃ってみるもののそれは大概外してしまっていた。
不思議なその感覚に首を傾げつつ息を整える。
ジューダス達三人は今日もリアラの稽古に付き合ってるらしく、こちらに来る様子はない。
それを好機と捉えるべきか、はたまた厄介と捉えるべきなのか……。
「うーん、悪くは無いんだけどよ…。なーんかいつもと違うんだよなー…。」
「そうですね…」
勿論私も感じている違和感だ。
恐らく自分が一番分かっているのかもしれない。
しかし心配をかけたくない私はロニにこの事を黙ってて欲しいと頼んだ。
渋々了承してくれた彼に感謝しつつ今日一日はロニとずっと稽古をしていたのだった。
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──翌日。
魔物退治の依頼を受けたカイルが意気揚々と雪道を進んでいく。
その後ろを私達が歩いているのだが、ロニが心配そうに小声で話しかけてくる。
「……大丈夫か?」
「……分からないですが…何とかやってみます。」
目的地に辿り着いた途端カイルが突っ走っていくので、ロニが慌ててそれを追いかけていく。
銃杖を構えつつ先に進む私もその後を追いかけていく。
ジューダスは今日は後衛に回るようでリアラに指導を入れつつ歩いていた。
そして目的の魔物を視認し、皆が武器を構える。
ロニが一瞬不安そうな顔をこちらに寄越したが、私はそれに大きく頷いておいた。
今朝の稽古も昨日と同じような結果になってしまった所為なのだが、彼は心配で堪らないようでいつもカイルと共に前線に出て武器を振り回しているのにも関わらず私の近くの敵を排除してくれていた。
「!! ありがとうございます…!」
「おう!ムリすんなよ?!」
しかしそれに気付かないジューダスではない。
いつもと違う陣形、いやにロニがスノウを庇っているような視線を向けている。
訝しげな顔になったジューダスにリアラが首を傾げた。
「おい!もっと散らばれ!これじゃ敵が散開して面倒だ!」
「ちっ!あいつ、何にも分かってねぇ癖に…!」
「私は大丈夫ですから…、彼の言う通り散開しましょう。」
「けどよ……」
「彼を怒らせると大変ですよ?」
「ま、そうだけどよ。……無理すんなよ?」
「はい。」
そう言ってロニがいつもと同じようにカイルと共に突っ走っていく。
銃杖を構え、近くにいた敵に向けて私が魔法を放とうとした瞬間。
「!!」
魔法が発動しない…!?
これじゃ敵の攻撃に当たってしまう!
すんでの所で魔物からの攻撃を回避した私は、体制を立て直す為に一度魔物から距離をとった。
「__バーンストライク!」
しかしその詠唱後、出てきた魔法はあまりにもお粗末なものでそれに目を見張る。
すぐに消えた炎弾を回避する必要も無い魔物は、そのまま私に向かって突っ込んできたのだ。
魔法後の硬直で避けられなかった私に、魔物の爪が襲いかかる。
そして、私は腕にその爪を受けてしまう。
「くっ…!?」
「!!スノウ!!」
1番早くに気付いたロニが慌ててこちらに来て再び襲いかかろうとしていた魔物を攻撃する。
次いで気付いた三人が私の腕の傷を見て顔を青くする。
「ひ、ヒール!」
リアラが大慌てで回復技を使ってくれた為、止血した腕を見て、私はどうしようかと悩ませる。
これでは完全に足でまといだ。
「ロニ…」
「スノウ!お前は一旦下がってろ!ここは俺がやる!!」
その言葉に唇を噛みながら頷く。
そして戦線から離脱し、離れた場所で皆の戦闘を観戦することにした。
『……大丈夫?』
「傷はもう痛くないよ。大丈夫。」
『……そっちじゃないけど、怪我は大したことなくて良かった…』
「??」
試しに回復技を自身に使ってみるが、全く効果が現れない上にふと気付いた事がある。
「……どうやって魔法使ってたんだっけ……?」
『……』
ド忘れで片付けられない程、私の頭の中は空っぽだった。
今までどうやって魔法を使っていたか覚えていない。
感覚で魔法を出していた分、今ツケが来たのかもしれない、と他人事のように感じてしまった。
「スノウ!」
戦闘が終わったのかリアラが1番初めに駆けつけてくれて、抱き締めてくれる。
その後をジューダスやロニ、そしてカイルも追いついてくる。
「怪我見せて!」
リアラがそう言うと傷のあった方の腕をくまなく見て多少の傷でも回復技を使ってくれるのが申し訳なかった。
「すまない……スノウ。俺が近くにいてやれば……」
ロニが罪悪感を漂わせ話しかけてくるものだから、思いっきり首を横に振る。
悪いのは私だ。
戦力の問題は仲間全体の問題なのにそれを1人で抱えてしまい、尚且つロニにもその片棒を担がせてしまった。
だから悪いのは私なのだ。
「乱れた陣形…いやにお互いを庇い合うような行動……。お前ら、何を隠していた?」
怒気を孕んだ声でジューダスが私達を睨む。
ロニが口を開いたのを見て、彼が話す前に私は口を開いた。
「術が……使えないのです…」
「「え?!」」
カイルとリアラが驚いた顔で私を見る。
ジューダスに至っては見るからに青筋が浮かんでいる。
しかしロニが私を庇うようにジューダスへと言葉を重ねた。
「スノウが調子悪かったのは昨日からだったんだ。報告しなかった俺が悪い。こいつを責めないでやってくれ。」
「誰を責める、責めないの問題ではない!!……スノウ。お前、あと少し傷がズレていたらどうなるか分かっているだろう…?!」
「……死んで、いたかもしれません…。」
「今回依頼を受けた魔物は大量発生していた。それを蹴散らすのにお前の晶術はかなり有効で皆がそれに期待していたはずだ。なのにそれを黙っていたら作戦も、何もかもが台無しだ!」
彼の説教が今は耳に痛い。
オロオロし始めるロニとカイルが私達を見てどうしようかと見比べる。
しかしジューダスは怒りが治まらないようで更に私へ怒号を言い連ねようとしていたのだが、リアラが私達の間に入ったことでジューダスも口を噤んだ。
「スノウもこれで分かったんだし、ジューダスもそろそろ止めにしない?皆、困ってるわ。」
その言葉にジューダスは私を睨むとフンと鼻を鳴らし視線を逸らす。
リアラが心配そうにこちらを覗き見てくれたので安心させるように頭を撫でておいた。
「カイル。」
「え?!な、なに?スノウ」
「今の私は、皆さんの足でまといです。ですから旅を続けるなら私を置いて行ってください。」
「え?!そ、そんなこと出来ないよ!スノウがいなくちゃ……」
言おうとした言葉を慌てて飲み込む彼に苦笑いをする。
分かっている。皆、私の魔法に期待してくれていたのだと。
だからこそ、先程のジューダスの説教に耳が痛いのだ。
「……」
顔を歪める彼。
そこには何か言いたげな空気を出していたが、私は彼に視線を合わせず背中を向けた。
リアラが横に並んで腕を組んでくれたので笑顔でお礼を伝えた。
その後私達は、帰り道で誰も話すことなく街へと戻ったのだった。
♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。
──翌日。
毎朝の稽古に相変わらず付き合ってくれたロニに感謝しながら昨日と同じく稽古を進めていく。
しかし昨日よりも調子が悪い私に、流石のロニもかなり困惑しているようで彼も武器を持て余していた。
「百華!」
銃杖の先から複数の虹色の光線を出し敵を攻撃する技、百華。
しかしその掛け声と共に出たのはたった2、3本の光線だった。
普段なら無数の光線が出ているのにも関わらず、だ。
「……。」
ロニが恐る恐る武器を下ろした事で私は苦笑いで彼を見て自身の武器を下ろした。
「えっと……元気出せよ?ほら、何かの拍子に元に戻るかもしれねぇだろ?」
「そうだったらいいのですが…。でも、もう大丈夫です。皆様にはご迷惑かけませんから。」
「……本当に抜けるのか?」
「元より、考古学者である私が皆さんに何時までも着いていたら研究が進まないじゃないですか。私は私の成すべきことをします。ロニはロニのやるべき事をしてください。」
「俺の……やるべきこと……」
困った顔で地面を見る彼に拳を作り、目の前に持っていく。
困惑し続けている彼は恐る恐る同じく拳を作ったので、それに自分の拳を合わせておいた。
「皆さんの旅の無事をハイデルベルグからお祈りしております。ですからそんな顔なさらないでください。またいつか会えるのですから。」
「そう…だな。そうだよな…!」
ハハハ、とから笑いをする彼の背中を叩き、先を急がせる。
「今まで……本当にありがとうございました。」
「っ、」
涙腺が緩んでいるらしいロニの顔が歪んだ所で私はわざとに笑いを零した。
辛い見送りは苦手なものでね。
ロニを置いて先に街への帰路へと着いた私を見て、ロニは悔しそうに拳を握り、近くにあった木を殴っていた。
それに気付かぬ振りをして私はそのまま歩き続けた。
……2人のその稽古を、1人と1本が見ていたことにスノウもロニも気付きはしなかった。
♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。
いつもの朝食の時間。
カイルも珍しく起きていて、皆驚いたのだが何より驚いたのがスノウが帰ってこない事だった。
ロニも稽古終わりにスノウ1人で帰らせた事もあり、驚いていた。
「ジューダスもいないね。」
「もしかしてスノウと一緒にいるのかしら?」
「……僕ならここにいるぞ。」
丁度帰ってきたジューダスだったが、スノウが居ないのを見て顔を歪ませた。
そしてすぐに踵を返し、スノウを探しに行こうとするがそんなジューダスの前にロニが立ちはだかる。
「スノウは、もう覚悟を決めてる。追いかけるのはやめとけ。」
「……。」
「俺だって、スノウと毎朝稽古してたくらいだからよ。その……居ねぇと寂しいが、あいつが覚悟を決めて前を向いて歩きだしたんだ。俺たちが見送ってやらなくてどうする?」
その言葉に全員が沈黙し、下を向いた。
しかしジューダスは諦めていなかった。
「お前は、あれでいいと思っているのか?あいつは、玄や他の奴らに追われてる身なんだぞ!?今あいつを一人にすることは危険なんだぞ?!」
「そりゃあ、そう…だけどよ……」
「僕は、あいつを探し出す。絶対にだ。」
ロニの肩を押しやるとすぐに扉の方へと向うジューダス。
そこへスノウが扉を潜り、戻ってきた。
「??皆さん、どうされたのですか?キノコが生えそうなほど暗いですが…」
「スノウの話をしてたんだ。その…これからの事とか…」
ロニが暗い顔でそう言うと、今度はジューダスが私の腕を掴んできた。
「スノウ。今日一日、僕に付き合え。」
「????」
更に首を傾げた私は拒否権がないようで、ジューダスに引っ張られ外へと連れていかれる。
「あ!おい!ご飯はどうすんだよ?!」
……ロニのそんな声が聞こえてきたが彼には届かなかったようだった。
……バイバイ、私の朝ごはん…。
ジューダスに引っ張られ、連れてこられたのは街郊外だった。
手を離され何を話されるのかと思ったら彼はいきなりシャルティエを取りだし、私に向かってそれを突き出した。
私は瞬時にそれに反応し、躱すと一度攻撃の手が止む。
「……目の前の得物に対しての反応は悪くない。ならば、晶術だけが問題ということか。」
『うーん、やっぱりそうなりますよね。』
「いや君たちまず謝らないかい?そこは。」
急に攻撃されて普通の人なら絶対に怒ってるよ?!
そんな私の心の叫びは聞こえないから仕方ないかもしれないが、次々と攻撃を繰り出してきたジューダスに私は堪らず大きく後退した。
「一体何のつもりだい?私が憎いから殺したいって?」
「馬鹿か。何故そんな事になる。……お前、自覚ないのか分からないからハッキリと言わせてもらうが、スランプだぞ。」
「……スランプ?」
なんか聞いた事のある単語だ。
あの紫色の髪をした足の早い子供のことか?
いや絶対に違う。
それは絶対、アニメの見すぎだ。
「はぁ…。自覚なかったのか。」
「スランプって…?」
『一時的に何かしらの原因で能力や今まで出来ていた技能が出来なくなることです!本当に一時的なので、すぐに調子を取り戻せると思いますが…何をきっかけで不調になっているか分からないことにはスランプ脱出は難しいかもしれません。』
「お前、最近晶術を使って何か違和感がなかったか?」
「……ずっと違和感ばかりだけどね。」
『いつから不調になったんですか?』
「確か……一昨日くらいからかな。最初は朝早かったから調子が出ないと思ってたんだけど、翌日もとなると流石におかしいなとは思ったんだ。あのロニに後れを取る程には調子が悪かったみたいだし。」
「……早くそれを言え。」
頭を抱えジューダスが顔を歪ませた。
まぁ、ロニには口止めをしていたし彼に知られることはなかっただろう。
『じゃあ、スノウ。晶術を使ってみてください!リアラの時と同じで僕が見抜いてあげますよー!』
「……」
「どうした?」
「……全く使えないんだ。」
「『は?/え?』」
あれ程仕えていた魔法が今、微塵も出てこない。
いや、イメージが湧かないのだ。
火属性なら火属性で“火”という漠然としたものは浮かんでくるものの、ただそれだけだ。
他の属性でも然り。
両手を呆然と見る私に2人は渋い顔をする。
しかし本当に出来ないのだ。
「これは……酷いな…」
『流石に見てみないことには…と思ってたんですが……これは難航しそうですね。』
「あぁ、でもこの件に関しては大丈夫だよ。安心してくれていい。」
「……何かアテがあるのか?」
こうなれば同じ〈星詠み人〉である修羅を頼る他ないだろうと思っていた。
彼ならオーラも元に戻してくれたし、今回も何か助言くらいはくれると思う。
「まぁ、ね。だから安心して先に進んでてくれ。次旅先で会えたらまた旅をしようか。」
「……」
『でも晶術が使えない状態で1人になるなんて危険すぎます!絶対坊ちゃんの近くにいた方がいいと思うんです!!』
シャルティエが何とかしてスノウを説得したいと食らいつく。
1人沈黙していたジューダスはふと、思ったことを口にする。
「もしかして、他の奴らが使っている晶術を見ていれば、何となく感覚が掴めるんじゃないか?」
『なるほど…!それですよ!スノウ!』
「……一理ある、か…」
私のその言葉に一気に明るくなる空気。
そしてジューダスはあっという間に仲間を連れてきて、再び魔物退治へと向かうのだった。
「よし!スノウの為に頑張るぞ!」
「ちゃんと見とけよ!スノウ!」
「私も頑張るから、パーティから抜けるなんて寂しいこと言わないで?」
皆がやる気を見せる中、魔物が悠々自適に現れ標的が一気に絞られる。
悪寒がしたのか、その魔物は急いでその場から逃げようとする。
しかし、それを見逃さないのが皆というか……、今の仲間たちはまるでウサギを狩るライオンだ。
同時に4人の晶術が炸裂し、後に残るものは何も無い。
流石に同時に色んな属性の晶術が炸裂しすぎて何が何だか分からなかったので苦笑いを浮かべれば、ジューダスが指示を出す。
今度は1人ずつタイミングをあわせること。
そしてまた可哀想なウサギがのこのことやってきては狩られていくのだった。
──魔物狩りから1時間。
「どう?!イメージが掴めた?!」
「一人ずつずらしてやったから見えてたよな?」
カイルとロニが心配そうに口々にそう言ってくれる。
あれからかなりの数の晶術を見せてもらった。
でもあと少しのところなのだ。
静かに首を振る私に皆が落ち込むと、リアラが目を瞬かせ私に近寄った。
「スノウ?怪我したの?」
言われた場所を見ると昨日の腕の場所に新たな傷が出来ていた。
覚えがない私は首を傾げるとリアラがすぐに回復技を使ってくれ、暖かいものが身体中を流れる。
その感覚に私は目を丸くした。
そして慌ててリアラの手を握りお願いをする。
「リアラ…!もう一度私に回復技をかけて貰えませんか…?!」
「え?……ふふ、スノウの為なら何回でも!」
驚いた様子の彼女だったがすぐに微笑むと回復技を使ってくれる。
この感覚……間違いない。
思い出せなかった感覚に似ている!
「……揺蕩う波の調和…………具現し、力となれ…………ディスペルキュア。」
「「「『「!!!」』」」」
詠唱が完了すると辺りに光の波が押し寄せる。
その範囲にいる仲間たちの傷が癒えていくのを見守ると、急に皆が歓喜の声を上げ騒ぎ出した。
そうだ。
この感覚だ……。
魔法を使う時に何を考えるか。
やはりその術のイメージが大事なのだ。
何でこんな簡単な事を忘れていたのだろう。
呆然と自身の手を見る私に仲間たちが肩を組んだり、抱き着いてきたりするので我に返る。
嬉しそうに涙も流してくれる仲間たちを見て、私も嬉しくなり笑う。
あぁ、また戻ってこれたのだ。
この仲間たちの元へと。
『……良かったですね…スノウ。元に戻って。』
「まだ完全とは言い難いが……まぁ、今の所はあれで良しとするか。後は詠唱の長さを短くすればいいんだからな。」
嬉しそうに笑うスノウにジューダスも笑顔を零した。
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甘い要素はありませんでしたが、日常編です。
たまにはああやって説教したり、されたり。
また、ああやって仲間を助けたいという気持ちや、仲間の気持ちを汲むということも彼らは旅の中でして、そして大きくなるのですよね。
そんな日常編でした。