カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
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それは突然私達に訪れた。
「嫌いだ…!」
カイルが私達に向かってそんな言葉を放った。
__“純粋無垢な子供”。それがカイルだった。
だから彼がそんな言葉を言い放つとは思っていなかっただけに、私達の間で驚きの感情が流れている。
だが、彼は何故か〝嫌い〟と言い放った割に口元を手で押え、驚きの顔を浮かべていた。
言葉とは裏腹なその態度──私が疑念を持つには証拠が揃いすぎた。
「急にどうしたんだい、カイル? それも、君の大好きな食事の場で。」
「食事なんか、オレ嫌いだよ!」
そう言ってまた口元を押さえるカイル。
流石に隣にいたジューダスもおかしいと思ったのか、訝しげな顔を浮かべカイルを見た。
「な、何言ってんだよ、カイル? お前、いつもメシメシ言ってるじゃねぇか。」
「そんな事言ったことないよ!」
「……。」
流石におかしいが、ロニやナナリー、リアラは彼の様子に驚くばかりで気付いた様子はない。
前世で兵士の編成の時にもよく使っていた“ステータス表示”と言われる、所謂チートみたいな魔法を使う事にした私は一度席を立ち、カイルの肩に触れた。
「ちょっと、ごめんよ?」
「「「???」」」
カイルを含めた全員が私の行動に目を瞬かせ、成り行きを見守る。
そして私はカイルのステータスを表示させると、そこには状態異常の文字がある事に気付く。
“食中毒”と書かれたそれに目を丸くしたが、よくある腹痛や下痢、嘔吐の症状ではない食中毒のようで、実際彼の顔は元気そのものである。
次に目を向けたのが彼の食事である。
宿屋で食べていた私達の食事は皆同じ物を食べているのに何故彼だけこんな事が起きているのだろうか。
「(……なるほど? 彼の食事だけに毒が盛られていたのか。)」
皿の中の物を〈サーチ〉で毒物検知してみれば、彼の皿だけ毒物を検知した。
……これはまた厄介だ。
「カイル。私の事、嫌いだよね?」
「当たり前じゃん! スノウの事なんて大っ嫌いだよ!」
「「「っ?!」」」
「(なるほど。私と反対の言葉を言ってる訳じゃないのか…。)そうか。私は君の事、とても好きなんだけどね? 悲しいな?」
「オレは謝らないよ? だってオレ、スノウの事嫌いだもん。」
「カイル!! 言っていい事と悪い事があるだ──」
ロニが怒った様子でそう口にするのを私が手で制した。
そして大丈夫だ、と笑顔を見せ再びカイルの肩に手を置いた。
「明日の天気は晴れみたいだけど、折角なら皆でピクニックでもどうかな?」
「ピクニック? 行きたくない。皆で行けばいいじゃん。」
カイルが遂に涙目になってしまい、私は彼の頭を撫でた。
やはり、そうか。
恐らくだけど、彼の本音とは別の言葉が口から衝いて出るのだろう。
だから彼の言葉と彼の表情が合ってないのだ。
「___ディスペルキュア」
状態異常回復技を試してみるが、彼のステータス画面には未だ食中毒と表示されているので失敗している事が窺える。
「んーー。…これはしつこい。…あと、これはもう食べない方がいい。君の言葉が拍車をかけて悪くなるかもしれないしね?」
「お、おい、スノウ。どうなってんだよ? カイル、なんかおかしいのか?」
ロニが不安そうな顔で私を見る。
それが伝染したかのように隣にいたナナリーやリアラまでもが怖々と私を見ていた。
いつもカイルは皆に素直な感情で接していた。
それが今回、毒にかかって災いした訳だ。
誰もがカイルの言葉とは到底思えないからこそ、困惑している事など百も承知。
私は順を追って皆へと説明することにした。
食事に入ってる何かでカイルがおかしくなっている事。
また、カイルの本音とは真逆の事が口から出ること。
それを話せば皆の顔がホッと安堵した顔つきになり、思わず立ち上がっていたロニもドカリと派手に椅子へ座った。
「よく分かったな。」
『本当ですね! カイルの肩に触れたのは何か理由があるんですか?』
「あぁ、勿論だよ。彼の肩に触れたのは彼のステータスと呼ばれる……そうだな、簡単に言えば彼の状態を見ていたからなんだ。」
「「「??」」」
「おい、スノウ。誰と話してるんだ?」
「あぁ、ごめんごめん。ジューダスの腰にあるシャルティエだよ。」
彼の腰の剣は特殊なもので、この世界ではソーディアンと呼ばれていた。
ソーディアン自体は数本しかなく、かの有名なハロルド・ベルセリオス博士が作ったとされる最高傑作である。
その最高傑作は素質が無いと扱えず、かなり玄人向けというより、人を選ぶものである。
まぁ、ハロルド博士自体かなりの変わり者だったのもあるが、ソーディアンの場合はそうするしか無かったのだろう。
その変人扱いされた博士から出来上がったソーディアンには元となった人物達がいる。
実際に居た人達がモデルとなっていて、その性格やらを剣の宝石・コアクリスタルに転写させている。
だから剣ではあるが、人格を持った剣で人と話せるのだ。
それ故に自身の気に入ったマスターを選ぶので、マスターに選ばれた人間は極わずかしかいない。
シャルティエはジューダス…、前世はリオン・マグナスだったが、その彼を気に入ってマスターにしているのでこうしてジューダスとなった今も一緒に居る。
だが残念なのは他の人達がそのシャルティエの声が聞こえないことだ。
だから彼らは私が一人で話していたように思えたのだ。
「で、そのステータスとやらには何が書いてあったんだ?」
「……まぁ、毒だね。」
「毒っ?!」
皆が今目の前にある皿に乗った食事に目を向け、後ずさった。
ロニに至っては食べてしまった、と顔を青ざめさせていた。
しかし私は首を横に振り、カイルの皿にしか入ってなかったことを説明した。
するとその言葉に憤慨したロニは宿屋の厨房へとズカズカと入っていき、それを止めようとナナリーが慌てて後を追ったのを私は横目で見届ける。
「カイルのそれ、治らないの…?」
「私の状態異常回復技でも回復させられなかったから、後は時間が経過して治るものか…それともこのままか。」
「え!? このままはカイルが可哀想だわ!」
「そうだね。それに戦闘になった時にどういった弊害が起きるか分からないから早く治したいけど…、方法が…ね? それにしても、やっばりリアラは優しいね?」
「そんな事ないわ。きっと誰だって思うはずよ? スノウも思ったでしょ?」
「ふふ。適わないね?」
しゅんとしているカイルの頭を再び撫で、大丈夫だと声を掛ける。
まだ気落ちはしているがカイルが頷いたのを見て、私も笑顔を彼に向けた。
そこへ厨房へ文句を言ってきたであろうロニとナナリーが帰ってきた。
「全くよー? ここの宿のヤツら、無責任すぎるだろ!!」
「こいつは置いとくとして…。カイルのそれ、多分だけどキノコが原因なんじゃないかって厨房の人が言ってたよ。特効薬があるにはあるけど、材料がないから作れないって言っててね…。」
「それを俺達に取ってこいって言うんだぜ?!」
「……まぁ、仕方ないといえば仕方ないけどね。」
「特効薬があるなら今までにも何度か罹った奴が少なくとも何人かは居る、ということだろうな。」
「それなら未然に防いで欲しいもんだよ。」
厨房への文句が絶えない中、カイル一人は静かにしていた。
いつもなら話に参加して楽しく会話するのに、それが出来ないからだ。
自分が口を開けばまた皆を傷付ける言葉を言ってしまうかもしれない。だから彼は恐怖から口を閉ざしているのだ。
その気持ちは私にも分かる。
だからこそ早く治してあげたいと思う。
「その特効薬は何処にあるんだい?」
「この近くの森の中にある薬草らしいんだが……もう夜中だから危ないって言ってたぜ?」
「私が取ってこよう。皆はカイルを励ましててくれ。」
腰にある相棒を取りだし、相棒の調子を見ながらそう話すとそんな私の隣にジューダスが並ぶ。
彼の代わりに腰にある彼の相棒が声に出した。
『スノウ1人なんて危ないですよ?! 僕達も行きますっ!』
「夜の森は危険が付き纏う。一人で何かあった時に対処出来ない事もあるだろうからな。僕も行こう。」
「ありがとう、ジューダス。君が一緒なら心強いよ。」
相棒の調子を見終えた私はジューダスをしかと見て大きく頷いた。
そしてロニから詳しい薬草の特徴を聞いた私達はその薬草があるという森へと足を運んだ。
「鬱蒼としてるね。」
「森は大体こんな物だろう?」
『うぅ…。暗くて何か出そうです…!』
「へぇ? 意外だね? シャルティエはお化けの類いが苦手、と。」
『大の苦手なんですぅ…!! だってあいつら、なんか不気味じゃないですか! こっちの攻撃は効かないし!』
急に多弁になったシャルティエに私は驚いた顔を向けたが、彼のマスターはどうやらその事を知っていた様で平然とした顔で歩いていた。
月明かりもこの森の中には入ってこないのに、よく歩けるなと横で思いながら魔法で明かりを灯すと、ポワリと辺りが明るくなっていく。
『その灯りだけでも、僕には救いの灯火ですよ…。』
「ふん。無駄口叩いてないでさっさと行くぞ。」
「甥の事が心配だもんね?」
「……行くぞ。」
少しの間が気になったが、彼が一度足を止めて動きを止めたくらいだから、私の与り知らぬ所ではかなり心配しているのだろう。
その証拠に彼の足取りは最初よりも少し早い。
良い事だ、と一つ笑いを零した私はすぐに彼の隣に並び、彼の顔を覗き込んだ。
それに顔の位置はそのままに視線だけをこちらに向けたジューダスだったが、すぐに彼の顔は真剣になった。
「……お出ましだぞ。」
「ん?」
辺りには木々の間にキノコが生え、鬱蒼とした森がより一層鬱蒼とした森へと変わる頃、ジューダスが目の前の物へと顎をしゃくり私に危険を知らせる。
それはキノコの姿をした魔物で、辺りのキノコと似通った毒々しい色をしたものである。
その上、道を塞ぐようにその巨体を存分に発揮しているので迷惑この上ない。
私はそれらを見て顔を顰め、相棒へと手を伸ばした。
《きゅるるるるる!! 》
変な鳴き声を出したキノコの魔物は、大きくその場に跳躍するとそのまま地面へと落ちてくる。
その魔物が地面に着いた瞬間、見た目に反し、割と重たいのか地響きが起きて辺りの空気や地面を揺るがせた。
足を踏ん張りその地響きを耐えたのだが、周りのキノコ達がその揺れで一斉に胞子を巻き上げる事態になり、2人してその光景に目を見張った。
「「?!」」
流石に二人ともこの事態は予想していなかった。
よく分からないキノコの胞子を頭から被ることになり、更に目の中に入った胞子のせいで涙目になる。
「けほ、ごほっ。」
「ごほっ! ごほっ!」
『だ、大丈夫ですか?! 2人とも!!』
「な、何とかね。」
しかしやってくれる。
あの巨体で道を塞いでいる事と言い、キノコに胞子を散らせた事と言い、本当に迷惑である。
魔物だからこちらを敵とみなして攻撃してきたのだろうから当たり前なのだが、それでも迷惑なものは迷惑なのである。
特に痺れ等の効果は無い事からただの胞子だったのだろうと予測づけ、相棒を構えた。
しかしその瞬間、私は隣にいたはずの彼に攻撃をされていた。
「?!」
『ぼ、坊ちゃん?!』
「っ!?」
彼も何が何だか分からないとばかりに顔を驚きに満たし、私から離れるように大きく後退させた。
まさか、先程の胞子で彼には何かの効果が発揮してしまったのだろうか?
急いで魔物を倒さないと共倒れになってしまいかねない事態に私は相棒を振り翳した───
「っ?!」
「くっ…!?」
今度は私が彼に向けて武器を翳していたのだ。
それに2人して驚かないはずがない。
だって敵を攻撃したと思ったら身体が勝手に反応し、彼へと武器を翳し始めたのだから。
『ちょ、ちょっと! 2人とも!! 仲間割れしてる場合じゃないですって!?』
「違うっ…! 私は…!!」
「くっ、お前もか…!」
どうやら同じ効果の胞子を浴びたらしい。
それしか考えられない。
お互いに身を離し、動きを止める。
そのお互いの剣には珍しく動揺が見て取れた。
攻撃すれば彼を、彼女を──傷つけてしまうかもしれないのだから。
《きゅるる!! 》
面白そうに笑う魔物に顔を顰めた所で何にもならないのは分かっている。
分かっているのだがどうすることも出来ない。
魔法を使えばその魔法の挙動はどっちへ行く?
もしかしたら彼の体を傷つけかねない。それは絶対に嫌だ。
しかし攻撃しない訳にも行かず、お互いに恐る恐る剣を構えれば再び同じ構図になってしまう。
2人で鍔迫り合いして、そしてハッとなる。
まだバーサーカー状態じゃないので自分達に意識があることが救いではある。
そのまま自分の意思とは関係なく、どうしようもなく2人で鍔迫り合いを繰り広げていれば、彼は何かに気付いた様に私の剣を大きく弾いた。
そのまま僅かに後ろへよろけてしまうと、目の前を何かが通り抜け、それは彼の体へと直撃する。
「ぐはっ…」
『「っ?!」』
彼の体が何かによって吹き飛ばされ、木に直撃するのを見ていた私は息を呑み顔を強ばらせた。
さっき私の剣を大きく弾いたのはもしかして、さっきの何かから私を守る為…?
私は慌てて彼に駆け寄り回復を掛けようとしたが、力強く腕を掴まれ意識を詠唱ではなく彼に向ける。
「魔法、は使う、な…。僕なら、大丈夫だ…。」
余程酷く、身体を強く打ち付けたのだろう。
息も絶え絶えにそう話す彼に申し訳なさを感じ、謝った。
「っ、ごめん…。守ってくれてありがとう…。」
「は…。当然、だ…。」
必死に呼吸を整えようとする彼を見て、私に出来る事は無いか、と頭を捻らせるとふとカイルにやっていたみたいに自分のステータスを見てみる。
そこには単純に“混乱”の2文字が浮かび上がっていたので、魔法ではなくすぐにアイテム…それこそ状態異常回復のパナシーアボトルを自身に使いステータスを見る。
空白となったその場所を確認した私はすぐさま相棒を手にキノコの魔物へと駆け出した。
「?!」
『坊ちゃん! パナシーアボトルです!!』
そうか、単純明快だった。
ただ私達は状態異常にかかっていただけなんだ。
だからパナシーアボトルで対応出来たんだ。
そのまま私は魔物へと攻撃を繰り返し、着実にダメージを叩き出す。
「__焼きキノコにしてあげるよ。」
火属性の魔法を唱えかけたその時、再びあの巨体が跳躍し地響きを起こし、そして周りのキノコが揺れで危機を察知し胞子を撒き散らした。
再び胞子を被る事になった私の体は先程とは違い、明らかな異常を見せていた。
「くっ?!」
──麻痺だ。
その場で膝を着いた私に駆け寄ったジューダスが、私の顔を覗き込み様子を窺う。
「おい! 大丈夫か!?」
『今度はどうしたんですか?!』
「か、らだが…痺れ、る」
「麻痺か…!」
『あのキノコの胞子、洒落になりませんよ?! 次はどんな効果が来るんですか?!』
「そうはさせるか!」
今度はジューダスが魔物へと攻撃をする。
物理に耐性があるのか、スノウの攻撃もあまり入っていないように見受けられる。
ならば、とジューダスが晶術の構えをした時だった。
またしてもあの巨体が飛び、辺りに胞子を撒き散らし、今度はジューダスが胞子を被る羽目になる。
「っ、」
『ぼ、坊ちゃん?!』
ジューダスもその場に片膝を着き、何かに耐えるような動作が見られる。
そう、ジューダスの状態異常は──“睡魔”だ。
「(くそっ…、眠くなってくる…!)」
『坊ちゃん! 坊ちゃん!! しっかりして下さい!!』
2人とも膝を着く事になるとは思っていなかったシャルティエが焦りに身を焦がす。
このままでは全滅してしまう。
そんな時、何とかパナシーアボトルで回復したスノウが魔法を唱える。
「___ディスペルキュア!」
『!! ナイスですっ! スノウ!』
睡魔から解放されたジューダスは一度眠気を覚ますかのように大きく首を振る。
スノウは魔法の威力が強くなる銃杖へと武器を変え、ジューダスもシャルティエを構える。
お互いに晶術の方が効果があると判断したからだ。
「行くぞ! シャル!」
『はい! 坊ちゃん! 形勢逆転しますよー!!』
『「___ネガティブゲイト!!」』
「___葬炎、ファントムフレア!!」
ジューダスが闇属性の晶術を、スノウが火属性の魔法を唱え同時に発動させる。
ネガティブゲイトにより動きを止められたキノコの魔物は、その後幽玄の炎に巻き込まれ炎で焼き尽くされる。
苦しそうな声を上げた魔物だったが、最後の最後に悪足掻きとして跳躍し、またしても辺りのキノコの胞子を撒き散らした。
胞子を被った2人は腕で目を隠し、眼球へのダメージは避けれたものの状態異常までは防ぎきれず、されるがまま胞子を被ってしまう。
これで何度目だ、と顔を顰める2人だったがスノウは再び膝を着き、ジューダスが慌てて駆け寄る。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「おいっ、大丈夫か?!」
『坊ちゃんは大丈夫ですか?』
「今の所は、な…。それより…」
ジューダスから見たスノウの顔色が徐々に悪くなっていく。
明らかに“毒”を浴びている。
パナシーアボトルは使い切ってしまい手持ちにない。
スノウの様子からしてもパナシーアボトルを持っていそうな雰囲気はなく、為す術がないのかスノウは力なく横に倒れた。
「スノウ!!」
慌てて抱き起こしたが、苦しそうに息を吐き表情も明らかに苦しそうである。
「ぅう、はぁ、はっ、うっ…」
『ま、まずいですよ…! この感じ…ただの毒じゃありません。』
「ただの毒じゃないとなると…もしや、“猛毒”か…!」
毒よりも毒性が強く、HPが一気に削れ続ける猛毒はジューダスの知っている限りでは意識が朦朧とすると聞いた事があり、スノウの今の状態は正にそれだ。
声を掛けても反応が無いのはそれの所為だろう。
早く手当しなければ手遅れになるかもしれない…!
「くそっ!」
悪態を吐いても変わらないのだ。
ジューダスは咄嗟にスノウのアイテム袋を探り、それでも何か無いかと探ると奥底の方に最後の1個であるパナシーアボトルが見つかる。
それを引っ張り出しスノウへと使うと、幾分か楽になった呼吸で息を吐き出している。
だが、完全とは言えなかったのだろう。
まだ顔色が悪く、回復技を掛けてやっても大した効果は見られそうにない。
『猛毒状態ではなくなりましたが、まだ多少の毒が残っているのかもしれません…。猛毒なんて中々拝めませんから、パナシーアボトルもそこまで想定されてなかったのかもしれません…。』
「う、うぅ…ジューダス…。」
「…!! 大丈夫か、スノウ。」
「ありがと、う。ここまで回復、出来たなら、あとは、じぶんで…やる……。君は先に行って、薬草を……。」
「こんな所にひとりお前を置いておけるか。夜の森は危険が付き纏うと言っただろう。回復するまで待ってやるから早くしろ。」
「…わか、った…」
ジューダスに支えられながらも何とか銃杖を構えたスノウはそのまま詠唱に入る。
流石に意識が朦朧とした後だからか、詠唱が長い。
「___揺蕩う……波の…抱──」
しかしスノウの銃杖を構える手が弱々しく、徐々に重力に従い落ちていき詠唱も止まりそうだ。
ジューダスはスノウの背中を支えつつもう片方の手で銃杖を握るスノウの手を支えた。
優しく、しかし力強く握られた手は無言で「頑張れ」、「諦めるな」と言ってくれているようだった。
ジューダスの不器用な優しさに触れたスノウはすぐに気を持ち直し、銃杖を握る手に今出来る精一杯の力を込める。
「──抱擁……その、癒しの力……ここに……。ディスペルキュアっ…!」
力を振り絞り詠唱を唱え終わると、辺りに光の波が波紋のように広がっていき2人を包み込む。
そしてようやく落ち着いたようにホッと息を吐いたスノウにジューダスも安堵の息を吐いた。
これで大分体の方もマシになっただろう。
「……。」
黙り込むスノウを不審に思い、怪訝な顔で見れば、彼女は何処か一点をじっと見つめていた。
それはまるでカイルの肩に手を置き暫く黙り込んでいた時の様に。
「……ジューダス。」
「どうした。何かおかしなステータスにでもなってたか?」
「はは…。そこまで、分かってるとは……流石だね…?」
回復したはずなのに弱々しくそう言うスノウにジューダスは更に眉間に皺を寄せた。
どうやら、あまり体調は芳しくなさそうだ。
「……やっぱり、先に行っててくれ…。動けそうに、ない…。回復しながら、ここで……待ってるよ……。だから、私を置いて…いってくれ…。」
「……。」
『そんな…。回復したのに…?!』
「今の私は…どう、見ても、足でまといにしかならない…。なら、捨て置いて先に進むのが、効率的……。ねぇ、友よ…。私の願いを、聞き届けて、くれるよね?」
ジューダスの支えから離れる様に身体を震わせながら自立して上体を起こしたスノウだったが、苦しそうに息を吐き、膝の上に頭を乗せ、弱々しい笑みを浮かべてジューダスを見ていた。
ジューダスはそれを見て沈黙していたものの、すぐに答えを頭の中で導き出していた。
スノウの両手を握り、ジューダスはフッと笑う。
それに不思議そうな顔をしたスノウ。
ジューダスはそのままスノウに背中を見せ、スノウの手を自分の顔の横に持っていくとそのままグイッと体を引き上げた。
そう、所謂おんぶである。
ジューダスはスノウをおぶると、何事も無かったかのように歩き始めた。
慌てて降りようとしたスノウだが、足をガッチリと固定され全く歯が立たない。
「れ、レディ! 私は重いからやめた方が…!」
「重くない。全く重くなんかない。もっとお前は食べて栄養をつけろ。いつまで経っても筋肉がつきやしないじゃないか。」
『そうですよ! 少食すぎますよ! スノウは!!』
「えぇ…?」
何故説教されているのだろうか。
スノウは不思議な気持ちになりながら、それでも見捨ててくれなかった彼を見て諦めた様に笑いを零した。
「(……いつからこんなにも…頼もしい背中になったんだろうな……。あんなに華奢だったのに、な…? もうレディなんて…呼べないじゃないか……。)」
──まぁ、それでも呼びはするが。
心の中でふと笑ったスノウは彼の肩に大人しく頭を乗せ、休ませてもらうことにした。
昔の君ならとっくにあの状態の私を捨て置いただろうに。
これは成長と言えるのかな…。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジューダスが暫く歩いていると耳元で規則正しい寝息が聞こえてきた。
それに優しい笑みを零し、歩き続けるジューダス。
いつだったか、前世で背負った時よりも軽くなっている彼女の体重…。
もう少し食べさせるようにきつく言わないとな、と頭のどこかで思った所で相棒が話しかけてくる。
『ひとつ聞いても良いですか?』
「何だ。」
『スノウが捨て置け、と言っていたのに何故、坊ちゃんはスノウをあの場に捨て置くという選択をしなかったんですか? …あ、いえ、別に捨て置いた方が良いとは思ってませんよ?! 今の坊ちゃんの選択が正しいですからね?!』
「じゃあ何故そんなことを聞く。」
『いえ。何となくです。今の坊ちゃんならどうにかして連れていくか、回復するまで待つだろうなとは思ったんです。でもスノウがモネだった時…、それこそ2人が出会って間も無い頃なら捨て置いただろうなぁって思いまして。』
「そうだな。こいつに出会った時なら遠慮なく捨て置いたな。」
『ですよねぇ…。』
「だが、友達だと言ってくれたあの時から……僕は……。」
『……。僕は?』
「……こいつに惹かれていたんだろうな、とは思う。現に、カルバレイスでの共同任務の時、僕は倒れたこいつを背負ってハイデルベルグまで連れて行っている。」
あれはカルバレイスでバジリスクやらコカトリス等の魔物が大量発生したと報告を受け、各国が討伐に身を乗り出していた時の話。
……スノウがモネと名乗り、僕の横で任務を共にしていた時の話だ。
魔物討伐を終えた僕らは何故かあの暑い中、勝負する事になった。
周りの兵士は、やれスノウが勝つだの、僕が勝つだの言って勝手に賭けの対象にしていたが。
だがハイデルベルグ出身で暑いのが苦手なスノウは自身にかけていた魔法の事をすっかり忘れ、勝負しようとしたら案の定暑さで倒れ、僕はスノウを背負ってハイデルベルグまで帰してやった事があった。
その時の事を思えば、僕もこいつに随分と甘かったのだと思わされてしまう。今も、昔も…。
『いやぁ、でも今回ばかりは肝が冷えましたよ!! 2人とも倒れちゃうんですから! 初めてなんじゃないですか? こんな事。』
「そうだな。これで一人でこいつが行ってたかと思うと、ぞっとするな。」
『最初2人とも狂ったのかと思いましたよ! だってお互いを攻撃するんですから!』
「何かしらの状態異常になってたようだな。パナシーアボトルで回復したんだから。」
『後でスノウに聞いてみましょう! パナシーアボトルを使ってたのはスノウなんですから!』
そんな会話も目の前の薬草畑のような所で止まってしまう。
大量の薬草が辺りにビッシリと生えており、どれが例の薬草なのか探すのに苦労する事は目に見えて明らかだ。
僕は大きな溜息を吐き、一つ一つ探す羽目になったが、不思議とスノウを起こそうという気にはなれなかった。
それは…彼女が珍しく甘えてくれた事が嬉しいからか、
それとも───
『あ! 坊ちゃん!! 1時の方向にある草じゃないですか!?』
シャルに言われてそっちを向けば、聞いていた特徴と似た薬草が生えていた。
スノウを一度背負い直し、薬草を片手で掴みすぐに彼女の太腿へと手を差し入れた。
『流石、器用な事しますねぇ…!』
「ふん。急いで帰るぞ。」
『もうあの魔物は懲り懲りですよ!』
「……言うな。そう言うのは言ったら現実になる。」
しかし幸運なことに魔物にも出会わなかった僕達は無事森を抜けることが出来ていた。
その森を抜けてしまえば、もう町の方は朝方になっていて遠い山の方から朝日が見え隠れしている。
心配そうな顔で宿の外で待っているあいつらが見えて僕はそれを見てフッと笑ってしまった。
……心配性な奴らだ。
「え?! スノウ大丈夫?!」
「心配するな。眠っているだけだ。」
「「良かった…。」」
ナナリーとリアラが心の底から安堵した顔で息をついた。
薬草を近くにいたナナリーへと渡し、宿屋の連中に煎じて飲ませておけ、と伝えるとすぐにナナリーは宿へと戻って行った。
お陰ですぐにカイルの状態異常も治って、泣きながら皆に謝っていたのが遠くからでも聞こえる。
僕はスノウを抱えて部屋へと戻ってきていたから、それらが遠くから聞こえたのだ。
そっとベッドへと降ろしたスノウに布団を掛けてやり、部屋の外を見遣る。
賑やかな仲間たちがここに来ることを見越して───
【不思議なキノコの物語】
「(こいつに追い抜かれない為にも身長が欲しい…。そんなキノコがあれば…な…。)」