カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
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___18年前
「ねぇ? リオン。」
「何だ。」
「もし…、もしだよ? もしも、ここに今開かない扉があると仮定して、その扉を開く手段が私と君のどちらかが死ぬ事だったら。君はどうする?」
「は? 唐突に何だ。」
『穏やかじゃない話ですね。どうしたんですか? 急に。』
「いや、少し気になったんだよ。君ならどうするかなってさ。」
「ふん…くだらない。僕にとってはどうでもいい話だな。」
『でももしそうなったら困りますよね。坊ちゃんはどっちを選ぶんですか?』
「考えるだけ無駄だ。そんなものただの堂々巡りだろう? 答えなんて出る訳が無い。」
『もしもですよ! …因みにモネだったらどうするんですか?』
「ん? …んー、そうだなぁ。私も堂々巡りしてると思うよ。」
『じゃあ答えが出ないじゃないですか! 何ですか! 2人して!』
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: *
___現在
「……ねぇ、ジューダス?」
「どうした? スノウ。」
『何かありましたか?』
「もし…、もしだよ? もしも、ここに今開かない扉があると仮定して、その扉を開く手段が私と君のどちらかが死ぬ事だったら。君はどうする?」
「は?」
彼は私の言葉を聞くと、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした後、すぐに顔を顰めさせた。
しかし何処か聞いた事がある話だったのか、彼は口元に手を当て考え込んでしまった。
「この話…、何処かで……。」
「で? レディはどうするんだい?」
「…………僕はレディじゃない。」
余計に眉間の皺が酷い事になってる事なんて、彼は知らないだろう。
それに私がクスリと笑ってしまうと、彼は視線を逸らせて緩慢と腕を組んだ。
『穏やかじゃない話ですね? どうしたんですか? ……あ、もしかしてこの先そんな場所があるとかですか?』
「……こいつの話なら有り得る、か…。」
〈星詠み人〉であり、先の未来を知ってる私のことを彼らは存じているし、理解している。
だから私がそう質問したのには何か深い訳があるのでは、と端から疑いに掛かっているのだ。
怪訝な表情を私に向ける彼らに再び笑った私は、素直に首を横に振り、その疑いを否定する。
「違うよ。…18年前、同じ質問を君にした事があってね? 覚えてないかもしれないけど、君がこの質問を聞いて過去とどう反応が違うのか気になって。」
『何だ、そんなことですか。ビックリするじゃないですか! もしかしたらこの先そんな時が来るかもって疑ったじゃないですか!』
講義の声を上げ、コアクリスタルを激しく点滅させるシャルティエに肩を竦めつつ、そのコアクリスタルを見る。
まぁ疑われても仕方ないといえば、仕方ないのだが。
シャルティエは既に前回とは違う反応を見せてくれたが、果たして彼はどう反応するだろう。
どう返答するだろう?
「どうしても、どちらかが死なないといけないのか?」
「そうだね。どっちか1人…。私か君かどっちかが死なないと扉が開かないと分かってしまった時、君ならどうするか。」
『逆にスノウはどうするんですか?』
「君達なら、私の答えなんて分かりきってるんじゃないのかい?」
その瞬間、2人から不穏な空気が流れる。
訝しげな顔をしてこちらを見る彼は、非常に嫌そうな顔を隠しもせず私を見ては抗議の目を向けた。
そんな彼に、私は正解だとでも言うように笑って見せれば、彼は恐怖を押し殺すかのような息を吐き出し、静かに拳を握った。
流石にこれは意地悪すぎたかな?
「君が何かを言う前に実行に移すだろうね。私は。」
「……。」
『スノウ…。』
悲しみに暮れた声が辺りに響き、そして静かに消えていく。
何だかそれは今の私達に流れる空気そのもので。
彼らの感情の全てを物語っていた。
「君を殺すくらいなら、自ら命を絶つ。私は迷わずこれを選ぶだろうね?」
「……やめろ。」
怒りを含んだその声は彼の拳と連動し、血が出るんじゃないかと言うほど握りしめた彼の手を見て私は僅かに顔を顰めた。
彼の手を優しく開かせようとするも失敗に終わる。
余りにも強い力で握っていたからだ。
その原因の根底は、無論私で間違いないのだが…。
「……レディ。血が出るよ。」
「お前は…、そうやってまた僕を1人にするのか…!」
「…!」
「僕を、どうしても1人にしたいのか…?」
「……ごめん。意地悪が過ぎたね。だから、この手を開こう?」
両手で優しく持ち上げ、そしてゆっくりと開かせる。
あぁ、跡がついてるじゃないか。
私がそう思いながら彼の手のひらを擦っていると、彼は私を抱き締めた。
その強さから、彼にとってはかなりどうでもいい問題じゃないんだという事が計り知れ、胸に温かいものが流れてくる。
こんなにも悩んでくれるなんて、と思う。
だって私にとってその質問は、18年前の答え合わせをしているだけだったから、そんなに深く考えていなかったし、私の答えは分かりきったものだったからだ。
18年前にはぐらかしたけど、あの時の答えも、今の答えも全く変わらない。
……でも、本当に強いて言うならば
「(彼と一緒に扉を開けられる方法を探したい。2人が生きられる、そんな方法を探したいと願う。)」
「僕は、」
「?」
止められた言葉の意味を測りかねて、静かに彼が口にするのを待つ。
「僕は自害しようとするお前を全力で止める。止めて、それからお前を説得する。絶対に。」
離れた体は揺るがない紫水晶の瞳となって私を捉え、離れない。
その言葉に同じだと、喜ばしいとばかりに彼の腰にあるシャルティエのコアクリスタルが輝く。
私は彼のその言葉を聞いた瞬間、身体が熱くなるのを感じる。
何故だか高揚しているのだ。
嬉しいと、
喜ばしいと、───そう思ってるのだろうか。
自分の事なのに、自分の事が分からない。
でもこの身体の熱さは、高揚感は、明らかに私の中にあって私に何かを教えてくれようとしている。
「……例え、私が止めなくても…かい?」
「当然だ。何ならお前を気絶させてでも止めさせる。」
「はは…。それはそれで穏やかじゃないね?」
思わず視線を逸らしていた私だったが、彼の瞳を見つめ返す。
その紫の宝石のような瞳は、私に何かを訴えかけているようだった。
そう、まるで“死ぬな”とでもいうような強い光だ。
「そうか。君は私を止めてくれるのか。」
「……大体、何故こんなくだらない質問を思いつく? 18年前の僕がどう答えたかは知らないし、覚えてもないがどう足掻いても堂々巡りじゃないのか? この手の問題は。」
「ふふっ!」
急に笑い出した私を怪訝な顔で見る彼。
18年前、君は同じ事を言っていたよ。
そう思いながら私は澄み渡った蒼空を見上げる。
「……18年前の君も同じことを言ってたよ。“堂々巡りだ”ってね?」
「……ふん。」
『まぁ、18年前と言っても生き返って歳は変わりませんから、ついこの間だと思うんですけどね…。』
「確かにな。だが、その質問にはやはり記憶があった。…答えは覚えてなかったが…な。」
「曖昧で終わってたね。私達は。どっちも“堂々巡り”だなんて言って。私の気持ちを悟られたくなくてあの時ははぐらかしたけどね?」
『逆に僕は全く覚えてませんよ? 僕はなんて答えたんですか?』
「あぁ、君はとにかく私達の答えを知りたがってて、何度も何度もあの後聞いてきてたんだよ。覚えてないかい?」
『……いやぁ、全くですね!』
「お気楽な頭だな。」
彼はその瞳を自身の相棒へと向ける。
それに不服の色を示したコアクリスタルはあえなく制裁にあって撃沈してしまった。
それに口元に手をやって笑ってしまった私だが、ふと彼の視線がまた私へと注がれる。
その顔は先程までより穏やかな顔だった。
先程あった私の中の熱も徐々に冷めてきていたのに、その穏やかな顔を見てしまえばまた別の温かさがじんわりと体を満たしていく。
「……さっきの質問だが……」
「ん?」
「もし、他に方法が無いと分かったなら、僕はその足を止めるだろうな。」
「……出れないと分かって諦める、と?」
「いや、違うな。お前が居るから諦められるんだ。」
酷く、難しい返しだ。
私にはその言葉の意味をちゃんと理解出来そうにない。
諦めたら出られないのに、何故諦めてしまえるのだろう。
それに、私が居るからという理由も些か疑問である。
『スノウには難しいお話ですよねぇー? そうですよねぇ!』
何だか挑発されている様な声音でシャルティエが話すので、困った顔で彼の顔を見ればふっと笑われてしまう。
「〝死にたい訳じゃない〟んだろう?」
「!!」
それは彼が全力で私に向き合い、本音を零して涙した時の話。
何故死を望むのか、という彼の言葉に私は咄嗟にそう答えてしまったんだ。
運命なんて信じない、一人で何もかも背負おうとするな、私と友達になれて…会えて良かった、だなんて言ってくれた彼が今や懐かしく、今じゃその言葉を思い出しただけで泣きそうになるくらい嬉しいんだ。
昔の私は、モネの時を引き摺っていたから君が無事なら何でもすると思ってた。
でも、あれから色々あって。
彼からも何度も説得されて。
そして私の中で変化が生まれた。
〝彼の隣で最期の時まで居たい〟
〝君との時間を大切にしたい〟
──って。
何度もその気持ちや願いがブレそうになっても、彼が正してくれる。
そして私を護ってくれるのだ。
「お前が隣に居るなら、諦めたとしてもまた立ち上がるだろう。それでまた模索する。僕は誰かを犠牲にして前に進むのは……もう御免だ。」
「……。」
前世での事を言っているのだとしたら、私が悪い。
だって私の死で彼らは前に進めたのだから。
結局彼を悲しませるだけだったな、と申し訳なさを感じつつ私は無意識に彼の耳に着けられた澄み渡る空のような蒼色のピアスに触れる。
その手を上から触れた彼は真剣な顔から優しい顔へと変わっていた。
「私は、」
「……。」
私の言葉を静かに待ってる彼の瞳へ私は視線を固定させた。
「今なら、きっと……君と一緒に考えるんだろう、と思う。さっきは君が何かを言う前に行動に移すって私は言った。でもそれは……私の今の願いじゃない。私は、君と最期の時まで一緒に居ると、そう…約束したから。」
「……あぁ。」
彼の手が私のピアスに触れてる手を優しく握り、目を閉じる。
感傷に浸るかのように。
私の言葉を彼の中で何度も反芻するように。
「……やはり、私は駄目だね。君に言われないと、諭されないと、この答えに中々辿り着きそうにない。」
「だったら何度でも言ってやる。何度だってお前を説得する。お前がその言葉を身体に刻み込めるまで何度も、な。」
「あぁ、頼むよ。すぐに死んでしまうような奴なんだ。迷惑掛けるかもしれないけど今後も私をよろしく。」
『出来れば自覚して欲しいですけどねぇ…?』
「ははっ、善処するよ。」
「お前のそれは当てにならん。」
私は握られた手を逆手にとり、彼の手背へとキスを落とす。
すると彼の顔は林檎のように赤く染まっていく。
そして彼は決まって逃げるのだ。
「っ、」
ほら、今日も彼は可愛らしい。
顔を赤くして逃げる様はまるで乙女のようだ。
そんな乙女の後ろ姿を見て、私はまた蒼空へと目を向ける。
今日も憎いくらい快晴だ。
思わず顔の前に宛がった手の下で、私は目を細める。
「こんな日が、続けばな……。」
それは私の別の願い。
何かに縋るようなそんな響きを持った言葉は風にさらわれてしまった。
でも、聞かれてはいけない望みだ。
そんな事出来ない、と分かりきっているのだから。
「彼と……一緒に……」
最期の時まで一緒に居る。
その最期の時が、近い将来だと分かってて感傷に浸る私は他から見ると愚かなのだろう。
そんな事誰にも分からない、若いのにそんな事を思うなんて早すぎる……なんて言って。
確かにそんな事、今思っても仕方が無いのに。
贅沢な今の時間を大切にしなければ、と思う私は……彼にとって、少しは気持ちが前に向けられているだろうか。
『スノウー?』
彼の相棒が私を呼んだ。
蒼空から視線を外し、遠くにいる彼の方へと視線向ければ、赤みはもう治まり、腕を組んで私を待っている彼がいた。
私はそっとその場で笑い、歩み始めた。
どうか、願わくば彼と共に生きる夢を──
【くだらない話でも真剣に】
__「何か上にあるのか?」
__「いや? 憎いくらいに澄み渡った空だなぁって思ってね?」
__『「??」』