カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
Name change.
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夜が明ける前。
その頃に修羅は目を覚ます。
眠たい身体を叱咤し、修羅は身体を起こすとそのまま洗面台へ向かい顔を洗って、まだまだ眠たい自身の身体を強制的に覚ましていく。
「……ふわぁ…。あー…、眠い…。」
大きく伸びをして欠伸をしたが、まだ夜明け前なので眠いのは当たり前なのだ。
軽く身だしなみを整えた修羅は自身の武器を持ち、外へと出掛ける。
「よし…やるか。」
毎朝の鍛錬は欠かさない。
でなければ、強くなれないし“あいつ”も倒す事が出来ないからだ。
「ふっ…!」
何十、何百と武器を動かす。
もっと早く…、もっと強く……!!
毎日鍛錬を行わなければ“あいつ”に出し抜かれる。
だから、もっと早く…!
だから、もっと力強く…!!
毎朝続けている鍛錬は“あいつ”に会ってから更に厳しくなっていた。
ついでにそこら辺の魔物を相手に毎朝日課の鍛錬を行っていくと、途中海琉がやって来るのが見え呼吸を整えながら手を止める。
「……おはよう…。」
「あぁ。おはよう、海琉。今日は早いな。」
いつもなら寝坊助なのに、今日はえらい早いことだ。
今日は何かあったか、と記憶を思い起こしていると海琉は首を横に振り、何か言いたげである。
「……今日は観光、だから…。」
「…あぁ、そうだったな。今日は仕事が無かったか。」
〈赤眼の蜘蛛〉の組織は、基本自由にやっていい事になっているが、幹部クラスとなるとそうはいかない。
ちゃんと仕事もあるし、休暇もある。
そう思えば、まるで〈赤眼の蜘蛛〉は会社そのものだ。
「こんなに早起きって事は、どっか行きたい所でもあるのか?」
「……うん。」
「へぇ?珍しいな。観光用パンフレットでも見たのか?」
「……うん。」
「なるほどな。それなら納得が行く。……で?どこに行きたいんだ?」
「……ヨパランの島。」
「……ん?どこだって?」
「ヨパランの島。」
マジで聞いた事がねぇ…。
そんな事を思いながら、修羅は海琉をジッと見る。
その無垢な瞳には既にもう、“行く”という2文字しかなかった。
それを見て一度大きく息を吐き、腰に手を当てた修羅だったが、あまりにも聞いたことも見たこともない知らない土地なので詳細を聞くことに。
「そこには何があるんだ?海琉が行きたいって言う事は食べ物が豊富な島なのか?」
「……ううん。……なんか、海賊の遺した宝があるって、本に書いてあった。」
「……。」
マジか、とそんな顔で海琉を見たが、彼の意志は固そうだ。
折角の休暇をまさか有るかも分からない宝探しで潰される事になろうとは思いもしなかったからだ。
ともかく海琉には頷いてみせ、その場でOKを出してしまう。
……まぁ、何かいい事でもあるだろう。
何だか分からないが、そんな感じがした。
その勘は実は当たる事になるのだが、今の修羅にはそんな事思いもしなかった。
「朝飯食ってから出掛けるぞ、海琉。」
「……! …うん!」
タッタッタッと走っていく海琉の後ろ姿に苦笑いをしつつ見送り、修羅も先程まで使っていた武器を収めその後ろを付いていく。
さて、子供のお遊びに付き合うとしますかね。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*+
朝食を無事終え、いつもはあまり感情を出さない海琉が少し浮き足立っている様子から、余程この宝探しを楽しみにしていたのだろう、という事が窺える。
海琉の言う宝探しは観光パンフに乗っていた、いわゆる観光向けのアトラクションで、〈星詠み人〉ではない、この世界の民間人が行ってる事業らしい。
その島は地図に乗るほど大きくないらしい上にその宝探しのアトラクションは最近出来たばかりらしいので、修羅も名前を聞いたことが無かったのだ。
「お、ここか。」
「……!(わくわく)」
心躍るのか、瞳を輝かせ船内から例の宝探しの舞台となる島を見つめる海琉。
どうやら魔物は棲んでいない島の様で、船内には意外にも観光客が多い。
それだけでもこの宝探しの人気の高さが窺えた。
「宝探しにご参加の皆様、こちらへお集まりください!」
声を張り上げ、手を振るガイドの人が何やら古そうな建物の前でアピールをしており、船を降りた2人はまたしても意外なものを目にする。
「…!」
「この気配…、スノウか。」
どうやら向こうも観光がてら参加する予定らしい。
恐らく、カイルがやりたいとでも言い出して聞かなかったのだろうなと勝手に想像していると、向こうのカイルの方がこちらに気付き、パァと顔を明るくさせる。
「あ!海琉!」
「…!」
海洋都市アマルフィで仲良くなったらしい2人。
カイルが海琉の手を取りブンブンと上下に振っていたが、海琉の方も嫌そうな顔もしていないし、その手を振り払う様子もない。
……本当ならば、カイルは海琉の抹殺対象であるが故にその仲良しさには咎めなければならないが、今はただ観光に来ただけである。
折角の休暇に仕事モードを出しても疲れるだけだ、と見て見ぬふりをすることにした修羅は視線を外し、近付いてきたスノウを見た。
「お前らも観光か?」
「まぁ、そうだね。カイルがこの企画の観光パンフレットを見てしまって…ね?」
「クスクス…。お互い保護者は大変だな?」
「ふふ。そっちも同じ理由そうだね?」
目の輝き方が修羅たちとは違う2人は未だに目を輝かせながら手を握り合っていた。
それを見た修羅とスノウは苦笑いをして見届ける。
そこへ他の仲間たちもまた修羅たちの近くへとやってきた。
……一人は睨み付きであるが。
「……何故貴様がここにいる。」
「観光に決まってるだろ。他に何があるんだ。」
「随分と暇なんだな?〈赤眼の蜘蛛〉は。」
「そっちもな?」
修羅とジューダスが視線だけでバチバチやっていると、ふと誰かに裾を引かれそっちに視線を向ける。
「……もう始まるみたい。」
「あぁ、分かった。」
しかしこの客の多さである。
ぞろぞろと船から島へなだれ込むように客が船から降りていくのを見て、僅かに顔を顰めさせた修羅だが、海琉も負けじと降りようとする為その肩に手を置き止めさせる。
「あんな流れの中に入ったら危ないだろ。もう少し待て。」
「……うん。」
うずうずとしている様子の海琉だったが、向こうさんのカイルに手を掴まれると一気にあの激しい人の流れへと身を投じていた。
それに頭に手をやり溜息を吐くと、隣に居たスノウから謝られる。
「ふふ…。ごめんね?こっちのカイルが無理なことをして。」
「まぁ、あいつらが一番楽しみにしていたしな。仕方ない事だが………全く。いつまで経っても餓鬼なんだから困る。」
「そう言いつつ、君もちゃんと親の顔をしているよ?」
「はぁ…。違いない。」
やれやれと肩を竦め船内の様子を見れば、ようやく人の流れが収まりつつあるので修羅たちも移動を開始する。
海琉たちがこちらに気付いて近寄ってくると、その顔は少しむくれているようだった。
「皆!遅いよ!説明始まっちゃうよ!」
「……(こくこく)」
「ははっ。お宝は逃げないと思うけど?」
「ダメだよスノウ!誰かに先越されちゃうじゃん!」
「ふふ、ふ…!」
それを聞いて可笑しそうに笑うスノウを見て、修羅は束の間の癒しを感じた。
スノウが笑えば自分の心に光が差し込んでくる。
スノウが悲しそうであれば、自分の心に暗雲が立ちこめる。
「(……恋煩い、って奴だよな…。どうにも、ままならないな…。)」
困った様に頭を掻く修羅にスノウが目を瞬かせる。
なんでもない、と言えばその奥にいるジューダスが睨みを効かせてくる。
それを無視し、スノウの手を取る修羅。
「折角なんだ。楽しもうぜ?」
「ふふ…。そうだね?やっぱり男としてこういう宝探しはロマンに溢れるものかい?」
「お手つき状態の宝なんてロマンないだろ?未踏であれば、価値は上がるがな?」
「なら君に朗報だね?この宝探し…、謎解きが難しすぎて誰も最後まで辿り着いた事がないらしい。」
「へぇ?ただの観光スポットかと思ったが…、俄然やる気が出るな。」
「謎解きは得意なんだ?」
「まぁ…前世、あれだけゲームしてれば否応なく…な?」
「奇遇だね?私もだ。」
「クスクス…!じゃあお互い楽しむとするか。」
「答えは教えないよ?」
「そりゃ残念だ。」
わざとに呆れて見せればスノウが笑った。
それに修羅が目を細め、嬉しそうに見つめる。
「おい。さっさと行くぞ。あいつら…もう中に入って行ったからな。」
修羅を睨みながらスノウの反対を取るジューダスに瞬時に視線を交差させ、お互い威嚇し合う。
間にいるスノウがそれを見て苦笑いを浮かべたが、すぐに両手にいる2人の手を引き、注意を向けさせた。
そして2人を振り返ると柔らかな笑顔で2人を見つめる。
「2人とも、今日は楽しもうか!」
その素敵な笑顔に2人は目を見張ったが、2人もさっきの殺伐とした空気から一変、柔らかな笑顔を浮かべた。
「「あぁ。」」
くすりと笑うと先に入っていくスノウを追いかけるように2人も建物の中へと入っていった。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*+..:*○o。+
どうやらこの宝探しは高度なアトラクションとしてはかなり優秀な様で、一問目の謎解きから脱落者が後を絶たない。
カイルと海琉もまた、頭を悩ませ必死に謎を解こうとしていた。
「うーん…。」
「……??」
他の仲間達もその謎ときに挑戦するが、大人でも苦戦する謎解きなのでそれぞれ頭を抱えていた。
「一問目からかなり難しいな。」
「多分、子供の発想力みたいな、柔軟な思考がないと解けない問題だと思う。」
「スノウ、もう答えが分かったのか?」
「何となく、だけどね?」
この宝探し、チーム戦であるが故に一人解ければチーム全員が先に進める仕様である。
なので、スノウが答えを受付嬢に言えばそれで次に進めるのだが…。
「?? なんで言いに行かないんだ?」
「折角カイルたちが楽しみにしてあんなにも頭を悩ませているのに、釘を刺すのもなぁ、と思ってね?」
「スノウ。答えが分かったなら言いに行け。これじゃあ日が暮れるぞ。」
「それもそうか。修羅も一緒のチームだろう?」
「ま、あんたの所のカイルがうちの所の海琉と手を繋いでいるからな。一緒に行かせて貰うつもりだ。」
「ふふ。了解。」
受付嬢の方へ歩みを進めたスノウにカイル達が驚きの表情を浮かべる。
スノウが受付嬢の耳へ答えを伝えると、驚きの表情で受付嬢がスノウを見る。
そして近くにあったベルを鳴らした。
「せ、正解です…!」
「ふふ。ありがとう?」
「「「「え?!!」」」」
「す、すごいや!スノウ!」
カイルが驚きながらも嬉しそうにスノウへ声を掛ける。
それに手を振り、嬉しそうに返したスノウは受付嬢から鍵を渡されていた。
しかしカイルのその嬉しそうな空気とは一変、辺りには緊迫した空気が漂っていた。
誰も踏破されたことの無い一問目から踏破者が出たのだ。
そんな時に他の客たちの顔と言えば、愕然としているか、焦燥に駆られているか、そして──
「おい、そこの学者。」
「ん?──っぅぐ?!」
スノウへ屈強な男が2人、近付き声を掛けたかと思うとその細い首に手を掛け、スノウの軽い体重をいとも簡単に持ち上げて見せた。
首を絞められ、且つ持ち上げられたスノウは苦しそうに声を出す。
「ぅっ、う…!」
「答えを教えろ、学者。」
「「スノウ!!!」」
真っ先に飛び出したのはやはりジューダスと修羅だった。
周りの客はそれを見て顔を真っ青にさせ、悲鳴を散らしながら、外へと向かっていく。
カイル達も慌ててスノウと男の方へと近付いた。
「スノウを放せ、この筋肉馬鹿が。」
「……チッ。」
修羅とジューダスが武器を手にし男に向けると、屈強そうな男たちは顔を見合せ、スノウが持っている鍵を奪うとスノウを解放した。
「ごほっごほっ!けほっ…!」
涙目で呼吸を整えようとするスノウにジューダスが近付き、回復を施していた。
それを横目で見つつ、修羅は変わらず男共を睨みつけていた。
「随分と大人げない客だな?」
「何も知らない癖に、勝手に入ってくんじゃねえよ!」
「俺たちはこの先に行かなきゃならねえんだ。餓鬼は引っ込んでろ。」
「……餓鬼かどうかはその体で味わいな…!!」
先程のスノウを苦しめてくれた件もあり、挑発に乗った修羅が武器を片手に男に振りかざす。
しかし相手も見た目がただゴツイだけでは無いようで、その剣を振るわせまいと拳を修羅へと突き出した。
それを避け男に一撃を食らわせるも大したダメージは入っていなさそうである。
「おい!そこの男、手を止めろ!!」
もう1人の男が声を張り上げた為、誰もがそっちへ注視すると、受付嬢を人質に取った男の姿があった。
「……!」
ガクガクと震えている受付嬢。
その首に短剣を当てられ、今にも気絶しそうなほど震えていた。
「こいつの命が欲しかったら、学者……お前だけ俺たちと来い!!この先の謎をお前が解くんだ!じゃないと……分かってるな?!」
「────っ!」
涙を流し、助けを求める受付嬢を見てスノウが顔を歪め少し思案した様だったが、そのまま立ち上がった。
「……分かった。だが…条件がある。」
「あ?これを見て分からねぇ──」
受付嬢を人質に取ってる男ではない方が、その男を制す。
そしてスノウをじっと睨んだ。
「……言ってみろ。」
「さっきの謎は私一人では絶対に解けない難問だった。謎を解きたいだけなら、ここにいる他の仲間達も一緒でないと解けない。それが呑めないなら、無理だ。」
受付嬢が更に顔を青くしたが、スノウはそんな女性に大丈夫だと、しっかり見つめ頷いた。
男達は暫くお互いの顔を見合せていたが、スノウのその条件を呑むことにした。
「…良いだろう。だが、人質は解放しない。最奥まで辿り着くまでこのままだ。下手な真似をしたら女を殺す。……いいな?」
「……分かった。」
人質の女性には悪いが、そうするしかなかった。
男達は鍵を使い、扉を開けた。
重そうな扉が開き、男達は顎をしゃくる。
“先に行け”、という事なのだろう。
スノウは皆に謝るが、皆の顔は決意に漲っていた。
大きく頷くと皆で扉の先へと向かう。
「……。(そうか…。あの精霊との契約で成長したんだな。スノウ。)」
修羅も同じく歩きながらスノウの後ろ姿を見る。
海洋都市アマルフィで精霊の課題にあれ程悩んでいて、助言もしたが中々納得はしなかったスノウ。
途中で仕事があり抜けてしまい、精霊との契約をこの目では見られなかったが……、それが今回、スノウは皆を頼る事を厭わなかった。
そんな成長したスノウを見て修羅は、場違いだが喜ばしいと思った瞬間だった。
扉の向こうは古代の遺跡なのか、所々見たこともない文字が壁に刻まれている。
まさか、こんなに本格的に作られたアトラクションだとは、と思いながら一行は奥へと進んでいた。
薄暗い視界の中、ようやく次の扉まで辿り着くとそこには光る丸い球体……〈スフィア〉が置かれていた。
また謎解きか、と仲間達が顔を曇らせる中、スノウは冷静に辺りを見渡し、その〈スフィア〉の前へ立つとなんの迷いもなくその〈スフィア〉を台座から取る。
コンクリート同士が擦れた様な独特な音が響き、目の前の扉が開かれる。
呆気なく開かれた扉に男達は驚いていた。
「(この学者……、やはり頭がいい…!それに度胸もある…!俺の目に狂いはなかった…!!)」
しかしスノウは再び手に持った〈スフィア〉を台座へ戻すと、扉は反対に閉まっていく。
目を丸くしてそれを見ていた仲間達だが、スノウはそれを見て大きく頷いた。
「……ふむ。なるほど?」
「この台座に重力感知板でも置いてあるんだろうな。」
修羅もこの仕掛けのカラクリが分かった様で、スノウの横に立ち、台座を見ていた。
どうやら何か重い物がこの台座に乗せられると扉が動く仕掛けのようだ。
修羅が〈スフィア〉を手にし、扉が開いたタイミングで皆も移動を再開する。
受付嬢を人質に取っている男たちもまた、最後尾でその後を追う。
「……あれ?行き止まりだよ?」
カイルが不思議そうに次の扉を見るが、その扉は閉じられており、先程のような台座も部屋の中央に置かれていない。
しかし修羅は迷いなく扉の丸い窪みに〈スフィア〉を置き、少しだけ離れる。
するとまた同じ音を立て、扉が開いたではないか。
仲間達が「おお!」と感嘆をあげる中、修羅も満足そうに頷いた。
「なるほどな。これだったら俺でも手伝えそうだ。」
「ゲームのお陰、だね?」
「あぁ、そうだな。……まさか、こんな所で役に立つなんてな?」
確かに人質がいて緊迫した空気ではあるが、謎解きが次々と解けていき、仲間達も安堵していた。
そんな中、スノウは男達をじっと見つめた。
「……そろそろ、話してくれないかな?何故君達がこの奥に行きたいのか。」
「「……。」」
2人は顔を見合わせる。
再び緊迫した空気が流れ始めた。
「ここは、ただの島じゃねえ。」
「兄貴っ!!?」
「こいつらにも知る権利があるだろ。ここまで来といて何も無いって訳にもいかねえだろ。」
兄貴と呼ばれた男は人質を取っている男を言葉で制した。
「この遺跡は古代からある遺跡で、ここを管理していたのはヨボヨボのジジイだった。……俺達はその末裔だ。」
「!!」
その言葉に受付嬢が一番に反応していた。
それを睨みながら兄貴は話し始める。
「先代が亡くなって、ここの土地は俺たちに譲り受けられるはずだった。だが、こいつらはここをいつの間にか観光地に仕立てあげ、そこに来る客に謎を解かせようとした。……お前らは端から利用されてたんだよ。こいつらにな。」
「……。」
肯定も否定もしない受付嬢は未だにガタガタ震えていたが視線だけは泳いでいた。
……それが動かぬ証拠ではあるが。
「この奥には宝が眠っている。こいつらはそれを嗅ぎ付けて開けようとしたが、謎解きが難しくて出来なかった、という事なんだろ?」
「……」
女を睨んだ兄貴だが、女はガタガタと震えているだけだった。
「……なるほど。そういう訳か。」
「この女共のせいで、先代が残した鍵も奪われ、謎解きの答えが書かれていたはずの紙も失くした。……俺達は先代が残した宝を守る義務がある。だから奥に行かなきゃならねえんだよ。」
「その紙を君は持ってないのかい?」
スノウは女性を見たが、首をフルフルと振られる。
どうやらそちらも失くした様子だ。
それに肩を竦め、スノウは兄貴を見た。
「理由は分かった。だからその女性を解放してくれないか?」
「は?!ダメに決まって──」
「離してやれ。」
「え?!で、ですが……兄貴!こいつらがいつ裏切るか分からねぇですぜ!?」
「裏切るなら今裏切っている。訳を話しても逃げない理由は……俺らへの同情か、それともただのお人好しか。」
静かな時間が流れ、誰もが答えを求めた。
皆の視線はスノウに注がれていた。
「今、ここで私達が帰ればその女性は殺されるだろう。」
「っ!?!」
女性が大きく震え始める。
それを押さえつける男は、女性に大人しくしろと睨みを効かせた。
「女性に手荒な真似はして欲しくないし……、それに…。」
スノウはちらりとカイルを見た。
そして、呆れながら言葉を発した。
「どうやら君達の力になりたい半分、宝を見たい半分という顔をした仲間がいるからね?このまま謎を解かせて貰うよ。だからもうその女性に用はないだろう?」
「……ふん。度胸のある学者だな。」
目配せをした兄貴に、もう一人の男が渋々と女性を離す。
すると女性は転びながらも逃げて行った。
「(本当、度胸があるな…。)」
ちらりとスノウを見た修羅は、緊張していた身体を楽にさせる。
どうやら、スノウの中で憶測を立てていたらしい。
「……度胸云々を抜いて聞く。何故今あんな事を聞いてきた?」
「……女の勘って奴かな?まぁ、明確な理由がある訳じゃないけど…」
スノウはそう言って遺跡の壁を叩いた。
「おかしいと思ったんだ。こんなにも丈夫な作りをして、その上いかにも古そうなここが、最近出来た筈がない。でも、あの観光パンフレットには最近出来たアトラクションと書かれていた。……それに一人もあの謎を解けないで帰るっていうのも、それはそれでアトラクションとして成立しない。せめてチュートリアルみたいな簡単な謎を用意して楽しませるなら、話は別だったけどね?」
まるで探偵のように話していくスノウ。
壁をなぞりながら話すスノウに、男達は驚いていた。
まさか、そんな理由で聞かれていたとは。
「……それに必死な君達を見て、何かあるんだろうなって思ったんだ。だから……何となくさ。」
「……見事だな。」
「すっげぇ。俺何言ってんのか分からねぇけどよ、すごいってのは分かったぜ。」
「……お前も少しは勉強しろ。学者さんを見習え。」
「えぇ?嫌っすよ。」
男達は打って変わって緊迫した空気は出しておらず、辺りには穏やかな空気が流れ始めた。
ロニやナナリーもその空気にどっと疲れたかのように溜息を吐いた。
修羅も苦笑いでスノウを見て、拍手を贈った。
「(本当、凄いな。スノウは…。)」
尊敬の眼差しをスノウに向け、修羅は次の扉の先を見据えた。
「なら、早く行こうぜ?このままだと日が暮れちまうからな。」
「それもそうだね。修羅、君がいれば百人力だ。」
「クスクス!それはどうも?名探偵さん?」
「茶化さないでくれ。」
渋い顔になったスノウへ仲間達が抱き着く。
緊張が抜け、皆も喜んでいるのだろう。
ジューダスや海琉はその様子をじっと見つめていて、男達も苦笑いを浮かべていた。
そして皆で先へと進んだ。
赤い〈スフィア〉が置かれた台座と、扉入口近くには二対の燭台が置かれた部屋へ歩を進めたスノウ達。
カイルは迷わずその赤い〈スフィア〉を手にした。
「うわぁ!何だか暖かいや!」
「お前……落とすなよ?」
ロニが呆れた眼差しでカイルを見遣る。
そんな中、スノウは修羅と相談をしていた。
「恐らくあの燭台に火を灯すんだと思うけど…どう思う?」
「俺もあんたの意見に賛成だな。だがどうやって灯すかだが…。」
「火属性の魔法を使えばいいけど…、こういうのって大体同時に灯さないと消えるとかいう仕組みだろうしなぁ…?」
「だろうな。じゃないと仕掛けとして成り立たないだろ。」
暫く考えていたスノウだったが、ナナリーを呼んだ。
「ナナリー。ちょっといいかな?」
「ん?なんだい?」
「あそこの燭台に火を灯したい。それも同時に。私とナナリーで同時に火を灯せるかな?」
「なんだ、そんな事かい!お安い御用だよ!ただ、同時となると何回かやらないとダメだろうね。」
「覚悟の上だよ。」
銃杖を手にしたスノウを見て、ナナリーが詠唱を唱える。
「……行くよ!バーンストライク!」
「__バーンストライク!」
いきなり魔法を使い出したスノウ達にカイル達が何事か、とそれを見届ける。
その思いとは裏腹に、燭台へ炎の塊が飛んでいき、2つ同時に火が燭台に灯ったが、その火は直ぐに消えてしまう。
「あれ?消えたよ?」
「おかしいねぇ?確かに同時だったんだけど…。」
「……別のやり方、だね。」
「という事はあの赤い〈スフィア〉だな。」
修羅がカイルに近付き、説明する。
すると真剣な顔になり、大きく頷いたカイルは扉の窪みへ赤い〈スフィア〉をはめた。
すると赤い〈スフィア〉が炎を上げ、左右の壁の模様を伝い、入口にあった燭台へと到達するとそこへ激しく火が灯る。
そして、ゴゴゴゴ…と例の低い音を立て、扉が開かれた。
「すっげえ!」
「あの丸いやつ、結構すごい代物なんだね。」
「すごいわね…!壁を伝って炎が燭台に行くなんて…!そんな発想も出来なかったわ!」
それぞれ感想を言いあい、キャッキャっと浮かれる仲間達。
まだまだ謎解きはあるだろうにそんな喜んでいたら最後は疲れてしまうのではないか、と思うがそれでも皆の顔は嬉しそうだったので、スノウや修羅も何も言わなかった。
「さぁ、行こう。」
スノウの声掛けにすぐさま反応し、走り出すカイル達。
元気そうなそれに大人組は後ろから笑って歩き出した。
次々と謎解きを解いていき、徐々に難しくなる謎解きも皆の力で解いて行く。
次第には屈強な男達も謎解きに参加し謎を解いていく。
そうして訪れた最後の部屋は、かなり広い空間になっており謎解きも一筋縄じゃいかなさそうだ。
青や赤、黄色や水色の〈スフィア〉が置かれた台座があり、それぞれ効果が違うようだ。
「赤は火、青は水…。」
「黄色は雷属性で、水色は氷属性…だったな?」
「これまでの総復習だな。」
3人を中心にそれぞれ〈スフィア〉の謎を解いていく。
模様を伝って、それぞれの属性が特定の場所までいく様は中々見もので、カイル達も謎解きは難しくとも視覚的に楽しめていた。
「……こっちは終わったぞ。」
「こっちもだ。後はスノウの所だけだが…、行けるか?」
「……。」
未だにスノウは考え込んでいて、目を閉じて必死に考えている。
スノウの担当している雷属性の〈スフィア〉がまだ残っていたのだ。
謎解きが終わった2人もスノウに近付き、黄色の〈スフィア〉を見て考える。
どう置いたら扉が開くのか。
そんな時、カイルとロニがお互いに何やら遊んでいると、台座から黄色の〈スフィア〉が落ちていく。
修羅とジューダスがそれを見て慌てて取ろうとするが、床に落ちてしまい、そのまま転がっていく。
カチリ
そう音を立てた瞬間、雷特有の音が響き渡り模様を伝って辺りに広がっていく。
何名かの悲鳴が聞こえ全員が耳を塞いでいると、どうやらその窪みが正解だったようで、扉が音を立てて開いたのだ。
偶然とはいえ、それにスノウ達が驚いてカイル達を見ると未だに目を瞬かせ、何が起こったか分からない様子の2人。
「えっと……?」
「結果オーライだね?2人ともお見事だ。」
「なんか、よく分からないけど……よし!!次行こう!」
勇んで進んでいくカイルの後を慌ててリアラとロニが追いかける。
他の人たちもそれに倣い、扉を潜るとそこには───
「「「「…………。」」」」
「……すごいね。」
扉の先は外になっていた。
そして、目の前に広がるのは白い花の群生だった。
宝と言えば、在り来りだが金銀財宝というイメージが強かったのだが、どこにもそんな物は見当たらない。
男達は愕然とその光景を見ていた。
スノウが花の近くへと寄り、しゃがみこむ。
そっと触れた花が揺れると、花の香りが風によって運ばれて更に強くなる。
「……良い香り。」
「……綺麗だな。」
修羅がスノウの近くに寄り、その様子を見守る。
未だに花の香りを堪能しているスノウを見て、修羅も花に触れてみる。
まるで香水のように、触れればその匂いは強くなり辺りに充満する。
そして、それを堪能しているスノウもまた、白い花と相まって綺麗に見えた。
思わずといった感じで、そんなスノウに触れてしまうと、不思議そうな顔をされる。
「(……何でこう…女の子と花って、合うんだろうな…。儚いといえばそうだが、それ以上に何かがあるように魅了される…。……はぁ、俺は一体何を考えてるんだ…。)」
「この花は君の髪色と似ていて、とても綺麗だね?」
スノウが修羅の髪にそっと触れる。
あまりにも突然の事に息を呑めば、スノウの手が離れていってしまった。
それにしまった、と思っていればスノウの近くへジューダスが寄ってくる。
だから彼女の視線は一気にあいつへと向けられる。
……それが少し…、いや…とても悔しい。
一気に彼女の視線を掻っ攫うあいつを睨めば、涼しい顔をされたので余計に腹が立つ。
しかしそんな事おくびにも出さず、変わらずスノウを見た。
「兄貴…宝は?」
「……。」
そんな中、男達はこの光景に頭を悩ませていた。
一体自分たちが探していた宝は何処だろう、と。
カイル達も宝のことなど忘れた様に花を見てはしゃいでいるし、ロニやナナリーまで花を見ていい雰囲気そうである。
「……先代が残したのはもしかしたらこの花…なのかもしれないな。」
「はあ?!そんな事あるわけないっすよ!だって、宝って大体金銀財宝じゃないっすか!」
「俺らも宝が何か、なんて聞いてないだろう。…可能性としては十分に有り得る。」
「そ、そんな…。」
へなへなとその場に座り込んでしまう男。
兄貴の方はこの光景を記憶に刻み込むかのようにじっと見つめていた。
「ん?なんだこれ。」
ふとカイルが足元にあった固いものに触れる。
それを持ち上げてみれば、宝箱だった。
持ち上げられた宝箱にいち早く反応したのは、男達だった。
カイルはそれを男達に渡して、ワクワクとした顔でそれを見る。
海琉も隣に来て、その様子を見ていた。
男達は頷くとその宝箱を開ける。
そこには一枚の紙が入っていた。
[ここを管理する者へ。
ここは古代遺跡であり、歴史的価値のあるものである。
そんな場所を管理するのは大変だ。
日々遺跡内ではヒビが見つかったり、崩れ落ちているものもあったりするからだ。
だからこの遺跡自体を守るのではなく、今見ているこの光景を守って欲しいと願う。
ここに咲いている花は特別な花で、ここにしか咲かない花。
外に持ち出してもすぐに枯れてしまうだろう。
それほどデリケートな花なのだ。
そんな女性のようにデリケートな花を維持するのも大変だと思う。
だが、我が末裔ならばやってくれると願っている。
優しくも、厳格な我が末裔たち、
ここを、この場所をどうか宜しく頼む。
先代───]
「「……。」」
読み終わった2人は沈黙する。
それぞれ思うところはあるだろうし、カイル達も静かに男達を見守っていた。
そして兄貴が口を開く。
「……花の管理とは…な。それこそ金にもならない仕事だが…。やってみるか。」
「……兄貴。」
「お前は別にやらなくてもいい。お前は自由に生きろ。ここは俺が継ぐ。」
「……そんな訳には行かないっすよ。俺はもう、兄貴に付いていくって誓ってるんすから。」
「だが、お前…こんな仕事出来ないだろ。」
「やればなんとかなるっすよ。今までもそうだったじゃないっすか。」
「……そうだな。」
遠い目をした兄貴だが、すぐに現実に戻り男を見据えた。
そしてお互いに分かってたかのように拳を交え、一言交わす。
「「これからもよろしく/よろしくっす」」
何だかんだ話が終わったようで、それを遠目で見ていたスノウ達も集合する。
「学者さんよ。花の管理ってのはやっぱり大変なのか?」
「そうだね。勉強しないといけないことなら、肥料から水やりの仕方まで多岐に渡る。初めは様子を見ながら水やりするのがベストだと言えるね。」
「分かった。肝に銘じておこう。」
頷いた兄貴の顔は先程とは違い、晴れ渡っていた。
もう吹っ切れたようなそれに心配要らないか、とスノウや修羅も感じたのだ。
まだまだこの花達を堪能したいカイル達は、兄貴たちの許可を得てしばらく居させてもらうことに。
その間、男たちに頼まれ、スノウが男達へ花の管理について話していた。
そんなスノウを修羅とジューダスは離れた場所から見ていた。
「……はぁ。今日は一段と疲れたな…。」
「ふん。軟弱な…。」
「……あんたも一々引っ掛かってくるよな。特にスノウにこと関しては。」
「……。」
「……ひとつ聞くが、あんたはスノウに思いを伝える予定でもあるのか?」
「……。」
「だんまりか。」
修羅はジューダスから視線を外す。
……まぁ、こいつが想いを伝えようが伝えまいがこちらには関係ないのだが。
スノウは恐らくだが、まだ自分の気持ちに気付いていない。
そんな状態で他の人からの告白を受ければどうなるだろう?
案外その気持ちに気付くかもしれないし、もしかしたらそのまま勘違いをして告白を受け取ってくれるかもしれない。
「…言うつもりがないなら俺が貰っていくからな。」
悪びれもせず、そう言えば僅かに目を見張った奴だったが、動揺したように目が泳いだのが分かった。
……意外にも、こういう事に関してはまだまだ気持ちが揺れ動く多感な時期の様だ。
まだまだ餓鬼だな、と鼻で笑ってやれば怒った視線をこちらに向けてきたのでスルーしておいた。
「2人とも何を話してるんだい?」
戻ってきたスノウを見て、俺はそのまま彼女の手を引き、その柔らかな頬へと口付けを落とした。
「なっ?!!」
「??」
慌てて奴がスノウの所に行き、先程口付けした場所を服で擦り続けるとスノウはそれを見て奴に笑った。
「ふふ、レディ?あれはただの挨拶だよ?」
「馬鹿か…。お前はもっと警戒心を持て…!」
顔を顰めながらもまだ擦り続ける奴にほくそ笑んでやる。
するとよく分かっていないスノウが奴の手を取り、その甲へと口付けを落とす。
それに顔を真っ赤にさせた奴が慌てて離れる。
「っ!!」
「レディ?今日も変わらず可愛いね?」
「ーーーーっ!!!!」
小っ恥ずかしかったのか、奴はスノウから大分離れていく。
ふん…、ざまあねえな。
そう思いつつ、奴が逃げていく様を嗤っているとふと頬に違和感を覚え、そちらを向く。
どうやらスノウが俺の頬に口付けを落としてくれたらしい。
「(……ただの挨拶、ね…?)」
「ふふ。仕返しだよ?」
「…あんたは恥ずかしくないんだな?」
「?? 挨拶は大事だろう?」
「ふっ…。そうだな。」
まだこれでいい。
徐々にこっちを振り向かせてやる。
だから、あいつに浮ついた気を向けるな。
……どす黒い感情が湧き上がってくるだろ?
そんな彼女へ、今度は手背へと口付けを落とした。
そしてニヤリと笑う。
「挨拶は確かに大事だよな?俺のお姫様?」
「全く…君はまだそんなことを言ってるのか。」
クスリと笑った彼女へ、笑顔を向ける。
そしてその頭を優しく撫でてやった。
口付けも挨拶だというならば、スキンシップも挨拶の代わりだ。
擽ったそうにするスノウに目を細め、優しい笑顔を浮かべた。
そしてどうしようもなく膨らんでいくこの気持ち…。
「……絶対に渡さねえ…」
「?? 何か言ったかい?修羅。」
「……いや?何にも?」
頭をポンポンと叩いてやり、その場をやり過ごす。
どうやら解散する事に決めたあいつらにスノウへ視線を向け、向こうへと指を指す。
「どうやら動くみたいだぜ?」
「じゃあ、私達も行こうか。」
スノウはそう言うと、すぐに踵を返し仲間達の元へ歩き出す。
踵を返したことにより靡く髪。
澄み渡る空のような蒼色の髪色が舞い上がり、今の空と重なっていく。
今は夕刻時でマジックアワーが綺麗に見えているのに、ここにあるのは昼に見られる綺麗な蒼空だ。
そっと触れ、口を寄せた。
柔らかな香りを放つそれに目を細めた。
「……好きだ…」
そんな小さな声は届きはしないけれども、言いたくなった。
こうして俺達の一日が終わっていく。
スノウと別れた後は海琉と共に帰り、夕食を終えそれぞれの時間を過ごす。
そして今日は心地好い疲れに身を委ねながら寝るのだ。
……おやすみ。
【修羅のとある一日】
「(あぁ…。絶対に振り向かせてみせる。そして自分だけを見るようにしてやりたい。)」