カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
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旅の最中、街に辿り着けなかった私達は野宿をすることになり、各々が野宿の準備をしているとカイルが何かに気付いた様子でそちらに目を向ける。
「ねぇ!皆!あっち明るくない?町かな?」
「おいおいカイル。幾ら野宿したくねえからってそんな……」
そう言ったロニまでも固まって同じ方向を見るので、リアラやナナリーもその方向へと顔を向けた。
「ホントだわ!何かは分からないけど…、向こうの方が確かに明るいわ!」
「どうするんだい?カイル。」
「行ってみようよ!もしかしたら野宿しなくても良いかも?!」
私達は一旦野宿の準備を中断し、その方向へと足を向けた。
すると確かに明るくなっているのが分かる。
それはスノウにとっては、馴染み深いものであった。
「へぇ?カーニヴァルか。こんな場所に珍しいね?」
「「「カーニヴァル?」」」
「ジューダス、知ってる?」
「……いや、聞いた事がない。」
「(あれ?そうなのか。……という事はあそこはもしかして〈赤眼の蜘蛛〉の拠点のひとつなのかもしれないな…。)」
考え込むスノウにジューダスが「またか」と眉間に皺を寄せる。
何時ものように一人で考え込むのがスノウの癖であった。
「カーニヴァルが何か分かんないけど、とにかく楽しそうだね!」
「賑やかで派手な光も点してるし…、祭りかなんかかぁ?」
「ねぇ!行ってみようよ!!」
カイルがニコニコと走っていこうとするのを、スノウが我に返り止める。
「カイル。」
「え、どうしたのさ、スノウ。」
「あそこは危険だ。引き返そう。」
「え?なんで?ここまで来て引き返しちゃったらオレ達、野宿だよ?それにあんなにお祭りみたいに賑やかなんだし、オレには危険そうには見えないけどなー?」
頭を掻きながらカイルは不思議そうにスノウを見た。
しかしスノウの顔が真剣なのを見て、目を瞬かせるとようやくカイルも縦に頷いた。
「スノウがそこまで言うならそうしよう!いっつもスノウには助けられてるし、なんか理由があるんでしょ?」
「あぁ。ありがとう、カイル。信じてくれて。」
「ううん!仲間を信じるのが大事ってオレ、知ってるからね!」
腕を組み「えっへん」とでも言わんばかりに態度へ示すカイルに、ロニやナナリーも苦笑いをして見ていた。
ジューダスもスノウの意見に賛成のようで引き返そうとしている所だった。
「ようこそ!ミラクルカーニヴァルへ!!」
引き返そうとした仲間たちの前へ、一段と派手な格好をした人達が囲う。
その派手な格好の人たちの瞳はスノウが想像していた通り、全員特徴的な〈赤眼〉をしていた。
「っ!(まずい…!これ全員〈赤眼の蜘蛛〉だ!)」
「え?なになに?」
カイルが間抜けな声を出していると派手な格好の人の1人がカイルと腕を組んで、もう片方の腕を上へと上げる。
「はいはーい!6名様ごあんなーい!!」
「どうぞどうぞ?こちらへ!」
「貴方はこちらへどうぞ!!」
仲間たちが次々とあの賑やかな光の元へと連れて行かれるのを見ていたスノウだったが、すぐに近くにあった岩の影に隠れた。
そして影からこっそりと様子を見ていると仲間たちは1人ずつバラバラに案内されているのが見える。
とうとう見えなくなった仲間たちに謝りながら、暫くは様子を見ることにした。
……まだ自分だけでも助かっていれば、カイル達を助けやすいと信じて。
「……何もされなければいいが…。」
あの〈赤眼の蜘蛛〉の集団なのだ。
気を張るくらいが調度良い。
彼らが何もされなければ結果良し、何かをされて助けられたら尚良し。
ともかく仲間たちの様子を探らなければ…。
「?? こんな所で何してるんだ?スノウ。」
「っ!」
思わず武器を手にしたが、そこに居たのは丸腰状態の修羅だった。
私が武器を手に取った事が意外だったのか、彼は目を丸くし首を傾げた。
「……何だ、君か…。」
「それ、何時だったかも言われたけど…結構傷つくぞ?」
やれやれと肩を竦めた彼だが、すぐに辺りを見渡した。
「そういえば、あんたの所のお人好し共は?」
「連れていかれたんだよ。中の人達に。」
「あー…。マジか……仕事が増えたな…。」
口元に手を当て、思案する仕草をする修羅に首を傾げる。
そうか、彼もまた〈赤眼の蜘蛛〉だから中の事情は彼の方が詳しいのかもしれない。
「一体〈赤眼の蜘蛛〉はここで何をしてるんだい?こんな夜中に派手な光を灯したりなんかして。」
「ここは〈赤眼の蜘蛛〉……というより〈星詠み人〉が勝手に作った町のひとつだ。ほら、以前ハロウィンの時にもあっただろ?アレと同じだな。」
以前ハロウィンの時に立ち寄った町が〈赤眼の蜘蛛〉の拠点のひとつで、〈星詠み人〉が作った町だと言うことが発覚したのだが、彼はそれのことを言ってるのだろう。
なるほど、と頷いて見せれば、彼は面倒そうな顔をあの光る町へと向けていた。
「ここも一応俺の取り締まり対象区域になるんだよ。」
「……君も大変だね?」
「クスクス…。そりゃどうも。しっかしまさかあんた達がいるなんてな。嫌な誤算だ。」
「すまないね。私たちがここに来てしまったが為に迷惑掛けてしまって。」
「いや、あんたに会えたのは純粋に嬉しいんだ。だが、取り締まりの仕事中に会うなんて俺も不運だなって思っただけだ。気にするな。」
はぁ、と溜息をつき姿勢を崩す修羅は、その赤い瞳をスノウへと向けた。
「それで?あんたはこれからどうするつもりなんだ?」
「まぁ、仲間たちが何かされてたら助けに行くし、カーニヴァルを楽しんでいるようなら傍観するよ。」
「あー。なるほどな?」
何か思ったらしい修羅がすぐに首を横に振り、スノウを見据えた。
「実はこの町、人攫いの巣窟になってるんだよ。恐らくだがあんたの所のお仲間は売られるぞ?」
「……。」
それを早く言って欲しかったな?修羅。
私は引き攣った笑いをしたあと、すぐに町の方へと歩を進めた。
しかしそんな私を修羅が慌てて止める。
「待て待て。そのままだとあんたまで捕まるぞ。」
「だが…。」
「取り敢えず、これ着けな?」
渡されたのは赤いカラコンだった。
そうか、赤い瞳なら〈赤眼の蜘蛛〉の仲間だと思われるのか。
よく考えられている。
その場で簡単にカラコンを着けると、修羅が目を見張り少しだけ悲しげな顔を見せた。
「……やっぱり、あんたは前の瞳の色の方が良い。赤眼なんて……なるもんじゃない。」
「……修羅?」
そんなに似合ってなかっただろうか、と少し困った顔をすれば彼は静かに首を横に振り、頭を撫でられた。
「さて、手を離すなよ?お姫様?」
「また君は…。全く…。」
「クスクス…!」
手を握られ、優しく中へと導かれる。
彼と一緒とはいえ、気を引き締めなければ。
私達はまるで昼の様な明るさなその町へと入っていくのだった。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
「この町が取り締まりの対象になった理由は人攫いや人身売買もあるが、どうやらカニバリズム的嗜好を好む奴らがのさばってるらしくてな。〈赤眼の蜘蛛〉として、一気に捕縛しようって訳。」
「一応そういった取り締まりはしてるんだね?意外だった。」
「まぁ、あんた達からしたらそうだろうな。」
今こうして見た感じでは純粋にカーニヴァルを楽しんでいるようにも見えるが、どこにでも光がある所には闇がある。
そういった闇の人達が今回、修羅の取り締まり対象なのだろう。
「さて、聞き込みでもするとしますかね。」
「そうだね。……??」
ふと、ピンク色の服を着た女の子が見えた気がして、一瞬だったがそれはリアラだった気がした。
私はハッと息を飲み、そこへ向かった。
「お、おい!どこに行くんだ!」
修羅も慌ててそこへと身を滑らせる。
そこは大きなコンテナ倉庫の様な場所で、スノウ以外の仲間達がそこに拘束して囚われていた。
スノウがすぐに助け出そうとしていたが、修羅はそれを慌てて止める。
何故なら、この倉庫…至る所に刺客がいて、いつ狙い撃ちにされてもおかしくない状況が作り出されていたからだった。
「……助けたいだろうけど、今は我慢するんだ、スノウ。」
「っ」
拳を作り、悔しそうに俯くスノウに修羅はそっと抱きしめて背中を叩いてやった。
ただ視線だけは、囚われているスノウの仲間たちの周りを彷徨いている同胞へと鋭く向けられていた。
「(しかし……ここまで大々的にやっておいてただで済むと思ってるのか、こいつら…。)」
幾ら〈星詠み人〉が異邦人で、この世界の人たちと相容れない存在とはいえ、こんな事をすれば自分達が処罰の対象になると分かっているだろうに。
……勘違いしないで貰いたいから一応言うが、〈星詠み人〉は狂ったヤツらの総称じゃない。
転生前に罪を犯した奴らもここに転生させられたり、前世の死に方が余りにも酷くて精神を病んだ奴も転生させられてきたのを確かに修羅も何人も見てきた。
だが全員が全員、そうならないし、スノウのようにこの世界を楽しんでいる奴らも多い。
だからこそ、秩序を保つ為にこうして修羅が駆り出されているのだ。
いわゆる保安官や警察の様なものなのだ、修羅は。
「……大丈夫だ。必ずあいつらを助け出すからな?」
「……すまないね、修羅。」
「いや、こっちこそすまないな。内々の奴らがあんな事をしでかしてくれて。あんた達はそれに巻き込まれただけだ。」
抹殺対象がいるものの、今の修羅の仕事は〈星詠み人〉の取り締まりだ。
だから今日の所は見逃す。
それに……
「(こいつの……スノウの悲しむ顔は見たくないしな…。)」
スノウが奴に気がありそうな事は薄々、というより早い段階で勘づいていた。
だが当の本人は気付いていない様子だから、想いを伝えるならば今のうちといえば今のうちなのだが…。
「(このシチュエーションは最悪すぎだろ…。)」
こんな場所で告白など、男として最低である。
そこまで思って密かに溜息をついた修羅はそっとスノウを離した。
そんな時、向こうの方から声が聞こえてくる。
カイル達が囚われている方だ。
「おい!青髪の女は居たか?!」
「いや!まだ見つかってない!!」
「チッ!早く探し出せ!あの女が一番美味しそうだからな!」
「……えぇ…?」
スノウが自分の体を改めて見ていて、修羅が苦笑いをする。
スノウは別に肥えている訳じゃないし、かといって筋肉質かといえばそうでもない。
確かに他の人に比べとても綺麗な顔立ちだし、肌は白く、儚い印象は受ける。
だがそれだけだ。
美味しそうかどうかは……、修羅には分からなかった。
「あの白磁の肌…。そんな女が恐怖に脅えて許しを乞うのが……たまんねえ…!!」
「ボスったら、白い肌の女の子が本当好きですねー?」
「あたりめぇだろ。あんな白い肌……存在自体が神だ、神。」
「ケッケッケッ!!そんな神を食べるなんてボスも狂ってますねぇー?!」
「……。」
「修羅…?」
「よし、ちょっとあいつら殺ってくるわ。」
「ちょ、待った待った!」
後ろから修羅を羽交い締めにするが、流石は男の人だ。
スノウの力ではズルズルと引き摺られて行ってしまう。
しかし、そんな音が倉庫中に響いてしまい奴らに気付かれてしまう。
「?! なんだ、今の音!!」
「お前ら、周辺を探しだせ!!」
「「「おう!!!」」」
それを聞いた修羅が我に返り、スノウを抱き締めるとすぐに瞬間移動で外へと移動させた。
そして調度そこにあったコンテナの影にスノウを抱き締めた状態で身を隠す。
奴らの今の目的はスノウだ。
隠しておくに越したことはない。
「………………行ったか。」
「……ふぅ…。」
「すまない。頭に血が上ってな。」
「君でもそういう事があるのが意外だね?」
「クスクス。そうか?……まぁ、あいつらの言動は確かに許せないしな。」
何が白い肌の女の子が怯える姿が良い、だ。
「……ムカつくな…。」
「修羅?」
「……いや、すまない。考え事をしていた。……しかし、これであそこの警備が手厚くなるかもしれないな。……厄介だな。」
「……というか、あの人数をたった2人で捩じ伏せる事が出来るかな?」
スノウも探知したのだろう。
確かにあのコンテナ倉庫は広いだけあって、かなりの人数の刺客がコンテナの死角に潜んでいた。
2人だけでは確かに制圧は難しいだろう。
……2人だけでは、だが。
「あぁ、そこは安心していい。俺の部下が外で待機してるからな。大元を見つけ次第、連絡すると言ってある。……ただ、今の状況でただあいつらを呼んでも逃げられるだけだ。そうなるとあんたの所の奴らは助けられる確率が低くなる。」
「……。」
心配そうな顔をコンテナ倉庫へ向けるスノウに修羅が優しく頭を撫でた。
「……大丈夫だ。そんな顔をするな。俺もいるんだからな。百人力だろ?」
「……ふふっ。そうだね?」
ようやくスノウに笑顔が見られ、修羅も安心して撫でるのを止める。
そして思考に耽ける。
部下へ呼びに行く時間、そして部下がこのコンテナ倉庫へ突入出来るまでの準備時間を稼がなくてはいけない。
だが、稼ぐといってもどうやって?
あんなに刺客がいて、気付かれないはずが無い。
「……時間が問題か…。」
「時間?」
「部下を呼びに行く時間はテレポーテーションで無いに等しい。…だが、あそこへ突入するまでの準備時間にかなり時間がかかると言っていい。……時間稼ぎをしたいが、難しいだろうな。」
「なら、私が囮になろう。」
「は?!駄目に決まってるだろ!!」
修羅が慌ててスノウの肩を掴み、説得に入る。
「あいつらの今の目的はあんたなんだぞ!あんたを捕まえた瞬間、あいつらはトンズラをこくに決まってる!!それをされたら俺たちが間に合わない!…………あー、くそっ!こんな事なら海琉を連れてくるんだった…!!」
苦々しげに悪態を吐く修羅にふっと笑ったスノウは指をパチリと鳴らす。
するとスノウの髪が澄み渡る空の様な蒼色の髪から、宵闇の様な綺麗な黒い髪へと変化した。
それを目を丸くして見る修羅だが、すぐにその意図を理解した。
あいつらは確かにスノウの事を“青髪の女の子”と言っていた。
それに今は黒い髪に“赤い瞳”を持つ女の子だ。
別人だと思われてもおかしくはない。
「ふふっ。こう見えて以前、潜入捜査などは大抵やっている。時間を稼ぐだけなら私に任せてくれ。」
「……本当に大丈夫なのか?」
酷く心配そうに修羅がスノウの顔を見る。
その瞳は迷いがあるように揺れ動いていた。
「時間がどれくらい必要か言ってくれればそれに合わせる。それに危険なのはお互い変わらないんだ。……任せてくれるかい?修羅?」
「……。」
まだ彼の瞳が揺れ動いている。
彼は心配性だから仕方の無い事だけれど。
「……そうだね?…覚えているかい?中にはカジノ用のテーブルがあったよね?」
「あ、あぁ…。」
「彼らに賭け事でも挑んでみようか。勿論私の一人勝ちだけどね?」
「あんた、賭け事得意だったのか?それに意外だな?あんた、そういうギャンブルには手を付けないと思ってた。」
「ふふっ!ディーラーとして以前やった事があるからね?これくらいなら出来るさ。これならば、幾らでも時間を稼げる。」
「だが、相手は短気そうだぞ?そんな相手をあんたにさせられない…。」
「ふふっ。心配性だね?」
それでもスノウの瞳は揺れ動かず、決意は固い。
決めかねているのは修羅だけだ。
修羅は頭を掻くと唸り、ギュッと何かを飲み込むように目を閉じた。
「……分かった。あんたがそこまで言うなら何か作戦でもあるんだろう。そっちは任せる。……だが、俺とこれだけは約束してくれ。絶対に無理はするな。やばそうになったら逃げるんだ。」
「やばそうになったら、ね?」
「……何か含みのある言い方だな?」
「いいや?何も?」
「……はぁ。全く……こっちの気も知らないで。」
「ふふっ。ごめんよ?修羅。でも、彼らを助ける為なら私は何でもするよ。命を賭してでも助けたいからね。」
「……スノウ。」
咎める様な声音で修羅がスノウを見る。
「命を賭してやるというなら、この作戦は無しだ。……だからちゃんと約束してくれ、スノウ。危なくなったら逃げるんだ。……いいな?」
「分かったよ。君がそこまで言うならそうするよ。」
「……絶対だぞ。」
「ふふ、分かったって。」
そしてスノウは近くにあったコンテナから、丁度よさそうな着替えを見つける。
「これで完全なディーラーだね?」
「何でこんな衣装が丁度よくあるんだ。……あぁ、カーニヴァル中だからか。」
カーニヴァルは国それぞれに違いがある。
本当に簡単に言えば陽気なお祭り、という意味である。
仮装やらコスプレなどは余興のひとつなのだ。
これがあっても大しておかしくはなかった。
コンテナの陰に隠れサッと着替えたスノウは長い髪をひとつに纏め、修羅の前に出る。
珍しい格好だからか、修羅の目は丸くなる。
黒髪に赤い瞳、そしてディーラーの格好……。
少し大人の様にも見えるその格好は、誰がどう見てもあの白磁の肌を持つ、青髪の女の子だとは思わないだろう。
「……心配だ。」
「ははっ!まるで巣立つ子供を心配する親の様だね?」
「当たり前だろ…。(好きな女の子が危ない橋を渡ろうとしてるんだからな…。)」
だが諦めた顔で修羅はスノウへ近付く。
「……これを使え。」
修羅が渡したのは短剣だった。
護身用に持ってろ、という事なのだろう。
スノウは静かに受け取りお礼を言った。
「なるべく早く準備までを終わらせる。あれなら周りの刺客を沈めといてやる。あんたは無理ない程度にやってくれ。」
「あぁ。お互い、頑張ろう。」
拳同士を合わせ、修羅は直ぐに消えた。
スノウは一度笑って、コンテナ倉庫の入口まで行こうとする。
その道中良い物を見つけ、ニヤリと笑った。
それを持ってコンテナ倉庫の中に入ると、辺りの空気が一気に変わった。
「……誰だ。そこにいるのは。」
ボスと呼ばれた男が訝しげな顔で入口を見る。
そこにはワイン瓶を持ったディーラーの格好をした人が立っていた。
あまりにも中性的な出で立ちなので、女が男かは区別がつかない。
「やぁ。貴方がここのボスだとお聞きしましたが?」
「「「「「!!!」」」」」
口を塞がれ声は出ないが、ディーラーの格好をしたその人の声は明らかにスノウだったのだ。
しかし髪色も瞳の色も全然違う。
そのため、カイル達でさえ目の前の人がスノウなのか、と混乱していた。
中に入ってきて気さくな話し方をする若者にボスは鼻を鳴らすと怪訝な顔を隠しもせず、ディーラーの若者を睨む。
「如何にも。俺がここのボスだが?お前は何者だ?」
「ふふ、そんなに警戒しないで貰えると嬉しいんだけどね?…いや何。実は私も人というものに興味があってね?貴方がたは“食べる”んだろう?」
“食べる”という言葉を強調させたが、一見して濁した言い方をする若者に、ボスは更に眉間に皺を寄せた。
そんな中、若者は持っていたワインをテーブルの上に置く。
「……私にも少し分けてくれないか、と思ってね?それでこうして酒を持ってやって来た、という訳だよ。」
「……ふん。…一応同胞ということか。」
若者の赤い瞳をジッと見たボスは、少しだけ警戒を緩めた。
そして一度違う方向へ視線を向け、顎をしゃくる。
すると黒づくめの人がワイングラスを2つ持ってきた。
「ふん。乾杯と行くか。」
「じゃあ、乾杯。」
ワインの入ったグラスをカチンと鳴らし、お互い同じタイミングで飲む。
勿論未成年であるスノウも飲みはしたが、まるで効いていないかのようにケロリとしている。
そしてカイル達の方を見て、こっそりとウィンクをした。
「「「「「!!」」」」」
「とても良い。」
「ん?」
「いや、分けて貰えるならば誰がいいだろうと思ってね?」
「気が早ぇな。まだ俺はOKなんて出してないぜ?」
「ふふ。そうだね?」
机に頬杖をつき、笑って余裕そうな顔を見せる若者にボスが僅かに反応を見せる。
こんな場所に来て、余裕を見せるその様に僅かに感嘆したのだ。
「ふん。度胸のある奴だな。」
「お褒めに預かり光栄ですよ?ボス?」
姿勢を正し胸に手を当て、キザったらしい真似をする若者ともう一杯ほどワインを乾杯すると、若者がとある提案をする。
「折角のカーニヴァルの最中…。ただ分けて貰うだけなら味気がない。だから私と勝負してみませんか?ボス?」
「何の勝負だ?そんなヒョロっこい体で俺に勝てるとでも?」
「何も体力勝負とは言っていませんよ。私のこの格好を見れば分かるでしょう?それにこのテーブル…。カジノがお好きだとお見受けしますが?」
ちらりと見たテーブルはいわゆるカジノテーブルと呼ばれるものだ。
そのため普通の机よりも大きいし、高さが高い。
トランプやコインが見やすいようにテーブル上は緑色の盤面となっていた。
「……どうです?私と一勝負。」
「はっ!俺に賭け事で勝負を挑むたぁ…!その気概、買うぜ?」
ワインも入ってほろ酔いしているからか、スノウの挑発に乗ったボスはドカリと自分の椅子に座った。
そんな会話を聞きながらカイル達はヒヤヒヤしながらそれを見ていた。
恐らくあの若者はスノウで合っている。
でも、そのスノウが賭け事が得意だなんて今まで一緒に旅してきて聞いた事がないからだ。
「では、ディーラーとして努めさせて頂きます。宜しいですね?ボス。」
「あぁ。俺は賭ける専門だ。そっちは任せる。」
「ではこのテーブルの盤面がブラックジャックとなっていますので、ゲームはブラックジャックで宜しいですね?」
「あぁ。1番得意なゲームだ。早く始めろ。」
「おやおや。かなりの自信がお有りで。」
「当然だ。負けたことはねぇ。」
「では、始めるとしましょう。賭けるモノは…あちらで宜しいですか?」
スノウがチラリと見たのはカイル達だった。
そう、チップではなく賭けるモノは人間。
それに何も感情の入ってない声で返事をしたボスは、まず初めにロニを指さす。
「賭けるのはアイツだ。俺の好みじゃねぇ。負ける訳ねぇが、万が一だ。アイツならくれてやる。」
「ふふ。そうですか。なら、彼をベットさせて貰いましょう。」
スノウが僅かに顔を真顔に戻したがバレない程度だ。すぐに顔を戻すと、誰も気付いていないようだった。
「(人間を賭けるなんて…吐き気がする。)では、シャッフルさせて頂きます。」
何の問題もなくゲームが着々と進んでいく。
ブラックジャックは簡単に言うと、ディーラーとプレイヤーに2枚ずつ配り、その後プレイヤーはカードを引くか引かないかを選び、最終的にどちらが21に近いかで勝敗が決まるゲームだ。
運要素が強いゲームで、これを負け無しだと言ったボスはかなりの強運の持ち主である。
「ではカードをお配りしますね。」
慣れた手つきでカードを渡すスノウ。
それをボスは鼻で笑いながら手持ちを見る。
ボスの手持ちは12、そしてディーラーは1枚しか開かれていない状態である。
ディーラーはプレイヤーがカードを引き終えた状態で、17以上になるまで引くというルールがある。
だから今の手持ちである12ではまだ足りない。
「……ふん。hitだ。」
カジノ用語を平気で使うボスに戸惑うことなく、スノウはカードを1枚山札から出し、ボスへと渡す。
そのトランプの数字は8である。
合計20でかなり良い数字である。
「stayだ。」
「では、ディーラーのカードをオープンします。」
既に晒されている数字は5、そして伏せてあったカードは9なので、合計が14。
スノウは山札から1枚カードを引くとそれを表に出して横に置いた。
その数字は…。
「なっ!?」
「……7ですね?ブラックジャックです。」
合計が21になるとブラックジャックと呼ばれ、最高の手札となりその瞬間から勝利となる。
つまり今回はスノウの勝利である。
「……ふん。ただのマグレだ。」
「ふふ。では彼は私が頂くとしましょう。……ではお次は誰を賭けますか?」
「あの金髪だ。バカそうだから要らん。」
何だかカイルがムッとした気がして、スノウは少しだけ苦笑いをする。
「では始めましょう。 No more bet. 」
カードを配り、ボスは思案する。
絵の書かれたカード…いわゆる11.12.13のカードは10と数えるという決まりがある。
今あるのは11と13のカード。
つまりこれでもう20になっているのだ。
またしても良い数字だ。
流石に2回連続で相手がブラックジャックになる事は無い、とほくそ笑んだボスは、ニヤリと笑うと「stay」と静かに口にする。
「……なるほど。確かに強運をお持ちのようですね。」
「ふん。お前の負けだな。」
「いえいえ、勝負はまだ分かりませんよ?……はい、ブラックジャックでございます。」
「……は?」
ボスは慌ててディーラーのカードを食い入るように見る。
確かにスノウの手元には合計21となるカードが開かれていた。
それに愕然としながらゆっくりとスノウを見た。
「私の勝ちでございます。では、金髪の彼は頂いて行きましょう。お次は誰を?」
「くっ…!!あの男だ!!」
ヤケになっているボスは今度はジューダスを睨む。
それに微笑んだスノウは、カードをシャッフルしようとしたがボスに止められる。
「待て。お前がシャッフルするとインチキをしているかもしれん。俺がやる。」
「どうぞ。」
嫌な顔ひとつせず、トランプを全てボスに渡すと強引にそれを奪い取りシャッフルを始める。
「それから、袖を捲り上げろ。イカサマ行為は許さん。」
「おやおや。これはこれは…イカサマなどしてはいませんよ?ですが、プレイヤーの言葉に従いましょう。イカサマではないと証明してみます。」
「ふん!減らず口が…!」
スノウは袖を肘より上へと折り返した。
晒け出された腕はまるで白磁の肌…。
ボスは思わずシャッフルしている手を止めてその腕をじっと見つめると、ゴクリと喉を鳴らした。
そしてニヤリと笑うとスノウを下卑た顔で見遣る。
「……もし次に俺がブラックジャックを出したら、あんたを貰おうか。同胞殺しは禁忌だが……アンタを食べたくなった。」
ギラついた目でスノウを射抜くボス。
対して、スノウはその瞳に怖気づくことなく視線を合わせる。
そして微笑んで言葉を紡いだ。
「どうぞ?」
「へっ…!その言葉、忘れるなよ?」
そしてボスは少しだけトランプに小細工をした。
自分にいい札が来るように根回ししたのだ。
先程まででディーラーの癖は見抜いた。
どういう順番でカードを配るのか、そしてどういうカードの持ち方をするか。
これでイカサマも見抜く事が出来ると、まだ勝利もしていないのにボスは大声で笑った。
そのボスの様子に仲間達は恐怖の顔を浮かべ、唯一の救いであったスノウを見る。
これではスノウまで捕まってしまう、という仲間の不安を感じ取ったのか、スノウは目を丸くし仲間達を見た。
だが、次の瞬間柔らかく笑ったのだ。
それに安心さえ覚え、仲間達は呆然とスノウを見た。
そしてどういう訳か、スノウはニヤリと笑うと余裕そうな顔へと戻っていく。
「では、始めても?」
「グヘヘヘ…!!あぁ…いいぜ?」
そのまま山札を渡したボスは、面白くて面白て堪らないとばかりに笑みを零した。
そしてスノウは今までと同じやり方でカードを並べる。
それに勝利を確信したボスは嬉しそうに目を見開く。
「(今の手札は18…。そして次のカードに3を仕込んである。これで俺様の勝ちだ…!!)……hitだ。」
「宜しいのですか?このままでも十分な数字だと思いますが…。」
「いや、hitだ。」
「承知しました。ではカードを引きます。」
ディーラーはイカサマをしていない。
そして次のカードを触った…!
その瞬間、全員に緊張が走る。
とある者は必死に願い、とある者は勝利を確信し……そしてスノウは微笑んで次のカードをボスの前に持っていき、ゆっくりとカードを表にした。
「……なっ?!!!」
「4、ですね?合計が22となりますのでバーストでございます。私の…勝ちでございます。」
「イカサマだっ!!!!次のカードは3を仕込んでいたはずだぞ!!?」
「おや?そんな事をなさっていたのですか?いけないお人だ。」
口元に手を当て、クスリと笑ったスノウはニヤリと笑いながらボスを見遣る。
そしてスノウが次のカードを開くと、そこには3が出てきた。
「!!?」
「惜しかったですね?あのままstayをしていれば貴方の勝ちでしたが?」
「くそっ…!!こんなの勝負にならん!!!」
カードを手で払い、怒りを表したボスはスノウを睨む。
折角のワインも床に叩きつけられ、音を立て割れてしまった。
それにビクリと仲間達が恐怖を示す。
「その余裕そうな顔もここまでだっ!!!こいつを捕らえろっ!!!」
辺りを見てボスは叫ぶが、シーンとした空気にボスは慌て始める。
そんな中、スノウは笑顔で両手を広げる。
「誰に言っているのです?ここには私と貴方、そして囚われている彼ら“しか”いないのに?」
「な、何をした?!!」
「私は何も。えぇ……私は何もしていませんよ?」
「ふざけたマネをっ!」
「ふざけているのはどちらです?」
スノウはカジノテーブルを蹴り、それをボスの足の上に落とすと銃杖を痛みで悶えているボスの顎へと当てる。
「食人など非道の極み。私の大事な彼らを傷付けた罪を償え、下衆め。」
そのまま気絶弾を撃ち、ボスを気絶させたスノウはうんざりとした顔で息を大きく吐き、髪をかきあげた。
「派手にやったな?スノウ。」
「修羅。」
近寄ってくる修羅の顔は苦笑いをしていて、それでも拍手を送ってくれた。
「こっちが全員死角に居たヤツらを気絶させていたの分かってたのか。」
「探知で全員の気配がなくなったからね。君達が何時でも突入出来るのは分かってたよ。」
「全く……それなのにあんな事をしたのか?」
チラリとボスを見た修羅はそのまま部下に目配せをしていた。
そしてボスは修羅の部下によって引きづられていき、仲間達も解放されているところだった。
「しっかし、あんた本当に強いんだな。驚いたぜ?」
「ふふ、ありがとう?」
「途中気が気じゃなかったがな?」
ジトリとした目を向ける修羅だが、スノウに反省の文字は無さそうだ。
相変わらず笑っていて、それに修羅も困ったように笑った。
「どういうカラクリなんだ?何であんたの所にばかりあんなにいい数字が来てたんだ?」
「見ていたのか。」
「途中からだがな?」
「ふふ。それを明かしたらディーラー失格だね?」
「なんだ、やっぱり何か仕掛けがあったのか。」
「まぁ、最後のだけは彼のミスだけどね?」
最後、彼がカードの合計を22にさせてしまってバーストした時。
あれは本当にボスが入れ間違えていたのだ。
だからそのまま出したのだ。
「ふふ。この世界で私に勝てる人は居ないと思うよ?」
「へぇ?今度俺にも教えてくれよ。見ていて興味が湧いてきた。」
「君なら幾らでも教えよう。その時は私と勝負してくれるかい?」
「あぁ。受けて立つぜ?……ただ、本当にイカサマ無しな?」
「ふふっ!!善処しよう。」
そんな中、解放された仲間達が無事を祝うかのようにスノウへと抱き着いていた。
それを微笑みながら嬉しそうに受け止めるスノウ。
「(仲間、か…。)」
もし、自分がスノウの仲間にいたら……今頃ああやって無事を祝っていただろうか。
そんな事を思いながら、スノウ達のその様子を羨ましそうに見ていた修羅だったが、部下が隣に来た事で視線をそちらに向けた。
「修羅様。搬送の準備が整いました。」
「……そうか。分かった、先に行ってろ。」
「はっ。」
どうやら囚人共を移送する準備が整ったらしい。
それは同時にスノウとの別れも意味していて、無意識に修羅は溜息をついていた。
赤のカラコンを取ったスノウはもう以前の海色の瞳に戻っていて、それに目を細めながら修羅はスノウへと近付く。
そして仲間たちをかき分け、スノウの頬へと口付けを落とした。
「「「「!!!?」」」」
「じゃあな、スノウ。今日はありがとな?」
「ふふ。こちらこそだよ、修羅。本当にありがとう。」
ふわりと笑った彼女の顔に目を見張る修羅だが、すぐ隣から殺気が飛んできたのでそちらを睨んでおいた。
「あんたを殺るのはまた今度だ。こっちも忙しいからな。」
「ならさっさと行け。」
「言われなくとも。」
バチバチと視線をぶつけさせた後、もう一度スノウを見て手を上げる。
そのまま修羅は瞬間移動で移送中の部下達の所まで飛んだ。
「……宜しいのですか?あのまま彼らを野放しにして。それに、あの〈星詠み人〉の女性も……。」
「あぁ。今はこんなにも大量の囚人を移送するんだ。他の事に気を取られ、絶対に逃がすんじゃないぞ。」
「……はっ。」
どうせ、この囚人共は研究施設送りだ。
だからもう会うこともないだろう。
ふと後ろを振り返った修羅だったが、すぐに歩みを再開した。
また今度会う日まで、楽しみはとっておくのだ。
【カニバリズム・カーニヴァル】
___狂った謝肉祭はもう終わりだ。
___どうか、次会う時までは無事で……