カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
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もうここでシスターとして働いてから何週間経っただろう。
苦手なスカートも最早慣れてくるまでにここに居た気がする。
それでも苦手なものは苦手だが…。
あの魔物事件を境に頻回に魔物が町へと現れる様になり、町人は今も怯えた生活を余儀なくされていた。
流石に元を絶たなければ何の解決にもならんというジューダスの言葉に、カイルや皆も頷いていた。
元々この教会に居た、今や壷直しに夢中の神父にも相談することになり、今に至るのだが…。
「ふむ、確かにここ最近魔物の出現が多くなっていますね…。」
眼鏡を手のひらで押し上げ、白い接着剤を指先に付けた神父がカイル達を振り返りそう言った。
由々しき事態だとその接着剤を付けた神父も話していたので、外出の許可を貰おうとカイルが必死になって頼み込んだ。
「元を絶たないといけないって思うんです!このままだと町の人も怯えたままだし…。だから、オレ達それを見つけたくて!」
「何か思い当たるものがあるんですか?」
「そ、それは…」
「あんたはここら辺に詳しいはずだろう?最初にこの町に来て、僕たちが魔物討伐をするとなった時もあんたの指示で行った。何か思い当たる事とかないのか?」
「うーん、難しい質問ですね…。こんなにも魔物が出てきたのは初めての事なので私にも何が何だか…。でも探してくださるというのであれば外出許可を出しましょう。」
「本当ですか!?」
「ただし!一つ条件があります。」
まだ接着剤が乾ききっていないというのに、神父は指を一本立てる。
そして気付いたように悲鳴を上げた。
「あぁ!やってしまった…!指が引っ付いて取れない…!!!」
「「「「「「……。」」」」」」
皆が呆れた顔で神父を見遣る。
中々どうしてこの神父はおっちょこちょいでそそっかしいが、憎めないタイプである。
スノウがその場を後にして桶にお湯を張り、神父の前に持っていく。
そして桶に入れられたお湯に優しく神父の手を浸けさせ、接着剤を指から剥がしていく。
「無理に剥がそうとしないでください。皮膚の表面の皮が一緒に剥げてしまいますから。」
「あ、あぁ…ありがとう。助かったよ…。」
ホッとしたように息を吐く神父に皆が苦笑いで見届ける。
ジューダスは一人、神父を鼻で笑っていたが…。
「で、その条件って何?」
「必ず一人は教会に残ること!仕事を疎かにしては神もお嘆きになるでしょう。」
「…お前がやればいいんじゃないのか?」
「この壷はどうするんです?」
「ご、ごめんなさい…。」
接着剤が取れた濡れた手で壷を指す神父にカイルが申し訳なさそうに謝る。
そして皆の視線はジューダスへと注がれる。
神父が居なければ教会としては成り立たないだろうからだ。
それに眉間に皺を寄せたジューダスだったが、ナナリーが一つ提案とばかりに手を叩いた。
「魔物と戦闘になるなら、スノウが残った方がいいんじゃないのかい?ほら、スカートだし…。それに教会のお祈りの時間だって、いつもスノウがやってるじゃないか。」
「あ…。」
「ふん、決定だな。」
自分が残ることにならなくて心底安心して、ここぞとばかりにほくそ笑んだ彼に私は苦笑いを浮かべた。
お祈りの時間は私でも、懺悔室へ行くのは彼なんだけどね…?
そう思いつつももう皆の中では私が残ることは決定事項なようで、それに口出しするのも大人げないので飲み込むことにした。
「では、スノウさんは残って教会の仕事をして下さい。」
「分かりました。頑張らせていただきます。」
「うむうむ。シスターの鏡のような人ですね、スノウさんは。」
「いえ、そんなことはありません。(現にスカートを捲りあげながら、はしたなく戦闘していたわけだし…。シスターの風上にも置けない行為だろうな…、あれは。)」
遠い目をした私に神父様はふっと笑いを浮かべ、カイル達を見た。
「皆さんも、くれぐれも怪我のない様にお願いしますね?」
「「「はーい。」」」
返事をした後皆で扉を潜ると、神父様がスノウを呼び止める。
「スノウさん、話があるので残ってもらえませんか?」
「?? はい、分かりました。」
「じゃあ、スノウ!オレ達、行ってくるね!」
「くれぐれもお気を付けて。怪我して帰ってきたら、私が回復しますから任せて下さいね?」
「「「うん!/おう!」」」
「行ってらっしゃい。」
「「「「いってきます!」」」」
元気よく外に飛び出したカイル達を見送り、神父様に言われた通り部屋に残る。
新たに接着剤をつけ、壷と格闘している神父様に声を掛けるとこちらに顔を向けることもなくそのまま神父様は話し出す。
「スノウさんはここら辺に伝わる逸話をご存じですか?」
「?? 逸話、ですか…?(何で急にそんな話を…?皆の居る前ですればいいのに…?)」
「ええ。この教会にシスターが居ないのはご存じだと思いますが、実はね?シスターが居ないのは皆がとある話を怖がっているからなんです。」
「…。」
「"教会に神父とシスターだけになると、どこからともなく現れた赤い石がシスターを襲うだろう"…、とね。」
「それは物騒な話です。以前、ここで襲われたシスターが居るのですか?」
「いえ、あくまでも逸話なんでそんなことは無いんですよ。ただ一応話しておかないと、と思いましてね。町の人からも聞くかもしれませんし、話して用心しておくに越したことは無いですから。」
「……それって、私が外に出た方が良かったのでは?」
「大丈夫ですよ!私がスノウさんを守って見せますから!」
接着剤が付いているのに、胸を叩き自慢そうに話したかったのだろうが…。
「あぁ!!またやってしまった…!」
神父の手が今度は服についてしまい、にっちもさっちもいかない。
新しいお湯を汲んで桶に張り、服と一緒に手を付けてしまう。
ゆっくりと接着剤をはがしていき、服は後で洗いますから洗濯物に出しておいてくださいと伝え、桶を持って部屋を後にする。
「赤い石…ね…?」
気になる話だ。
この教会のどこかにそういった逸話が書かれている本でもあるのだろうか。
皆が帰るまでに、その本を探してみてもいいかもしれない。
私は教会の仕事をしつつも、その本を探してみることにした。
教会の本棚、居住区となっている建物の中の本棚を調べてみるがこれと言った本が見当たらない。
……やはり赤い石の話は、ただの逸話なのだろうか。
それでも教会に来る人へと話を聞いてみると、やはり教会に来る人はその話を知っていた。
今夜神父と二人なので、と話すと危ないと町人を心配させてしまう羽目になってしまったが、一応の収穫はあった。
どうやら、前にその赤い石の犠牲になったシスターが居たようなのだ。
ただそれも噂好きの町人の話なので本当かどうかの可否は出来ないが、それでもその話を今の神父様が知らないとは思えない。
そこのところも町人に聞いてみると、犠牲になったシスターは以前より居た神父と一緒に居たという事が分かる。
つまり、今の神父様はそのシスターの犠牲になった姿を見ていないのだ。
そのシスター亡き後に現在の神父様がここに配属になったからだ。
また、その時にシスターだけでなく神父も犠牲になっていたという事らしく、………どうにもきな臭い。
「……まさか、今の神父様は…」
前の神父が犠牲になったことを新たに配属される神父が知らないはずがない。
それとも…、新たに配属される神父が怖がらない様に、逃げない様にと情報操作をされていたのか…?
だが、この話をあのおっちょこちょいの神父から持ち掛けられているのだ。
だったら知っていてもおかしくはないはずなのだが…?
というより、根本的な話ではあるが……赤い石の犠牲になる、襲われるとは一体どういう事だろう?
謎が謎を呼び、仕事も身に入らなくなってしまう。
これではいけないと一度リフレッシュするために、教会前の掃除を始めると神父様が経典を持ち何処かへ行くのが見える。
何処かへ行くときは必ず声を掛けてくれる彼が何も言わずに出ていくというのは怪しすぎる。
私は申し訳ないと思いつつも持ち場を離れ、こっそりと神父の後をついていった。
するとなんてことない、町人の前で経典を開き、説法を説き始めたのだ。
こんな公開説法があったとは今の今まで知らなかった…。
なんだかんだ言っても仕事はしてるのだな、と思い、暫く彼の説法を聞いた後にその場を後にしようとしたのだが…。
「あれ?スノウさん?」
「(げ…)……えっと、神父様。こんな所で奇遇ですね…?」
ここに居る事がバレてしまうとは、別の意味で説法を説かれるんじゃないかと身構えていると神父様は徐に私の頭を撫でた。
その優しい手つきに目を見張ると、神父様は優しい笑顔でこちらを見ていた。
「奇遇ですね、スノウさん。ちゃんと皆さんの悩みを聞いていますか?」
「は、はい。その為に懺悔室を借りてます…。」
「ええ、ぜひ使ってくださいね。…今から帰るところですか?」
「はい。用事も済んだので帰ろうかと思いまして。」
「そうですか。ではご一緒させてください。」
そう言って隣に並ぶと神父様は歩き出した。
私も慌ててその横へと並び、帰り道を一緒に歩く。
道中、会話に困るかと思いきや、彼の方から色々話しかけてくれて話題を提供してくれる。
時に熱くなり、でもおっちょこちょいの性格が災いして、不運に巻き込まれたり…。
この人の隣に居ると飽きないなと笑ってしまうと、神父様がニコリと嬉しそうに笑った。
「ようやく笑ってくださいましたね?」
「え?」
「私が今朝、あんな話をしてしまったので心配してたんです。その証拠にスノウさんの顔はいつもより強張ってましたから、あぁ、話さなければ良かったと思いまして…。でもこうしてようやく笑ってくださいましたね。」
「!!」
確かに彼の事を疑いにかかっていたから無意識に表情に出ていたのかもしれない。
痛恨のミスだと思う反面、神父様は呆れるほどに優しい人だとも思う。
そんな神父様にお礼を伝えようとするとさっきまで隣にいたはずの彼が居ない。
何処に行ったと振り返ると小さな穴につまずき、うつ伏せ状態で転んでいる神父様が居た。
しかもその周りには子供が指を指し、お腹を抱えて笑っているではないか。
「何をしてるんですか…。」
呆れて、でも笑いながら助け起こすと涙ぐむ神父様の姿があった。
まるで子供のようなお人だ。
服についてしまった土を払いながら、私は声を掛けた。
「もう。気を付けてくださいっていうのは神父様の方だったようですね。」
「め、面目ない…!返す言葉もない…!!」
うぐ…と唸り、されるがままになっている神父様に笑いながら最後に服を思いっきり叩くと、困った顔で見られる。
「痛いです…。スノウさん。」
「転んだ痛みよりは痛くないと思いますよ?」
「うぐぐ…。言い返せません…。」
ふっと笑ってしまったが、そんな私を見て彼も可笑しくなったのか声に出して笑っていた。
そして神父様は私の手を取るとゆっくりと歩き出した。
優しく手を握られ少し前を歩き、まるでそれはよくある父親の姿のようで…。
私は思わず俯いた。
「神父様?」
「ん?どうかしました?」
「手を繋ぐのはいいですが、転ばないでくださいね?一緒に転びたくはないので。」
「ひ、酷いです…!私も好きで転んでるわけでは…」
「分かってますよ。だからこそ、気を付けてくださいませ?」
「はい…。」
自信なさげに返事をした神父様だったが、ふと真剣な顔になると私を見た。
「絶対に、守りますから。」
「?? 例の赤い石の話ですか?」
「はい。今夜彼らが帰ってこなかったら、私達二人になるので。」
「ふふ。赤い石に襲われそうになったら期待せず、待ってますよ。」
「私だって、一応男ですから女性を守るくらいしますよ!」
「そりゃあ神父様は聖職者ですから、悪しきものから市民を守ってください。」
「う…。分かってます…。」
どうも大人げない人で、子供っぽい人だ。
言動然り、表情然りというところか…。
「もし神父様が襲われていたら私が助けますよ。」
「ええ?女性に助けられるのですか?」
「神職者ともあろう人が、女性蔑視ですか?」
「あ、いえ…。そういうわけでは…。」
「だったら、大人しく守られてください。」
「は、はい…。スノウさん…、以前よりも段々と意地悪になってきています…。」
「ふふ。これが素の私かもしれませんよ?」
「とんでもないお方をシスターにしたものです…。」
徐々に丸まっていく背中を精いっぱい叩き、しゃっきりさせる。
案の定、叩かれた背中はピシッと伸びた。
私たちはそんなことをしながら帰路についたのだった。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
__その日の夜。
皆疲れた様子ではあるが、帰ってきたので安堵して私は皆を出迎えた。
「おかえり。皆、怪我はない?__ディスペルキュア。」
今は神父様は部屋で壷と戦っているので普通の話し方で話す。
そして極めつけに労いも兼ねて回復技を使えば皆の顔が緩んでいく。
「ありがとう、スノウ!」
「暖かいわ…。」
「留守番中、何も無かったか?」
「うーん、あったような、なかったような…かな?」
「何だよ、煮え切らないな。」
「それよりも皆にご飯が用意してあるよ。手を洗っておいで。」
「「「おぉ!」」」
「久しぶりだね!スノウの手作り!早く行こ!」
カイルが勇んで走っていくのをロニが追いかけ、リアラも嬉しそうに走っていった。
「すまないね。アタシの仕事なのに。」
「何を言ってるんだ。皆は魔物退治で忙しかっただろう?戦闘に参加できない今、こっちの事は任せてくれ。」
「ありがとね。さーて!折角のスノウの料理、堪能させてもらいますかね!」
「あぁ。いっぱい食べてくれ。」
ナナリーも笑顔で去っていき、私も皆の所に行こうとするとジューダスから腕を引かれる。
眉間に皺を寄せた彼に苦笑いを零して、彼の皺部分…眉間に指を置いた。
「積もる話はあるだろうけど、後にしようか?皆が待ってるよ。」
「…あぁ。」
彼は渋々とその提案を受け入れ、一緒に歩き出す。
そして皆で楽しい夕食の時間を楽しんだ。
しかしそんな中でも話題になるのは、皆が行った先にあったという謎の物体の話だった。
「スノウの意見も聞きたいんだ!」
「私で良ければ、皆の助けとなろう。」
「じゃあ話すんだがよ?何か、赤い石?っていうの?デカい石がクルクル回りながらあったんだよ。」
「!!(赤い石…だって…?これは偶然…?それとも罠?)」
「?? スノウ?」
「……。」
私のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、皆が不安そうな顔でこちらを見ていた。
ハッとして話の続きを促す。
「……それで?」
「いや、それだけだったんだけどよ…?」
「ジューダスがやっても、オレがやっても壊れないし切れなかったんだよ!」
「俺も試してはみたんだが、あれは歯が立たねぇ。」
「私も晶術で壊そうとしたんだけど、駄目だったの。」
「アタシも同じようなもんだね。」
「皆は何故それを壊そうと思ったんだい?」
「何か不気味だし、それが光るとどこからともなく魔物が現れるんだよ。だから元凶はあれなんじゃないかって話になって壊そうとしたんだが…」
「……駄目だった、ということか。」
「スノウの晶術でどうにかならないかしら?」
リアラの提案にチラリとジューダスを見る。
彼の持つソーディアン…シャルティエでも斬れなかったものが私にどうこう出来るとは思えない。
だが〈星詠み人〉のマナでどうにか出来るかもしれないのもまた考えものか…。
「……それはどこら辺にあったのかな?」
「え?!もしかしてスノウ、一人で行く気?!」
「おいおい…無茶だぜ…。あそこ一帯が魔物の巣窟みたいになってやがる。赤い石に到達して攻撃するのもやっとなんだぜ?」
「出来れば夜に行きたくってね。昼間は仕事もあるし…それに……。」
「「「それに?」」」
「(あの神父様にバレないようにしないとね?念には念を、だ。)」
苦笑いをした私だったが、ジューダスにはそれが気に入らなかったらしく私を睨んでいた。
どうしたものか、と言い淀んでいたが内緒にしておくのもいけないかと私は皆へゆっくりと話し始めた。
今日聞いた赤い石の話、そして犠牲になったシスターや神父様の話を。
徐々に皆の顔が歪んでくる。
それもそうだ。
犠牲になった人がいるのだから。
「……何故神父は僕達が居なくなった後、その話をスノウへ聞かせたんだ?それに神父の話と町人の話が食い違うのも気になる…。」
「ほんとだよなぁ?何で俺たちの前でしなかったんだ?わざとだとしか思えねぇよ。」
「無事で良かったわ…」
「ホントだね。アタシ達が夜に帰って来なかったことを思ったら…ゾッとするよ…!」
「明日もオレ達いくつもりだけど…、スノウも一緒の方がいいよ!」
「…そうだな。ここには僕が残ろう。」
「ジューダスが?」
「スノウがいるなら僕がいなくとも対処出来るだろうしな。」
「でも…その……スカートが…。」
「魔法だけで頑張るよ?」
「よし!それなら明日はジューダスとスノウが交代だな!」
話が決まり、皆で頷く。
あの赤い石の話も、犠牲になったシスターの話も…。
明日で全てが解決する事を祈って、私達は夜を過ごした。
__翌日。
皆と一緒に例の赤い石とやらの場所へと向かった私は銃杖を構え、赤い石へと向けて魔法弾を放つ。
多量のマナを含ませたそれは赤い石へと直撃し、そして──
パリンッ!
ガラスが割れた様な音がして、そこには赤い石の欠片が落ちていた。
あんなにも割れなかったあの赤い石が呆気なく割れた事に驚いた皆だったが、これで魔物が出ないと大喜びをして盛り上がるのを見て、私自身も皆の喜びように自然と嬉しくなる。
何より、皆の役に立てて何よりだ。
皆の近くに寄ろうとした私だったが、小さく欠片になった赤い石がいやに光った気がして顔を歪め、立ち止まる。
注視してみたが光っている様子がなく、その欠片を拾ってみるも光った様子はなかった。
ただの気の所為か、と欠片を一応ポケットに仕舞い私は皆の元へと歩き出した。
「流石だね!スノウ!」
「これでもう魔物が出ないわよね?」
「これで出てきたらお手上げだよ…。」
「こんなに簡単に割れるもんか?あんだけ苦労したのによ?」
「ともかくこれで魔物が出なくなったか暫く見てみようか。」
「「「「おう!/うん!/えぇ!」」」」
暫く皆と会話しながら時間を潰してみるが辺りから魔物が出る様子はなく、どうやらこれで事件は解決なようだ。
それに皆が笑顔になり、私も笑顔で返す。
これで大手を振って帰れそうだ。
「後はツボが直るのを待つだけだね!」
「あれ、いつ直るんだい?」
「結構大きかったし、時間がかかりそうよね?」
「この間見た時は半分くらいだったかな?」
「じゃあまだまだじゃん!」
「あと何週間居ることになるやら…。」
そんな話をしていても皆の顔には笑顔があった。
これで町の人が魔物に脅かされるこもはなくなったのだから。
私達はそのまま笑顔で教会へと戻って行ったのだった。
___その日の夜。
例の赤い石を壊したことをジューダスへと報告し、魔物が出なかったことも報告した。
肝心のジューダスの方は収穫が無かったようで静かに首を振っていた。
「でもさ!後はツボが直るのを待つだけだよね!」
「早いところ直して欲しいぜ…。薪割りも大変なんだよ。」
「まぁ、あの神父の事だから貼っても貼ってもまた何処からか割れてるんだろうけど…。」
「ない、と言いきれないんだよなぁ…?」
「オレらが手伝った方が早いんじゃない?」
「明日手伝いを申し込んでみるか!」
「……。」
しかしジューダスは何か考え込んでいるようで、話に参加する気配はなかった。
それに私は首を傾げたが彼が話す様子はないので、横目で見るだけに留めておいた。
私も明日はツボ直しの手伝いを申し出てみようかな。
皆が解散し就寝準備に入る中、ジューダスが私を引き止める。
それに首を傾げながらも聞く体勢になれば、しばらくの沈黙の後彼が話し始める。
「スノウ。あの神父に近寄るな。」
『あの神父、なんか胡散臭いことしてたんですよ。』
「?? 胡散臭いこと?」
「人目を憚るようにこっそりと何処かへ出掛けることが多かった。…何か企んでいるのかもしれん。用心するに越したことはない。」
『それに、明日は紅い月が出るそうなんですよ。何だか怪しいと思いませんか?』
「紅い月か…。確かに、それは怪しいかもね?」
「そういう事だ。だから明日一日は極力一人にならないようにしろ。」
「分かったよ。気をつける。」
そう言って解散した私達はそれぞれ床についた。
明日は何も起こらないことを願って、静かに私は目を閉じた。
___翌日。
いつもの様にシスターの仕事に従事していると、警戒している様子のジューダスが隣にいてくれる。
頼もしいのだが、何だか申し訳ない。
私だけが狙われているとは限らないのだが、あの話を聞いてしまった以上警戒は怠らない方が良いと諭されたのだ。
掃除ひとつでも近くにいてくれる彼に感謝しつつ、辺りの様子を見てみる。
ここ最近魔物の襲撃ばかり遭っていたこの町だが、ようやく平和が訪れようとしているようだ。
子供達が笑顔で走り回ってるのが何よりの証拠だ。
「ずっと、平和なら良いんだけどね?」
「そうだな。…問題は今日の夜だ。」
『気を付けてくださいよ?!何が起こるか分かりませんから。』
「うん。警戒は怠らないように──」
そんな会話を繰り広げている私達の元へと近付く男性がいた。
何だろう。
見たことの無い人だが、もしかして旅人だろうか?
警戒しつつそれを見ていると、男は覇気のない顔でこちらを見て武器を取り出す。
それはロニが得意とする斧のような物で、私を見るとガリガリと地面へ引きずりながら走ってこちらに振りかざしてきた。
「っ!?」
「スノウ!」
瞬時にジューダスがシャルティエを抜き、それを受け止めた。
私は邪魔にならないように遠ざかろうとしたのだが、あの男の視線は私だけを見ていて目の前のジューダスには一目もくれない。
その不気味さに後退した私の元へ、ジューダスの横を通り過ぎ再び男が私へと斧を振りかざす。
辛うじて避けた私に次々と斧の攻撃を繰り広げる男。
私は堪らず銃杖を手にし、男へと気絶弾を撃った。
しかしその気絶弾をものともしないように僅かに反応しただけで、斧を横へ一閃させたので飛び上がりそれを避けたついでに男の顔へ蹴りを食らわせる。
その男は遠慮なく私の蹴った足を掴むとそのまま地面へと叩きつけ、あまりの衝撃に私は息を詰まらせた。
「かはっ…!」
『「スノウ?!」』
それでも男は私の足を掴んだままで、もう片方の手でゆっくりと斧が振り上げられる。
息を呑んだ私は慌ててその掴んでいる足から逃れようとしたが、強く掴まれ逃げ出せない。
そこへジューダスの晶術が炸裂するも、男はそれをも物ともしない様子で私を殺す事だけを考えているようだった。
まるで何かに操られて、痛みの分からないゾンビの様な…そんな物のように見えて私は僅かに恐怖を抱いた。
咄嗟に目を固く瞑った私だったが、痛みが襲ってくることは無く、かと言って掴まれている足が離れるわけでもなくただ時間が過ぎていくので恐る恐る目を開けた。
「…?」
そこには斧を剣で受け止めている彼の姿があった。
しかしその力は向こうの方が有利なのか、膂力のある彼の腕や剣が震えていた。
このままではジューダスが危ない…!
「ジューダス!?もういいっ!!離れてくれっ!!」
「くっ…!!」
地面に彼の足がめり込むほどの力を入れられているのだ。
きっと何処かで力が抜ける時が来る。
その時に彼が怪我をすることを危惧した私は銃杖を使い男へと攻撃を仕掛ける。
頼む、彼だけは…!
そんな気持ちで攻撃したが、男に私の攻撃はビクともしない。
この男、何者なんだ。何故、こんなに攻撃が効かない?
彼が怪我する事が私の中の恐怖を煽らせ、膨れ上がらせる。
その影響か、段々と私の攻撃も荒々しくなっていた。
「頼む…!彼だけは…!!!」
「っ、」
『このままじゃ…!ど、どうしたら…?!』
何も対抗策がないまま、ただ悪戯に時間だけが過ぎていく。
私は彼を巻き込んでしまった後悔に涙を溢れさせ、顔に腕をやった。
「っ、ごめんっ…!ジューダス…。ほん、とに…ごめん…!」
「っ!!!」
その時、彼の何処にそんな力があったのか男の斧を押し遣り、男の腹部へと攻撃を喰らわせていた。
一歩、二歩…と後ずさった男に従い、私も引きずられていく。
まだ手を離さないつもりなのか…?
諦めた瞳でそれを見やれば、ジューダスが男の腕を掴み私から離そうと力を入れてくれている。
「く、そっ…!馬鹿力が…!!!」
そこへ皆も駆けつけてくれ、男の腕を離そうと全員で挑むものの…
「何これ?!」
「強すぎだろっ…?!」
カイルやロニまでもが離そうとしてくれているのに全く歯が立たないらしい。
そんな事をしてくれている間、男はやはり覇気のない顔で私を見続けていた。
私はこの男に覚えは無いはずだが…?
何故ここまで執拗に絡んでくるのか聞いてみたくなるほどその視線は固定されたままで、私は不安そうな顔をどうやら浮かべていたらしい。
皆が声を掛けあって元気づけてくれる。
仲間はこんなにも暖かく頼もしいのに、私の足は持ち上げられているからか段々と冷たくなり、男の手もまた死人かと思うほど冷たかった。
そんな時、
「……!」
男が急に動きだし、皆を押し退けるとそのまま私を引き摺って走り出した。
地面にぶつかり、擦れていく痛みに顔を歪ませ男を見るが男の視線は真っ直ぐ別のところに向けられていた。
痛みに耐えながらそれを乗り切ると何処かの建物の中に入り、私を上から押さえつけたではないか。
その上、私の口元に手をやり声を出させないようにする辺り確信的な誘拐犯である。
強い力で押さえつけられ、何なら全体を圧迫されているので呼吸も苦しい。
なけなしの力で男の腕や肩を殴るもののビクともしない。
その内聞こえてきた仲間たちの声に反応したいが、口や鼻を塞がれ呼吸が出来ない状態で声が出せるはずもなく、彼らが通り過ぎていくのを絶望した気持ちで聞いていた。
私に覆いかぶさり、口元を押さえられ、呼吸困難で意識が朧気になりそうなのを意識を保とうと必死になる。
でなければ気絶している間に殺されてしまう。
いや、窒息死が目的なのかは分からないが。
「うっ…!くっ…!」
あぁ、
もう……だめ……だ…………
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: * .。
「止めて差しあげなさい。」
よく通る声で建物内に響いた声は、スノウに覆いかぶさっている男性へ言っているようだ。
男はすぐにスノウから退き、声の主を見つめる。
そこには眼鏡をかけた、例の神父がいたのだ。
「殺してはいませんね?」
「……。」
スノウの様子を近くに寄り様子を窺った神父は、スノウがまだ辛うじて生きている事にホッと安堵していた。
「はぁ…。死人は中々どうして言う事を聞きませんね。このままだとスノウさんは死んでいたんですよ?もう少し加減というものをしてください。」
「??」
「死人に口なし、ですね。まぁ、良いです。スノウさんさえ手に入れば、なんだって良いのですから。」
神父はそう話しながら気を失っているスノウを抱き上げ、すぐ近くにあった椅子へと座らせると、ぐるぐるぐるぐる…と紐で椅子へと縛り付け動けないようにしていく。
その顔は全く悪気のない顔で……。
「これでよし。もうこれくらいすれば、流石に動けないでしょう?」
キツく縛り上げられたスノウは未だ意識が戻らない。
それに優しく頭を撫で、慈悲深い表情で神父はスノウを見た。
「今夜……、全ては今夜で終わります。ですから、それまではおやすみなさい。スノウさん。」
神父はそれだけ言うと、先程の不気味な男と消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……はっ!」
急に意識が戻り、目を開くとスノウは椅子に縛り付けられていた。
足までもが動かせないように紐か何かで縛られていて、思ったよりも動かせないし、逃げられない。
手も椅子の後ろで縛られていて完全に拘束されている状態だ。
今分かる事と言えば、私がまだ生きているということ。
そして紅い月の光が外から入ってきているということくらいだった。
暗いこの場所で外からの紅い月の光はかなり不気味であり、身の毛がよだつようだ。
「ここは…。」
あの時、引き摺られてきた場所なのか…?
それによく見ると目の前には、光ってこそいないが例の大きな赤い石が浮かんでいるではないか。
何故?
この石は私が壊したはずなのに?
「……。」
仕組みは分からないし想像にも及ばないが、この赤い石は今、起動していないようであの赤く、妖しく光っている様子はないしクルクルと回っている様子もない。
これは結局の所何なんだ、と考えかけたが、それよりもここから逃げる事が最優先事項である。
体を捻ったり、動かしてみたりするが紐で固く縛られているため動ける可動域が極端に少ない。
しかし諦める訳にはいかないのだ。
彼がきっと苦しんでいる。
守れなかった、と嘆いているかもしれない。
それだけは──
「……嫌だ。」
決意の灯った瞳が目の前の赤い石をひたと見る。
暗くて見えづらいが、血のような赤みをした石である。
これを壊してそして逃げきればきっと何もかもが終わると、ふと私はそう思った。
「__ヒー」
「ストップ。」
誰かが後ろから私の口を押さえる。
そしてその声はスノウにとって、よく聞き覚えのある声だった。
「(神父…!やはりこの人が黒幕だったのか…!!)」
「いけない子ですね?今…これを壊そうとしませんでしたか?」
バリバリと粘着テープのような音がしたと思ったら、私の口をそれで塞がれてしまった。
詠唱をさせない気か…!!
「折角スノウさんと仲良くなれたと思っていたんですが……これも神の思し召し…。仕方の無いことなのです。」
「(一体、何を…?)」
ゴソゴソと神父の手がスノウの服のポケットを探り、何かを取り出す。
そこには昨日破壊したばかりの赤い石の欠片があった。
「これ…、何か分かりますか?スノウさんが壊してしまった、これです。」
神父は私の前に立つと赤い石の欠片を目の前に持ってくる。
何か、なんて分かるはずもないので首を横に振ると神父はいつも通りの優しい笑顔で頷いた。
「悪魔の石……またの名を、“賢者の石”と言うんです。」
「(賢者の石…?!地球にいた時はかなり有名な代物だったが、この世界に来てからは夢物語だと思ってた…!)」
「この賢者の石は少々厄介な性質があるのですが……。折角なのでスノウさんにはお教えしましょう。賢者の石のその性質とは、若い…美しい女性の血や生気を定期的に浴びせないといけないんですよ。……困ったものですね?」
「(ま、さか…。私がこうやって縛られて動けなくされてるのは…!?)」
「そう…スノウさんのような美人な人でないとダメなんですよ。それに…貴女はこの賢者の石に選ばれた人間でもあります。……どうやってこの“石を壊せた”んですか?」
「!!」
私のマナで壊せた、なんて信じて貰えないだろうし、困ったことになった。
いやまぁ、元々口を塞がれて喋れないんだが…。
「スノウさんはどうやら特殊な力をお持ちのようですね?神の御業…とでもいうのでしょうか?つまり、スノウさんは選ばれた人間なんですよ。」
賢者の石の欠片を握り締め、自分のポケットへとそれを入れた神父は目の前にある自分より巨大な赤い石…、賢者の石の前に立つ。
「賢者の石は不老不死の効果を持つ。そして、魔の者を引き寄せる性質も持ち合わせています。この町を魔物に襲わせたのはこの賢者の石なのですよ。」
淡々と話し始める神父は賢者の石にそっと触れ、恍惚な表情を浮かべる。
「町の人が言ってませんでしたか?以前居たシスターと神父は赤い石の犠牲となった、と。」
「(確かに言っていた…。そしてこの神父はこの事を知っていた!…だとすれば、この神父は…)」
「私は、以前居たシスターを犠牲にして不老不死となった神父なのですよ?スノウさん。見た目はとても若くなってしまって町の人は私が誰かなんて分からなかった…。だから、私は新たな名前を名乗りました。」
寂しそうな顔で神父は賢者の石に触れつつ話し続ける。
まるで子供に絵本を聞かせているように。
「……分かりますか?誰も私を知らないんです…。寂しかった…。悲しかった…!でも、不老不死となり老化することもなくなった私は、生きる為に定期的に賢者の石へ血を捧げなくてはいけなくなりました…!…………それは、神が私に下さった試練だと私は思いました。神は私を試そうとしている。大事な者を殺すという大罪が出来るほどの器なのか、と試しているのです。」
「(何を…言ってる…?この人は……自分が何を言ってるのか分かってるのか…?)」
時に感情的に熱く、時に子供のように寂しそうに話し、そして神に仕える者の顔をする…、目の前のこの人は…“誰”だ?
「スノウさんは私にとって大事なシスターです。この教会にとっても、町人にとっても大事な、大事なシスターです。……そんな大事な人を私が殺めるという事を、神は望んでいる…!」
「!!」
「賢者の石の生贄として、貴女の血を……貴女の生気を……私に下さい───スノウさん?」
突如、腹部に衝撃が走る。
恐る恐る下を見れば、鈍い光を湛えたロザリオが私の腹部へ刺さっていた。
通常、ロザリオは神父やシスターの唯一の装飾品としてネックレスになっている。
だが、ただの飾りとは正反対で、これは護身用なのだ。
いざというとき用にロザリオの中には短剣が仕込まれている。
所謂仕込み刀というものなのだ。
それが腹部に刺さったということは…………そういう事である。
「ぁ…」
口から血の味がする。
喉奥から何かが込み上げてくる。
それを吐き出せば、なんて事ない。……血だ。
その瞬間、賢者の石が赤く、妖しく光り出す。
そして何時ぞや見たみたいにクルクルと回り始めて……そして、その石から黒い茨のような物が私に伸びてきて、私を簡単に絡めとる。
いつの間に紐が解かれていたのか、私はその茨に縛り上げられ、締め付けられる。
茨のトゲが刺さって痛いはずなのに、今はただ腹部の痛みで他の痛みなんて感じていなかった。
「(何だろう……。痛みが遠のいて……いく……。それ、に……何か……力が…………抜けて、く……。)」
「スノウさん。綺麗ですよ?」
茨に絡め取られ、縛り上げられている私を見て神父が恍惚な表情を浮かべ見ていた。
逃げたくて仕方ないのに、動けないし、力が出ない。
それに口を塞がれていて詠唱も唱えられない。
万事休すか、と諦めて私は目を閉じた。
「スノウっ!!!!!」
あぁ、私の大好きな声の幻聴まで……。
彼の声が最期に聴けて…………
…………よかった。