カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
Name change.
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※街の指定はありませんのでお好きな街を思い浮かべて頂けたら、と思います。
※現状の小説の更新状況に沿ってお話を書きましたので現在ver.31.5の時の小説です。
どうぞお楽しみ下さい!
事の発端は、そう……街で観光している時の事だった。
珍しく男子と女子で別れて観光を楽しんでいた私達。
当然私は女子側に招待され、リアラやナナリーと一緒に街の観光を楽しんでいた。
「ねぇ!スノウは考古学者さんでしょ?どんな場所に行ったことあるの?」
「それ、アタシも気になってたんだ!聞かせておくれよ!」
「そうですね…、例えば和服という衣装を着こなす人達が居て…独自の文化を築き上げている街だとか。コカトリスやバジリスク…後は、キラーマンティスとか石化するモンスターに会ったり、とか。沢山の場所を訪れました。」
「え、大丈夫だったの?!」
「考古学者ってのはそんな危ない場所にも行くのかい?もう少し自分を労わってやりなよ?」
街を歩きながら私達がそんな話をしている時だ。
正面方向より慌てた様な男性が辺りをキョロキョロ見渡していたかと思うと、私達を見つけ目を丸くし、こちらに駆け寄ってきた。
前世でのお役所仕事が板に付いたか、それを見て私が警戒するとリアラとナナリーが不思議そうに私を見た。
そしてその男性が息を切らし、息も絶え絶えな状態で私達に話し掛けてきた事で漸く2人も納得したようだった。
「そ、そこの…!道行く、女性、の方々…!」
「「??」」
前世の様に“男装のモネ”としての振る舞いだったら彼女達を庇うように前に出て、聞き出していたものを…、今回の私の姿は“考古学者のスノウ”としての格好なのだ。あまり目立ちたくはない。
その為借りてきた猫のように大人しくしていると、男性は息も整ってきたのか大声で歓喜の声を上げる。
そしてリアラの両肩に手を置いたのを見て、やはり黙って見ていられなかった。
「誰ですか?」
無論、“考古学者のスノウ”としての高めの声で男性を牽制する。
リアラの肩に置かれている手を払い、前に出ればリアラがハラハラとした顔でこちらを見ていた。
ナナリーも流石に看過出来なかったのか、私の横に並び講義の声を上げる。
「いきなり女の子の肩を掴むなんて、不躾にも程があるんじゃないかい?スノウの言う通り、先に名乗るとか色々あるだろ?」
「失礼しました…!私、こういうものです。」
そうやってナナリーに渡された紙を見ると、どうもそれは名刺のようだ(この世界に名刺という文化があったのは驚きだが…)
形式は日本のものと酷似しており、職業や名前、会社の名前などがお洒落に書かれていた。
しかしその名刺の職業を書いてあるはずだろう場所には、見たことも聞いたことも無い職業が書かれていた。
「……“アンシャンテ”?」
「聞いたことない名前だねぇ。」
「アンシャンテとは、結婚のお手伝い全般を扱う職業の事です。あまり浸透はしていませんので皆さんが知らないのも無理はないでしょう。」
なるほど…。
前前世でいう所謂、ブライダル系の職業なのだろう。
その後アンシャンテについて男性が詳しく教えてくれたことで、その情報は確かなのだと確信に変わる。
だがそれでリアラの肩を掴んでいたことは、また話が違う。
「んで?そのアンシャンテの人がこの子に何の用だい?」
「いえ!このお方だけではありません!あなた方に3人にお声をかけさせてもらったのです!」
「とりあえず、話を聞いてみない?困ってるようだし…」
心優しいリアラが戸惑いながらもそう話すので私達は口を噤んで話を聞く体勢になる。
それにお礼を言い男性が話し始める。
必死そうな男性が頼んできたのは、そのアンシャンテの手伝いをして欲しいとの事だった。
まぁ、何となく分かっていた事だが……何故だか嫌な予感がする。そう、 何故だか分からないが (ここが大事だ:スノウ談)嫌な予感がするのだ。
そしてこの感じ……。前前世で星の数程見てきた夢小説でも見た事のある展開だ。
しかし、困っている人を放っておけない性分の二人がこの男性の依頼に納得した事で強制的に手伝わされる事になってしまい、どうも逃げられそうにない。
それに女性二人を置いて逃げるなど私の性格上出来る筈もない事だったので、私はこっそりと溜息を吐いて天を仰いだのだった。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○
アンシャンテの男性に連れてこられた場所を見て。私は思わず顔に手を当て天を仰いだ。
まずい。本当に嫌な予感的中だ。
そこには大量のウエディングドレスなるものが飾られており、正直私には次の展開が読めていた。
もしかしてアンシャンテの宣伝がしたいが為に、これを着せられ歩かせられたり、写真を取られたりするのではないだろうか?
正直に言おう。私は女性ものの衣服をあまり着ない。
前前世でも男性ものの服を好んで着ていたし、今は渋々前世とは反対に女性らしさを演出する為にこうして偽装している訳で…。
だからこういったものは大概見て、愛でるタイプなのだ。
ちなみに語弊があるといけないので言っておくと、女性ものを嫌っているという訳では無い。
だが先程も言った通り“見て、愛でるタイプ”なのだ。
ここにジューダスが居たならカイル達と共謀して彼にウエディングドレスを喜んで着せていただろう。
「じゃあ3人とも、これに着替えて貰えますか?」
リアラとナナリーがウエディングドレスを受け取る中、私は首を横に振り受け取らなかった。
それに男性が困った顔で私を見てくる。
「駄目、でしょうか?」
「すみません。こういったものは苦手でして…。その代わり、あの二人に存分に着させてあげてください。中々こういう機会はないと思うので、楽しんでもらいたいんです。」
早速着替えに行った2人を見ながらそう話すが、向こうも諦めが悪い。
2人もいれば充分だろうに、しつこく私に着ろと迫ってくる。
既に逃げ腰の私は、引き攣った笑顔で断り続けた。
「……こうなったら…!」
男性が指をパチンと鳴らすと何処からともなく沢山のメイドが出て来て、私を囲んだ。
「っ、」
相手が女性な分、手荒な真似が出来ない私はジリジリと詰め寄るメイド達に恐怖を抱いていた。
そのメイドの数や如何に……。アンシャンテを宣伝したいと言っていた男性がかなり本気だと分かるほどの多さだ。
そして私は笑顔のメイド達の手により、あれよあれよという間にウエディングドレスへと着替えさせられ、男性の前へと押し出される。
すぐに着替え直し逃げようとしているのが分かっているらしいメイド達は、私の両脇に立つとニッコリと笑顔でこちらに圧をかけてくる。
“逃げるなよ?”
彼女達の笑顔の奥にはそういった意味も含まれている気がして「うっ、」と唸る。
男性が私を視認するとぱぁっと顔を明るくし、キラキラした目でこちらを見た。
「白い肌……、雪色の髪……、それにウエディングドレスの白さ……。全てが儚い……!!そこにアクセントで海色の瞳…!!文句の付けようがない!!!私の見立て通りだ!!」
鼻息荒く興奮している男性が私の肩を掴む。
うわ、鳥肌が立ってきた…!
男性が私に鮮やかな色のブーケを渡してくるので、恐る恐るそれを受け取った。
しかしそれを見て何が気に食わないのか「うーん」と悩み出す男性。
私は困った顔でメイド達を見たが彼女達は笑顔のまま立ち尽くすだけで、全く助ける気も、動く気すらない。いっそ清々しいものを感じる。
「うーん、違うなぁ。やっぱりこっちかな?」
男性はブーケを取ると、違うブーケを手にし私の手に収める。
そのブーケは白を基調としたブーケだった。
ともかく何でもいい。早く終わらせてくれ、と私は祈り続けた。
それにこんな所、彼に見られでもしたら絶対にからかわれるに決まっている。
そんな私の心の声を神が聞いていたのか、これまた良いタイミングで入ってくる人の姿があった。
「っ!」
そう、夢小説ではお馴染みのタイミング。そして私が心の中で祈ってしまったことで立ってしまったらしいフラグ。
入ってきた人を見ればすぐにそれが彼だと分かってしまい、私は見られないように下を向いた。
何故ここに君が居るんだ……!!
そんな私の心の声虚しく、靴音がこちらに向かってくるのが分かる。
ある程度近付いたと思ったらその靴音が止み、代わりにハッと息を呑む音がした。
「……」
「……」
気恥しい気持ちを隠したくて、ブーケを口元まで持って行って気持ち程度顔を隠してみる。
そして彼の様子を恐る恐る窺うように私は視線を上げた───
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○
__一方、その頃のジューダス
何故か男と女に別れ、街観光(カイル達によって強制的に、だ:ジューダス談)をしていると急に僕たちの周りを囲うように佇むメイド達が居た。
僕はそれを見て警戒したが、他のふたりはポカンとそれを見て唖然としていた。
「え?なになに?」
「こりゃあ、べっぴんさんばかりだが……、囲まれてるってのは何か俺達がやったか?」
「何を馬鹿なことを言っている!警戒を怠るな!」
『え?え?どんな状況ですか、これ!』
「皆様はリアラ様とナナリー様、スノウ様の仲間の方でしょうか?」
メイドの1人がそう口にするので全員がハッと息を呑む。
もしかして彼女達はこのメイド達に何かされたのか?
と全員が固唾を飲む中、カイルが静かに頷く。
「アンシャンテ社長の命により、皆様をお連れします。どうぞご理解の程よろしくお願いします。」
淡々と言われるそれに納得できるはずもなく、眉間に皺を寄せる。
淡々と仕事をこなす仕事人のようにメイド達はあの手この手で僕達をとある建物へと連れていく。
そして中に入らせられるとリアラとナナリーが白いドレスを見に纏い、嬉しそうに話し合っている姿を見た。白いドレスというと語弊があるかもしれない。
あれは結婚する時に女性が着るはずのウエディングドレスだ。それが何故今彼女達が着ているのか。
カイルとロニが目を瞬かせそれに近付いていくのをその場で見ているとシャルが不思議そうな声を出す。
『あれ?スノウがいません。どこに行ったんでしょう?』
「さあな。だが彼奴があれを着るとは思えんが……」
博愛主義者を名乗り、誰だろうと分け隔てなく女性のように扱う。それがモネであり、スノウという奴だ。
良く言えばかっこいい、悪く言えばキザったらしい奴だ。この僕でさえ時折女性扱いされる。
そんなスノウが今更好んで女性ものを着るとは思えない。
カイルやロニの様子から彼女達が連れ攫われた訳でもなく事件性はなさそうだ、と見守っているとメイドの1人が僕の傍により辞儀をする。
「スノウ様がお待ちです。」
そう言うと奥の部屋を指し、僕へ行けと促す。
ここに居ない彼女が心配じゃない訳でもなかったので、大人しくその扉を潜り数歩歩いた時だった。
__伏し目がちに伏せられた海色の瞳、そして全体的に白で纏められ儚さが余計に際立つその容姿。
ハッと息を呑む程綺麗な彼女の姿に僕は無意識に足を止めていた。
彼女は手に持っていた白いブーケを口元にやり、こちらを恐々と窺うようにゆっくりと瞳がこちらを向く。その瞳は何処と無く潤んでいるようだった。
僕は彼女の正面に立つとその潤んだ瞳で困った顔をして見上げてくるものだから堪ったものじゃない。
女性らしさが増した彼女のそれにぐっと堪え、彼女の髪にそっと触れる。
触っていないと儚く消えてしまいそうで、そこに居るか不安になる。
「どうして……?」
近くにメイドやら見知らぬ男がいるからか、高めの声でそう零す彼女。
その疑問はどの疑問かは分からないが、僕はフッと笑い、彼女の頭に手を置いた。
「似合っている」
素直に言葉にすればその瞳を大きく揺らし、目を丸くする。
そして視線を横へと逸らせ、赤くなった顔をブーケで隠そうとしたが僕が腕を掴んだ事でそれを阻止した。
鼻のところまで隠された顔をじっと見ていると、居心地が悪くなったのか僅かに後退しようとするので少し意地悪をしたくなった。
何時もいつも彼女には仕掛けられ、そして笑われているのでここで仕返ししてやる。
彼女がどんな顔をするのか楽しみで、ほくそ笑んでしまいそうになるのを今だけは堪える。
……いつもの仕返しだ、馬鹿。
そっと彼女の腰に手を回し、引き寄せれば彼女はそれはそれは顔を赤くする。
それに満足しそうになったが、まだこんなんじゃ物足りない。
今回こそはあっと言わせるまでやめてやらない。……絶対に。
彼女の髪を掬い取り、口付けをすればポトリとブーケを落とし唖然とした。
暫く固まったままの彼女に遂に耐えきれなくなった僕は可笑しくて声に出して笑った。
「ふっ、ははは…!!」
「……はっ!」
我に返った彼女は僕を押し遣るとドレスの裾を持ち上げ走り出した。
メイドの1人の肩を掴み、必死そうに服を強請る彼女に僕はまた声に出して笑った。
あんな彼女、見たことがない!
しかし静かに首を横に振るメイドに彼女が愕然とその場に座り込んだ所で僕は彼女に近付く。
「くっくっく…!良いじゃないか。似合っているぞ?」
涙目に真っ赤な顔で、こちらを恨めしそうに見る彼女。
それに対して僕は先程から勝ったとばかりにほくそ笑んでいる。いつもの仕返しが出来て、心の中では非常に満足していたからだ。
しかし彼女は一度目を見張ると、先程の赤く可愛らしい顔から一変してニヤリとこちらを見て笑った。
それに嫌な予感がした僕は知らず知らず一歩後退していた。
ゆっくりと立ち上がった彼女は満面の笑みでこちらを見るとどこへ行くのか歩き出し、先程までいた男の耳元で何かを囁く。
……その顔は、それはそれは悪い顔をしていた。
僕は逃げるようにその場から離れようとした。その瞬間、男が指をパチンと鳴らした。
その指の音と同時に僕はメイド達にあっという間に囲まれていた。
な、なんだ…?!
「ふふ…!私も御粧ししたんだからレディも御粧ししなくては…ね?」
「なっ…!?」
取り繕うことをやめたのか、モネの時のような話し方で僕へ微笑みかける。
周りにいるメイド達を見て僕は逃げ道を探すが、統率が取れた軍人の様に何処にも抜け穴なんかありはしなかった。
メイドを押しのけてでも逃げようとしたが何人ものメイドが押し寄せて、しかも女の癖にどんな訓練をしたらそんな筋肉がつくのか、掴まれた腕が全く抜けやしない。
「や、やめろ!!」
『あー…。やっぱりこうなるんですね…。坊ちゃん諦めた方がいいですよ…。スノウには敵いませんって。』
シャルの諦めた様な声がしたが、僕は逃げるのに必死だった。
しかしそんな僕の健闘も虚しく、あれよあれよという間に僕はウエディングドレスを着させられていた。
肩を掴まれ身動きが取れない僕に化粧も施し(たかがメイドなのに何故か動けなかった)、ウイッグを着け髪を纏められるとヘッドドレスとウエディングベールを着けられてしまう。
そして全てが完了したかと思えば、向こうからスノウが微笑みながらやってくる。
その手には白や青で揃えられたブーケが握られていた。
僕の手を取ると手背へと口付けを落とし、唖然としている僕にくすりと笑うと彼女はブーケを握らせた。
「とても綺麗だよ、レディ。」
「っ!」
自分もウエディングドレスを着させられているのに、そうやって優しい笑顔でそんなキザったらしい言葉を放つのだ。
顔に熱が集まってくるのが嫌でも分かった。
悪態をついた僕にくすくすと彼女が笑う。
そして首を傾げてこう言った。
__少しは私の気持ちが分かったかい?
それに僕はそっぽを向いた。
お前は女だから良いだろうが。僕は男だぞ。
そんな言葉は口に出せず、不貞腐れているとカイルやロニ、リアラ達までこちらに向かってくるのが見えて僕は慌てて顔を背けた。
お前ら、何故今になって来るんだ…!
近くまで来た奴らが僕を見て目を丸くする。
しかし奴らの目は節穴なのか、僕を僕と認識していないようだった。
「あれ?この人だれ?」
「お嬢さん…!こんな可憐な姿、他には見せられない……!私と一緒にどこか遠くへ行きませんか?」
阿呆、そんなことするか!!
反射的にそう言いそうになるのを慌てて口を押え止める。
悪態をつきたいのに声を出せば、すぐに僕だとバレてしまう。
そんな僕の心の声を口に出せるはずもなく、僕はブーケで顔を隠した。
「スノウ!とっても似合っているわ!」
「ありがとうございます。リアラやナナリーの方が似合っていますよ?」
「あんた、肌が白いから全部白く見えるね…。唯一色があるのが瞳と唇っていうのがポイントだね!」
「うん!とっても綺麗だよ!スノウ!」
カイルもスノウの衣装を見て褒めちぎる。
ブーケの隙間からもう一度ちらりと彼女のウエディングドレス姿を見れば、その白さから本当に儚げな印象を受ける。
褒められているのに困った顔で笑う彼女を見れば余計にそう見えてしまい、ムッとする。
「さて、宣伝の為ですから皆さんこちらにどうぞ!」
男が指を指す方向には、紙を持ってその近くには絵の具やら鉛筆やらを置いている別の男の姿。
……嫌な予感がする。
もしかして今から絵のモデルになれ、ということか?
ジリジリと後ろに下がる僕を目敏く見つけたスノウが僕の手を取ると、男の言う場所まで僕を引っ張る。
慌ててその手を離そうとしたがそれより早く彼女が行動へと移す。
僕の指へと自身のそれを絡めるとグッと顔と体を僕へ近付け、ブーケを持つ。
顔の近くまでそのブーケを持ってくれば、他から見ると僕と彼女がブーケを口元まで持っていきポーズを取ってるようにでも見えているのだろう。
絵師へと視線を向ける彼女は僕の気も知らず、じっとそのままの格好でいる。
ただ、少しだけ彼女が絡めている指に僅かに力を入れそして__
「!!」
そう、幸せそうに笑ったのだ。
向こうにはブーケで見えていないのかも知れないが僕には少しだけ見えた。
それを見た僕は少しは手伝ってやらなくもない、と絵師へと視線を向けた。
するとその絵師はあろう事か目に見えぬ早さで筆を動かし、ものの1分足らずで絵を完成させたのだ。
それに驚く素振りを見せない彼女は絡めた指はそのままでその絵師の元へと近寄る。
必然的に彼女に連れられた僕はその絵師の書いた絵を渋々覗き込む。
しかしその絵を見て僕は目を見張ることになる。
そこにはよく出来た絵が完成していた。
ブーケで口元は隠されていたにも関わらず、彼女のあの幸せそうな笑顔がこの絵から伝わってきたからだ。
ほう、と感嘆していると嬉しそうにはにかむ彼女が横目で見えた。
次の絵を描く準備を始める絵師から絵を借り、見せてもらっている彼女は暫くその絵を眺めていた。
「たまになら……ね。」
本当に小さな声でそう呟いたのが聞こえた。
僕が彼女を見ていると漸く気が付いたのか、彼女がこちらを見て笑った。
「未来で、もし君の結婚式があるなら地獄の底からでも這って見に行くよ。だからちゃんと好きな人が出来たら教えてくれないか?」
「……」
全く、人の気も知らないで。
僕は逆にお前が誰にその姿を見せるつもりなのか気が気でないというのに。
お前は平気でそう言うのだから呆れてモノが言えない。
そんな僕の表情を見て目を瞬かせた彼女は、何故か少しだけ寂しそうな顔をしていた。
__2022ジューンブライド記念作品
〖L'essentiel est invisible pour les yeux.=本当に大切なものは目に見えないんだ〗
__「(君の本命は……マリアンだというのに。それが叶わなかったこと、後悔しているはずなのに心のどこかで安心している自分がいるんだ。馬鹿だな、と罵ってくれたら……どんなに楽か。)」
__「(お前は誰にそのドレスを見せる?それは僕だと……自惚れてもいいのか…?あの時、顔を赤くしたお前を見て僕は……)」
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