それは川のせせらぎの様な…
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僕の父であり、オベロン社総帥でもあるヒューゴがこの国で一目置いている人物がいる。
それはセインガルド王国第二研究所の局長を務めるたかが齢19歳の少女だ。
名を、【セシリア・マクスウェル】と言う。
齢19にして研究所の局長を務め、その豊富で博識な知識は大人のそれより遥かに上回るほどの知識量。
この王国の研究所は全部で五つ存在しており、その成績から第二研究所を任せられているらしい。
僕は昔から研究者と言う者が苦手な部類で、彼奴らとは反りが合わないとも思っている。彼奴らと何かがあった訳じゃないが、苦手なものは苦手だ。
……しかし、だ。
国王からの命令で第二研究所の手伝いをする事になった僕は、渋々第二研究所があるクレスタ近くへと向かっていた。
かなり広大な施設らしく、国が保有する研究所の中でも一、二を争うくらいには広い面積を保有している第二研究所。
そしてそこは、黒い噂が絶えない所でもある。
それもあって僕は本日、何度目か分からない嘆息が後を絶たない。
何故僕が研究者風情の者と行動を共にしなければならない?
「……あぁ、分かってる。」
腰にある剣が心配そうに話し掛けてくるので適当に返事を返しておく。
この剣はソーディアンと言って、人格が照射された剣である。
その為喋る剣でもあるのでこうして話しかけてくるのだが…、問題はこいつらソーディアンは自身のマスターを選び、その資格を持つ者にしか声が聞こえないという厄介な性質を持っている。
傍から見たら独り言を喋っていると思われて仕方ないので外にいる時はあまり話しかけないようにしているのだが、こいつはお喋りがどうも好きで、お得意らしい。
事ある毎に話しかけて来て、こちらは困っているのだ。
因みに先程何を心配されたかと言うと、この黒い噂の絶えない第二研究所で実験材料にされないように、と釘を刺してきているのだ。
……余計なお世話だ。
あの研究者共のヒョロヒョロのモヤシのような奴らに僕が後れを取るなど有り得はしない。
そう、天変地異が起きても、だ。
第二研究所の前のインターホンを押し、中へ入れろ、と面倒だが一応アポを取ると大層な門が音を立て開いていく。
……何でも研究所内の事は極秘にしろと国王からの命令だ。
それ程危険な物があってもおかしくないし、極秘な物も点在しているのだろう。
「……」
一度深呼吸を入れ中へと警戒しながら入っていくと、白衣を着た集団がこちらを向き横に一列並んでいるではないか。
手を腰にある剣へと添え、数歩前に出る。
「……リオン・マグナスだ。国王より、ここの手伝いを任された客員剣士でもある。案内しろ」
「お待ちしておりました!!貴方がかの有名な客員剣士様ですね?お目にかかれて光栄__」
「聞こえなかったか?僕は案内しろと言ったんだ。何度も言わせるな。」
「おー!失礼しました!噂通りのお方で安心致しました!では、中へどうぞ!」
どんな噂が立っているかは自分で分かっているつもりだ。どうせ兵士たちが碌なことを言ってないに違いない。
だが、それにしては歓迎ムードのこの雰囲気は僕からすると些か不気味である。
腰にある剣【シャルティエ】も同じ事を言っている。
警戒を怠らずにしなければ取って食われてしまうかもしれないな、と嘲笑の鼻を鳴らし、先導している研究者の男の後について行く。
研究所の中は白を基調とした造りで、清潔さを感じさせる。更に中は常に綺麗にしてあるようで埃…いや、塵一つない感じが何処か不気味さを増加させている。
それにこの独特な臭い…。
一体何の臭いだ…?
「ここは何を作っている?…この臭い、僕は苦手だ。」
「はははっ!外部の人間は必ずそう言うんですよ!でもこんなの、すぐに慣れますよ?」
「……慣れたくないものだがな…」
形容し難い臭いで、本当に言葉にならないとはこの事だろうか。
医務室の様な消毒液独特な臭いがしたかと思えば、シンナーの様な妙な臭いがし、そうだと思えば急に臭いが消え別の臭いがしてくる。
とめどない悪臭に鼻を押え、その悪臭から耐える事に専念しなければならなくなった僕は必然的に眉間に皺を寄せていた。
…早く外に出させてくれ。
「局長が客員剣士様をお待ちですよ?あ、ここの局長知ってます?齢19にして研究所の局長になった_」
「それくらい知っている。馬鹿にするな。」
「はははっ!それは失礼しました!いやぁ、同じ研究者として鼻が高いですよ!彼女は国の宝だ!彼女の今までの業績お教えしましょうか?」
「いらん。それより案内に集中しろ。先程から同じ廊下しか通ってないではないか。」
「あー…、やっぱりそう思います?僕らには違うように見えるけど、外部の人間はそう言うんですよ!」
先程から楽しそうに話しかけて来てくるこいつを何とか出来ないものかと頭を悩ませていたが、その男が足を止め、一つの扉の前で止まったので僕も足を止めざるを得なくなる。
ここにその局長とやらが居るのか。早く会って帰ってしまいたい。
「局長〜?」
ノックもせずに無遠慮に開け放った男を一瞬見てから中を目を凝らして見るが、廊下に比べて真っ暗で目が慣れるまで時間がかかりそうだ。
しかし男はそれに慣れているのかズンズンと中へ入っていく。
「局長ってば〜!」
僕も意を決して中へと入り込む。
しかし中に入ると意外に明るい事が分かる。
無論、廊下ほどの照明の明かりはないが、この部屋はこの部屋である意味明るい。
真っ暗にされている部屋、そしてこの広大な部屋の壁には沢山のモニターらしき物や、操作盤らしきものが壁伝いにあり、そのモニターの光がこの闇の中でやけに眩しく感じさせたのだ。
こんな広い場所にその局長とやらが居るのか、と辺りを見渡していると靴音が部屋中に反響するように響き、その方向へと視線をやった。
そして現れた人物は闇色の髪と、反対色の清潔な白の白衣を靡かせ現れた。
何にも興味がなさそうな双眸、しかしその瞳の色は首元の花と同じ深い、惹き込まれるような青色。
周りのモニターの光で瞳が光っている様に見えるからかその青い瞳はかなり僕に印象を与えた。
そしてその青が映えるかの様な不健康そうな肌色。
それだけで僕のそいつへの第一印象は『とても弱々しい奴』という印象だ。
「お待ちしていました、客員剣士様。」
「手短に聞こう。仕事内容は?」
「国王から聞いていませんか?我々第二研究所の手伝いをして頂きます。」
「……手伝いと言っても幅広い。僕は何をすればいい?」
「主に研究所の護衛です。」
「研究所の護衛……?」
また大きく出たものだ。
こんな大きな研究所を一人で警護しろと…?
それにこんな大きな施設ならば、警備用の仕掛けが幾らでもありそうな物なのに何故それをしないのか甚だ疑問である。
僕の腰にあるシャルティエのコアクリスタルがぼんやりと光り出す。どうやらこいつと文句は同じらしい。
「警備用の仕掛けがあるだろう?」
「間に合っていないので。」
「……こんな大きな施設を、一人でやれということか?」
「客員剣士様には緊急サイレンが鳴ってから出動して頂きます。」
「大丈夫です!この施設全体にサイレンが鳴るからすぐ分かると思いますよ?」
「……(サイレンが鳴るだけか…?)」
呆れた様なシャルの声に激しく同意したいのをグッと堪え、取り敢えず頷いておく。
理不尽な依頼はいつもの事だ。
それが大規模になっただけという事。
「……分かった。施設内の把握をしたい。案内を頼めるか?それか見取り図でもあればいい。」
「【カイト】、案内を。」
「分かりました!局長!」
先程ここまで案内した男が張り切って返事をしたと思ったらこちらに目配せをし、返事も聞かず部屋の外へと向かって行ったのでその後を着いていくことにした。
どうやら、この男が【カイト】という名前らしい。
「あ、自己紹介が遅れましたね!ボクはカイト、と言います。この第二研究所の副局長をしていますので以後分からない事があればよろしくお願いしますね!」
「…局長の名前は【セシリア・マクスウェル】で合ってるのか?」
「その通りです!やっぱ局長は外部でも有名人なんですか?」
ニコニコと人当たり良さそうな顔を浮かべ、そう話し掛けてくるカイト。
話を続けるつもりは無かったが、一応此奴も護衛対象でもある為、ある程度の会話は必要かと思われた。
「いや、一部の人間だけだ。王国勤めの奴らでも上の方しか彼女の名前や存在は知らない。」
「そっかー。なるほどねぇ?隠したがるねー、上層部の人も!」
何だか違和感のある会話だ。
しかし、適当に相槌を打つことに専念した僕はその違和感を放っておく事にした。
どうせ僕には関係の無い話だ。
「あ、ここが食堂です。反対側は調理室で、専属の調理師が居るんです。食材は外部の人間が定期的に持ってくるもので賄っています。」
「……」
「こちらは研究者達の憩いの場ですね。あ!こっちは研究者達の泊まる所でして……」
「…待て。お前らはここで寝泊まりしているのか?」
「??何かおかしいですか?」
「いや、何でもない…」
やはり研究者という者は気狂いが多い。こんな所でずっと寝泊まりするなど僕なら気が狂ってしまう。
研究に熱心なのはいい事だが、私情と仕事は分けるべきだろうと僕は思う。
「……あ、ここは隔離室です!」
「隔離室?何のためのだ?」
「まぁ、何かを隔離するための物ですよ!」
「…話にならないな。」
「次行きますよー!ここはセキュリティルームです!この研究所内の人間でないと開かない仕組みで、かなり厳重にセキュリティロックされてますので、リオンさんも気を付けてくださいね!」
「……」
何を気をつければいいのか分からないが、機密事項を盗もうという訳ではないので別に気にしなくてもいいだろう。それよりも次だ。
早くしないと日が暮れてしまいそうだ。
「ここは実験室A~Jまであります!なので全部で10個ですね!」
「この大きな研究所にしては少ない数だな。」
「他の研究所に比べたら多い方なんですよ、これでも。まぁ、ここの実験室は小規模の物で、大規模の実験室はK~Tまでの10個ですから計20個という事になりますね!」
「……」
小規模から大規模まであって、20個なら確かに多いか、と考え直しているととある扉の前で男が止まる。
何だ、と訝しげに見遣るがその視線に気付くことなくカイトは中の人に声を掛ける。
「局長ー!案内終わりました!」
「局長?」
脳内で出来上がっている地図が途端に真っ白になる。僕の脳内地図ではここは局長室では無かったはずだ。
「あぁ、ご苦労様。」
しかしその疑念を嘲笑うかの様に局長と呼ばれる女が中から出て来る。
その瞳は変わらず何も興味がなさそうで、だが憂いを帯びている瞳だ。
ほんの少し眉間に皺が寄っているのが、どんな感情を表しているのやら…。
彼女がこちらを青い瞳で見つめる。
その瞳は何かを見通すかのような瞳で、思わずこちらも眉間に皺が寄ってしまう。
「局長、リオンさんがカッコイイのは分かりましたから早く次の行動に移しましょう!」
「カイト、後で覚えていろ。」
「ははっ、楽しみにしてますよ!」
ニコニコと嬉しそうにそう返す男は、何もかも分かっているかのように彼女を見ては笑い返していた。
「……今から外に出る。カイト、【アザレア】を呼んでこい。」
「はいはーい!任せて下さい!」
目を細めニヤリと笑ったカイトが迷いなく歩き出した。
その間、局長は嫌そうな顔でカイトの後ろ姿を見ており、余計にその眉間の皺が深く刻まれていた。
「…すまないな。彼奴は煩かったろう?」
「こいつも似たようなもんだから問題は無い。」
自分で言った言葉に驚いていた。
彼女を庇護するような言葉を言うつもりは無かったが故に、驚きを隠せず動揺してしまう。
すると、腰にある相棒が怒りを表すかの様に激しくコアクリスタルを点滅させた。
……流石に今の流れで分かったか。
「ピエール・ド・シャルティエか…。なるほど、彼の性格は穏やかだと聞いていたがそうでも無いようだ。」
僕の腰の剣を見てすぐに納得した様に話す彼女は、少しだけ口元に弧を描いていた。
しかしすぐに元の顔へと戻り、勿体無いと思ってしまった自分が居た。
僕は何を残念がっている?
そんな感情、僕には必要ないのに。
「君には今から私の護衛に回ってもらう。近くの川の水質調査へ出掛けなくてはならなくてね。その間の護衛を頼みたい。」
「ふん…、そういう事なら得意だ。」
「なら君に任せよう。」
言い終わると同時に彼女の視線が僕から、その後ろへと向けられる。
すると甲高い女の声が背後から聞こえて来るので咄嗟に振り返り、身を横に滑らせた。
「局長ーーー!!!!」
その女は彼女へと思いっきり抱き着き、彼女の豊満な胸に自身の顔を押し付け堪能している。
その光景に気まずくて視線を逸らせると、別の所からカイトと呼ばれる男が戻ってくるのが見えそちらに体を向ける。
「局長、呼んできましたよ!」
「ご苦労様、カイト。今から外に出る。アザレア、カイト、留守を頼むぞ。」
「「了解!!」」
アザレアと呼ばれた女はいやに彼女の首元のネクタイリボンを気にしており、曲がっているリボンを直したり、リボン中央に飾られている彼女の瞳と同じ色の青い薔薇を直したりと忙しない。
「…はい!局長!これで大丈夫です!」
「いつもすまないな。アザレア」
「局長の為なら火の中、水の中でもー!!」
頬に手を当て嬉しそうにクネクネと身体をくねらせる女に冷たい視線を送ると、流石に気づいたのかこちらを向き、顔を歪ませた。
そしてアザレアは彼女の腕を取り、無遠慮にこちらを指さした。
「局長、あいつ誰?」
「聞いていなかったのか?今日こちらに手伝いに来た客員剣士様だ。ちゃんと挨拶をしなさい、アザレア」
「…はーい。アザレアです、ヨロシクオネガイシマス。」
「宜しくするつもりはない、安心しろ。」
「ふんっ!何よ!こっちが下手に出てりゃ良い気になって!!」
「アザレア」
咎める様に少しだけ口調を変えた彼女に困った顔をしながら見つめるアザレア。
それに僕は無意識の内に鼻を鳴らしていた。
「だって!!」
「すまない、客員剣士様。アザレアはこう見えて少し子供っぽい所がある。気にしないでやってくれ。」
彼女は19にしては大人びている。
そう感じた瞬間だった。
「……ふん」
「アザレア、今から頼めるか?」
「はい!勿論です!」
先程の困った顔はどこへやら、一瞬で嬉しそうに顔を綻ばせたアザレアは彼女の腕を掴むと、一目散に彼女を連れ去って行った。
それを唖然と見ているとカイトがそれを見て笑い出した。
「大丈夫ですよ!もう少ししたら戻ってきますって!」
「……出掛けるなら準備くらいしておけ。」
「あれでも局長はお忙しい方なんですよ。」
少しだけ遠い目をしたカイトを見て視線を逸らせる。
護衛を任せておきながら待たせるなんていい度胸じゃないか、という心の声をシャルだけは分かってくれたようにコアクリスタルを光らせていたのだった。
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初めまして。
管理人・エアと申します。
別のサイトも運営していますので会っている方はお久しぶりです。
こちらでもリオンの小説を扱う事になりました。
どうぞ、よろしくお願いいたします
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