短編
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※いろいろご都合主義。
※クラスメイトとか先生とかモブも出てきます。
「二郎、コケんじゃねーぞ!」
「うっせぇ、黙って見てろ」
今日は体育祭。
体を動かすのは好きだし、けっこう楽しみにしてた。
この選抜リレーで、あいつにかっこいいとこ見せて……。
って、あいつがいねぇ!?
「二郎!」
バトンがアンカーである俺に回ってきた。
今の順位は2位。
前の奴を抜ければ……!
「お前、マジでやべぇな!」
「だから見とけっつったろ!」
正直ちょっとキツかったけど、前の奴をなんとか抜いて、俺達のクラスは優勝した。
なんか香水くさくて派手な女子たちに、かっこよかっただの何だのと話しかけられたけど、そういうことを言われたいのはお前らじゃなくて……
「いってぇ!」
女子たちにしつこく話しかけられてうんざりしていたところに、クラスメイトの叫び声が耳に入った。
逃げるようにそっちに駆けつけると、派手にコケたらしく大きな傷を作って座り込んでるダチがいた。
「俺出番終わったし、保健室連れてくわ」
「おう、悪いけど頼む」
よし、これで完全に逃げられる。
.
「失礼しまーす」
保健室のドアを開けるとそこには。
「あれ、山田くんと田中くん」
「御厨、こんなとこにいたのかよ」
どこ見てもいねぇと思ったら、保健室かよ……
どおりで見つけられねえはずだ。
「ごめんね、熱中症の人がいるみたいで、先生はグラウンド行っちゃってるの。私は保健委員の用事で寄ったんだけど、しばらくいてって言われて……擦り傷の手当くらいだったらできるけど……」
……ん?田中コイツ、なんか嬉しそうじゃね?
もしかしてコイツも御厨のこと好きなのか?
クソッ、俺も御厨に手当されてぇ……!
意外なところにいたライバルのことを睨みつけていると、ふいに保健室のドアが開いた。
「御厨さんごめんね、もう戻っていいよ」
保健の先生がグラウンドから戻ってきた。
田中の顔が一気に残念そうな顔に変わる。
ハッ、ざまぁみろ。
「御厨、グラウンド戻ろうぜ」
「あ、うん。そうだね」
……ってか俺、軽率に言っちまったけど、二人きりになるのって初めてじゃね!?
やべぇ、意識し始めたら何も浮かばなくなってきちまった……
俺と御厨の足音だけが響く廊下。
このまま一言も話さず戻るのはもったいなさすぎる……!
「あ、そういえばさ」
「ど、どうした?」
先に口を開いたのは御厨だった。
まさか、御厨のほうから話しかけてくれるとは……
「山田くん、選抜リレー出たんだよね?どうだった?」
「俺らのクラスが、1位取ったぜ」
「ほんとに!?すごい!先輩たちに勝ったんだね」
それまで前を向いていた御厨の目線が、俺のほうに向く。
身長差があるせいで、自然と上目遣いになる。
……二人きりで、これはヤバすぎる。
さっきの女子たちとはワケが違ぇ。
「選抜リレー1位ってことは、だいぶポイント入ったよね。総合優勝狙えるのかな」
「んー、どうだろな……このあと次第かもな」
「最後の全員参加のやつも高そうだよね……あー、足引っ張っちゃったらどうしよう」
「……ん?練習んときはそんな失敗してねぇよな?」
「私、本番に弱いんだよね……なんか、だんだん緊張してきちゃった」
そう言いながら手で顔を覆う御厨。
なんとか緊張を和らげてやりてぇけど……
「じゃあ、ハチマキ交換しねぇ?」
「えっ!?」
「あ、お、俺のだからとかじゃねぇっつーか!リレーで1位取ったやつだからいいことありそうじゃね、って理由!」
「……でも、山田くんと交換したい子なんていっぱいいるし、私……」
「俺は!御厨を勇気づけてぇ、から」
御厨の言葉を遮るように、まっすぐ目を見て言い切った。
静まりかえった廊下に響いた俺の声。
御厨はびっくりした顔で何回かまばたきをしたあと、目を細めて、ゆっくり口を開いた。
「そっか……ありがとう。じゃあ、お願いしてもいいかな?」
巻いていたハチマキをしゅる、と解いて俺の前に差し出す。
それを受け取って、今度は俺のハチマキを御厨の手の上に乗せた。
「山田くんにそこまで言ってもらえて、嬉しかった。私、頑張るね」
両手で大事そうにハチマキを持って、俺に微笑みかける御厨。
俺のしたことは間違ってなかった、そう確信した。
.
そのあとのクラス対抗競技は、練習以上の結果を出せたけど、他のクラスにあと少し届かず、総合優勝は持っていかれてしまった。
……来年ももし御厨と同じクラスだったら、優勝して一緒に喜びてぇな。
そして表彰式も終わって片付けの時間。
一人になったタイミングで、小走りで御厨が近づいてきた。
「山田くん、お疲れ様」
「おー、御厨もな」
「さっきは、本当にありがとう」
「気にすんなって。つか、あんなんで元気になってくれたなら良かったわ」
「山田くんのおかげで、緊張もほぐれたし、失敗しなかったよ」
そう言うと、御厨は手を差し出した。
握手……か?
なんか照れくさくて、無言で握ると、御厨も同じ気持ちだったのか少しだけ手が震えていた。
恥ずかしくてすぐに手を離すと、御厨は嬉しそうに笑っていた。
.
それから、俺たちは同じクラスのダチとして話すようになった。
朝のあいさつもするし、他愛もない会話もする。
前より確実に縮まった距離。
これからもっともっと縮めて、いつかは——。
fin.
22.09.25
※クラスメイトとか先生とかモブも出てきます。
「二郎、コケんじゃねーぞ!」
「うっせぇ、黙って見てろ」
今日は体育祭。
体を動かすのは好きだし、けっこう楽しみにしてた。
この選抜リレーで、あいつにかっこいいとこ見せて……。
って、あいつがいねぇ!?
「二郎!」
バトンがアンカーである俺に回ってきた。
今の順位は2位。
前の奴を抜ければ……!
「お前、マジでやべぇな!」
「だから見とけっつったろ!」
正直ちょっとキツかったけど、前の奴をなんとか抜いて、俺達のクラスは優勝した。
なんか香水くさくて派手な女子たちに、かっこよかっただの何だのと話しかけられたけど、そういうことを言われたいのはお前らじゃなくて……
「いってぇ!」
女子たちにしつこく話しかけられてうんざりしていたところに、クラスメイトの叫び声が耳に入った。
逃げるようにそっちに駆けつけると、派手にコケたらしく大きな傷を作って座り込んでるダチがいた。
「俺出番終わったし、保健室連れてくわ」
「おう、悪いけど頼む」
よし、これで完全に逃げられる。
.
「失礼しまーす」
保健室のドアを開けるとそこには。
「あれ、山田くんと田中くん」
「御厨、こんなとこにいたのかよ」
どこ見てもいねぇと思ったら、保健室かよ……
どおりで見つけられねえはずだ。
「ごめんね、熱中症の人がいるみたいで、先生はグラウンド行っちゃってるの。私は保健委員の用事で寄ったんだけど、しばらくいてって言われて……擦り傷の手当くらいだったらできるけど……」
……ん?田中コイツ、なんか嬉しそうじゃね?
もしかしてコイツも御厨のこと好きなのか?
クソッ、俺も御厨に手当されてぇ……!
意外なところにいたライバルのことを睨みつけていると、ふいに保健室のドアが開いた。
「御厨さんごめんね、もう戻っていいよ」
保健の先生がグラウンドから戻ってきた。
田中の顔が一気に残念そうな顔に変わる。
ハッ、ざまぁみろ。
「御厨、グラウンド戻ろうぜ」
「あ、うん。そうだね」
……ってか俺、軽率に言っちまったけど、二人きりになるのって初めてじゃね!?
やべぇ、意識し始めたら何も浮かばなくなってきちまった……
俺と御厨の足音だけが響く廊下。
このまま一言も話さず戻るのはもったいなさすぎる……!
「あ、そういえばさ」
「ど、どうした?」
先に口を開いたのは御厨だった。
まさか、御厨のほうから話しかけてくれるとは……
「山田くん、選抜リレー出たんだよね?どうだった?」
「俺らのクラスが、1位取ったぜ」
「ほんとに!?すごい!先輩たちに勝ったんだね」
それまで前を向いていた御厨の目線が、俺のほうに向く。
身長差があるせいで、自然と上目遣いになる。
……二人きりで、これはヤバすぎる。
さっきの女子たちとはワケが違ぇ。
「選抜リレー1位ってことは、だいぶポイント入ったよね。総合優勝狙えるのかな」
「んー、どうだろな……このあと次第かもな」
「最後の全員参加のやつも高そうだよね……あー、足引っ張っちゃったらどうしよう」
「……ん?練習んときはそんな失敗してねぇよな?」
「私、本番に弱いんだよね……なんか、だんだん緊張してきちゃった」
そう言いながら手で顔を覆う御厨。
なんとか緊張を和らげてやりてぇけど……
「じゃあ、ハチマキ交換しねぇ?」
「えっ!?」
「あ、お、俺のだからとかじゃねぇっつーか!リレーで1位取ったやつだからいいことありそうじゃね、って理由!」
「……でも、山田くんと交換したい子なんていっぱいいるし、私……」
「俺は!御厨を勇気づけてぇ、から」
御厨の言葉を遮るように、まっすぐ目を見て言い切った。
静まりかえった廊下に響いた俺の声。
御厨はびっくりした顔で何回かまばたきをしたあと、目を細めて、ゆっくり口を開いた。
「そっか……ありがとう。じゃあ、お願いしてもいいかな?」
巻いていたハチマキをしゅる、と解いて俺の前に差し出す。
それを受け取って、今度は俺のハチマキを御厨の手の上に乗せた。
「山田くんにそこまで言ってもらえて、嬉しかった。私、頑張るね」
両手で大事そうにハチマキを持って、俺に微笑みかける御厨。
俺のしたことは間違ってなかった、そう確信した。
.
そのあとのクラス対抗競技は、練習以上の結果を出せたけど、他のクラスにあと少し届かず、総合優勝は持っていかれてしまった。
……来年ももし御厨と同じクラスだったら、優勝して一緒に喜びてぇな。
そして表彰式も終わって片付けの時間。
一人になったタイミングで、小走りで御厨が近づいてきた。
「山田くん、お疲れ様」
「おー、御厨もな」
「さっきは、本当にありがとう」
「気にすんなって。つか、あんなんで元気になってくれたなら良かったわ」
「山田くんのおかげで、緊張もほぐれたし、失敗しなかったよ」
そう言うと、御厨は手を差し出した。
握手……か?
なんか照れくさくて、無言で握ると、御厨も同じ気持ちだったのか少しだけ手が震えていた。
恥ずかしくてすぐに手を離すと、御厨は嬉しそうに笑っていた。
.
それから、俺たちは同じクラスのダチとして話すようになった。
朝のあいさつもするし、他愛もない会話もする。
前より確実に縮まった距離。
これからもっともっと縮めて、いつかは——。
fin.
22.09.25
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