短編
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※ネームレス
「(いつの間にか満開になってる…)」
家までの帰り道を少し逸れたところにある桜並木。最近は年度末ということもあって仕事が忙しくて、帰るのはすっかり暗くなってから。おまけにくたびれてたから景色を楽しむ余裕なんて全くなくて。年度末を無事に終えて、気持ちに少し余裕ができたおかげで、風景の変化にも気づくことができた。
せっかくだから写真に撮っておこう、とスマホを取り出すと、通知で埋まっているロック画面。びっくりして思わずスマホを落としそうになる。余計に驚いたのは、その通知が全て同じ人物からのものだったから。何かの拍子で当たってしまったんだろう、いつの間にかサイレントになっていた。急いで画面を操作して通知の相手に電話をかける。
「もしもし、理鶯さん…?」
「ようやく気がついたか」
「すみません、スマホがサイレントになってて気づかなくて…」
「大丈夫だ。何かあったのではないかと少し心配したが、安心した。…ところで、今日の予定が早く終わったので、良かったら会えないかと思ってな」
「本当にすみません…今から大丈夫ですよ、理鶯さん今どこですか?」
「家の最寄り駅だ」
「駅ですか!?私もう家の近くで…すれ違っちゃってますね」
「わかった。すぐにそちらに向かおう」
電話が切れてから、10分も経たないうちに近くの公園で落ち合った。長い間待たせてしまったのは私なのに、理鶯さんは申し訳ない、と大きな体を折り曲げた。
「家はすぐそこなのに、公園で待ち合わせたのは何故だ?」
「ふふ、理鶯さんを連れていきたいところがあるんです」
そうか、では連れていってくれ、と言ってベンチに座っている私に手を差しのべる理鶯さん。その手をとって、さっきの場所へ理鶯さんといっしょに向かった。
.
「おお、これは見事だな」
「はい、すごくきれいで、ずっと見てたいくらいです」
日が傾いて暗くなってきたけれど、そのせいか散歩やジョギングをしている人も減って、さっきよりも風の音がよく聞こえる気がした。
桜と理鶯さん。理鶯さんの身長では低いところにある枝は追い越すから、髪に桜の髪飾りがついているように見えて可愛い、なんて思ってしまう。
「理鶯さん、ちょっと動かないでくださいね」
「む、どうした」
スマホを取り出し、シャッターを押す。うん、可愛い理鶯さんが撮れた。満足してスマホをしまおうとすると、上から降ってくる声。
「一緒に撮ってはくれないのか?」
「え…っ!?」
顔を上げると、腰を屈めた理鶯さんの顔が思っていたよりも近くにあって、またスマホを落としそうになる。
「と、撮りたいです…撮りましょう!」
しまいかけたスマホのカメラをもう一度開いて、自分と理鶯さん、そして桜が写るように角度を調整する。
「ちゃんと写りそうか?」
「…っ、はい、」
耳元で聴こえる、理鶯さんの低い声。何気ない言葉でも、耳元で話されればぴくり、と反応しそうになってしまう。不意打ちは心臓に悪い。
「じゃあいきますね、はい、チーズ」
「ありがとう。後で小官にも送ってくれ」
「はい、もちろんです」
「…そうこうしているうちに、だいぶ暗くなってきたな。家まで送ろう」
「あ…理鶯さん。うちでご飯、食べていきませんか?」
「急に邪魔をしてもいいのか?」
「大丈夫です。ただ、食料が少し足りないので、買い物に付き合ってもらえますか?」
「ああ、喜んで付き合おう」
本当のことを言うと食料は、なんとかしようと思えばなんとかなるんだけど。もう少しだけ、春の穏やかな空気を理鶯さんと感じていたくて。
家を通り過ぎてスーパーのある方向へと、揃って歩き出した。
fin.
「(いつの間にか満開になってる…)」
家までの帰り道を少し逸れたところにある桜並木。最近は年度末ということもあって仕事が忙しくて、帰るのはすっかり暗くなってから。おまけにくたびれてたから景色を楽しむ余裕なんて全くなくて。年度末を無事に終えて、気持ちに少し余裕ができたおかげで、風景の変化にも気づくことができた。
せっかくだから写真に撮っておこう、とスマホを取り出すと、通知で埋まっているロック画面。びっくりして思わずスマホを落としそうになる。余計に驚いたのは、その通知が全て同じ人物からのものだったから。何かの拍子で当たってしまったんだろう、いつの間にかサイレントになっていた。急いで画面を操作して通知の相手に電話をかける。
「もしもし、理鶯さん…?」
「ようやく気がついたか」
「すみません、スマホがサイレントになってて気づかなくて…」
「大丈夫だ。何かあったのではないかと少し心配したが、安心した。…ところで、今日の予定が早く終わったので、良かったら会えないかと思ってな」
「本当にすみません…今から大丈夫ですよ、理鶯さん今どこですか?」
「家の最寄り駅だ」
「駅ですか!?私もう家の近くで…すれ違っちゃってますね」
「わかった。すぐにそちらに向かおう」
電話が切れてから、10分も経たないうちに近くの公園で落ち合った。長い間待たせてしまったのは私なのに、理鶯さんは申し訳ない、と大きな体を折り曲げた。
「家はすぐそこなのに、公園で待ち合わせたのは何故だ?」
「ふふ、理鶯さんを連れていきたいところがあるんです」
そうか、では連れていってくれ、と言ってベンチに座っている私に手を差しのべる理鶯さん。その手をとって、さっきの場所へ理鶯さんといっしょに向かった。
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「おお、これは見事だな」
「はい、すごくきれいで、ずっと見てたいくらいです」
日が傾いて暗くなってきたけれど、そのせいか散歩やジョギングをしている人も減って、さっきよりも風の音がよく聞こえる気がした。
桜と理鶯さん。理鶯さんの身長では低いところにある枝は追い越すから、髪に桜の髪飾りがついているように見えて可愛い、なんて思ってしまう。
「理鶯さん、ちょっと動かないでくださいね」
「む、どうした」
スマホを取り出し、シャッターを押す。うん、可愛い理鶯さんが撮れた。満足してスマホをしまおうとすると、上から降ってくる声。
「一緒に撮ってはくれないのか?」
「え…っ!?」
顔を上げると、腰を屈めた理鶯さんの顔が思っていたよりも近くにあって、またスマホを落としそうになる。
「と、撮りたいです…撮りましょう!」
しまいかけたスマホのカメラをもう一度開いて、自分と理鶯さん、そして桜が写るように角度を調整する。
「ちゃんと写りそうか?」
「…っ、はい、」
耳元で聴こえる、理鶯さんの低い声。何気ない言葉でも、耳元で話されればぴくり、と反応しそうになってしまう。不意打ちは心臓に悪い。
「じゃあいきますね、はい、チーズ」
「ありがとう。後で小官にも送ってくれ」
「はい、もちろんです」
「…そうこうしているうちに、だいぶ暗くなってきたな。家まで送ろう」
「あ…理鶯さん。うちでご飯、食べていきませんか?」
「急に邪魔をしてもいいのか?」
「大丈夫です。ただ、食料が少し足りないので、買い物に付き合ってもらえますか?」
「ああ、喜んで付き合おう」
本当のことを言うと食料は、なんとかしようと思えばなんとかなるんだけど。もう少しだけ、春の穏やかな空気を理鶯さんと感じていたくて。
家を通り過ぎてスーパーのある方向へと、揃って歩き出した。
fin.