短編
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「うーん……」
ハロウィンも終わり、ホームセンターやインテリア店がクリスマスカラーに染まり始めたころ。私は毎日考え事をしながら唸っていた。もう11月になってしまったというのに、11日生まれの彼のプレゼントが決まらないのだ。
左馬刻さんは優しいから、欲しいものを聞いたところでその気持ちだけで十分だ、って言うだろうなあ。でも身につけるもの、使うものには人一倍こだわるし、下手なものをあげて困らせるのもなあ……
だめだ、何も思いつかない。ダメ元で聞いてみよう。そう思ってスマホを手に取った瞬間に着信。相手は、左馬刻さん。考えが読まれているかのような偶然に、少し鳥肌が立った。
「もしもし?」
「おー、今大丈夫か?」
左馬刻さんの電話の用件は、今度のデートのことだった。今度のデートは11日。まさに誕生日当日。午前中からデートの予定だったけど、用事が入ったので午後からにしてほしいとのことだった。
それはかまわないのだけど、問題はプレゼントだ。どのタイミングで切り出そうか、左馬刻さんの声を半分受け流して一生懸命考えていた。話がひと段落して少しの沈黙。今だ!
「あの、左馬刻さん」
「あ?どした」
「左馬刻さん、いま、欲しいものとかありますか…」
ああ、聞いちゃった。
「欲しいもの…?ああ、そういや誕生日だったか。その気持ちだけで十分だわ」
うん、やっぱり。
「っつっても、お前は納得しねぇだろ?」
「へ?」
予想外の言葉に、思わず間抜けな声が出た。
「だから、お前の手料理食わせろ」
「…え、そんなもので良いんですか?」
「そんなモンじゃねえよ。紬にしか作れねえだろうが」
左馬刻さんがそんなことを思ってくれていたなんて。
そうしたら何を作ったらいいんだろう…色々準備もしなきゃ…
「おい、聞こえてんのか」
「は、はい…がんばって、作ります」
「おう。楽しみにしてるわ」
それじゃあまた当日、と言って電話が切れる。…さあ大変だ。メニューを考えなくちゃ。今まで特においしいって言ってくれたもの、あとケーキも作りたい…今度はキッチンで試作をする毎日が始まった。
.
そして迎えた当日。
下準備は前日に済ませ、部屋の飾り付けをして、左馬刻さんを迎えた。
ひとまず一回目のお誕生日おめでとうございますを言うと、ありがとな、と軽くハグをしてくれた。
左馬刻さんが買ってくれたコーヒーマシンでコーヒーを淹れる。コーヒーを飲んでもらっている間に、食事の支度をする。悩みに悩んで決めたメニューは煮込みハンバーグ。左馬刻さんに作ったことがあるのは普通のハンバーグだけど、最近めっきり寒くなってきたから、あたたまるものにした。
そしてハンバーグの付け合わせといえばにんじんのソテー。だけど、左馬刻さんの前には絶対に出せない。前にお店で入っていることに気づかなくて食べちゃったとき、すごい顔してたもんなあ。ふふ、思い出し笑いしそうになっちゃう。
「なにニヤついてんだよ?」
「っ!?」
いつの間にかキッチンのカウンターに来ていた左馬刻さん。こないだの電話といいすごいタイミングで来るなこの人は。
「う、うまくできたな!って!」
「ふーん?ま、いい匂いだな。早く食いてえわ」
「あともうちょっと、です」
何とかごまかして、最後の仕上げをする。うまくできたのは嘘じゃない。うん、我ながらいい出来。
.
「お待たせしました」
「おー、すげえ美味そうじゃねえか」
今日のために新調したテーブルクロスの上に、お皿を乗せていく。料理を振る舞うのははじめてじゃないのに、なんだかちょっと緊張する。
「では、改めて。お誕生日おめでとうございます、左馬刻さん」
ワインを入れたグラスを傾けて、乾杯をする。
「じゃあ、早速いただくわ」
「どうぞ、召し上がれ」
左馬刻さんがフォークを口に運ぶのをじっと見つめる。
「…そんなに見られると食べにくいだろうが」
「だって、心配なんですもん…」
「ンなに心配する必要ねえよ」
そう言ってカットしたハンバーグを口の中に入れた左馬刻さん。
「どう、ですか」
「ん、俺好みの味だ。やっぱ紬の作ったメシが一番だな」
はあ、よかった。ほっと胸を撫で下ろすと同時に、嬉しさも込み上げる。
左馬刻さんはいつもよりゆっくり、味わって食べてくれているようだった。
デザートはくどくならないように、ビターチョコレートのケーキ。
小皿に取り分けて私も食べかけようとすると。
「紬、ちょっとこっち来い」
「はい…?」
疑問に思いつつそばに行くと、自分の膝の上を指差す左馬刻さん。
「ココ座れ」
「…へ!?」
「早くしろ。座って紬が俺様に食わせろ」
なんて恥ずかしいことを……そう思ったけれど、今日は特別な日だし、と自分に言い聞かせて思い切って座る。
そしてフォークでケーキをカットして、左馬刻さんの口元へ運ぶ。
「…ちょうどいい甘さだな。美味え」
「それは、よかったです…」
お口に合って何より、だけど……これはめちゃくちゃ恥ずかしい。外でなんて絶対にできないなと思う。
「俺様からも食わせてやんよ」
「え!?自分で食べられますから…っ 」
「ほら、口開けろ。歯にフォークぶつかんぞ」
「た、食べます!」
人に食べさせてもらうなんて、本当に子供のとき以来だ。しかも左馬刻さんに。恥ずかしすぎて、ケーキの味なんてよくわからない。
「美味えだろ?」
「たぶん…」
たぶんって何だよ、と左馬刻さんが急に足を動かすから、椅子から落ちそうになって思わず肩にしがみつく。
「おー、随分積極的じゃねえか」
「左馬刻さんが急に動くから…っ!」
今日いちばん距離が近づいたところで、さらに左馬刻さんが顔を近づけてくる。唇が重なると、広がるチョコレートの風味。左馬刻さんから甘い匂いがすることが珍しくて、思わずくすりと笑えば、左馬刻さんも笑みを浮かべていた。
「甘えな」
「甘い、ですね」
そう笑いあったあと、再び唇を重ねる。
今度はさっきよりも甘く深く、じっくりと。
常に危険と隣り合わせな毎日を送っている左馬刻さん。そんな左馬刻さんとこんなふうに、穏やかに誕生日を過ごすことができて、本当に良かったと思う。
「…こうして、左馬刻さんのお誕生日をお祝いすることができて嬉しいです」
「紬のおかげで最高の誕生日になったわ。ありがとな、紬」
Fin.
ハロウィンも終わり、ホームセンターやインテリア店がクリスマスカラーに染まり始めたころ。私は毎日考え事をしながら唸っていた。もう11月になってしまったというのに、11日生まれの彼のプレゼントが決まらないのだ。
左馬刻さんは優しいから、欲しいものを聞いたところでその気持ちだけで十分だ、って言うだろうなあ。でも身につけるもの、使うものには人一倍こだわるし、下手なものをあげて困らせるのもなあ……
だめだ、何も思いつかない。ダメ元で聞いてみよう。そう思ってスマホを手に取った瞬間に着信。相手は、左馬刻さん。考えが読まれているかのような偶然に、少し鳥肌が立った。
「もしもし?」
「おー、今大丈夫か?」
左馬刻さんの電話の用件は、今度のデートのことだった。今度のデートは11日。まさに誕生日当日。午前中からデートの予定だったけど、用事が入ったので午後からにしてほしいとのことだった。
それはかまわないのだけど、問題はプレゼントだ。どのタイミングで切り出そうか、左馬刻さんの声を半分受け流して一生懸命考えていた。話がひと段落して少しの沈黙。今だ!
「あの、左馬刻さん」
「あ?どした」
「左馬刻さん、いま、欲しいものとかありますか…」
ああ、聞いちゃった。
「欲しいもの…?ああ、そういや誕生日だったか。その気持ちだけで十分だわ」
うん、やっぱり。
「っつっても、お前は納得しねぇだろ?」
「へ?」
予想外の言葉に、思わず間抜けな声が出た。
「だから、お前の手料理食わせろ」
「…え、そんなもので良いんですか?」
「そんなモンじゃねえよ。紬にしか作れねえだろうが」
左馬刻さんがそんなことを思ってくれていたなんて。
そうしたら何を作ったらいいんだろう…色々準備もしなきゃ…
「おい、聞こえてんのか」
「は、はい…がんばって、作ります」
「おう。楽しみにしてるわ」
それじゃあまた当日、と言って電話が切れる。…さあ大変だ。メニューを考えなくちゃ。今まで特においしいって言ってくれたもの、あとケーキも作りたい…今度はキッチンで試作をする毎日が始まった。
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そして迎えた当日。
下準備は前日に済ませ、部屋の飾り付けをして、左馬刻さんを迎えた。
ひとまず一回目のお誕生日おめでとうございますを言うと、ありがとな、と軽くハグをしてくれた。
左馬刻さんが買ってくれたコーヒーマシンでコーヒーを淹れる。コーヒーを飲んでもらっている間に、食事の支度をする。悩みに悩んで決めたメニューは煮込みハンバーグ。左馬刻さんに作ったことがあるのは普通のハンバーグだけど、最近めっきり寒くなってきたから、あたたまるものにした。
そしてハンバーグの付け合わせといえばにんじんのソテー。だけど、左馬刻さんの前には絶対に出せない。前にお店で入っていることに気づかなくて食べちゃったとき、すごい顔してたもんなあ。ふふ、思い出し笑いしそうになっちゃう。
「なにニヤついてんだよ?」
「っ!?」
いつの間にかキッチンのカウンターに来ていた左馬刻さん。こないだの電話といいすごいタイミングで来るなこの人は。
「う、うまくできたな!って!」
「ふーん?ま、いい匂いだな。早く食いてえわ」
「あともうちょっと、です」
何とかごまかして、最後の仕上げをする。うまくできたのは嘘じゃない。うん、我ながらいい出来。
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「お待たせしました」
「おー、すげえ美味そうじゃねえか」
今日のために新調したテーブルクロスの上に、お皿を乗せていく。料理を振る舞うのははじめてじゃないのに、なんだかちょっと緊張する。
「では、改めて。お誕生日おめでとうございます、左馬刻さん」
ワインを入れたグラスを傾けて、乾杯をする。
「じゃあ、早速いただくわ」
「どうぞ、召し上がれ」
左馬刻さんがフォークを口に運ぶのをじっと見つめる。
「…そんなに見られると食べにくいだろうが」
「だって、心配なんですもん…」
「ンなに心配する必要ねえよ」
そう言ってカットしたハンバーグを口の中に入れた左馬刻さん。
「どう、ですか」
「ん、俺好みの味だ。やっぱ紬の作ったメシが一番だな」
はあ、よかった。ほっと胸を撫で下ろすと同時に、嬉しさも込み上げる。
左馬刻さんはいつもよりゆっくり、味わって食べてくれているようだった。
デザートはくどくならないように、ビターチョコレートのケーキ。
小皿に取り分けて私も食べかけようとすると。
「紬、ちょっとこっち来い」
「はい…?」
疑問に思いつつそばに行くと、自分の膝の上を指差す左馬刻さん。
「ココ座れ」
「…へ!?」
「早くしろ。座って紬が俺様に食わせろ」
なんて恥ずかしいことを……そう思ったけれど、今日は特別な日だし、と自分に言い聞かせて思い切って座る。
そしてフォークでケーキをカットして、左馬刻さんの口元へ運ぶ。
「…ちょうどいい甘さだな。美味え」
「それは、よかったです…」
お口に合って何より、だけど……これはめちゃくちゃ恥ずかしい。外でなんて絶対にできないなと思う。
「俺様からも食わせてやんよ」
「え!?自分で食べられますから…っ 」
「ほら、口開けろ。歯にフォークぶつかんぞ」
「た、食べます!」
人に食べさせてもらうなんて、本当に子供のとき以来だ。しかも左馬刻さんに。恥ずかしすぎて、ケーキの味なんてよくわからない。
「美味えだろ?」
「たぶん…」
たぶんって何だよ、と左馬刻さんが急に足を動かすから、椅子から落ちそうになって思わず肩にしがみつく。
「おー、随分積極的じゃねえか」
「左馬刻さんが急に動くから…っ!」
今日いちばん距離が近づいたところで、さらに左馬刻さんが顔を近づけてくる。唇が重なると、広がるチョコレートの風味。左馬刻さんから甘い匂いがすることが珍しくて、思わずくすりと笑えば、左馬刻さんも笑みを浮かべていた。
「甘えな」
「甘い、ですね」
そう笑いあったあと、再び唇を重ねる。
今度はさっきよりも甘く深く、じっくりと。
常に危険と隣り合わせな毎日を送っている左馬刻さん。そんな左馬刻さんとこんなふうに、穏やかに誕生日を過ごすことができて、本当に良かったと思う。
「…こうして、左馬刻さんのお誕生日をお祝いすることができて嬉しいです」
「紬のおかげで最高の誕生日になったわ。ありがとな、紬」
Fin.