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加州清光

ああ、はじまった。

全身の倦怠感と吐き気、それに付随して軽い頭痛。
広がる黒い雲のように気分は一気にくもり、下腹部とこしの痛みが増す。
波のような律動で、時々突然に、鋭い痛みが下腹部を襲う。

「ぐ・・・今日は動けないや・・・」

生理痛とはどうしてこう毎月律儀にもやってくるのか。
3週間もおいてやってくるので毎度生理をなめてかかり、くすりを事前に飲みわすれる。

くすり、どこにしまったっけか・・・と棚に視線をはわせるが、きらたまま放置していたことに気づいてしまう。

「はあ・・・しまった・・・」

机につっぷしため息を吐きかける。
しめった木の匂いが不快。
一度突っ伏してしまうとこの体制が楽なのかもう動けない。

「主、進捗の方は・・・おや、休憩ですか」

ふすまの開く音とともに長谷部の呆れ声がはいってくる。
きっと呆れながらもお茶を持ってきてくれているのだろうな。

「まだ時期的に余裕があるとはいえ、早めに済まさないと後が大変ですよ」
「うん、明日は頑張る」
「いや明日ではなくて、」

不規則に増減する痛みにうめき声を漏らす。
察したのか、側にかがんで体調を伺う。
「つ、月の障り・・・ですか?」
「恥ずかしいし、言わんでええよ・・・」

長谷部の察しのよさは説明下手な私としてはとても助かっているが、やはり知られたときの恥ずかしさは払拭できない。

私の体調を気遣って今日は仕事をしないほうがいいとしてくれた。
毎度動くのもつらい様子を知っているため、布団を敷いたり、仕事の片付けなどいろいろ手伝ってくれた。

「毎月ありがとうね長谷部。月のものごときに情けないな、私」
「おれは男の身でどのような痛みなのかは知ることができませんが、子を生むための身体のはたらきなのだからきっとつらいものなのでしょう」

子供産まないのにねえ・・・とぼやく。

「加州にも伝えておきます。主と長く過ごしているし一番慣れているでしょう。では、ゆっくり休んでください。」

長谷部がいなくなると情緒が不安定なのか急に泣きそうなほど寂しくなる。

けっ、なにが悲しいんだ。
布団にもぐりこんでやる。

ぬくぬく、もぞもぞと暑くなって顔を出すを繰り返した。
腰とおなかの痛みは布団の温かみがあるとはいえ、まだ鋭利な攻撃を繰り返している。


ぐずんと鼻を鳴らす。
どうして私ばっかり、なんてありもしないことを考える。
せんぶ生理のせいだ。

同じ地域を拠点にしている審神者の女友達は気になるほど重くないといっていた。
隣の国を拠点にしている友達は男士たちが過保護でそのようすに和まされるほどだと言っていた。

いいな、私も軽かったらいいのに。
私も生理をお祭りみたいにみられたら寂しくないのに。

泣いてもしょうがないじゃんと乱暴に目をこするものだから、少し目頭がしみる。お腹腰に加えて目も痛いなんてもう、最悪だ。


「まーたぐずってるの?」
「・・・ぐずってない。」

加州は入ってくると布団のそばに腰を下ろした。

「貧血は大丈夫そうだね。今回も痛い?
 どうせ今回もくすり飲んでないんでしょ」

言い方はつんけんしてるくせに、私のことよくわかってるし、心配してくれる。声色だって優しくて自然とさっきまでうずまいてた感情がおだやかだ。

「飲んでないんじゃなくて、なかったのよ」
「はは、そんなことだろうと思った。どうする?薬研に調合してもらうか、買いに行ったほうが早い?」

市販だって効くまでに30分はかかる。薬研にいいやつをつくってもらおう。
その旨を伝えるとわかった、じゃ言ってくるね、と立ち上がり際に私の頭に手を置く。

せっかくきてれたのに、もう行ってしまうのか。またぐずる気持ちが現れだす。
引き止めないほうがいいに決まってる。そのほうが加州を困らせないし、私だって早めに痛み止めをもらえるのだから。

わかっているのに加州の手に触れてしまった。
私は大ばかだ・・・。

「なーに」

優しく問う声が、秋の木枯らしが吹いてるみたいな心に甘えさせようする。

もういい、全部さらけ出してしまえ。




「清光、もうちょっとここにいて」
「・・・ん」

半分立ち上がっていたところをさっきよりも私に近い位置に座り直す。

「ちょっと、甘えても良い?」

「いいよ」

布団の中をよこに、よこにと遠慮しながら動いて、加州のひざにおでこをつける。
加州がまとう香のかおりを近くに感じる。

「もっと全身でくるんだと思ったけど、違うんだ?」

私に降りかかるその声はおちついてて、疑問を含んだものではなく、私がなにをしたいのかほとんど知ってる声だった。

「ちがわない」

身体を起こすと、加州はおいで、と小さく手を広げる。
私は加州のあぐらの上から加州にもたれかかって顔をうずめた。
背後から伝わるぬくもりと心臓の音が妙に私をおちつかせて、さっきまでの不安や悲しみ、嫉妬はどうでもよくなった。


「主は甘えたがりだね」
「んー・・・」

加州の体温と安心させられるにおいに全身があたたまった。
規則的な往復で加州の手が私の腰をさすった。
魔法みたい。
布団でも緩和されなかった痛みがゆっくりと引いていく。


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