魔歌師 ―MELODIA CASTER―
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第28話「首なし騎士の襲来:下」
痛みそのものは額のみのはずなのに、痛みが生じ始めた途端に高熱が出たときのような倦怠感が全身に広がって、機敏に動けない。
けれど、きついなんて弱音を吐いている場合じゃない。
フィオンだって、あんなに体調が悪いなかボロボロになりながらも必死に戦ってくれている。
体に鞭を打ち、小さなマローナの体を抱き上げる。
フィオンが剣を薙ぎ払いそ刀身にまとう炎を放う。
激しい炎は首なし騎士の体を覆い、上手く食らわせられたかに思えたが、難なく両断されてしまった。
首なし騎士は瞬時に体勢を整え直すと、斧を持つ手と反対の手を宙に掲げ、魔力を込めた球体を生み出し始めた。
視線が私の方へと向けられているのは、その頭部に首がなくとも理解できた。
弱い者から順に手にかけようと思うのは当然のことだろう。
目まぐるしく移り変わる戦況のなか、私は私にできる限りのことで冷静に対処しようと試みるが、意思に反して気持ちが追い付いて行かない。
考えないようにしてきたが、やっぱり怖い。
そう考えているあいだにも、首なし騎士の放った球体は私目掛けて飛んでくる。
これを食らってしまったら、ひとたまりもないだろう。
私も、そしてマローナも。
急いで飛び出してきたせいで、今は魔具さえ持ち合わせていない。
私もフィオンやミサンナのように魔法が使えたなら良かったのに。
私の名を叫ぶ二人の声が、やけに遠く聴こえる。
マローナの体をきつく抱きしめ、球体に背を向ける。せめて直撃だけは免れるように。
悔しいが、これが今の私にできる唯一のことなのだ。
しかし、すぐそこまで迫っていた球体は、当たる前に爆散した。
まばゆい閃光に眼がくらむ。
何が起こったのかわからず、とにかく状況を探ろうと辺りに目をこらす。
舞い上がった砂塵に紛れ、黒いローブの裾が見える。
視界が晴れたとき、その人物がよく見知る人物であることに気づいた。
「アネリ、無事か」
「スペクター!」
私の呼びかけにスペクターは肩越しにこちらに一瞥を寄越すと一つ頷いた。
早く行け、ということだろう。
それに頷いて返すと、マローナを抱え直し、地面を蹴った。
その隙を逃さず首なし騎士は更なる攻撃を放とうと構えるが、スペクターの手から放たれる黒い霧が網のように騎士の体にまとわりつき、それを遮る。
その機に走り寄ってきたミサンナが、私の手からマローナを抱き上げる。
「アネリ、額が……!」
「私のことは大丈夫だから。マローナを助けて」
「この子は大丈夫。気絶してるだけだよ。さあ、アンタも早くなかに……」
そのとき、私の胸元が強い光を発し始めた。
師匠から授かった石のペンダントだ。
「アネリ……アンタ、それ……!」
私が取り出した石を目にした途端、驚くミサンナ。
「私の師匠からいただいた大事なお守りだよ。こんなに光ったのは初めて……」
その強い光に目を凝らしているうちに、師匠と最後に交わした言葉が鮮明に思い出される。
"よいか、アネリ。何かあればその石を握りしめなさい。さすれば、その石がおぬしを守ってくれるじゃろう"
まだ、私にもできることがあるかもしれない。
強く石を握りしめ、願いを込める。
途端に、石がまばゆい光を放ち始めた。
瞬く間に強くなった光は騎士やスペクターたちもろとも飲み込み、墓石群全体を照らし出すほどに広がった。
目も開けていられないほどまばゆい光の中、苦しむような歪んだ痛烈な悲鳴があたりに響き渡る。
第28話「首なし騎士の襲来:下」 終