魔歌師 ―MELODIA CASTER―
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第24話「ジェレマイア村:3」
リオラの家族だという少女と少年に案内されるまま連れられたのは、この子たちの住まいのようだった。
ようだったというのは、そこが簡素なベッドが二台と壁に埋め込まれた明かりの灯された髑髏(しゃれこうべ)があるだけの小部屋だったからだ。
少女は私の手を引きベッドに座らせると、ミサンナにも座るよう促した。
ミサンナは、アタシは大丈夫だよ、と朗らかに笑みを浮かべ、少女と視線を合わせるように屈む。
垂れてくる横髪を指先で片耳にかける仕草が様になっていて、つい見惚れてしまった。
「それ、アンタが作ったの?すごくキレイだね」
「ほんと!?やったあ!」
女の子は屈託のない笑みを浮かべ、手にした花をミサンナにずいっと差し出した。
「はい、どーぞ!」
「ありがとう。優しいんだね」
ミサンナにその小さな頭をなでられ、女の子はくすぐったそうに身をよじりながら、はにかんだ。
「えへへ。でもね、リオラにーちゃんはもっとやさしいんだよ」
「へえ、アイツが?」
すると、少女の後ろでもじもじと様子を見守っていた少年が思い切ったように口を開いた。
この子の方がわずかに年上のようだ。
「リオラ兄ちゃんのおかげで、みんなは安心して暮らせるんだ。魔物や悪い奴らを追い払ってくれるから」
「みんながつくったものもうりにいってくれるんだよ」
二人が目を輝かせながら身を乗り出したとき、部屋の入り口に影が差した。
「二人とも姿が見えないと思ったら、こんなところにいたのか」
いつの間にそこにいたのか。
部屋の入り口にもたれながら腕組みをしているリオラが少し困ったような笑みを浮かべながら入ってきた。
狭い室内で肩が触れあいそうになったミサンナは、先ほどのことですっかり警戒してしまったらしく、リオラを避けるようにして私のとなりに腰を落とした。
そんなミサンナに密かに目を眇めたリオラは、飛びついてきた女の子たちに驚きつつも満面の笑みを浮かべた。
「マローナ、ルース。あんまり俺を持ち上げすぎるなよ」
二人の頭を鷲づかむようにして撫でくり回すリオラに、二人はケタケタとおかしそうに笑い声を上げながら、はっとして人差し指を口元に当て、互いに向かって「しーっ」と促した。
この村に着いてからどうもおかしいとは思っていたが、皆大きな声を出すことを躊躇しているようだ。
先ほど私たちが騒ぎを起こした際も、こちらの声に皆一様に驚いたように振り返っていた。
「ちょっと尋ねてもいいかな」
リオラは私の問いにちらりと視線を寄越すと、マローナとルースに「遊びに行ってこい」と促した。
二人が「ばいばい」と手を振りながら駆けて行くのを手を振り返しながら見送り、遠ざかったころに改めて口を開く。
「どうして、みんな声を潜めているの?それに、村の様子にすっかり気を取られてしまっていたけれど、今は夜中だよ。あの子たちは、寝ないで大丈夫なの?」
リオラは私たちの向かいのベッドに深く腰を落とすと、くつろぐように後ろ手をつきながら「何から話すべきか……」と後頭部を掻きむしった。
「まず、この村の住民たちは夜間が活動時間だ。どの家々も夜通し起きて、日が昇るころ眠りに就く」
その理由を尋ねようとしたとき、部屋の入り口で壁をノックする音が聞こえた。
少し乱暴な音に誰だかすぐ察しがつく。
「ずいぶん楽しそうな話題じゃないか。ぜひ僕も混ぜてほしいね」
口振りの割にまだ不機嫌そうなフィオンは、私と目が合うなり露骨に眉間の皺を深めて目を逸らした。
何だか顔が赤い気がする。
荒い足取りでリオラが招き入れるよりも早く彼のかたわらに立つと、詰めるような仕草をした。
フィオンの大人げない様子に呆れてか、リオラは「やれやれ」と眉を下げたが、何だかんだ大人しく場所を譲っている。
フィオンはどかっと腰を落とすと、前かがみになりながら膝に両腕を掛け、イライラした様子で「で?」と切り出した。
「この村を取り巻く怪異の話でもしてたんだろ?」
「えっ?」
何のことだかわからずに、フィオンを食い入るように見つめると、彼は目は合わせないまま「何だ、まだ何も聞いてないのか」とため息をこぼした。
少し酒気が漂う空気がほのかに流れてくる。
もしかして彼の顔が赤いのは、酒が入っているからだろうか。
妙に目が座っていると思ったら。
「ここに来る途中、村の連中から聞かされたよ。何でも、デュラハンの呪いだとか、何とかね」
フィオンが唐突に切り出したことに、耳を疑う。
デュラハンって……?
聞き馴染みがあるはずなのに、思い出せない。
けれど、どうしてか、異様に嫌な予感がし始める。
そんな私を置き去りにして「まさしくその話をしようとしてたところさ」とリオラは話を始めようとする。
「この村は、呪われているんだ。もう何百年も前から」
第24話「ジェレマイア村:3」 終