魔歌師 ―MELODIA CASTER―
主人公の名前を変更する
この小説の夢小説設定主人公の名前を変更できます。
変更しない場合はデフォルト名の「アネリ」で表示されます。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第21話「ジェレマイア墓石群」
墓石群の墓石は一基ごとに欠けや汚れの具合にこそ違いが見られはするが、同じ形の石ばかりが延々と並んでおり、もう何列目かも、何番目かもわからなくなってきた。
これだけ綺麗に整列されているのならもっと単純なルートで行けば効率的じゃないのかと指摘するフィオンに、リオラは魔物や動物の襲来を避けるために、単純にたどり着けないよう魔法を施してあるのだと述べた。
つまり、決まった順序で墓石の合間を縫うようにしなければ、トラップが発動してしまうのだという。
「もしトラップが発動したら、何が起こるの?」
興味本位で尋ねた私に、リオラは肩越しに振り向くと、にんまりと意地悪な笑みを浮かべた。
「聞きたい?」
「い、一応聞いておいた方がいいかなって」
「死霊系のモンスターだよ。守護魔法によって村で制御しているものだ」
腕が生えてきたり、バンシーが金切り声のような叫びを上げながら追いかけてきたり……。
私の怖がる様子を楽しむようにすらすらと例を挙げていくリオラに「よくわかった、もう大丈夫」とやんわり制止をかける。
残念そうに肩を竦めるリオラに、ミサンナは何かに気づいたらしく、神妙な顔をして墓を見回した。
「死霊系、って……。もしかして、ここに埋葬されている人たちを守護魔法化してるっていうの?」
やや咎めるような彼女の口調。
「君の言いたいことはわかるよ」とリオラは苦笑した。
「冒涜だと思われても仕方がない。だけど、こうするほかなかったんだよ」
「何か事情があるのかしら?」
「昔は丁重に供養してきたが、村の唯一の僧侶ももういなくてね。それに、それだけじゃないんだ……」
そのとき。墓の外れの空が、ぱっと明滅した。
それを目にしたリオラの顔が途端に険しくなる。
「……急ごう」
満天の星が瞬いていたはずの夜空は、いつしか曇天に覆われていた。
足元さえ覚束ないほど暗い墓地群がより暗く不気味に思えてくる。
目の前を急ぐことに集中し始めたリオラの背中はどこか焦って見える。
彼は、ここに眠る人々の供養をせず、守護魔法化することを「こうするほかない」のだと言った。
そうすることで墓の下に住まう人々を守っているのだろうことは想像できる。
けれど、その理由については魔物や動物の襲来を避けるためだと説明したが、本当にそれだけなのだろうか?
いや、もっと大きな理由があるはずだ。
未だ鳴り止む気配のない遠雷に、漠然とした確信のようなものが私のなかに芽生えつつあった。
「着いた。ここだ」
墓石の前に紙を折って作った花が供えられている。
それに気づき手に取ったリオラは、戸惑いの色を浮かべた顔をしかめると、その花に手をかざし「燃えよ」と唱えた。
リオラの手のひらで瞬く間に燃え上がった紙の花は、塵となり風に舞って消え去った。
そうして、今度は墓石に向けて手をかざすと、何かを唱え始めた。
しかしこれは、呪文とはちょっと違う。以前に本で読んだことがある。
安らかな眠りを願うフレーズ……死者への餞(はなむけ)のメッセージだ。
彼がフレーズを唱え終えると、墓石がひとりでにずれ動き、墓石の立っていた場所に地下へと続く階段が現れた。
「ジェレマイア村へようこそ」
リオラは腰に吊り下げたカンテラを指先に引っ掛けると、「灯れ」と唱えた。
そうして、先導するように地下の暗闇に吸い込まれていくように階段を下り始めた。
「僕らも行こう」
戸惑う私を追い越したフィオンは、ためらいもなく階段を下り始めてしまった。
「フィオン、待ってよ……!」
慌ててフィオンの背に声をかけるが、彼は私の声を振り払うようにさっさと暗がりに飲まれていく。
「アタシたちも急ぎましょ。何だか、嫌な感じがする」
ミサンナは少し緊張した面持ちを浮かべながら、頭上に迫りつつある黒雲を見上げると、私の背支えながら一緒に階段を下りてくれた。
私たちが入って間もなく、後ろで墓石がふたたび締まっていくのが音で分かった。
閉所に閉じ込められてしまったように狭い洞窟。
微かな光さえ奪われ完全な暗闇に覆われたかと思った矢先、壁一面に明かりが灯され始めた。
暖色の明かりに安堵しかけた私は、明かりの正体を目の当たりにした途端、驚きのあまり思わず悲鳴を上げてしまった。
私の声に驚いてか、ミサンナも釣られて大声を上げる。
等間隔で壁に埋め込まれたそれは、髑髏(しゃれこうべ)だった。
ここは墓地だ。これが本物の人の頭蓋骨であることくらい、確かめるまでもなく理解できる。
眼窩の奥の空洞部分に、淡い光の魔法が灯されている。
キャンドルホルダーの代わりだろう。
「あ、悪趣味だわ……」
墓地に着いてからも動じた様子のなかったミサンナもさすがにこの光景には堪えているらしく、両腕を抱くようにして摩りながら通路の両側に視線を走らせている。
「合理的だと言ってほしいね」
「わあっ!」
先に行ってしまったとばかり思っていたリオラが曲がった角から突然現れ、ふたたび二人そろって大声を
上げてしまった。
「ははっ、驚かせてしまったかな?」とおちゃらけつつ先導するリオラに、ミサンナは「この男……!」とこぶしを固めるが、「まあまあ」とどうにかなだめ、どんどん先に進んでしまう二人を追う。
これ以上のジャンプスケアはごめんだ。
第21話「ジェレマイア墓地群:1」 終