魔歌師 ―MELODIA CASTER―
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プロローグ
深い洞穴に風が吹き込むときのような、あるいは複数の人々が唸るような音。
ずっと聞いていると頭が痛くなりそうなほどに不快で、不気味だ。
その音はざわざわと煩わしく響き、私をまどろみのなかから引きずり出す。
いつからか沈んでいた意識が持ち上がってきたとき、うつ伏せに横たわっていることにようやく気づいた。
手のひらでなでると、冷たくて固い感触が伝わってくる。ざらりとした細かい粒は砂だろうか。頬に突き刺さって地味に痛い。
重い身体を起こしながら、ぼやける視界を凝らす。
何か、光るものがある。
あれは何だろう?
霞む目を擦りじっと見据える。
ちらちらとくゆるそれは、黒い炎だった。
黒い炎なんて、あったけ……?
ままならない思考で暢気なことを浮かべながら立ち上がった私は、慣れてきた視界で辺りを見回し、はっと息を呑んだ。
黒い炎が焚かれた無数の燭台。
向かい合うようにして並ぶ黒装束の人々。
数にして十人…十数人ほどだろうか。
ローブを目深に被っており誰一人として面立ちはわからない。
暗がりのなか広げた本に視線を落とし、しきりに唸っている。
いや……何かを唱えているようだ。
不明瞭で聴き取れないが、何かの儀式の最中であることはこの物々しい光景からして明白だった。
「何なの……これ」
異様だ。
頭がそう判断した途端、ぞくりとした嫌な感覚が背筋を張った。
早くここから逃げないと。
どうしてかはわからないが、即刻そうするべきだと直感的に感じた。
しかし、湧き立つ恐怖心が邪魔をして、足が縛られたように動けない。
もたついているうちに足がガクガクと震え出し、身体がぐらついた。
「わっ」
転んだ拍子に思わず声を上げてしまった。
私の声に気づいて、黒装束の一人がすかさずこちらに視線を寄越してきた。
慌てて両手で口を塞ぐがすでに遅く、その黒装束の視線につられほかの人々も次々にこちらに顔を向けてくる。
そうして、口々に何かを言い合い始めた。
何かを唱えていたときよりも明瞭な声で話し合いをしているはずなのに、話の内容までははっきりとしない。
どうにか単語だけでも聞き取れないか耳を澄まして聞いてはみたもの、やはり理解できなかった。どうやら聞き覚えのない言語で話しているようだ。
けれど、身振り手振りや私を何度も振り見る彼らの様子からは焦燥感がうかがえ、やはり私がこの場にいるこの状況が相応しいものではないことだけは何となく察せた。
やはり、ここから逃げないと。
足に力を込め、立ち上がろうと後ろ手をついたときだった。
手のひらに、地面ではない感触を認めた。
ざらりとした何かの革のような感触。
鼓動が早鐘を打っているのは、胸に手を宛てずともわかる。
もはや、逃げ場などないということも。
恐るおそる見上げた先には、黒装束の者たちと同じ格好をした人が私を見下ろすように佇んでいた。
その人物の靴を踏みつけていた手を即座に退けて後退りをする。
急いで体勢を整えようとするが、私が立ち上がるよりも早くその人物の手が私の首にかかるほうが早かった。
革手袋をした大きな手が、容赦なく私の喉元を締める。
皮膚に食い込んむ指は私の首をぎりぎりと締め付け、釣り上げらるようにして持ち上げた。
身体が地面から浮き、足がぶらりと垂れ下がる。
身体のすべての重みを受けた顎がみしみしと鳴り、強い痛みと息苦しさが伴って襲い来る。
「や……め……っ!」
懇願しようにも、喉を潰されているせいでまともに言葉が発せない。
このままでは、殺される。
絶体絶命。そう悟ったときだった。
酸欠で朦朧としかける意識のなか、まばゆい光が辺りに満ちた。
黒い炎のほの明るい光さえ一瞬で飲み込んでしまうほどに大きなその光は、目も開けられないほどに眩しい。されどどこか温かい。
けたたましい呻き声とともに、私の首を掴んでいた手が離れた。
その拍子に私の体はしたたかに地面に落ちたが、痛みよりも苦しさから開放された安堵感の方が勝った。
長らく首を締め上げられていたせいだろうか。だんだんと意識が遠のいていく。
その光の正体を探ろうと目を凝らすが、薄らいでいく私の視界は光のなかに人のかたちを捉えただけで、振り向いたその人の顔までは認識させてくれなかった。
「プロローグ」 終