【ぬけがら】
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「……歩きスマホで轢かれる人いるよね」
「……勝手に死んでろ」
慣れた歩道の上で、凛からは低い小声が返ってきた。
ストレートネックのモデルケースな格好でスマホを見る凛は、車道ギリギリの位置で止まった。
横断歩道の先の信号は赤だ。
繭は凛の斜め後ろに立った。
ちろりと見える凛のスマホは横構え、画面の中はサッカー動画だ。
「……」
足は止まるし会話もない。
繭の目元は勝手なショルダーハックを続けてしまっていた。
「……今の、なんで右に行くの?」
ふとした疑問を口した。
画面が見えにくく、繭は数歩近づいた。
凛の腕から覗き込むように、首と踵を持ち上げた。
「左の方が敵いないし空いてるのに。抜けたらパスで……」
ぽつぽつ出した繭の疑問を解決してくれるのは、画面の中の背番号11だった。
「あ、通った」
「……」
「じゃあ、右で正解だったんだ」
凛の視線はスマホに落ちたまま、何も言わないし動かなかった。
画面には、ゴールを決めた背番号11が映っている。
「……あれ?この人、前に……」
見た事がある、と思った。
記憶を辿る途中、ふくらはぎにキンキンがくる。
凛の腕の位置は必然的に繭には高い。
見せてくれる様子もないし、繭は身体の重心を後ろに戻して元の場所に下がった。
ちょうど自分のスマホが揺れた。
メッセージの送り主は小春だ。
スマホを片手に内容を読みながら、繭は温度の薄い声を出した。
「左はダメだったの?空いてたのに」
送られたURLをタップしたら、赤と緑、それを彩る金色のキラキラが目に入ってきた。
今はまだ12月前、クリスマスの話題はさすがに早いとは思いつつスクロールで中身を流し見する。
「……知る必要あんのか」
変なタイミングで、凛の声がした。
前に目を向ければ、凛の視線は変わらずスマホに落ちていた。
「……ないね。必要は」
周りの音と空気が変わった。
信号が青になったみたいだ。
繭はスマホをしまい込んだ。
横断歩道の白を何歩か踏むと、凛が視界に入り前に追い越してゆく。
渡りきった先には自動販売機がある。
通りすがりに見たら、赤色マークの飲み物が増えていた。
数日後。
商業施設内は予想以上にクリスマスムードが高まっていた。
建物中央の吹き抜け部分には巨大なツリーが展示され、レトロなブリキオーナメントがあったかい雰囲気を出していた。
BGMが気分を盛り上げ、小春と一緒に数枚写真を撮っておいた。
「あ、このお店カワイイ~!」
店頭に並ぶクリスマスグッズを手に取りニコニコの小春を見ていると、繭まで笑顔になってくる。
一つくらい買って帰ろうかと、ワゴンの中を見ようとした。
その時だった。
「……あ」
先から来た男子と目が合った。
声を出したのは先方だ。
「……えっと、前に」
先日の動画では若干顔がブレてはいたが、背番号11の彼だ。
そして、春先に駅前カフェで凛に話し掛けてきた表情豊かなブルーロックの人。
繭の中で、この2つが繋がった。
11番の方から、控え目に話しかけてきた。
「……前に、凛といたコだよね」
「……はい。よく覚えてますね」
「覚えてるよ。凛、あんまり人とつるむ印象薄いし」
「……そっか、なるほど」
「あ、悪い意味じゃなくて」
強いて言えば、繭も似たような理由で覚えている。
あの時の凛は珍しく、何となく挙動不審だったからだ。
横から小春が顔を出してきた。
「……繭ー 知り合い?」
「……前に一回ちょっとだけ。あとこの前動画で見た」
「動画?」
「そう。サッカーの」
その場で、3人各々の自己紹介をした。
“潔 世一”
名前の記憶は曖昧だが、凛がそう呼んでいた気はしなくもない。
潔から、明るい声色での質問が飛んできた。
「動画って、何のヤツ?」
「……わかんない。横からチョット見ただけで。練習試合みたいな雰囲気の」
「あーそれだけじゃわかんないかも」
「えっと……スペース空いている所行かないのに通って、潔くんがシュート決めたヤツ」
「いや、余計わかんねえ」
動画は色々あるし、と潔は困ったように笑っていた。
大きな目はすぐに切り替わり、また真っ直ぐの質問がくる。
「繭ちゃんもサッカー好きなの?」
「私はあんまり、詳しくは……」
「そっか。小春ちゃんは?」
「ん〜弟がウイイレとかジャイキリとか」
「へぇ、マジか」
「……」
潔と小春がちょこっとだけサッカートークをはじめた。
それを見ながら繭は軽いまばたきを繰り返した。
こんなトコで、こんなコトあるんだ。
今はそれが素直なところだ。
Fin
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