【ぬけがら】
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■9:00~最終確認
文化祭当日の土曜日。
会場セッティングは昨日には完成させてある。
来店を予想して、入り口から順に確認をしてゆく。
【猫しか、勝たん!】
・猫はいません
・アレルギーでも大丈夫
入り口の看板は執事カフェのイメージでクールぽくきめた。
ビックリマークのボール部分はもちろん猫型、下方に小さく入れてある注意書きもイイ感じだ。
壁に貼り付けたアンケートQRコードが正しいかどうか、繭自身のスマホで確認をした。
ついでに第一号としての一票も入れておく。
アンケートの結果は、後日SNSで流す予定だ。
回答者にはトッピングが選べる特典を付けた。
ホイップクリームの上に乗せる飾りで「アラザンやクラッシュナッツの一手間で映えは違う!」と小春が力説していた。
混雑時に、並んでくれたお客様を飽きさせない為の「にゃん博士クイズ」のQR動作も問題ない。
「入り口、アンケートとクイズのQR、OK!」
次に、店内全体を見渡した。
白と黒を中心に、差し色にグレーを挟んだのでお堅くなりすぎない柔らかさも混ぜられたと思う。
教室の数カ所に同系色のバルーンやリボンを使ったクラス作フラワースタンドを立てた。
動画のいいねボタンを真似た「ここ→映えスポット♪」の表記も問題ない。
「店内、OK!」
メニュー表は高級感をイメージして、なんちゃらとの筆記体フォントを採用した。
それでは読めない人も多かろうと下には日本語も入れてある。
肉まんとピザまんの二品もメニューに入れ込んだ。
猫ピックのオリジナル作製は間に合わず断念、百均で見つけたそれらしいものを代打で使用する事にした。
あえて、裏返してシンプルに見せるのがポイントだ。
「メニュー、OK!」
奥の方には「突然の縁日コーナー」を作ってある。
小さい子供が楽しめるように、との配慮だ。
親世代の目も惹くように、昔ながらの駄菓子屋っぽいおもちゃを並べた。
その隙間に、リティお下がりの猫おもちゃを散りばめたのはもちろん繭だ。
カシャカシャ系じゃらしは魔法戦士・少女になれるアイテムにも使える。
撮影用の猫耳カチューシャも用意済みだ。
お祭りぽい原色味を調整するため、ダイリュート三毛猫が取り仕切る場所に見せ、全体から浮かないように工夫もしてある。
「縁日、OK!」
出口付近、右側にはお土産コーナーを置いた。
くにゃくにゃポーズの猫のアクスタは見ているだけでも癒される。
数は少ないが、手芸の得意な生徒が猫のマスコットを何種類か用意してくれた。
1番最後は保護猫への募金箱を置いた。
ここは真面目に、猫好きは大概こういうのに弱いものだ。
「繭ちゃーん!これやってー!」
「ネクタイ?私結び方わかんないや。誰か香坂くんのやってあげて!」
クラスの懐こい男子がぴょこんと近づいてきた。
男子にも執事風衣装で猫の給仕キャストをやってもらう手はずだ。
その方が狙える客層も増えるし、メイドカフェ特有の雰囲気を払拭出来る。
支度を終えた女子キャスト達も混ざってきた。
各々のメイド服や靴下丈は担当猫の個性に合わせ、繭の独断と偏見で被らないように全て変えてある。
ちなみに“キャスト”との呼び方は満場一致で某夢の国から拝借した。
「前髪固めたい!誰かハードスプレー貸して!」
「私のバッグにあるから勝手に使って」
「繭ちゃんめちゃくちゃ準備いい!アイロンまである」
「いちおあっちであっためといて。使う人は自由に使って!」
「結城さん、“推しメニュー”決まらないよ~」
「なら“にゃがバタ”にして。音可愛いのと、2番目に高いのだから」
「……1番のじゃなくていいの?」
「人ってそーゆートコあるし」
キャストの準備も概ねOKだ。
■10:00~開場
「チラシ持ってる人めっちゃいる!」
「猫型目立つね!わかりやすい」
「普通はA4紙使うしね」
繭はクラスの入り口から廊下を覗いた。
特攻3人が外で呼び込みのビラ配りをしているが、猫型にしたのも黒一色にしたのも成功だった。
繭個人としては「猫の形は捨てにくい」との希望的目論見も入っている。
どこを回るかまだ迷っている人には声掛けがベストだ。
手の空いている猫たちが突撃を開始する。
「……あ、猫カフェって、そういうこと!?」
「はい!猫の毛がつかない安心タイプです!」
繭の目の先はその後ろ、またも猫チラシを手にした人が流れてきた。
■11:00~来た!
「あ、繭のママだ!繭~ママ来たよ~!」
小春の声に顔を上げ、繭は入り口に向かった。
「小春ちゃん可愛い!似合うわね」
「でしょ?小春には甘えたの茶トラ。この色味のメイド服はレアで大変だった」
「繭は着ないの?写真撮りたいのに」
「私は裏方。運営チェックとか」
「……組織にはそういう人間も必要よね。並んで?写真撮る」
母親は、一度構えたスマホを下ろした。
「……小春ちゃん、ちょっと触ってもいい?」
「ん?はい、どーぞ」
「カチューシャ、もうちょい下げた方が重心下がってより小顔に見える」
「おぉ……!」
「で、固定。繭、アメピンある?」
「あるよー ちょっと待って」
小春のカチューシャをピタリと押さえる母親に、横からピンを渡した。
自分のマスカラを塗る時と同じくらい、母親の顔付きは真剣だった。
「ママさんめっちゃイイ匂いする……」
「わかる?…………ウチ、香水が解禁されたから。今集めてるの」
「ほわぁあー カッコイイ」
「小春、そこは“ほにゃあ”とか“んにゃあ”がいい」
「ラジャっ……にゃ」
「無理やりはキツイ」
「監督、厳しいわね」
笑いながら、場所やポーズを変えて何枚か写真を撮った。
母親はにゃんこーひーと肉球ぷりんを注文して、テーブル席に一角に落ち着いていた。
食べ物を運び終えた小春が一直線に戻ってくる。
他の女子も、数人ぱたぱた近づいてきた。
「今の結城さんのお母さん!?めっちゃ綺麗」
「ね~!繭ホントにうらやましいよ~!!」
「繭ちゃん太らないの遺伝子なんだ、いいなぁ」
「……」
もしかしたら、その要素もゼロではないのかもしれないけれど。
事実はそこまで単純でもないから、顔がへにゃ、と引きつってしまった。
「……口うるさいよ。姿勢とか日焼け止めがーとか」
「いいじゃん!!!」
身内が褒められることは悪い気分ではない、とは思った。
■14:00~怒濤の
昼時から混み始めた流れが、今も途切れず続いていた。
待っている人にはアンケートと猫クイズのQRを配った。
「ねえパパ!猫の前足の爪って4本?5本?」
「猫のヒゲを切っちゃいけない理由か、なに?」
「ハローキティの“キティ”の意味?……あ、キティちゃんて猫か」
クイズを頑張る小学生や他学年の生徒の声が、ちょこちょこ聞こえてくる。
時々だけ、うんちくを上乗せするマニアが出没する瞬間には、耳が反応してしまった。
クラスメイトが焦り顔で近づいてきた。
「繭ちゃんヤバイ!」
「どうしたの?」
「特典のトッピングなくなりそう」
「もう?アンケートそんなに来てる?」
自分のスマホで、アンケートの集計フォームを確認した。
現れる数字は想定以上で目をぱちくりさせてしまった。
「……え、280件も」
「そんなに!?」
手の空いている生徒に急遽のトッピング買い出しをお願いした。
そろりとやって来た小春も会話に混ざってくる。
「こりゃあ明日もトッピングたくさん使いそうだね~」
「ね、ありがたいことに。どれが人気?」
「カラースプレー、無難だから?」
「意外と子供も多いしね」
一度、店内を見回した。
露店コーナーは時々順番待ちが出来るくらい、賑わうタイミングがある。
じっと固まる繭の視線を、小春が横から戻してくる。
「そう言えばなんでアンケートの内容“人気猫種ランキング”にしたの?」
「え?ああ、それ」
小春になら、ホントのコトを言ってもいいだろうか。
繭は少しだけ声を落として、にんやりの顔をする。
「私が気になったから。……好奇心?」
「え!?そういう理由!?なんか戦略的なのとかじゃないの?」
「ないない。結果すぐ追えるように私のメアドで登録してあるし」
「公私混同じゃん!」
ちょこっとくらい、自分の思いの一端を混ぜても許されるだろう。
■17:00~ 一日目終了
「終わったー!」
「疲れたぁ……明日もあるか」
「お腹空いた~」
「2年のお化け屋敷行った?レベルガチすぎ」
一日目が無事に終了した。
クラス中が開放感に浸る雰囲気に切り替わってゆく。
繭は早速、委員長と売り上げの確認を始めた。
「結城さん おつかれ様。結構良かったんじゃないかな?」
「ん、そうだね」
一日中てんてこまいで、振り返る余裕はなかったけれど。
今にして思うと、やってみてはじめて見えたことがいくつかあるようにも思う。
「…………結城さん、そっちいくら?」
「……え?ああ、ちょっと待って、……」
達成感ももちろんあるけれど。
どこかにそわそわする感じも残ったままだった。
■20:00~帰宅
「ただいまー」
「おかえりー」
家に帰ると、リビングのテーブルにある物がいきなり目に留まった。
「あれ、コレ」
「買っちゃった。リティに似てるって思ったら、リティでしょコレ」
「……バレた?他にもイチオシのリティをいくつか仕込んでおいた」
お腹丸出しで前足をちょんと揃えたあざといリティのアクスタは、まだ透明フィルムの包装の中に綺麗に入ったままだった。
「私もコレ、自分で買ったの。見て」
「あれ、この猫……高田さんの家の近くにいるコ?」
繭の自作自売のアクスタは、ようやく警戒を緩めてきた近所のキジトラだ。
香箱座りのぶっすりした睨み顔は、猫好きにはたまらないものがある。
リティの隣に置いてみた。
その横には、資料や回覧板が散らばっている。
町内会の焼き芋大会が何とか、の文字が見えていた。
「お店、可愛くて良かったわよ」
「ホント?」
「高校生の出し物にしてはよく出来てた。繭が考えたの?」
「全部じゃないけど。引き取ってもらって、後は担当の人に進めてもらったり」
母親はかけていた眼鏡を外した。
「特に募金箱は良かった、オチが綺麗。学生がやってるってのもポイント高い」
「……保護猫ってビジネス化してるらしいから」
「ちゃんと団体に渡すんでしょ?」
「うん。役所を通して」
「なら安心で社会貢献」
もう一つ、聞いてみたい事がある。
繭の口調がゆっくりと落ちた。
「……何か、改善とか気になったトコある?」
「え?」
「……今日の中間集計、全体の4位だった」
「あんまり満足してない、ってワケね」
「まだ、出来るコトもある気がして」
母親の目がちり、と細くなる。
普段ならば構える瞬間なのに、今日は気持ちが前のめりになる自分がいた。
「子供の縁日、いいアイディアだけど長居が増えるから客回転が下がる」
「……確かに」
「時間制にするか、単価UP込みで仕掛け考えて設計するとか」
「……なるほど」
母親の声はまだ続いていた。
「あと一番フリフリの衣装だったコ」
「……チンチラペルシャ?藤原さんかな」
「あのコ、シンプル衣装でも似合いそう。姿勢綺麗でスタイルいいし」
そういえば、衣装合わせの時に「ずっとバレエを習っていた」と言っていたっけ、と思い出した。
「素材は活かす。そしたらゴージャス衣装は他に転用も出来る」
「……なるほど」
「予算も人材も無限じゃないでしょ?足し算だけじゃなくて、引き算やかけ算も効くよ」
「明日までに、何をどこまで反映出来るか……かな」
「そうね。頑張って!」
すかさず、スマホを開いた。
メモ帳アプリを出すよりも先に、クラスのグループLINEに通知が溜まっていた事に気付いた。
「…………」
流し読みをする途中にも、やり取りはリアルタイムで続いているみたいだ。
改善の余地を感じているのは自分だけではないと思うと、妙に嬉しくもなる。
繭もすぐさま、両手で加勢をした。
Fin
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