【ぬけがら】
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秋の色も深まり、季節が進んできた。
空気も薄く冷えてくるし、周りから聞こえる言葉も知らずに変化してくるものだ。
本日の学級会の議題もその筆頭、“文化祭の出し物について” だった。
昨日まで、と納期を切られたクラスの出し物案に、何の気なしの回答だけは終えてあった。
クラス中から出された案へ投票を行い、多数決上位のものへ再度の再投票、この要領で候補を絞る流れのようだ。
学級会ではクラス委員長が前で取り仕切りを行なっている。
黒板に並ぶ候補達に徐々に二重線が入り、ようやく3つにまで減った所だった。
「じゃあ、もう一度再投票を行います」
「……」
繭は机に頬杖をついたまま、委員長の声に従いタブレットに目を落とした。
残る候補の中で最も無難な案に人差し指を近づけた時、クラスの誰かが声を上げた。
「ねー この“猫カフェ”って発案だれ?」
「…………私」
繭は控えめに手を上げた。
必然的にクラスの注目の的になる。
ここまで残ってしまうなんて、繭こそ想定外だった。
「結城さん、これ具体的にどうやるの?猫呼ぶって出来るの?」
「アレルギー問題とかあるじゃん?」
「衛生面も気になるし」
「……」
急に、意見に乗る声が増えた。
ざわざわと懸念批判の声も混ざってくる。
繭としては、深く考えていなかったのが素直な所だ。
現実的に考えて、文化祭に猫を連れてくるのは難易度が高いとは思う。
窓辺で腕組みをしている担任を盗み見れば、顔つきは既に厳しかった。
まず、よほど人好きで場慣れしている猫でない限り、猫側のストレスになり可哀想なことになってしまうだろう。
繭は頬杖を解いてから、ほんのりとだけ背筋を伸ばした。
「……正直、細かくは考えてなかったんだけど……例えば、猫の雑貨とか作品とか置いたカフェにしてみる、……とか?」
「それ猫好き以外はつまんなくない?」
「人来なさそう」
「ん……じゃあ、猫耳付ける……?」
「それもうメイドカフェじゃん!なら一番票集まってそうだし、メイドカフェで良くない?」
「……」
確かに、高校生の文化祭の出し物として一番無難な残りの案は“メイドカフェ”だ。
繭自身も、適当にそれでいいかと思ってもいた。
クラスからはあれこれ言う声がますます増えてゆく。
「……」
はたと、黒板の文字を見ていたら思い付いた。
繭の中でバラバラになっているものが一つにつながった気がした。
「…………じゃあ、もう全部混ぜちゃう、とか」
「え?」
「猫メイドカフェ。残りの案の“オシャレ映えお祭り露店”も混ぜちゃって、よくある萌えキュンみたいな雰囲気じゃなくて、映え寄せの猫のメイドカフェにしてみる、……なんて」
「なるほど!それ、面白そうじゃん!」
「それならいけるんじゃない?」
「いいと思う!!」
「……」
力説もしていないし、情熱を乗せたつもりもない。
けれど、意外にも肯定の声が増えた。
あれよあれよと決定可否の多数決が走り、文化祭のクラス出し物が“猫メイドカフェ”に決定してしまった。
安堵と盛り上がりの声が上がる中で、委員長から繭への指摘が飛んできた。
「じゃあ全体管理は結城さんがメインで担当してくれるって事でお願い出来ますか?」
「……え、なんで?」
「猫カフェ発案者だし、全部混ぜたイメージもそこそこありそうなんで」
「……いや、まだ、そんなには」
「よろしくお願いします」
「……え……」
教室にはまだらな拍手や頑張れよー!の声が飛び交っている。
繭だけは、ぽかんと口が開いたままになってしまった。
帰り道、繭の隣には小春がいる。
小春は伺いの顔をしながら、繭の顔をひょいと覗き込んだ。
「繭ってイベント張り切るタイプだったんだ。意外」
「全然、あれは流れでしょ。猫カフェも適当に書いちゃっただけだし」
「でも猫メイドカフェ、面白そうだよ~!」
「うん……」
正直、繭自身が一番驚いている。
やる気、ワクワク、みたいなキラキラした思いがあるかと言うと今はまだ違うのが事実だ。
「……」
ただ、自分の頭の中でほんわりとだけはめ込み考えてみたこともある。
繭は現時点の構想をぽつぽつと口にした。
「……まずさ」
「うん?」
「PR動画を作るといいかなって。ロングとショートで2本」
「動画?」
「そう。それを学校のホームページとSNSに載せてもらう。許可いるだろうしなるべく早めに」
「……ほう」
小春の目が、繭の横顔にピタリと固まった。
「あとクラスでフォロワー多いコに定期的に流してもらえるといいな。余裕あれば、綺麗めVerや面白Verとか切り口も用意したいケド」
「……待って」
「なに?」
「……想像以上にガチ。いや、方向性そっち!?みたいな」
「……でも、どうせやるなら稼ぎも必要で、沢山の人に来て欲しいし、って」
「普通にメイドカフェの猫耳版くらいかと思ってた。多分クラスの殆どがそう思ってるよ!?」
最初に浮かんだのは繭も同じくそのイメージだ。
だからこそ“猫カフェ”をちゃんと盛り込んだ上で、出来る仕掛けを組む方が成り立つような気はしていた。
「服も、猫耳だけじゃ面白くないから」
「うん。まあね」
「例えば猫種わけて、見た目とかキャラを寄せるのもアリかなって。市販のメイド服アレンジくらいなら出来そうだし」
「……うん。それカワイイかも!」
「で、“私の推しメニュー”とかアピールしてもらって、そーゆーの得意そうな一軍のコに売りまくってもらう。時間ごとに展示猫変えちゃえばリピ客も多分狙える」
「……言い方が、なんか既にオーナー……?」
「どうかな?」
「……いや、いいと思う!面白そう!」
こうやって考えてみると、転用もアイディアももっと出て来そうだ。
自然と、繭の片手が顎の先に伸びた。
視界はいつもの帰り道なのに、頭の中が見ているものは全く別になる。
妙に、冴える気分だ。
小春は改めて繭の横顔を見た。
普段のぬるそうな雰囲気とも、難しく考えている時とも違う。
今の繭はあまり見たことのない目の色をしている、とは思った。
「繭、想像以上に……」
「え?」
「マジのガチじゃん」
「まあ……いちお、言い出しっぺだし……?出来るコトは、やろうかなって……」
「文化祭すっごく楽しみになってきたよ~!」
「じゃあ、ちゃんと手伝ってね」
顔を回す繭の仕草はどこか薄くて普段の通りだ。
小春はそう思いながら、足取りを軽くした。
Fin
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