【ぬけがら】
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
制服のままゲーセンに寄る高校生は一定数いる。
小春にくっ付いてきた繭も例に漏れずだ。
だからなのか意外と驚かなかったけれど、完全な“無”の感覚とも何かが違った。
無機質にざわつく音の空間で、凪はぽつんと目立っていた。
「……、……」
即、繭の瞳は勝手に左右を辿り出す。
後ろにも振り返り周囲を確認した。
そうする理由をどうこう考えるよりも、記憶が先にそうさせる反射的なやつだ。
結局、何も見つからなかった。
繭の内側は概ね落ち着いている。
今度は一段静かに、視線を前に戻してみた。
「……」
凪がプレイしているのは、格闘タイプのゲームに見えた。
ゆるい雰囲気の中にいるのに、凪の手元だけは雑とも繊細とも違う急スピードで動き続けている。
凪の話は玲王から何度も聞いた事はあるはずだが。
繭の中に浮かぶワードは「サッカーの天才」「面倒くさがりや」この2つだけで意外にも少ないとは思った。
後方からじっと見過ぎてしまったからか。
ゲーム機が勝利音を流すタイミングで、凪が振り返ってきた。
「あ」
凪は間の抜けた一文字だけを置く。
数秒後にはゲーム画面にすんなり顔を戻してしまう。
「え、無視……!?」
あまりにも普通にスルーされ、思わず繭から声が出た。
凪はもう一度、こちらに目を向けてくる。
「えっと」
凪から出てくるのは、またも会話にならない言葉だった。
真ん中に流れるのは実に微妙な空気だ。
「……」
「……」
その場が固まる最中、繭は真っ直ぐに凪を見る。
こんな顔をしていたっけ、と、ふいに思ってしまった。
雰囲気は大人しくむしろ落ち着きがある。
だが、見下ろすみたいな角度だとどことなくの柔さが残り、ここまで幼い感じだったかと驚いている自分がいた。
表情の乏しさを見ていると、繭の方も“身の振り方”が迷子になる感じだ。
主導権を握りたくない他人行儀はお互い様かもしれない。
一旦は勝手にそう決めつけた。
凪はまた、しれっとゲームに戻ろうとしている。
繭の方から小声で話し掛けてみた。
「……凪、もしかして」
「……」
「私のこと、覚えてない?」
「覚えてるよ。繭」
「そっか、覚えてたか」
「レオのお気に」
「……」
名前が出てくることはむしろ自然だ。
凪は平気で、ほのかな追い打ちをかけてくる。
「元・お気に?」
「……なんか、その言い方ヤダ」
「なんで?」
「……いや、いい。何でもない」
何とも言えない感覚は無くもないが。
どうしようもなく揺れる感じもなかった。
凪はイスを回して身体ごとこちらに向けてきた。
両手は自身の腿の間、亀みたいに肩をすくめる仕草は「サッカーの天才」と言うには随分とろけた感じだ。
天才にも色々なタイプがいるのかも、なんて思ってもみる。
「残念でしたー」
「え?」
「今日はレオいないよ」
「あ、うん……」
「レオなんか忙しそうだし」
「そっか……」
「なんで別れたの?」
「え?」
「レオと」
「……別れ……いや、付き合ってなかったよ」
「へぇー そうなんだ」
「……」
情の乗らない声と混ざって、イスの回る音がした。
凪はまたゲームに戻るみたいだ。
すぐに先ほどと同じく、凪の手元で超絶技巧がはじまった。
動きは最小限で、手首から先だけが激しく忙しい。
時々だけ「おりゃあ」「うわあ」と小ちゃな声が混ざってくる。
「……うまい方?コレ」
「まあ」
「手の動き、どうやってるの?」
「こーなってこーなってる」
「……説明する気なさそう」
「面倒くさいし」
面倒くさいと言うのに、必要な所だけは妙に正確みたいだ。
数分の1ゲームを終えると、勝利音とレベルアップの激励が来た。
それを喜ぶかというと然程でもない様子、どこか眠さの混ざる声がする。
「そう言えば」
「なに?」
「繭、あの糸師凛と友達なんでしょ?」
「ん、……まあ」
「糸師凛とよく友達やってられるねー」
「え?」
「すぐ怒りそうだし面倒くさそう」
「……そんなに怒ったりしないよ」
「え、そうなの?」
「うん」
「糸師凛なのに?」
「……、……優しくも、ないケド」
凛がチームメイトとどうこうよりも、繭が気になったのは別の点だ。
繭の目の端がちょこんと甘くなる。
知らないうちに頬が上がってしまっていた。
「凪、ヘンなの」
「なにが?」
「面倒って言うのに、丁寧にフルネームなんだもん」
「何でもいいー マツゲさんとか、ぬりーさんとか」
「あだ名考える方が労力使いそうなのに。ヘン」
「繭の方がヘン。友達の趣味」
またゲームに戻るのかと思ったら、凪の両手が背中と一緒に上に伸びた。
飽きてきた、ぼそりとそう言ってから凪は目の前で立ち上がった。
「帰ろ」
「っ」
繭の目線が、一気に上まで伸びた。
あえて配線を残したみたいなゲーセンの天井まで、合わせて視界に入ってくる。
凪の顔つきは何も変わっていないのに、受け取る印象がぐるりと回る気がした。
繭の目の奥が高さを測るよう、じっと止まってしまう。
「……なに?」
「……凪……こんなに」
「え?」
「……背、高かったっけ?」
もう初対面でもないのに、未だに長身が普通に入らない感じは謎だった。
縦の箱の中に置かれるみたいで、あどけなく思えた黒い目が急に角を持つ気がした。
光の無さが、異様に深く見えてくる。
「レオばっか見てるからじゃない?」
声色は何も変わらない、ずっと乾いた感じだ。
fin
【ぬけがら】へ戻る