【ぬけがら】
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秋の訪れはいつも曖昧だ。
気配だけを散りばめるみたいに夏を侵食してくる。
雰囲気は沈む方向なのに、それが“おもむき”として加点にされる所も秋だけのキャラ得感だ。
春、夏、冬ほどわかりやすい強味はないのに、特異な空気感だけで四天王にまで食い込んでいる。
人間にもこういうヤツは時々いるとは思う。
繭はいつものように校門を出た。
目の前の光が、いつの間にか以前より斜めに傾いている。
前を歩く小春の髪の流れが、一段落ち着いて見えた。
小春は顔を上げて、目元をへにゃんと細めていた。
「あ!この匂いすると秋って感じする!」
「ソレわかる」
「何だっけ?」
「キンモクセイ……」
「そうそう!それ!」
どこだろう、と言いながら頭を動かす小春を真似て、繭も周りに目を向けた。
この香りも独特だ。
しっかりした甘さがあるのに決して濃くはない。
爽やか寄りと言う人もいるだろうし、いずれにせよどっち付かずの優柔不断さがある。
金木犀の匂いはするのに、姿は見せずのままとなることもしばしばだ。
やっぱり秋には、こういう所がある。
もしかしたら分類出来ない奥ゆかしさが人の心を惹くのかもしれない。
「カフェのドリンク買おうよ〜!この前見たら新商品いっぱいあった」
店頭に貼られる商品PRのポスターもすっかり秋仕様になっている。
ボルドーを背景にしたさつまいもの黄色は渋みのある鮮やかさだ。
暖かい飲み物がメインに並び出した気もした。
マロンテイストのものを選んでみたらそれだけでも、また一歩秋に近づく気分になった。
横から小春の声がする。
「○○の秋ってあるじゃん?」
「うん」
「秋はイケメンの季節!イケメンの秋」
「……何それ、はじめて聞いた」
今日の小春はご機嫌だ。
にんやり説明をはじめた。
「秋はイケメンの真価が一番見えるからね」
「……なんで?」
「秋服って、ぶっちゃけなくても夏と冬服の誤魔化しでなんとかなるじゃん?」
「……うん。まあ」
「だからこそ!その人のセンスとか価値観が出る!」
それぞれ買った飲み物を一口だけ交換したら、小春のさつまいもの方も美味しかった。
今日はどちらも当たり、厚みのある味が舌を溶かすのも秋ならではだ。
「ヤツらは顔で押しきるからさぁ。何着ても着こなしにくるじゃん?」
「……ある程度は」
「だからこその微妙な差?美意識?が一番見所なのが秋!」
「……着眼点が想像以上に深くてビックリした」
「でしょ!?ここ大事だから」
ある意味の芸術の秋かと言ったら、それは違うと否定が返ってきた。
小春なりのこだわりがあるみたいだ。
興味の瞳が、転がるようにくるんと近付いてくる。
「糸師クン秋服どんな?」
「……秋服どころか、私服見ることも最近は殆どない」
「なんで!?幼馴染みは部屋着なんかのレア情報まで持ってるでしょ普通!」
「一年中トレーニングウェアとか、正装してるイメージしかない」
「正装?……制服?私服袴とかなの?」
「ユニフォーム」
「そっち!?正装がそっち!?」
顔で押しきる系代表臭、今度私服の写真撮っといて、小春はにこにこ顔で自分勝手に言っていた。
そして半分だけ前に身を乗り出してくる。
「繭は?何の秋?」
「私?」
「イケメンの秋に入る?」
「…………」
これと言って考えてはいなかったけれど。
イケメンの秋よりは拾えるものが、心にふわんと浮かび上がった。
頭でそのフォルムを回想する。
「……しいて言うなら読書の秋かな。ふと」
「は!?真面目か!?あ、図書委員での委員会都合的な?」
「ううん……読みかけの本があって。なんか難しくて途中のままで……でも内容は半分は興味あるからちゃんと読もうかな、って」
「結局は真面目やん!」
豪快な突っ込みはキレキレだ。
小春がきょとんとした目で顔を覗き込んでくる。
「で、何の本読むの?」
「猫の経済効果」
「……何それ」
「私もまだよくわかってない」
繭からは、崩れた笑いが出た。
たまには斜め上を歩くみたいな過ごし方もいいのかもしれない、そんな気分になってくる。
小春は空を見て息をつく。
重ねてその視線を追えば、夏よりも少しだけ空が高く見えていた。
「あ~あ 秋って意外と忙しいよねー 美味しいもの多いからお腹空くし」
「それはわかる」
「でも肥えるの死んでも嫌だから。運動もしなきゃだしー」
「……半分はわかる」
気まぐれにやってきては曖昧な雰囲気しか置いてこないのに。
周りの方からちやほやされてしまう秋は、やっぱりどこか過保護にされている。
結局は繭も、取巻きの1人だ。
ただ、ドリンクは美味しいしやる事も見えたからそれはそれで悪くないと思った。
Fin
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