【ぬけがら】
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いつもふわふわ色恋の話をしている小春が、開口一番「ヤバイ!顔!!」と小声と煩さを同居させ目を血走らせた。
目の前には二人組だ。
断る間もなく、気付けば洒落たカフェのボックス席にいた。
「えーたくんと、たびとくんね!」
「そ。ヨロシクー」
「私、小春。こっちは繭」
「オーケー 秒で覚えた」
「加速早すぎやろ」
「……」
こういう時、ノリの良い小春をすごいとは思う。
世間話から時々入るちょっとキワドイ話まで、うまくかわして対応している。
繭は投げられる質問に答えながら、つい、その場の人間観察だ。
えーたの方が話題に引き出しが多く話のテンポは良いし、たびとは方言を裏切らないツッコミ専門で一歩引いた感じもあるから自分と同じく引っ張られた身?と勝手な想像を巡らせた。
二人とも会話もその場を楽しませる事も上手だ。
あっという間に小一時間が過ぎ、 一度お手洗いに立とうかと思った時。
「なぁ」
「ん?」
「見る癖あるやろ」
「え」
いきなり言われて、たびとと真っ直ぐ視線が噛んだ。
「……ある、の、かも?」
「そう!繭いつも何か見てて、しかも方向性変な時ある」
あまり指摘された事はなかったけれど、そう言われると否定もし難い。
少し興味が沸いて、ポーカーフェイスの先を辿ってみる。
「……どうして分かったの?」
「普通泳ぐやん」
「何が?」
「目」
「目?」
「今も見とる」
「……ホントだ」
確かに、とは思った。
射貫くみたいな黒目を数秒見てから、繭の方から泣きボクロに焦点を滑らせた。
「もう口説いてンの?同類項だね的な?」
「どうやろなぁ」
「俺のコトも見て。めっちゃ見て欲しい」
「見てもおもろないんやろ」
「ヤダそれ。見て」
「ガキやんか」
身を乗り出し前髪を揺らすえーたに「じゃあ、」と視線を投げる事になる。
「ホントだ。熱視線」
「ん、観察してるの」
「好きになる?どう?」
「すごく楽しそうだなぁーって、」
「前半流された。うん、今バリ楽しいし」
「でも、……なんか全部じゃない気もする」
「うっわ 辛辣」
「当たっとるやん」
切れ長の目がふいに開いて、勝ち気な口元がにんやりする。
横では小春が口をすぼめてパチパチ手を叩いていた。
繭は一度お手洗いに立った。
急に立ち上がる小春も、小走りで後を付いてくる。
女子軍が去ってから、乙夜はテーブル上に放置されたスマホを見た。
画面は真上に向いたままだ。
「……小春ちゃんわかんねーけど、繭ちゃん彼氏いないね」
「スマホ無防備やしな」
「俺らも作戦タイムしよ。烏 どっち?同類項?」
「別にどっちもいかんわ」
「ノリでいくなら小春ちゃんだけど、繭ちゃんリベンジしてぇな」
「コスパ悪いでアレ」
「あとぶっちゃけ、2つ先の席の美大っぽいコも気になってる」
「はしゃぎ過ぎや」
ふと、場の集中がスマホに移った。
“着信 糸師凛”
「……コレ、オフにバ先のヤツに会っちゃった気分?」
「……世間狭すぎやろ」
「いや、同姓同名かもしんねーし」
「この名前で無理があるわ」
「改名しろし田中太郎に」
「ブルーロックのエース名それでホンマにええんか」
「あ、切れた」
着信リズムの後は、短い揺れが連続で即2つだ。
乙夜は頬杖をついて、スマホを見下ろした。
「“おい” “どこいる”」
「“出ろ” “遅い” やろ」
「わかりやす」
「テンプレやん」
スマホはもう一度着信、しばらく震えた後に通知のポップだけ残してピタリと大人しくなった。
「……彼女なんかな」
「めっちゃスルーされとるけど」
「片想い?ストーカー?」
「後者のが可能性ありそうなのなんでや」
「アイツ、恋愛って価値観あるのが想像つかねぇ」
「ないやろな、普通に」
「おもろ。今度探り入れよー」
「世間話すら出来んヤツとどう恋バナする気や」
「んー……」
乙夜は両手を後頭部に置き、天井を見た。
背をそらせるとソファが少しだけ沈み革が擦れる音がする。
「繭ちゃんに似たAV女優候補に入れて、ヌくなら直感でどのコ?とか」
「瞬殺で会話終わる未来見えたわ」
「じゃあ、他に案出せよ」
「直接繭ちゃんに聞いたらええやん」
「そうくる?今日は野良で遊びたいからノー」
結局個室には入らない小春をなだめて席に戻ると、いきなりスマホを指差された。
「スマホ鳴ってたで」
「探んなよ」
繭はスマホを手に取った。
たったそれだけで何やら注目されている感じがしないでもないが。
横からは小春が「見ていーい?」と同時に画面を覗き込んできた。
「あ♡」
「……」
「……」
一度小春に飛んだ集中が、なぜかまた戻ってきた。
一次会は終了の流れだ。
乙夜が仕切り直しの声を出した。
「これからどーする?カラオケでも行く?」
「カラオケかぁ」
「なんや、苦手なん?」
「ううん。この前行ったばかりだなーと思っただけで……」
つい、スマホに目が落ちてしまった。
するとまた、見られている気がする。
「……誰と行ったの?カラオケ」
「めちゃくちゃ探っとるやんけ」
「ええと、その……ト、トモダチ?……と?」
間違った回答でもないはずだ。
「ふーん。トモダチね」
「うん……」
「ちな、オトモダチ何歌うコ?」
「野良の設定はもうええんか」
「ギリ生きてる。てか烏も気になるっしょ」
「私も!私もソレめちゃくちゃ気になる!!」
もう、反射だ。
「こ、国歌……」
「……マジかよ」
「……ぶっ飛び過ぎやろ」
「……イ、イメージが……」
「あっ、いやっ、違う……!!」
さっきから。
何故か、食いつかれ過ぎて少し怖い。
「ちゃんとは歌ってない!心で歌ったかもというか、BGMというか……!」
「……どーゆーお付き合いのどーゆーシチュエーションでそうなんの?」
「ネタ強すぎてカラオケで国歌行く流れになってんで、コレ」
席を立ち、返却コーナーに向かった。
「つーか、歌わないのにBGMとして曲入れるってアレだろ」
「アレやな」
「うん。アレ」
「…………え?」
繭だけは完全に蚊帳の外だ。
「にしても国歌はねえわ、萎える」
「非凡わからんな」
「ムード欲しい」
「…………え?」
帰り道、小春にカラオケBGMの意味を聞いて繭は目眩で倒れそうになった。
Fin
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