【ぬけがら】
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好きなものが入っている箱を開ける瞬間は、ときめくものだ。
コンビニのアイスコーナーのそれは家庭の比ではないから、毎回新鮮なワクワク感がある。
なのに今日は普段よりも、内側からはじける感じが薄かった。
あれこれ言いながら何度も選び直す小春の横顔が、良い意味で幼く見える。
繭は何度か食べた事がある苺味のカップアイスを選び、先にレジに立った。
外はアイスの買い食いをするには絶妙の温度だ。
コンビニの入り口付近で小春を待っていると、中学生くらいの男子集団がやってきたので横の方にそれた。
そして、遅れて小走りしてくる小春の横に並んで歩き出した。
「繭~」
「……」
「何考えてるの?」
「……」
会話というよりも、小春が出す話題に相づちを打ってばかりいるから小春の指摘は最もだ。
「英語の宿題出たから凹んでるの?」
「……」
「そのアイス美味しくなかった?」
「……」
「あ、糸師クンのことだ!」
「……」
「否定しない!?」
「……」
派手なリアクションを見せてくれる小春が、チョコレートコーディングの棒アイスを横にずらした。
縁の方から桜色のアイスを食べてみるも、何だか味が薄い気がした。
「1組のコに聞いたけど、糸師クン最近学校来てないって」
「忙しいんじゃないの、サッカーで」
「“応援したいけど会えないのはしんどい” とかならわかるんだけど」
「私もわかるよ、その心理は」
「でも、どうせ違うって言うんでしょ?」
「……そう。違う」
何が気になるのか、わからないし説明が出来ない。
けれど、何か引っかかるというか、違和感というか。
手のひらに乗るのは、どうしてもここまでだ。
「何をず~っと考えてるの?」
「……」
小春には考えているように見えるみたいだけれど。
繭の感覚としては、頭はあまり働いていない感じだ。
「なんていうか」
「んっ?」
「何も変わってないし、変えてないのに……何か変わってる気がする」
「ん……?」
「何も、触ってないのに……勝手に動いた、みたいな」
「んんー……?」
手元のアイスが汗をかきだした。
縁がじわりと柔らかくなっている。
「また哲学?なんでそんなに難しくするの?」
「何か、ちょっと、変な感じするんだもん」
「もうそんな気になるの恋じゃん!」
「……恋?……これが?」
「ん~!!」
いつの間にか、アイスを食べ終えてる小春が前に回った。
興味の目をくりくりさせながら、背を落として上目遣いに顔を覗き込んでくる。
「顔がさ、こーなってるの!」
「……」
「難しすぎるの!」
「……」
人差し指で眉辺りをぐい、と上げてくる小春の仕草は一生懸命だ。
繭は少しだけ、瞳を細めてそれを見返した。
「……まさか、造形の話?」
「茶化すな。表情でしょ。」
いつになく、小春の声が真剣に聞こえた。
小春はふんわりと元の位置に戻って行った。
「あ~あ」
「……」
「いつになったら、繭の乙女面見れるんだろ」
「……」
前はちょうど横断歩道、信号は赤だ。
自動車の走行音が忙しく届いてくる。
「…………」
繭はいつもの位置で足を止める。
同じタイミングで、隣の小春も足を止めた。
「繭の恋する女の子感?普段とのギャップ?絶っ対イイと思うんだけどなぁ~」
「……そーゆーのは、恋したら、なるんじゃないの?」
「だから、それいつなのっ!?」
「……そんなの、わからないよ」
「もお!一日でも早くなれし!」
繭のアイスは本格的に溶けかけだ。
なのに、焦る気持ちがまだ追いついて来ない。
小春からは、重さの乗らない溜息が聞こえてきた。
「ま、恋はするモノではなく落ちるモノだからさぁ」
「……そーゆーモノ?」
「そ。とっとと落ちろ」
「……めちゃくちゃ」
やっぱり、その感覚はよくわからないままだ。
「…………」
いつもの横断歩道の先には他校の生徒と、その少し先には自動販売機が見えた。
足を止めている今のうちに、とろけたアイスを運ぶ手を急がせた。
Fin
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