【ぬけがら】
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自室にて。
繭の抱えた膝の上には、小春に借りた漫画がある。
登場人物の行動原理が要所でよく分からないし、主人公が王道ではない。
思ったより血も多いけれど、続きが気になる不思議な面白みがあった。
荒れ狂うバトル描写の外側にある繭の部屋は、静かだ。
繭がページをめくる時とペットボトルの中身を飲む時、それを置く時の音しかない。
対極位置にいる凛は無音、多分寝ている。
ふと、モノクロページの角が少し折れているのが見えた。
そう言えば弟の本だと言っていたっけ、と勝手に折れ目を直して指先でなでつけておいた。
繭は十巻を閉じテーブルに置いた。
話の展開もいよいよ佳境になってきた。
戦闘シーンが途中に終わり、先が気になる所だ。
部屋にぐるりと目を回し、続きを探した。
十一巻はカーテン近くの棚の上だ。
「……」
棚の横で、凛は両足を投げ出し頭だけ落とした不自然な寝姿をしていた。
今の繭には、その崩れた格好は妙に既視感はある。
「……」
繭は爪先でテーブルを一度だけ叩いた。
ついでに、ペットボトルをテーブルの逆側に置き直してみる。
無音の中に、塵が舞う程度の音が出た。
部屋の中に変化はない。
繭の視線は再び十一巻に戻った。
四つん這いで動いてから、静かにその場を立った。
不用意に近づかないギリギリの距離から、棚に手を伸ばした。
「……」
伸ばした手を一旦引っ込めた。
首を下ろしても、特におかしい事はない。
肩にある浅い上下動は、寝ている人間のそれだ。
もう一度、繭は両手を伸ばした。
十一巻は一番上だが、瞳は残り全部を捉えていた。
10冊近いから指を広げて、しっかり崩れないようにする。
元の場所におさまり、テーブルに漫画を置いた。
十一巻を開くや否や、登場人物紹介ページも端が折れ曲がっていた。
それを指先で直し、漫画を持ち直した。
5ページほど読んでから、今更、視界の変化に気付いた。
白黒長方形を超える先に、凛の足がわずかに入っている。
つい、意識が現実に飛んだ。
「……」
そしてまた、激しい展開の中に戻ってくる。
大胆なコマ割りの作画を追いかけた。
部屋の空気が動く感じが伝わった。
繭の視界に、知らぬ間に色が入る。
重たそうな右手の動きと、雑に目元を擦る仕草。
その先は手の届く位置にある凛のスマホだ。
細い視線は、一瞬でスマホの画面に飛ぶ。
特に、派手な彩りはない。
「……よく寝るね」
「……」
ちょうどページをめくって、はみ出るほど崩れた黒い効果音を追いかけた。
その後、ドアの音がして、繭は一旦顔を上げた。
「……」
十巻の続きからずっと迫力場面の繰り返しのはずなのに、案外ページが進んでいない気はした。
Fin
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