【ぬけがら】
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天気とは、残酷なものだ。
人間ではどうにも出来ないのはわかるが、せめて雨か風か、気温は安定しているかのどれかにして欲しいとは思う。
午後の低気圧のせいで人泣かせな三銃士が揃ってしまったので、繭としては心中は穏やかではない。
傘をさしていても風が横から雨を運ぶし、肌に張り付く水滴は身体の温度を奪う抜群のチームワークを発揮してくる。
全てを諦めてしまえばラクになれるとは思えど、人間は境地に立たされるほど奮い立つ生き物でもある。
「……傘、反った……っ」
繭は一度傘を下ろし、綺麗に返った部分を直した。
靴の中はぐちゃぐちゃだし、スカートの裾も足に半分張り付いている。
凛の後ろにいれば風を凌げるかと思ったけれど、あまり意味がないみたいだ。
「……うっ 風、来たっ……!」
第2波が想像よりも早い。
結果は前例の通りだ。
音だけはバコン、と全抵抗を頑張っていても、傘は風に嘲笑われて従いにいってしまう。
すぐに閉じるなりの対処をしないと2次被害が来るので、繭は始終気が抜けないままだ。
「……また……っ」
「……危ねぇな。離れろ」
「わかってる、けど……前がよく見えなっ……風が!もうヤダ!」
あっという間に、3回目だ。
その一瞬に、前にいる凛が自分の傘をやや上げたのはわかった。
反った分だけ視界は開けるが、凛の傘は何故か原型を維持していた。
「なんで大丈夫なのっ!?」
「踏ん張り足らねぇんだろ」
「え!?腕!?」
「足」
「そっち!?」
雨や温度に比べて、風は乙女で繊細の気分屋だ。
数秒耐えれば一旦落ち着く、経験でその情緒は知っている。
繭は身体を丸めて歩幅を細くした。
「ん~……っ」
「流せ」
「何を!?」
「風」
「風!?侍なの!?」
「誰が侍だ」
理屈ではわかるけれど。
感覚で出来るかどうかはまた別の話だ。
しがみ付くみたいに傘を斜めにするのが精一杯だった。
「うぅ~……っ」
「見ろ」
「……風!?見えないよ!」
「感じろ」
「……風を!?何の主人公ソレ!?」
繭は目を細めた。
彼女は気まぐれ、この波をやり過ごせばまた、小休止出来るタイミングは必ず来るはずだ。
「わぁっ!」
「…………クソが」
想定外に、目の前から来たのは特大のバコンだ。
反射が先に張り切り肩がぴゃんと跳ねた。
「主人公、死んだ」
「…………傘だろ」
気を抜いた瞬間に繭自身の傘もあっさり持っていかれたが。
「……あははっ」
なんだかもう、どうでもよくなってくる。
静かに始まった笑いが気づけば全身を揺らしにかかる。
愉快な衝動が連続で襲ってくるみたいだ。
「……今年、一番笑ったかも」
「まだ一年終わってねえ」
「更新されない気がする」
繭は濡れた目元を拭った。
すぐに落ちてくる雨は変わらず冷たいのに、風だけは永遠と情緒不安定だ。
「ずるいよね」
「……は?」
「傘反るだけで面白いの。私が反っても何も面白くないのに」
「……笑ってんのお前だけだ」
時間を勝手に巻き戻すみたいに、凛は壊れた傘を適当に丸めて歩き出した。
手元の自分の傘も見てみれば、骨の数本がおかしい方向になっていた。
悪い視界の中で、繭も前髪から見える水滴を犬みたいに払っておく。
「あーぁ」
「……」
「この傘、買ったばっかりなのに」
「使い方雑なんだろ」
「…………そうかなぁ」
その日の覇者は、風だ。
Fin
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