【ぬけがら】
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グラウンドがある大きめの公園からは、盛り上がる子供達の声が届いてくる。
5、6人いるその子達は、小学校 中学年から高学年くらいに見えた。
ランダムに走り回る様子と、間を飛び交うボールの動きが繭の視界の隅に入ってくる。
高いフェンスの横に並ぶ木の隙間からは、いい具合に夕日が覗いていた。
そんな公園沿いをただ過ぎるだけの機械的動きになるのは、ぬるま湯みたいな今の温度のせいかもしれない。
前を歩く凛との距離も徐々に増えてゆく。
繭は無意味に、重たい首を回してみた。
フェンスの向こうで急に間延びした声が増えた。
「……あ」
先の展開を描き終えているみたいに、凛が数歩、斜めにそれたのはわかった。
上から来るボールが音を出さないのは、凛が胸トラップでそれを受け止めたからだ。
蹴る瞬間の音だけははっきり耳に届いたけれど。
目に映るものはまばたき一つを挟んだら追えないくらいに一瞬だった。
気付いた時には、ボールは曲線軌道に乗ってフェンスを越える所にある。
夕日が目に刺さるが、まぶたが勝手に眩しさに抵抗しているような気はした。
顔が斜めに下がる先では、自由に散らばる子供達がいてボールは一番手前の子の近くあたりに落ちた。
「……すご。ピンポイント」
目覚めるような繭の声と重なり、グラウンドからも「すげー」「ありがとうございます」の明るい声が聞こえてきた。
公園の中は、すぐに試合再開の音に切り替わってゆく。
繭は視線を手元に戻した。
凛の目だけは、遠くに飛んだままだ。
「…………チッ」
「……」
小さな舌打ちだけ置いて、凛は歩き出した。
公園からは、今も賑やかな音が続いている。
「パス!」「ヘイ!」「ナイシュー!」子供達の声は高く響きやすいし、馴染みある言葉もたくさん溶け込んでいる。
合間に挟まる高揚した感情の声色も、まとまりの雰囲気を強くしているように思う。
「…………あれ」
ここでようやく、ボールが一定リズムで弾んでばかりいる事に気付いた。
サッカーにしては若干違和感のある台詞も混ざっているではないか。
きっと、最初からだ。
繭の脚が止まる。
瞳を縦にくるりと開き、公園内に戻した。
「……あのコ達がしてるの、バスケだ」
よく見ればバスケのリングがちゃんとあるし、子供達は最初からその周りに集まっていた気もする。
その中心にあるのは、体育館と馴染むくすむオレンジ色のヤツだ。
凛は未だに、横を向いたままだった。
「え、サッカーボールと、蹴った感じさすがに違うでしょ?」
「……見てたらわかんだろ」
「自然過ぎて何もわからなかった」
理解も処理も放置された中で、切り取られた結果だけを差し出された気分だ。
視界の端っこに入る凛の横顔が後頭部に変わり、そのまま消えていった。
「……飛ばねぇ」
「飛んでた」
「……合わねぇ」
「ぴったりだった」
同じものを見ていても、心が見ているものには差分があるみたいだ。
「……十分、すごいのに」
「お前の基準だろ」
「そうだよ。そう見えたもん」
「ズレたっつってんだろ」
返答は、えらい早口だった。
そして、気付けばまた、凛はオレンジ色のボールだけを見ている。
「……もしかして」
「……」
「……リベンジマッチ、期待してる?」
「……してねぇ」
「……次の勝率は?」
「100」
またも、即答だ。
「……もしも外れちゃったら?」
「ムカつく」
Fin
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