【ぬけがら】
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繭が思うに偶然とは起こるものであるし、世間とは広いようで意外と狭いのかもしれない。
凛を訪ねてきたらしいブルーロックの男子高校生とたまたま出くわし、案内することになったのが最初のきっかけだった。
ノリの良い好青年、繭から見た七星虹郎の第一印象はそれだ。
時間もあるし立ち話もアレだとの理由で、近くのファミレスに場所を移した。
ボックス席に通されると、凛は真っ先に片側のど真ん中に当然の如く座り込んだ。
「…………」
「…………」
自然と、繭と七星は顔を見合わせることになった。
「……えっと、虹郎くんどうぞ?そっちの奥」
「ああー ありがと。じゃあ、……横くる?」
「……うん」
荷物をきちんとまとめる七星の向かいで、凛は猫背に足組で既に注文タブレットをいじりだしている。
仲睦まじい高校生集団というよりは、ボスと新入りみたいになった気はしなくもないが。
とりあえず、繭は席に落ち着いた。
横から七星の声がした。
「……なんか……」
「ん?どうしたの?」
「繭ちゃんから、女子っぽいいい匂いがするっぺ……」
「………………」
「え!?今のNG!?女子が久々というか、なんかごめん!」
「いや、新鮮というか反応に困るというか、私こそ、ごめん……?」
「……っ癒されるモノを感じるっぺ……」
「あはっ 何それ」
「…………で?」
会話を遮ったのは凛の声と、テーブルの真ん中に押しつけるように置かれた注文のタブレットだ。
繭はタブレットを手に取り、とりあえず“季節のおすすめ”を開いた。
メロン特集は、少し早い気もした。
「ボスが怖いからそろそろ注文しよ」
「おお!マフィアのボス!?凛さん似合いそう」
「サングラスかけてそう」
「真っ黒いスーツ着てるやつ」
「……なのに頼むものがモンブランなのじわじわくる」
「見た目と合ってない感じだっぺ!」
「…………いつまでかかんだ」
この場では誰も凛にノリを期待している訳ではないが。
発散ばかりで収束しない会話に、またも牽制だけが落ちた。
注文を終え、繭はドリンクバーに目を向け凛に話しかけた。
「ねえ」
「……」
「飲み物取ってきて欲しい」
「自分で行け」
「そこからが一番近いもん」
「関係ねぇ。お前行け」
「俺!?まあいいけど」
「ええ!?それ私の動線を無視してるでしょ」
「んじゃあ……公平にじゃんけんにすっぺか」
繭の目が開いた、これはオーソドックスでありながら普段は意外と出ないアイディアだ。
「なるほど!それいいね!」
「んじゃ、ジャンケンで!」
「勝手に決めんな」
「決めたんじゃなくて決まった流れだよ」
「まあまあ凛さん、1回だけだから!」
繭は少し身を乗り出し、声を高くした。
「じゃあ、出さなきゃ負けよーで行こっ」
「了解だっぺ」
「……面倒くせぇ」
「ちゃんとやって」
「やってんだろ」
「ジャンケンポイ!」
「……何コレ、おかしい……」
「繭ちゃんの負けだっぺ」
「コーラ」
結果であるなら仕方ないので、繭は席を立った。
即、凛は頬杖にスマホいじりで、七星の方は横から声をかけてくる。
「手伝う?」
「3つなら持てる、トレーもあるし。何にする?」
「んじゃ、俺もコーラで」
「はーい」
平和的解決の責任全うの為、繭はドリンクバーに向かった。
ドリンクバーにいると、横から知らない声がきた。
「ねえねえ〜」
「相席しない?」
「……」
知らない男子が2人、これは “いかにも” なやつだ。
「今日は無理です」
「今日は??じゃあ今度でもいいよ♪LINE教えて」
「スマホがないので」
「席にあるカンジ?待ってる待ってる、教えてよ」
「…………」
真面目に答えるよりも最短で穏便にこの場を収める方法を、と頭を回し始めた時に、後ろから別の声が入ってきた。
「繭ちゃん、だ、大丈夫?」
「……今、大丈夫になった」
2人組が去ってから、七星は自然とドリンクバー準備までも手伝ってくれている。
繭としては、感心する思いだ。
「ありがとね、助かった」
「いや、なんか見えたから。困ってんかなって」
「絶妙のタイミングだった」
「もしも!相手が逆上してきたらボスを呼ぶしかないとは思ったけど!」
「ボス空気悪くしそうだから最終手段にしたいよね」
「はは、賢明だっぺ」
結局、七星はコーラのグラス2つまで持ってくれている。
繭がアイスティーを片手に席に着くと、無慈悲に聞こえる声が飛んできた。
「トロ」
「……」
その指摘は完全なる的外れではないのかもしれないが。
今回は繭にも、ちゃんと言い分はある。
「自分で潰せねぇのか」
「潰……さないけど、出来るよ」
「やってから言え」
「……やろうと思えば」
「一番ダセぇ」
「……」
言うだけ言ったら凛はあっという間にコーラとスマホだ。
繭の眉がほんのり歪む。
横で空気を読むのは七星だ。
「キッツ……凛さーん、さすがにああいう時は助けるとか、フォローした方が良くない!?」
「死ぬワケじゃねぇだろ」
「そういう問題!?繭ちゃん、な、泣いたりしない……!?」
「まさか。しないよ。気持ちの上で3mm引いただけ」
「意外と少ないべ……」
「じゃあ30cm」
「繭ちゃんも結構適当だっぺな……」
七星の指摘は、ほぼ正しい。
繭にすれば、いちいち真に受けるほど中身の詰まった話ではないと思うからだ。
七星と他愛ない話を交わしながら苺ショートを頬張る途中に、繭は一つ違う話題を持ち出した。
「そう言えばさ」
「なんだっぺ」
「さっき弟子入りしたって言ってたよね?」
「そうだっぺ」
「どうして?」
「どうって?」
「だって。ブルーロックにはサッカー以外にももっとバランスとか総合力ある人もいそうなのに」
「はっきり言うなぁ……」
「決め手は何だったんだろうって」
「んー……」
繭は一度凛を見た。
自分の事を話題に出されていても、凛は変わらず我関せずだ。
七星からの答えが、先に返ってくる。
「凛さんが一番信頼出来るからだっぺ」
「……」
繭には根拠はよくわからないけれど、何となく、納得出来る感じもなきにしもあらずだ。
「……そっかぁ」
「変だべか?」
「ううん。結果の世界では、むしろそれ重いんだろうなぁ……って」
「結果出ないと終わりだから」
凛にしろ、七星にしろ、シビアな世界だとは思った。
繭は両手で頬杖をつき、こもったままの凛を勝手に会話に引き込んでみた。
「褒められてるのに」
「……」
「照れたりしないの?」
「…………お前、調子乗んな」
「…………」
凛から、嫌な方の視線が飛んできた。
普通に話していただけで調子に乗ったつもりは全くなかったのに。
無自覚にも繭の目が細まり、声色は一段低くなってゆく。
「……さすがに当たり強くない?」
「自意識過剰か」
凛は、一瞬でスマホに戻っていった。
繭は凛を指さし、七星に顔を向けた。
「……コレどう思う!?」
「そこで俺に振る!?スルーパスだっぺか!?」
「いや、今のは無茶ぶりのほう」
「ん~まあ……凛さんは確かに照れたりはしないよなぁってのはあるけど」
「まさかのソッチの味方!?」
「別に味方とかじゃないけど!いや、言い方はあると思うよ!?とにかくキッツい!!」
「……でも、師弟なら妥当かぁ。……急に冷静になった」
「早っ」
繭は肩を落とし、目元を前に戻した。
「凛」
「……」
「ごめんね」
「……」
凛は微動だにせず、完全無視だ。
繭は自身のスマホを見た。
半分ほど残っていたショートケーキを飲み物で流し込み、席を立った。
「私、もう行くね」
「急に!?……え、今のガチ喧嘩!?それか俺の言い方がマズかった!?凛さん、繭ちゃん謝ってるし……っ」
「違う違う。時間だから。お邪魔しました、じゃあね!」
「あ、そういう……」
「おつり今後でいい」
財布から千円札を抜き出し、それは凛の方に差し出した。
振り返りもせずにその場を去る繭の脚はあっさりだ。
七星は、背筋の伸びた後ろ姿を見ながら言った。
「……ノリがいいのかサバサバしてんのか、よくわからないコだっぺな」
残っていた2杯目の飲み物もそろそろ空になる。
七星の目線は、今も店の入り口あたりだ。
「……見た目よりたくましいというか、都会のコってあんな感じ……?」
前からくるのは、空いたグラスがテーブルに雑に置かれる音だ。
「いつまで無駄話すんだ」
「無駄っ……いや、まあ、そうだけど」
ようやく本題ではある。
とは言え、七星からするとこれは相手が糸師凛じゃなければもう少し盛り上がれるヤツだとは思った。
Fin
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