小話の集め
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ブルーロックに招集されてから、玲王の人気はうなぎ登りだ。
ただでさえ学校でもモテ過ぎて面白くなかったのに、繭としては不本意の不本意が極まりない事態となっている。
だから、たまにはヤキモチの一つでも妬かせてやりたいと思うのも女心だと思う。
今日は久しぶりに会えた昼下がり。
繭はソファで脚組みをする玲王に、横からもたれかかっていた。
その辺の男子なら繭がこんな風にすればイチコロなはずなのに、当の玲王は片手にスマホでそこに夢中のままだ。
腕に巻き付く勢いで、身体を押し付けてみても反応がない。
玲王からはゆるやかな息づかいと体温が伝わってくるだけだった。
何だかますます身体つきも逞しくなった気がするし、これでは繭のヒビの入るプライドはピキピキうずくばかりだ。
「この前、ナンパされちゃって。まあ普通の男子なんて興味ないからこっちから願い下げだけど」
「……」
「あと、パパと行ったパーティーで若手実業家からのエスコート要請がすごくって。困っちゃう」
「……」
玲王は失礼なほど乗ってこなかった。
繭を放置したままスマホでどこか海外のサッカーニュースを読んでいる始末だ。
(いや、もしかしたらヤキモチが高じて拗ねているだけなのかもしれない……?)
自分勝手にそう決めつけて、繭は玲王の顔を上目遣いで見上げた。
実に真剣そうな伏せ目も、ここでは気に食わない。
「玲王、聞いてる?」
「……ああ、聞こえてる」
「どうする?私、最近引く手数多みたい」
「でもお前、どうせ俺以外じゃ無理だろ」
玲王はよくやくスマホを下ろすと、繭に目を向けてきた。
下がる顔から流れる髪は、今日も心を溶かすみたいにイイ香りがする。
繭は顎先を上げ、満足気な顔をした。
「さあ?どうかなぁ?しょっちゅう声がかかるし別に男性は玲王だけなんて思ってないし」
「いや、そういう意味じゃねぇよ」
玲王は軽くため息をつき、組んでいた足を崩し片足だけをソファに上げた。
そして少しだけ、繭の方に身体を傾けてくる。
ほんのり影がかかる展開に、繭の内側から甘い音がした。
玲王はいつだって、何だかんだで繭に優しいし繭の言う事を聞いてくれる。
その期待値に身体の方が先に反応する感じだ。
「だってお前、ワガママだし」
「……え!?」
「まず金銭感覚バグってんだろ。ケーキ食いたいってセットで1万越えとか普通引くからな」
「…………」
「支度も買い物も長ぇし“どっち似合う?”って永遠とやってしかも結局全部買わせるし」
「…………」
「世間知らずの甘ったれで、なのに変に繊細ガラスで、外側ばっか気強ぇからバランス悪ぃし」
「………………」
「繭ならせいぜい容姿か金に目が眩んだモブが、数日で幻滅するパターンがオチだろ」
「……………………」
ぽっかりと、空いた口が塞がらなかった。
これではあまりに刺々しい言い草ではないか。
繭は眉間を思い切り寄せた。
「……酷い!最低!」
「事実だっつの」
「……もう大っ嫌い!」
「ま、俺はそこ含めて好きだけど」
「…………」
「俺に媚びないトコとか、変に特別視したりもしねぇし。意見しっかりしてるトコも」
「……ほんと?」
「ほんと」
ふわりと目元を細める表情が目に映る。
だからつい一瞬だけほだされたが。
こんな口車になんか乗るか。
ここは繭をよしよし宥めて、もっと必死にご機嫌を取る所でしょうに。頭ではそう文句を言ってみる。
繭の家では、みんなそうしてくれるのに。
つい、出てくるのは天の邪鬼な台詞になってしまう。
「でももういい。パパに言って婚約解消してもらう」
「……そう?後悔しねぇの?」
「玲王なんて知らないから。もう他の人探す!」
「だから、それが見えてねぇって言ってんだよ」
「何それ、調子に乗らないで!偉そうにしないで!」
「……俺レベルの男、マジでいると思ってんの?」
玲王が顔をのぞき込んでくる。
その澄んだ目はからかうでもなく、奢り高ぶるでもなく、ただの等身大でしかない。
容姿端麗で成績優秀の御影の御曹司で。
学校一モテてコミュニケーションはうまいし、老若男女に好かれるし。
運動神経抜群に加えてサッカーはプロで市場での人気ももはや言うまでもない。
内面だって威張らずに、向上欲があって意識の高さも申し分がない。
おまけにデートのエスコートも女子の扱いも、何もかもが一流だ。
つまり、御影と並ぶ財閥令嬢である繭が人生で唯一認められたのが玲王だと言うことだ。
言い返す言葉をなくした繭を余所に、玲王はまたスマホでいつの間にか画面はLINEに変わっていた。
数回それを触った後に、玲王はやや声を張る。
「ばあや、出掛ける」
「はい。どちらへ?」
「凪ん家寄ってアイツ拾ってトレーニング行く」
「承知いたしました」
「!?……またナギ!?!?」
ナギは繭にとって、勝手に恋のライバルだ。
いつか文句を言ってやりたいと密やかに思っている。
これから穴埋め仲直りの時間になるかと思いきや、玲王は勝手に自分の予定を組んでしまうから本当に腹立たしい。
玲王はあっという間にソファを去ると、扉の広いクローゼットの中に消え、ものの数分でランニングシャツに着替えジャージを片手に姿を現した。
「玲王坊ちゃま」
「ん?」
「繭様はどうなさいます?」
「ああー……」
一瞬だけ、右上に視線をそらせ玲王が真っ直ぐこちらに歩いてくる。
「…………」
なぜ、ジャージを羽織るだけで神風が吹いてるように見えるのか。
トレーニングパンツのウエスト紐を結ぶだけで絵画になるのはおかしい。
ファスナーを上げる指先の動きに官能を隠す品を混ぜるのはずる過ぎる。
繭の口元が、斜めに締まってしまう。
「では、有意義なアフタヌーンを」
「……」
「夜は店予約してるからディナーは一緒に食お」
「…………」
「だから大人しくいいコにしてろよ。プリンセス」
「………………っ」
見せる角度まで計算されたように、片手を取って、そこにキス一つだけをくれる。
格好はジャージのくせに。
片手にはスマホを持ったままで。
LINE画面を堂々と開いて、どうせ相手はナギだろう。
こんなに“ながら”に扱われて、失礼千万、全部が適当なくせに。
なのに、こんなことがさらりと出来て、ましてサマになる高校生なんかこの世のどこを探したっていない。
絶対に。
結局はしてやられたりだ。
Fin
小話の集めへ戻る