SSまとめ
深夜1時を回り、ネオン街の人通りも寂しくなった頃、女はとあるビルの階段下で膝を抱えていた。
階段の上はホストクラブの従業員口があり、すでに幾人ものスタッフが仕事を終えて帰っていった。
階段裏に身を潜めた女には、誰も気づかない。
女は息を殺し、膝に抱えた鞄の中、タオルに包んだ刃物の背を静かに撫でて待っていた。
彼女が愛してやまない世界でたった1人の男に、消えない傷を残すために。
室外機の轟音と排気口から出る煙の中で、祈るようにただひたすら待った。
「……!」
上階のドアが開き、明瞭快活な男の話し声が聞こえた。
金と欲にまみれた汚い街に似つかわしくない、太陽みたいな、彼女の王子様の声だった。
逸る気持ちを抑えながら、女は鞄の中で刃物の柄を握り込む。
もうすぐ、もうすぐだ。
彼が階段を降りきって、そしたら…
ドンッ!ドンッ!ドサッ!
大きな音とともに鋼の階段は大きく揺れ、女の思考を遮った。まるで階段の上から人が転がり落ちたみたいな音だった。
「ッ〜〜!いっててて……流石にこれは、洒落にならないだろ…ッ、オーエン…!」
カン、カン、カン…
ゆっくりと、一段一段優雅に踏みしめる音が続く。
「惨めで哀れで可哀想な騎士様。自分の限界も考えずに馬鹿みたいに飲むから、酒が足にまわって縺れたんじゃないの?」
嘲る笑い声とともに見知った男の姿が階段の隙間から見えた。女の大大大嫌いな、顔面だけは良い男だった。
追いかけるようにカンカンと足音が続く。
騒音を聞きつけて、ホストクラブから何人か降りてきたようだ。
「さっさとフィガロの所へ連れていきなよ。顔にあざが残ると、売り物として使えなくなるだろう?」
心底めんどくさそうな声がする。
誰のせいだと思って…という声が、抱えられ運ばれていく男から漏れ聞こえた。
騒動の間、女は階段の物陰で身を縮こませるしかなかった。しばらくして野次馬の気配も無くなり、辺りはまた閑散とした雰囲気に包まれる。
どうして、なんで今夜、よりによって。
呆けた頭に湧き上がるのは苛立ちと嫉妬。
怒りと悔しさに飲み込まれそうになったところで、女は誰かに髪をひっ掴まれ、物陰から引き摺り出された。
「最悪。誰のモノに手を出そうとしたと思ってるの?」
高そうなグレーのスーツに身を包んだ美しい男・オーエンが、汚いものに触ってしまったと言わんばかりの仕草で女を見下ろす。
「あの男には、お前ごときじゃ傷すら残せない。分かったなら、二度と来るなよ。」
正面からまじまじと見る、色違いの美しい瞳が、"誰の"色と揃いなのかに気づいて、女は泣きながら汚い路地裏に這いつくばった。
階段の上はホストクラブの従業員口があり、すでに幾人ものスタッフが仕事を終えて帰っていった。
階段裏に身を潜めた女には、誰も気づかない。
女は息を殺し、膝に抱えた鞄の中、タオルに包んだ刃物の背を静かに撫でて待っていた。
彼女が愛してやまない世界でたった1人の男に、消えない傷を残すために。
室外機の轟音と排気口から出る煙の中で、祈るようにただひたすら待った。
「……!」
上階のドアが開き、明瞭快活な男の話し声が聞こえた。
金と欲にまみれた汚い街に似つかわしくない、太陽みたいな、彼女の王子様の声だった。
逸る気持ちを抑えながら、女は鞄の中で刃物の柄を握り込む。
もうすぐ、もうすぐだ。
彼が階段を降りきって、そしたら…
ドンッ!ドンッ!ドサッ!
大きな音とともに鋼の階段は大きく揺れ、女の思考を遮った。まるで階段の上から人が転がり落ちたみたいな音だった。
「ッ〜〜!いっててて……流石にこれは、洒落にならないだろ…ッ、オーエン…!」
カン、カン、カン…
ゆっくりと、一段一段優雅に踏みしめる音が続く。
「惨めで哀れで可哀想な騎士様。自分の限界も考えずに馬鹿みたいに飲むから、酒が足にまわって縺れたんじゃないの?」
嘲る笑い声とともに見知った男の姿が階段の隙間から見えた。女の大大大嫌いな、顔面だけは良い男だった。
追いかけるようにカンカンと足音が続く。
騒音を聞きつけて、ホストクラブから何人か降りてきたようだ。
「さっさとフィガロの所へ連れていきなよ。顔にあざが残ると、売り物として使えなくなるだろう?」
心底めんどくさそうな声がする。
誰のせいだと思って…という声が、抱えられ運ばれていく男から漏れ聞こえた。
騒動の間、女は階段の物陰で身を縮こませるしかなかった。しばらくして野次馬の気配も無くなり、辺りはまた閑散とした雰囲気に包まれる。
どうして、なんで今夜、よりによって。
呆けた頭に湧き上がるのは苛立ちと嫉妬。
怒りと悔しさに飲み込まれそうになったところで、女は誰かに髪をひっ掴まれ、物陰から引き摺り出された。
「最悪。誰のモノに手を出そうとしたと思ってるの?」
高そうなグレーのスーツに身を包んだ美しい男・オーエンが、汚いものに触ってしまったと言わんばかりの仕草で女を見下ろす。
「あの男には、お前ごときじゃ傷すら残せない。分かったなら、二度と来るなよ。」
正面からまじまじと見る、色違いの美しい瞳が、"誰の"色と揃いなのかに気づいて、女は泣きながら汚い路地裏に這いつくばった。
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