「あらあらバニラちゃん！顔色が悪いわよ！んーでもバニラちゃんは昔から人混みは苦手だものねえ……それにしてもどうしてこんなに人が多いのかしら」

「……恐らくなんだが、「私たち夫婦」がバニラの見舞いに毎日病院に入っていくのが良くなかったんだろうなあ。今はまだ彼らは、私たちがバニラの両親だという事を知らず「推薦状を書いたトレーナー」だったから見舞いに行っていると思っているはずだ。きっと退院日にも来ると予測されていたのだろう」

「一応私たち、まだまだ現役のエリートトレーナーですものねえ。神出鬼没って噂されちゃって以来、私たちがイベントとかで出てくるだけで話題になっちゃうのがここで足を引っ張っちゃうかぁ～」

両親がそんな話をしている中でも、私はネガティブな感情から抜け出せず、悶々としてしまっていた。確かに、両親はジムリーダーにも匹敵するほどのトレーナーとしての腕前の持ち主で、特にダブルバトルのコンビネーションにおいてはダンデさんの前のチャンピオンをも唸らせてしまったらしい。そして今もなおイベントに出場したり、エキシビジョンマッチに出たりと現役バリバリ、知名度もファンもそれなりのエリート夫婦。
私はそんな輝かしく、暖かな両親が大好きであった一方、そのネームバリューに気負いをしていた。なので今回のチャレンジではあえて両親を両親と公表せず、推薦者というポジションに留めて置いてもらったのだ。
今まで大切に、愛情を込めて両親に育ててもらった分、私の所為で迷惑はかけられない。その一心で物心ついた時から今日まで生きてきた。生きてきたのに。

今まさに、盛大に、迷惑をかけてしまっている！

『……ふっ、う、うぅ、グスッ』

その事実が何よりも悔しくて、悲しくて、思わず涙がこぼれてしまった。

「……バニラちゃん！？だ、大丈夫よぉ！泣かないでぇ泣かないでぇ！！もう本当に人前に出なくちゃいけなくなったらお母さんもいっしょにいてあげるからあ！」

「と、父さんも一緒だぞ！なんなら人を押しのけてでも、私たちで道を開けて無理やり突っ切ってしまえば…」

『う、うぅ。おとうさん、とおかあさん、に、グスッ、そんなに迷惑かけられない、よぉ～』

両親が必死に私を慰め、私が迷惑をかけられないと変に意地になる。そのやり取りを遠目で眺める担当医までついにもらい泣きを始めてしまった。
いよいよ病室ですら収拾がつかなくなってしまった、その時であった