「えっと……つまり……
君は実験に使われるはずだった妹達の最後のクローン体、なんだね
実験が凍結されてうむやむになった体を調整してほしいって一方通行に頼み込んだわけだ」
「そう！そして昨日からお願いしてるんだけどこの人ぜんっぜん！！全く聞く耳持ってくれないのってミカサはミサカはぷんすか怒ってみたり！！」
それはそうだろうなあとあきらは苦笑いしつつ今現状の事態に軽く驚いていた。
ファミレスに行くまでのついでにこの子が何なのかを聞いていたのだが(最初打ち止めが実験関係者じゃない為説明を渋っていたが一方通行が言っていいと助け船を出してくれた)
打ち止めは真っ白な一方通行の髪の色が気になるようで彼にどうしてそうなったのかと聞いていたのだが一方通行は怒るでもなく黙ることもなく懇切丁寧に理論を立てて説明していた。

「はいはい！次！ミサカの番ってミサカはミサカは元気よく手を上げてみたり！
ずばりあきらと一方通行はどういう関係？ってミサカはミサカはクエスチョンマークを浮かべてみる！もしや恋人……」
「なわけねぇだろただの腐れ縁だ」
「即答！うら若き男女の恋バナを期待してたのにってミサカはミサカはがっくりしてみる」
「ンなもンねェよ、他当たれ」

一方通行と打ち止めの会話に笑いつつ打ち止めの様子に今一度考えてみた。
(それにしても……)
打ち止めは無邪気に笑いながら一方通行に話しかけている。
打ち止めは自分の事を妹達の最後のクローン体だと言っていた。
ということは少なくとも一万体以上の自分と同じクローン体が一方通行に殺害されてきたことは知っているはず……
それにも関わらず彼女は一方通行に歩みよろうとする足を止めようとはしない。
あの日以来どこか様子の変わった一方通行を見てあきらは心の中で、もしあんな風に踏み込んでいたら何か変わったのかな、と思った。

ファミレスに着き窓際の席に案内されあきらは打ち止めの隣のソファに座るとふと向かいの席に座った一方通行が窓の向こう側をじっと見て天井亜雄？と呟いた。
あまい……天井……と聞き覚えのある単語にあきらは脳内の記憶を巡らせてああ……と10日前ほどの事を思い出した。
そんなには経ってないはずなのにだいぶ遠い事のように思える。
実験が凍結された後現在実験推進派は研究所にこもりっきりで外に出てくる事は考えられないのだが関係者ではないあきらは知るよしもなく特に何も思わなかった。
研究者とコンタクトを取りたいはずの打ち止めは当初の目的を忘れご飯の事しか考えていないし肝心の天井は車に乗って去っていってしまった。
直接連絡を取る手段を持っていないあきらはこの話をするべきか悩んでいたが打ち止めの体が眠たそうにふらふらと左右に揺れているのに気づいた。
「打ち止め？」
「ううむ。ここ最近寝ても疲れが取れない、ってミサカはミサカは首を捻ってみる」
「あっそォかよ」
相変わらず一方通行はそっけない。
しかし疲れが取れないか、とあきらは考える。
睡眠を取っても疲労感がとれないということは何かしら体に異常が出てるということだが……
クローン体である以上普通の病院で見せても意味がないしそもそも見せられない。
ここはやはり研究者に聞くのが一番だが……それは一方通行に動いてもらわないと駄目だろう。
「それは困ったね
でも大丈夫？ご飯食べれそう？」
と聞くと打ち止めはコクンと頷いた。

注文を終えると打ち止めは一方通行を奇妙な視線で見ていた。
それはあり得ない物を見ているかのようでどうやら一方通行が真面目に注文をしたり普通の人間らしい行動をとっている事に驚いたらしい。
てっきり食い逃げやら犯罪に近いことをしでかすんじゃないかと打ち止めは言った。
それに対して一方通行は実験が凍結されて後ろ盾がないからだと答えたがあきらはそもそもそれがなくてもする気はなかったのでは？と思ったが口に出すのはやめた。


ほどなくして打ち止めとあきらが注文した料理が運ばれてきた、一方通行が頼んだ物は時間がかかるようでまだ運ばれてきてない。
フォークを持ち食べようとしたあきらは一向に食べようとしない打ち止めが気になって手を止めた。
「冷めちゃうよ？」
一方通行もご飯ご飯とせっついてきたはずの打ち止めの様子に怪訝な表情をしている。
どうやら打ち止めは誰かとご飯を食べるのは初めてでせっかくだから一緒にいただきます、と言うのをやってみたいとにこにこ笑いながら答えた。
あきらはふと十年以上も前の事を思い返した、幸せが壊れる前の事を。
懐かしいな、とくすりと笑いつつあきらもフォークを皿に乗せるのを見て一方通行は正気か？と眉を上げる。
普段あきらと食事をする事はあるがタイミングを合わせて食べる事はない。
それはお互いに気を使うし一方通行も使う気はない。
「お前まで何してンだ」
「え？いや一緒にいただきます、っていうのやってみようかと思って」
「わーい！やった！ってミサカはミサカはガッツポーズをとってみたり」
一方通行ははあ……とため息をつくと勝手にやってろと言わんばかりに顔を背けた。