季節が梅雨に差し掛かろうとする最中千空達科学部員は机に置かれた一枚の紙を巡って論争を繰り広げていた。

「やっぱよ、こういう大事な役目は部長が引き受けるべきだと思わねーか？」
「そうだよな、クロム
じゃ、石神部長！ここに名前を！」
「お前ら俺の体力分かってて言ってんだろーな、つーか何かにかこつけて面倒な役目を押し付けたいだけだろ」
そう言うと他の部員達はぎくりと体を固まらせた。
ここで何を議論しているかと言うともうすぐ行われる体育祭の部活動対抗リレーのアンカーについて話し合っていた。
科学部のメンバーはそう多くない。
足を捻挫した一名を除くと全員が参加しないとまず規定ラインまで達しせずそうなると誰かアンカーになるかでかれこれ一時間は話し合っている。
部員は体力がない者が多く千空のその一人であり、全員アンカーをやりたくないと思っている事は皆うすうす分かっていた。
何故、やりたくないかというと……

そう！！誰も多く走りたくないのだ！！
アンカーは他の走者と比べると多く走る必要がある。
この無駄とも言える話し合い……いや押し付けあいのやり取りに辟易としていた千空はため息をついた。
「はあ……もうじゃんけんでいいんじゃねぇか？
それなら文句も出ないだろ」
クロム含む部員はそれでいいか、と頷く。
(まぁじゃんけんならよっぽど運が悪くない限り負けることないだろ)
と千空は思っていたが。
「おっしゃあ！！！」
「………………」
ぎりぎりで勝ったクロムはガッツポーズをとり千空は自ら出したパーを見つめこの時ばかりは自分の運のなさを嘆いたのだった。



「で、言い出しっぺの自分がアンカーになったと」
「あぁ、情けねぇことにな」
大変だね、と名前は湯呑みを啜った。
「あきらはリレーには出ねぇのか？」
「んー、私マネージャーだし
部員の方が断然に私より足速いしね」
それもそうだな、と千空は頷く。
「そういえば、科学部はリレーの時何持って走るの？」
部活動対抗リレーでは各々部活の象徴となる物をバトン代わりにして走る事が多い。
卓球部はラケット、空手部は受け身に使う畳を持って走り、剣道部は竹刀を素振りしながら走る……などなどだ、ちなみにあきらがマネージャーをしている陸上部は有利なだけにハンデを背負って参加することになっている。
そう聞くと千空はそれなんだがな……と科学部であった出来事を話し始めた。