コツコツコツ、と廊下を歩き目的の場所に着く。
ここに至るまでに数時間、度重なるチェックを受けようやくここまでこれた。
正直中年の体にはしんどいがこればかりは仕方ないだろう。
職員に促され男は白い白い部屋に足を踏み入れた。
そこは病室だった。
たくさんあるベッドを横切りその内の一つに近づいた。
ベッドに横たわった少年の寝顔を見て男は様子が変わらないことに安堵しつつも目が潤んだ。
「千空、調子はどうだ？」
男の名前は石神百夜という。
そしてその前に眠っている少年は彼の息子千空だ。
彼はこの半年間、目を覚ますことなく昏睡していた。


今からしばらく前世界中ではとあるゲームが大流行していた。
その名も「レジェンド・オブ・アストルム」要するにVRオンラインゲームが世界中でプレイされていた。
リアルと見間違える程のクオリティのあるゲームだった為に当時の人々は熱狂し百夜の息子、千空も興味を惹かれた。(主にシステム面にだが)
夢を叶える為、日々実験を繰り返す息子に微笑みつつ百夜はこんな日がこれからも続くのだろうと思った。
そう、「ミネルヴァの懲役」と呼ばれる大事件が起こるまでは。

今から約半年前のことだ。
突然レジェンドオブアストルムにログインしていた人々が昏睡するという事件が起きた。
当時NASAにいた百夜はニュースで流れる文字を見て顔を青くした。
そう、千空も確かこのゲームをやっていたはずーーー
すぐさまスマホでメッセージを送るも……
返信は何時間経っても返ってくる事はなかった。
ほどなくして、大家から息子が倒れていると連絡があった。
千空の幼馴染の大樹の祖父母から頼まれてとの事らしい。
大樹も昏睡しており同じことが起こっていないか心配になって様子を見て欲しい、と。
周りの協力もあり百夜は何とか日本に帰る事ができた。
……が、日本に帰って百夜が目にしたものはベッドに横たわり昏睡する千空だった。


それから今に至る。
時間を見てはこうして見舞いにきているが目を覚ます素振りは見えない。
百夜は昨日はこんなことがあった、今日はこんな事がーー、と話す。
しかし、その話に相槌も返答もなくただ静かな時が流れるのみだった。
百夜はぐっと拳を握りスボンに涙を落とした。

「千空…………いつになったら目を覚ますんだ…………？？？」