「石神さんそろそろお時間です」
病院のスタッフから面会時間の終了を告げられ百夜は涙を拭った。
「はい、ええ、ではまた」
スタッフと軽く会話を交わし百夜は荷物を持って立ち上がった。
「……じゃあな、千空」
また来るからな、と声をかけて病室から去った。


病院のロビーにまで下りてきた百夜はいつもは静かなロビーが若干ざわついているのに気づいた。
見れば病院の雰囲気とは似つかわしい格好をした女性が立っていて見るからに浮いている。
「あっっ」
しまったと言わんばかりに百夜は口を抑えて瞠目しエスカレーターから下りるな否や百夜は注目を浴びている女性の手を引っ張ってすぐさま病院から出ていった。

一目のない場所に移ってから百夜はその女性に注意した。
「お前なあ……喫茶店とかで待ってくれって言っただろ！？」
「しょうがないじゃない、カード使えないって言われたんだから……」
しまった、小銭でも持たすんだったと百夜は後悔した。
女性の名はリリアン・ワインバーグ。
世界中で有名な歌手であり、そして百夜と同じく宇宙飛行士になった人物である。
そんな彼女が何故日本にいるかというと……
息子の見舞いに行くといったらなぜか勝手に着いてきてしまったのだ。
「頼むからバレないようにしてくれって言ったろ？」
「だから変装してるんじゃない」
ほら、サングラス、とリリアンは身に付けているサングラスを見せた。
百夜はいまいち変装出来てねぇよなあ……と苦笑する。
リリアンの独特なカリスマ性が隠しきれておらず今さっきだってバレていたに違いない。
「で、百夜この後どうするの？」
「この後は……とりあえず自宅だな」
リリアンはOK、と返事をした。

そしてそれから一時間もしないうちに自宅に着いた。
階段を一歩上る度にここで暮らしていた時の光景が思い浮かぶ。
自宅に入るとリリアンは以外と綺麗ね、と言った。
「たまに掃除しに来てるからな
千空が目覚めた時にほこりだらけだと困るからな、あいつが
あとあいつの部屋は極力触らねぇようにしてんだ」
千空の自室は最低限の掃除はしているが物等はなるべく動かさないようにしているようだ。
机を見れば何かの実験らしきメモやノートが広げられていた。
居間に戻りコーヒーをのみながらリリアンは百夜に今日のことを聞いた。
「…………息子さんの様子はどうだったの？」
「いつも通りさ、いつもと変わらず……寝てたな」
しんみりと語る百夜をリリアンは悲しい目で見つめていた。
自宅に帰ってきたせいかまた涙が込み上げてくる。
「悪い、年のせいか涙もろくなっちまって」
顔を伏せた百夜をみかねリリアンは横に座って手を重ねた。
ポツポツと雨が降りだした。