「あの…綾部くん？できれば助けて欲しいんだけど…」
上にいる綾部に話しかけたが返ってきた返答はあっけないものだった。
「嫌でーす」
思わず顔が引きつるのをこらえた。
嫌ですっておい、というかこいつ全くといっていいほど取り繕う気配がない。
あなたとは喋りたくないんですけどと言わんばかりに圧を出してくる。
それでも尚交渉を続けているとふと綾部はああそうだったと何かを思い出して懐から何かを出し落とし穴に投げ入れた。
「天女さま出たいんですか？じゃあ、これ使ってください」
あっぶな、身をよじらなければ怪我をしていた。
「え、鍵縄？？」
前世では当然使った事はあるが今の私は素人同然の人間だ。
使えと言ったって…

「五十嵐先輩は優秀なくのたまでしたから、出来るんじゃないんですか？」
「いや、いくら前世で使えたっていったってさあ
やり方は覚えてるけどそれとこれとは…は？？」
先ほどの言葉にはたと気づいて上を見上げたがすでに綾部の姿は無かった。

「あいつまさか前世のこと覚えてるの？」
まずはここから出なければならない。
「っと重いな…」
あきらは鍵縄を投げて急いで落とし穴から出たが、やはり綾部は居なかった。
「もういないか……ん？これは？」

あきらは落とし穴の近くに何か彫ってあるのに気付いた。

「これは…」
それは暗号文だった。
すばやく目を通し文章を覚えると、直ぐに足で消した。
多分綾部は他の人に読まれるのをおそれて地面に書いたのだろう。
過去の事は誰にも話したことはないのだ、両親さえも。
私だけが覚えているあの記憶。
そんな過去を綾部は知っていた。
（今夜伺います…か。
綾部は私の何を知っている…？？）