伊作はあきら
の顔にそっと白い布を被せた。

それは死を意味する布。

もう彼女はこの世のどこにもいないのだ。


朝になり様子を観にきた仙蔵はその布を見て保健室前で立ち止まった。

「おい、仙蔵、急に立ち止まるな」

後ろに続いてやってきた文次郎は後ろがつっかえると怒ったのだが、仙蔵の違和感に気づく。

仙蔵は拳を固く握りしめていた。

「文次郎、すまない、駄目だった」

伊作が謝り文次郎はそれを知った。

「…………嘘だろ？」

同じく小平太、長次も容態を見にきていたが、二人とも言葉が浮かばなかった。

あきらの横にはうつむいたままの留三郎がいた。

「…………、学園長には伝えたのか」

仙蔵が聞くと伊作は首を横に振った。

「まだ、容態が良くない、とは言ってある」

それと、後輩達には何も伝えていない。

でも、保健委員の子たちにはうすうす
バレているかもしれないが。

このまま死を隠し通すことは出来ないだろう。

事実を伝えなくては。

当然彼女の両親にも。


6年間ずっと勉学を共にしてきた仲間が旅立ってしまった。

あきらが死亡した事を伊作から伝えられた学園長は彼女の教師である山本シナ先生に言伝をした。


「シナ先生、急ぎ葬儀の準備を始めてくれ
それと……ご両親にも伝えねばならん」

「はい……、承知致しました」

シナ先生が遠ざかるのを確認し学園長はヘムヘムを抱き抱え嘆いた。

「また……生徒が一人減ってしまったな、ヘムヘム」

「ヘムゥ…………」

ヘムヘムも生徒の死を嘆き悲しんだ。

「15か、若すぎる……」

生徒の死は何も彼女が初めてではないし特別な事ではない。

あちらこちらで戦が起こり人が死ぬ事など珍しくもない時代、生徒が亡くなる事も度々ある。

しょうがない事なのだ、今回亡くなるのがたまたま彼女だっただけで、彼女でなければ別の生徒が命を落としていただろう。

「何ともままならぬ時代よ……」

学園長は亡くなった生徒の一人一人に思いを馳せた。