「あきらちゃん、それ初耳なんだけど……」

全くそんな話はされてなく、付き合う事になったと報告され祝福した三人は困惑した。

「あきらちゃんは何の疑問も抱かなかったの？」

杠に問いかけられあきらは少し表情を変えた。

「そんな事はないけど……
千空と付き合えるならいいかなって
千空にそんな恋愛どうのこうのないの分かってて告白したんだし」

様は振りをしているだけなのだ。


「それってさ……
付き合ってる振りって事でしょ？」

「そうだね」


だからデートもないし、恋人らしいことも何もしていない。

「それであきらちゃんはいいの？
振りだけでいいの？」

幻にそう言われ、いいの、と答えようとしたが、言葉が喉に引っかかって出ない。

「………………気に……してない」

答えが引っ掛かった時点で自分でも胸の奥底で燻っているのに自覚してしまう。

「いいんだよ」

そう、千空が好きで、でも他の人の事を好きになってほしくなくて。

付き合っている振りをすれば、自ずと千空に告白する女子は減る。

それでいいじゃないか。


そう決めたんだもの。


その日の放課後。

千空に一緒に帰らないかと誘わられた。

付き合う以前もこうして一緒に帰る時は度々あり、昔と何ら変わらない。


「あきら、何かあったか？」

帰り道の最中千空に聞かれあきらは少し戸惑った。

「いや、別に……どうして？」

「いやまぁ、何となくな
何もないからいい」

普通に接していたつもりだが、態度に出てしまったのだろうか。

つい横を見ると同じく下校中のカップルが目に映った。

何とも微笑ましいカップルだ。

(腕組んでる)

男子の方は歩きにくいといいながらそこまでは嫌じゃないらしくデレデレだ。

千空の方を見れば特に気にした様子もなく明日は何をしようと独り言をしている。

(カップルね…………)

(ほんとにそれでいいの？)

あきらはピタリと足を止めた。

「どうした？」

急に足を止めたあきらに千空が声をかける。

「何でもない」

気にしないでと言うあきらに千空はどこか引っ掛かった。

(何でもないなら、あの悲しそうな表情はなんだよ、あきら)

(聞こえない、聞こえやしない
そんな事私は思っていない)

あの時聞こえたのは幻の言葉か、
それとも自分の心の声なのか。

それとも両方？