「しっかり考えろ、か…………」
返事の猶予はあるものの考えが纏まらず喫茶店でコーヒーを飲みつつつい口からもれてしまった。
確かに勢いで答えを出す問題ではない。
純粋に結婚したかったし彼とならどこへでも着いていくと昔は考えていたものだ。
でもそれは甘い夢。
少女だった私はとうに消え現実は優しくない。
だからこそ、千空は判断してほしいといった。
「着いていくか……」
別れるか。
その言葉を思い浮かべると心がきゅっと傷んだ。
「別けれたくないに決まってるじゃん……」
浮気じゃないかと思っていた時はなかったのにこうだ。
「はあ…………」
しかし、ずっと悩んではいられない。
彼が正式に研究所に移る前に返答を決めねばならない。
あの日から両親、学生時代からの友人や会社関連の人物等々たくさんの人に相談はした。
海外と聴いて勿論両親は心配したしよく考えろと言われたがしょうがない。
友人の杠はデザイナーの仕事をしていて海外に行く事はあったので親身に話をしてくれた。
向こうで災難に襲われた時にこうしたとか対処法も教えたくれたのでそれは参考になった。
言葉が通じないという点もある。
仕事も辞めねばならないし仮に向こうで就を探すと決めたとして容易に行くとは思えない。
千空からは生活の事は気にするなと言われたものの一人だけ働かないのは些か気になるところだ。
「とはいえ……」
色々懸念もあり相談する人によっては顔色を渋くする者もいたが結局は自分の判断に委ねられた。
いい年した大人なんだから、と。
「簡単に言うよねぇ……」
結局は自分一人で決めねばならない。
その決断を下すのがどれほど重たいか。
かれこれ数日間悩み続けている。
「行ったらもう帰ってこれないのかな」
ポツリと呟いた。
たまに休暇で帰る事は出来るだろうがそのまま向こうで永住する可能性もなくはない。
両親や友人にも滅多に会えないしまだ日本でやりたい事もたくさんあるのだ。
生まれ育った日本を離れ知らない環境で馴染めるかも心配だ。
千空はどうだろうか。
いや、学生の頃既に調査の為にアフリカに行くくらいだ。
どこに行っても平気な気がする。
色々と考えあきらは一つの決断を下した。


「そう、か」
返答を聞いて千空は眉を寄せた。
悩んで出した答えならしょうがない。
「ごめんなさい……」
「判断しろって言ったのは俺だ
謝る必要はねぇ」
千空は向こうでの暮らしが不安なのだと思ったが違った。
いやそれもあるのだが、一番は。
研究に没頭する千空の邪魔になりやしないかと思い身を引いた方がいいのではと思い始めてしまった事だ。
もちろん千空には一切明かしていない。
そうした方がいいのではないかとあきらは思った。
例え彼が新たなパートナーを見つける事になったとしても。
「じゃあ、もう出るね」
「今日かよ」
早すぎないかと言われたがあきらは首を横に振った。
「未練はない方がいいでしょう？」
一緒にいたら気が変わりそうだからと告げてあきらは荷物を持って部屋から出ていった。
玄関が開く音を聞いた瞬間千空は走り出した。
「待っ……」
間に合わなかった。
あきらの手を取ろうとした手は虚空を彷徨い静寂が訪れた。
「っ………………」
パタパタと玄関に染みが出来る。
未練を残さないように敢えて冷静に接したのにこれだ。
千空は胸元を手で掴んだ。